N1-4

ゾンビパンデミック追験型VRゲーム「クラウンクレイド」において、運営側の想定していない事態が発生した。

NPCに搭載されている疑似人格行ロジックにおけるエラーもしくは想定していなかった仕様上の結果により、とあるNPCの行パターンが変化した。この特殊なNPCは「禱茜」というタイプのNPCであり、また魔法能力を有するシンギュラリティの屬を持つ。

本來であればシンギュラリティは、その価値判斷においてプレイヤーに対して比重が偏って設定されているが、その仕様からは考えづらい行を殘した。故に準重要監視対象としてその行ログを記録していたが、問題が発生する。

クラウンクレイドの運用に大きくかかわっている自律思考型データベース「リーベラ」が、言葉による誤解を恐れず言えば「禱茜に対して執著心を見せた」。そして禱茜に搭載されている疑似人格行ロジックもまた正常に働いていた。

この件に関して當初はちょっとした運用のミスで済む筈だった。しかし、リーベラがその権限を持ってゲームのデータを強制的に書き換えた事で狀況は変わる。本來死亡する程のダメージをけた禱茜のステータスにリーベラは干渉し、それを書き換えた。そして部スタッフが禱茜に対してアクセスする事をリーベラは権限で拒否したのである。

この一件をけて、部スタッフは調査に乗り出した。しかし、リーベラに対して最上位権限でコマンドを実行する危険を危懼したため、に部スタッフをゲームにアクセスさせ禱茜のデータを直接接によって解析しようとした。

そして、攜帯電話の持ち主の彼こそがその潛人員であった。

リーベラの監視がある以上、ゲームの文法に反する行を取ればリーベラに発見され排除される可能があった。

これを「クラウンクレイドの軛」と呼稱し、この軛を超える為潛スタッフは通常のプレイヤーとして參加。

日本國で手にれられる銃火の類であればドロップアイテムの取得という形でログを誤魔化せると考え、警察が現在裝備しているリボルバーである「S&W M360J」を渡した。

またゲーム外のスタッフから指示をける為、攜帯電話を所有。本來であれば通信回線が死滅しているが、外部から攜帯電話のメモリのテキストファイルの書き換えという形で疑似的なメッセージチャットを構築し、通話に関してもメモリに音聲ファイルの書き換えを相互にリアルタイムで行うことで再現した。

これによってクラウンクレイドの軛、そして監視を逃れることとした。

だが、禱茜の足取りは途中で途絶えその捜索は困難を極めた。リーベラによって彼の行ログが匿されてしまったのもある。彼の自宅を捜索する事にする。

「そっか、そうだったのね」

由比から奪った攜帯電話にはそんな記録が殘されていた。彼らの行記録はそうしてこの學校に來るところで途絶えている。

禱茜というとは認識がないし、私にとってどうでも良かった。

この世界がゲームで、そして外部と通信できる端末が手の中に存在していることが何よりも重要だった。

「やっぱりこの世界はゲームだったのよ、私は間違っていなかった。ログアウトできなくなったのも、これで何とかなるわ」

これで外部と通信をして助けを求めればいい。

電話をかけようとした時、私の名前を呼ぶ由比の聲が聞こえてきた。

由比はこの報と攜帯電話を何故か、必死に私から隠そうとした。私に見せたがらなかった。

何故。

「波留姉待って！」

私の姿を見つけた由比が駆け寄ってくる。私は攜帯電話を握りしめて由比に向けて拒絶のポーズを取る。

「來ないで」

「波留姉、聞いて。その中は」

「どうしてこの攜帯と報を隠そうとしたの」

私は由比に聞く。何故。何故。何故。何故。

「それは……」

嗚呼、そうか。

やっと理解した。

何故、私がこの世界からログアウトできなくなったのか。

何故、彼がこの攜帯電話を隠そうとしたのか。

二つが繋がってようやく理解する。

攜帯電話の発信ボタンを押す。

「由比が私の邪魔をしてたんだね」