《クラウンクレイド》「1話・閉鎖領域外(後編)」【クラウンクレイド閉鎖領域フリズキャルヴ】

CCH1-2

この世界は一度壊れた。

人々は人を喰らう化けへと姿を変え既存の社會は崩壊した。

後にゾンビと稱されることになる人喰いの化け、その原因は人の中樞神経に作用するウィルスであった。狂ったような食とその対象が人に向くことで染した人々は人間を喰い殺そうとする化けへと変わったのだ。

そして噛まれることを切っ掛けに発生する染によってゾンビ化ウィルスは勢力を一気に拡大する。

他に類を見ない稀有な染癥狀、そして未知のウィルス、人の姿のまま襲い掛かってくるという対応の難しさ故に、染という限られた染経路にも関わらずゾンビパンデミックは世界中で同時多発した。

確たる予防法も治療法も存在せず、突然の事態に各政府及び自治は機能不全に陥り、「ゾンビパンデミック」は全世界を覆いつくした。

生き殘った人類は各々による防衛戦を強いられることになる。

崩壊したインフラ、機能しない行政、存在しない相互扶助、平和な世界は消え去った。

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そんな荒廃した過酷な狀況下では、水と食料と安全圏を求めて生存者同士での闘爭が起きることも決して珍しくない。

その異常事態にあって稀有な才能を現す存在がいた。

「魔」。

現代科學では説明のつかない事象を意図的に引き起こす特殊な能力を有した達。

達はゾンビという異常な存在に対して圧倒的な戦力となった。

ある者は電撃をり、ある者は念力を発生させる、ゾンビに対して力で対抗する者達。無論その異能の力は人間相手にもその効力をいかんなく発揮する。

を如何に自分達の陣営へと引き込むか、もしくは魔が如何なる集団を統率していくか。

そんな勢力爭いが、ゾンビとの生存競爭に併せて各地で巻き起こっている。

無論かような闘爭は回避したいものであり、魔との勢力爭いとゾンビとの遭遇を全力で回避ながら二人は旅を続けていた。

「ここは魔の領域だ」

禱は言う。ゾンビが壁にめり込み圧死しているという奇妙な死の群れから直的にそう推測する。

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その奇妙な殺害方法を可能とするのは異能の力によるもの、つまり魔の魔法であるとしか考えられないと。

ゾンビから逃れを隠すために、そして水や食料を確保し備えるために、人はそれぞれ籠城できる場所を求めている。

安息の地は存在せず、事態の終息の気配はなく、誰が救ってくれるわけでもない今、人々にとって最適で最も選択されやすい行指針は籠城だ。

それは魔とて変わらず、移を続けている禱と明瀬の方が異質だ。

であれば魔の痕跡を発見したこの一帯が魔の勢力圏、縄張りである可能は高い。

禱達は魔との遭遇の可能を考慮する必要があった。

「この地域に存在する魔がどんな相手だろうと接は避けたい。向こうもそう思って見逃してくれるといいけれど」

そう口にする「禱」はまた魔の一人であった。

先程のように炎を自在にる能力を有し、その力をもって幾つもの死線と修羅場を潛り抜けてきた。

だが禱にとっても魔同士の接、ましてや敵対は計り知れないリスクであった。

現在、ゾンビパンデミック発生から二年が経過している。

あの慘劇を生き延びた人々がゾンビの脅威の次に直面したのは、安全と水と食料を如何に確保するかの問題であった。

資源は有限であり、狀況は混迷を極め先行きは不明。

生存者同士が爭うのは必然であった。

小競り合いであればまだしも、ゾンビとの戦闘以上に凄慘な結果を招きすらする。

それは禱にとって本意ではなく、先を急ぐこともあって不要な接は回避したいものである。

ましてやそれが、強力な異能を持つ魔ともなれば。

「私たちの目的は水や食料や土地じゃない。接しないに越したことはない」

禱の言葉に明瀬は頷く。

「そうだね。まず狀況を整理しよう、私達は千葉を経由して東京へ向かっている。今いるのは千葉県浦安市、東京都のすぐ手前だ」

明瀬は巨大なバックパックから地図を取り出す。

二人が背負う巨大なリュックには長距離を移するために大量の飲料水と食料が詰め込まれている。

禱と明瀬は、東京灣沿いを通り千葉県へと通ずる高速道路「首都高速灣岸線」を千葉方面から徒歩で利用し、東京都へと向かっている最中だった。

しかしパンデミックの際に発生したと思われる大型車を巻き込んだ盛大な事故現場に行く手を阻まれ、浦安インターチェンジで下道に降りたところで先ほどの奇妙な死の群れを目撃した。

高速道路を降りた場所は千葉県浦安市。

周囲を海と舊江戸川に包囲された埋立地である。

現在の場所から北西に迂回すれば舊江戸川を渡り江戸川區へ進することが可能な橋が一般道上に存在し、南下すれば首都高速灣岸線と灣岸道路が存在するため東京灣沿いに進む形で東京都心部への進が可能だ。

一度は行く手を阻まれたが南下した先のインターから首都高速灣岸線へ再度踏みれることが出來る可能がある。

明瀬はそう説明しながら地図の別の場所を指した。

近くに存在するショッピングモール、複數の學校施設、そして巨大なレジャー施設。

「問題はどちらのルートを選んでも、生存者がいそうな場所を通るってこと」

籠城するに適しているのは堅牢な建、そして大量の水と食料。

生存者がグループを形しているならばある程度の敷地面積も必要である。

ましてや魔が存在しているならば、その異能の力によって対ゾンビの抵抗力を有していることで生存者の巨大なグループを作り上げている可能が高い。

ショッピングモールや學校施設は適した籠城場所になる。

そして何よりも目を引くのは南下した先、東京灣沿いに存在する世界的に著名なレジャー施設「Dワンダーランド」であった。

外から多くの観客が訪れる巨大な遊園地型のテーマパーク、Dワンダーランド。

約100ヘクタールの敷地面積を有し數多くのアトラクションとファンタジー風の建造が數多く立ち並ぶ。リゾートホテルまでも隣接する一大観施設だ。

その質から籠城に最適なのではと明瀬は語る。

「レジャー施設の周辺は巨大な壁に囲まれているし、包するホテルや飲食店を考えれば籠城する拠點としても最適じゃないかな。資も多いし」

だがその意見に禱は懐疑的だった。

「仮に魔がテリトリーを作り上げ集団を統率しているとするならば、広すぎる敷地は管理するには不向きだ。テーマ―パークは大勢の人間の場を前提としている、多すぎる出口や導線はゾンビを対策するのに不向きだと思う」

禱は推測を口にする。ゾンビと戦い続け生き延びてきた二人の経験と知見から導き出される結論に割ってるのは別の聲であった。

「その推測には一つ重要な點が抜け落ちていますね。王には『お城』が必要でしょう?」

知らぬ聲。咄嗟に禱は構える。

その視線の先には、禱とさほど歳の変わらぬ、いやむしろ年下のの姿があった。

眉の上で綺麗に切りそろえた前髪と手れの行き屆いた長い髪。整った顔立ちによく似合うシックな黒いワンピースは襟周りの白いレースに汚れ一つなくアイロンが行き屆いている。

ゾンビパンデミックによって世界が崩壊し危機的な狀況下で誰もが必死に生存を試みるこの狀況下において、そのはあまりにも可憐で綺麗すぎた。

そして何よりも異様なのはの周囲である。

が歩みを進める度に、彼の何もれてなどいないコンクリートの塀が削れるような音を立ててその表面がを吹き砕けていく。

まるで見えない何かに「圧し潰された」ように。

勘付いた禱は明瀬を庇うように前に立つ。

「魔だ」

「1話・閉鎖領域外 完」

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