《クラウンクレイド》「2話・屆かぬ存在(前編)」【クラウンクレイド閉鎖領域フリズキャルヴ】

CCH2-1

相対したの姿に禱は虛を突かれた。

見た目は十代前半、顔立ちも纏う雰囲気も非常にく中學生と高校生の境目くらいであった。

綺麗に梳いた長い髪やシワのない上品なワンピースを丁寧に著こなす様に育ちの良さをじさせる。整った顔立ちと白いに可憐という印象を抱く。

だが禱にはそのに恐怖に近い警戒心を抱く。

本來であればそのの印象に付きまとうはずのない狂気をじる。

この世界はゾンビに溢れ、死との臭いが蔓延し、生き殘った人と人が奪い合い殺しあう、救いのない熾烈な世界。その中にあってはあまりにも綺麗すぎた。まるで誰も「れえぬ」領域にを置いているかのような。

「こんにちは、初めまして。生存者の方ですね。染している様子もないようですね」

は朗らかな口ぶりでそう言った。他意のじられない素直な挨拶の言葉。

禱は警戒を崩さず明瀬の前に立ったまま構える。

が友好的な態度を示して歩み寄ってくる。それだけなら問題がない。

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だが彼の周囲では未だ奇妙な事象が発生していた。彼が歩く度に周囲のコンクリートの塀が削れていく。

何にもれていない。だが何かにれて削れているような様相。

「さっきのゾンビの死は、壁と何かに挾まれて圧し潰されているように見えた」

明瀬が禱に囁き禱は目を凝らす。

壁。

道の両端に立ち並ぶコンクリートの塀はを吹き破片を散らす。何かいものにその表面を削られている。その事象が発生する瞬間はの歩みと同じであるように見えた。

禱の脳裏をとあるイメージと懸念が過る。

禱は手を翳しに向けた。

「そこで止まれ。私達はあなたと敵対するつもりはない」

「敵対?」

禱の言葉には首を傾げ口を開く。

「あたしは、お二人を保護しようと思っていますよ?」

「それも必要ない」

禱が手の平に炎を燈した。空中に熱を発して焔が躍る。それをに見せつけて禱は言う。

「私は魔だ。君と同じ。保護は必要としていない、これ以上の接まない。私達は不干渉をんでいる。この場も立ち去る、君の領域を荒らさない」

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それは渉であり脅しでもあった。何かあれば事を構えることが出來る戦力を有しているという警告。

無論、禱にとってはただの脅しであり戦する気はない。何のメリットもなく、また相手にとっても自分たちに干渉する意味はないと考えていた。

しかし。

は笑顔を作る。

「ダメ、逃がさない」

「私達は君に干渉するつもりもない。大した資も奪えない。それに」

禱はその手の平の炎の勢いを強める。拳大の焔が一気に燃え上がり小さな火柱へと変わる。それは明確な敵意と暴力の顕現。

「君を怪我させたくはない」

禱は手を振り下ろす。手の平の焔が追従し空を焦がし、その手を離れる。勢いよく放たれた焔が空中を飛翔しへと向かっていく。

から狙いを外した警告の攻撃。しかしその焔は空中で阻まれた。

何かにぶつかったようにぜた焔の塊。だが、その空間には何も存在しない。

見えない壁があるかのように阻まれたその結果を見て禱は確信を得る。

「やはり」

禱は一つのイメージを脳裏に描いた。

の周辺には何か見えない壁のようなものが存在している。

所謂バリアのような、炎を防ぐことが可能な何かの壁。の周囲を不可視の壁が追従していている。

それがゾンビの奇妙な死の正。壁を押し付け圧し潰したのだ。今も周囲のコンクリートの塀が抉られ削られているのも、その不可視の壁が接している筈。

如何ほどの強度かは不明であったが、の不可視の壁と何かに挾まれれば、あのひしゃげた死と同じ結末を辿りかねない。

そんな禱の思考と考察が次の一撃を選ばせた。

再び焔を放つ。次は真正面に。へ向けて。しかしそれはに到達する手前で弾け飛ぶ。

「その炎はあなたの力なのですね」

はその表を変えた。恐怖や揺や怒りではない。その表は歓喜に見えた。

その真意が読めず禱は揺する。魔と対面したことの意味を、仮に魔を知らずとも焔をぶつけてくるような相手を見て歓喜の表を浮かべることなどあるだろうか。

それとも勝利を確信したものか。

禱は再度その手に焔を燈す。の魔法が如何様なものであるのか、その全容を捉えるには報が足りない。どちらにせよ敵対する狀況に陥ることは得策ではない。

禱は焔の勢いを加速させる。火柱が上がり周囲の空気が熱で歪む。閑靜な住宅街の一畫、放つ場所を誤れば周囲一帯を火の海に変えかねないほどに盛る焔。

先程とは比較にならない、敵意の現。

禱は言う。

「次は本気で當てる、下がらないなら手加減は出來ない」

「そんなにも拒否される理由が分かりませんが、あたしはただ二人を保護したいだけです。あたし達には生存者同士で生活している拠點があります。歓迎します」

禱はの姿の意味を徐々に理解しつつあった。

まずが一人この場所にいることがおかしい。生存者の拠點がすぐ近くだとしてもが一人で出歩いている狀況が異様だ。しかも彼を隠すわけでもなく、堂々と道の真ん中を歩いてきた。

いつゾンビと遭遇するかも分からない世界の狀況下、が怯え恐れている素振りすら見せず。あまりにも毅然と、そして堂々としすぎていた。

その整った服裝も髪も全く汚れていないも、ゾンビ溢れる世界で必死に生き延びてきた気配を微塵もじさせない。

あまりにも綺麗すぎる。

は汚れることのない不可侵の領域にを置き続けてきたのではないか。

ゾンビさえれえない、彼の魔法によってされる不可侵領域。

あの無數のゾンビの死がそれを立証する。このゾンビ溢れる世界で、押し通るどころか圧し潰すのだ、彼は。

であればかなりの強度の壁、正面突破は難しいかもしれない。

禱はそう判斷する。

「私達は先を急ぐ、救助も必要ない」

「どうしてそんなことを言うのですか!」

その言葉が引き金であった。突然は敵意を剝き出しにし逆上する。

禱は咄嗟に手の平で盛る火柱を思いきり振り下ろし、まるで焔を叩きつける。炎の軌道が空を焦がしてを狙うもそれは難なく空中で弾け飛んだ。の不可視の壁にぶち當たり防がれ、焔は欠片となって周囲へと飛び散った。

その軌道は奇妙であった。まるで斜面を転がっていくように火のは空中を斜めにり落ちる。

の周囲に展開された不可視の壁はドーム狀なのではないか、禱はそう推察した。

舞い散る火のの中、は聲を荒げる。

「お二人は必ず連れて帰ります!」

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