‐決起予定日‐

當初、禱が志麻から提示されたのは城に潛しての戦闘であった。しかし、引火や二次災害の危険を考慮して禱はそれを拒否。後日、別の作戦が提示され、禱はその計畫に乗った。

そして迎えた當日。夜長たちの行予定を探って計畫された夜長に対する反好意は、予定通りに遂行された。あまりにもつつがなく、何の障害も無く。

そもそも部による反の可能を夜長は考慮していたかは不明だ。先日の反抗勢力を潰したことで慢心もあったのか、各所に警戒を向けるだけのリソースが不足していたのかは分からない。

なくとも志麻達の反によって園の各所が制圧された際に大きな騒は起きなかった。夜長の側近としての役割を務める神流が、夜長と共に行を共にしていたことで各所に目が回っていなかったのも原因としてあるだろう。志麻達がスケジュールの隙をついたのもあるが。

人々が困しているうちに志麻達の勢力は発電施設や浄水施設といった生存に関する場所を抑えた。その事実をもって志麻は夜長に相対した。

園を制圧し切ったと宣言し真っ向から夜長を呼び出した形だ。

夜長の城、と稱されている城を模したアトラクション施設の正面口を包囲するようにして、城正面の広場に志麻達は終結していた。志麻の勢力の中心メンバーである五人だ。その手に金屬パイプを改造したものを得として持っていた。

その近くに禱はいた。

事前の報で明瀬が城に狀態にあるのは分かっている。その奪還の為に、志麻達に一時的に協力した。

園の生存者達の多くが広場の様子を遠巻きに見ていた。夜長は神流を伴い、園の城から出てくる。

志麻達の様子を見て夜長は顔をしかめ、神流は今にも飛び掛かりそうな気配と憎悪の表を見せる。一発発の迫した空気の中、互いの程範囲外の位置。約十メートル手前で夜長は足を止めた。

志麻が聲高にぶ。

「我々の要求は議會制度の設立だ。たった一人の人間がこのコミュニティの実験を握る狀況を歓迎できない」

「渉はしません。この國に対する反は許さない。他の人の幸せな生活を脅かすから」

「異なる意見の人間を殺しておきながら何が幸せだ」

既に夜長は反抗勢力、いや議會制度設立の議論を持ち掛けてきた人間を既に殺害している。その一點が決定的な亀裂になっていると禱は考える。

神流が口をはさんだ。

「夜長様のお力がなければ生きていくことなど出來ないにも関わらず、何たる言い草。愚か者め」

「その力があることで実質的な脅迫になっているということだ」

志麻が切り返す。

夜長の掲げる理想はシンプルで善なものだ。皆を幸福にする、その為に共同生活をする、ゾンビから守る。何の悪意の欠片もない、持っている力を他人の為に善意から使う。だから全てを彼の庇護下に置こうとした。

だがそれでも、どれだけ正しく素晴らしく見えたとしても意見の不一致はある。どちらが正しいというわけでもなく、何かの尺度で測れるものでもないもの。

禱にとってはこの場所で生活することよりも優先すべきことがあり、志麻達にとってはコミュニティの運営を一人の子學生に実権の全てを握らすことへの懐疑心。

そしてそれは明瀬の人質や反対勢力の処刑によって亀裂は決定的なものになった。

夜長は表を歪める。

「消さなきゃ」

「そうやって対立する相手を殺し続けるならやはり賛同できないな。いつかこの場所に誰もいなくなる」

全てを燃やし盡くしても。夜長は止まらないだろう。

喩え誰かを殺してもでも、志麻は止まらないだろう。

そして、禱には明瀬さえ無事であれば良かった。

ならばどちらの正義に対しても、何かを言える立場ではない。

夜長が手をかす。魔法を発する兆しだと判斷して神流が指示を出した。

禱は手を振りかざす。焔が何もなかった宙に翻り出現し、矢の如く勢いよく放たれる。

しかし、それは夜長の不可視の壁に防がれた。展開された彼の魔法はドーム狀になって取り囲み禱の炎を簡単に防ぐ。如何様な魔法であるか既に理解している禱の目には、太の屈折によって僅かに不可視の壁の郭を認識できた。

存在していると分かっていれば認識しようがある。

そして対策も可能だ。

禱が放った焔が防がれたのを確認し志麻達は足元に設置していたアルミ製の容を勢いよく蹴飛ばす。約十メートル先の夜長を目掛けた正確な蹴り。

四方三十cm程度の容には頭に口が空いており、蹴飛ばされ宙を舞うとその中が四散する。容が地面に落ちてっていくと勢いよくが流れ出して園の舗裝された地面に濡れた跡を殘す。

彼等がばら撒いたその跡を目掛けて禱は焔を放った。焔はその跡を辿るようにして地面を火の海へと変える。

引火だ。彼等はガソリンを撒いたのだ。

炎は一気に引火し地面を蛇のようにのたうちまわる。夜長の周囲を火の手が阻んだ。

そしてそれこそが彼の不可視の壁の弱點であった。

ドーム狀のバリアは夜長の頭上付近から発生し彼の足元の辺りまでを護る。だがそのバリアには隙間がある。地面と接することのない僅かな隙間。通常であれば狙うことは難しい。

だが地面に引火した炎はその弱點を突き、バリアの側をも炎に巻く。そしてバリアによって半閉狀態の夜長はそこから逃れるのは容易ではない。

下手すれば命を奪いかねない行為、だが禱はその策に乗った。

「私に出來るのはここまでだ」

引火した焔が燃え広がり広場の中心を火の海に変えて。

それを背にして禱はその場を離れる。怒聲と悲鳴が混じり傍観者達が混と恐怖に巻き込まれる中で、禱の目に映っているのは立ちそびえる城だけであった。

目指すは明瀬がされていると思われる夜長の城の部だった。

夜長と志麻の決著がどのような形を迎えようが、禱にとって重要なのは明瀬だけであった。

そういった意味では何も彼らに言える立場ではないのだと禱は自負していた。

夜長の部下が追ってくることはなく、城の口の簡易な護りの人員を焔をちらつかせて圧倒し正面突破を選択する。

夜長が出払っていることで守りの気勢は衰えており、彼等は畏れ慄くのみで、禱は鬨の聲をあげて圧倒する。行く手を阻むものを全て薙ぎ倒すように。

「死ぬ覚悟もないなら、そこをどけ！」