第8章 復活儀式

シグレが神換機の発起句パスワードを唱えると、自らのの覚が消失し、と他のものの境界が曖昧になり、全ての母なる大いなる宇宙、永劫の狂気と不遜なる叡智に満ちた暗黒の奧底へと自分が溶けて消えていってしまいそうな、ついには消滅していくような奇妙な覚に囚われてしまった。

何も見えず、何もじぬ中で、自分の中の大切な何かが抜け出ていくような虛をじつつ、神となったシグレは視覚を封じられた狀態の真なる暗黒の中で飛翔する。

何も聞こえぬ、何もじぬ暗闇の中で、飛翔するシグレは、それでもはっきりと自己の存在を認識していた。

神換機を起した直後に襲われた自分が溶けていきそうな覚は既になく、今は『自分』というものをしっかりと認識することができている。

暗闇の中、記憶の海に漂うわずかな欠片が流星のようにフラッシュバックし、今までの自分、「シグレ」という人間の思想、過去、価値観、ありとあらゆるものが流れ落ち、深淵の底へと落ちて行く。

そして、一筋のが走った。

ないはずの視界には一條の閃が走り、あるはずのない溫には確かなる熱をじる。

『これは記録だ。あらゆる世界における不文律、破ってはいけない暗黙の了解にして絶対の忌。

本能レベルで忌避しうるはずのそれをし得た。故に……

濁流のように流れて落ちる記憶の大瀑布に、小さな、ほんの小さな小石ふじゅんぶつが紛れ込む。

しかし、紛れ込んだ謎の聲は、天翔ける流星のように儚く、そして消え去った。

闇に揺う閃は徐々に厚みを増し、靜寂を吞み干した金屬音のような何かがだんだんと聞こえてくる。

焼け付くような熱波がを焼き、表を伝うを忌まわしげに拭い去る。

に手をあてなくとも、五に響く暖かなの鼓が、吐き出す息の質が、瞳の奧に飛び込んできたとりどりのに照らされた部屋の影が、今やシグレとなった誰かのがしきリズムを奏で、それらは調和して生命のオーケストラを形作っていた。

ドクン、ドクンと鼓する心臓。

何故か蠕するを抑え込みつつ、鬱にして執拗なる影の束縛から解放されるべく、ゆっくりと、靜かに、それでいてしく流麗な、一切の無駄をじさせない姿で立ち上がった。

「謝いたします」

靜かにそう呟くと、それはゆっくりと歩き出した。

ステンドグラス越しのは既に紅く染まり、落が終わりを告げていた。

第8章 fin

小説とは一切関係ありませんがし宣伝を。

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