《Skill・Chain Online 《スキル・チェイン オンライン》》四話 《始まりの街》にて

《始まりの街》にある安価の宿屋で、長い金の髪を持つが、外はもう晝過ぎになるというにも関わらず、ベッドで何をするでもなく黃昏ていた。

整った顔立ちをしており、すらっとしたつきに18歳の年相応のの膨らみを持つ、日本人離れした容姿の【アリサ】は、このゲームが始まって二ヵ月たった今も、現実と向き合えずにいた。

全てが始まり、自分にとっては全てが終わったあの日、GMと名乗った影が消えて直ぐに、聡明な彼の脳は即座にその現実を認識してしまい、その場で打ち拉がれ発狂してしまった。

その後、の宿らない虛ろな目をしながら、どうにか【INN】と書かれた宿屋にり、それから毎日自分がSCOをプレイした事を激しく後悔した。

何故あの時、今までゲームなんてケータイの簡単なアプリ程度しかした事のなかった自分が、親に珍しく無理を言ってまでSCOをやりたいと思ってしまったのかと。何度も何度も、あの日VRギアを被る時の夢を見て、必死に止めてとび、今見ている世界は夢であってくれと願いながら目を覚ます。

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一日、また一日と時間が過ぎて行くごとに、本當の世界での自分の人生が壊れて行くようで、その事に恐怖し涙していた。

ぐぅ~とアリサの腹の蟲が鳴く。今見ている世界は偽で、食べなんてタダのデータでしかない筈なのに、それでも腹は減るのだと。その事が、アリサに今の現実はこの世界なのだと実させる。

始めから持っていた所持金の1000エルは、この二ヵ月間の宿代と食事代で既に底をついたが、定期的にショップを覗くと、一人につき20エルが配布されているのだ。安い宿屋なら30エルで一泊できるため、配布されているのを知ってからこまめに取りに行って貯金していた。

そのおかげもあってアリサは今まで路頭に迷わずにいられた。

しかしそれも今日までである。今日の宿代を払ってしまえば、自分はもうほとんど一文無しだ。もともとお金が貰えるのは毎日ではない上、20エル貰えるのに対して1日に30エルは使うのだ。むしろ今までよく持っていたものだと思う。

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つまり明日からはお金を稼いでいかなければならないのだ。

街の外に出てモンスターと戦うにしても、誰かに恵んでもらうにしろ、なんとしても野宿する事だけは避けたい。

一度街に出ると、日本人離れした貌を持つアリサは數ないプレイヤーということもあり、すぐさま男が寄ってくる。そんな中野宿をすると思うとゾッとする。防止コードが働くとはいえ、働かない範囲でも何をされるか分かったものではない。

今までだってそれを警戒してあまり宿の外には出ていかなかったのだ。

しかし、そんなアリサも空腹には勝てない、宿屋で食事を取ろうにも、先日貰った20エルは今日の宿代に使わなければいけない為、ショップにけ取りに街へ出なければいけなかった。

「はぁ……仕方無いですね……」

渋々ベッドから出て、腰までびた長い髪を三つ編みにし一つに纏め、始めから裝備されていた初期裝備の服と、念の為に同じく始めからあった、片手用直剣という項目の武《ブロードソード》を腰に裝備し、アリサは街に出た。

「……なっ!」

街に出て、宿屋から一番近いショップに早足で向かったアリサは、ショップに著いてから雷に撃たれた様な衝撃をけた。

何時も貰えていた筈の20エルが無かったのだ。誰かが張って自分の分も持って言ったのだろうか? いや、あれは自分がけ取った瞬間に項目が消えて、それ以上け取れない様になっていた筈だ。

では何故? ともう一度確認しても、配布の項目にあるのは未だけ取った事のない、【SCO攻略本 門編】と書かれたアイテムだけだった。

お金が無く、頼みの綱だったショップにもお金が配られていなかった事で、アリサは何処へ行くでも無く道のベンチに座り、途方に暮れていた。

手には先程のショップに置いてあった攻略本が握られている。何かの役に立つかもと、なんとなく貰っておいたのだ。

道行く人がアリサに視線を向けて來る事や、ショップにお金が無かった理由も気になるが、そんな事よりこれからどうしようという考えでアリサの頭は一杯だった。

空腹による苛立ちもあるのだろうが、よりによって今日無くならなくてもとは思わずにいられない。

いや、どっちにしろ明日からぶつかるであろう問題ではあったが……。

「お嬢さん。何か困りごと?」

そんなアリサを見て何かを察したのか、中年のし老け気味の男の人が話しかけてくる。

アリサが話しかけるなオーラを全開にしているにも関わらず、男はズカズカと歩み寄り、アリサのすぐ隣に座り込む。

「あ、もしかして宿代無いとか? よかったら俺のとこに來る?」

アリサの悩みを即座に言い當て、優しい言葉をかけて來るが、その男顔には下心が全面に出ていた。

「あ、警戒してるんでしょう。分かるよ、最近騒だからね。二ヵ月前に俺ら見捨てて出てったβテスターの奴ら、アイランドボスにボロ負けしてのこのこ帰って來たと思ったら、今度は此処で威張り散らしてるんだもんねー。でも大丈夫だよ。俺はあんなβ上がりの糞供とは違うからさ」

しでもアリサの興味を引こうと、男は語りだす。

本當にどうして男の人というのは……。アリサはここに來て何度目になるか分からない溜息を吐き、下心が見え見えな男に向かって言葉を返す。

「(申し訳ありませんが一人にして貰えませんか?)」

「え、え? あ、あー。外人さん?」

「(そんな事見ればわかるでしょう。私が貴方の様に黒髪黒眼の日本人に見えますか?)」

髪は染める人もいるだろうが、アリサの瞳は青だ。遠目からならともかく、この距離なら見間違う事はないだろう。

どうせ意味など分からないと思いながらも、ナンパ男に敬語を使い接するのは、アリサの現実の家庭の厳しさと、彼の真面目な格故だろう。

「ええっと……俺、英語よく分からないや、ごめんね」

男はそれだけを言い殘し、そそくさと帰っていった。

その姿を見送ったアリサはもう一度深い溜息を吐いた。

いつも通りの結果だ。

ロシア人とのハーフで帰國子でもあるアリサは、今回の様にナンパされるとさっきの様にロシア語を使って撃退していた。何故か日本人は皆、相手が日本語を話せないと分かると急いでその場を離れて行くのだと、アリサはこの二ヵ月で學んだ。

今のやり取りを見ていた野次馬達も、アリサが日本語の話せない外國人だと知ると、蜘蛛の子を散らす様に去っていった。

《始まりの街》の正門。そこでアリサは立ち止まり、その一歩を踏み出すのを躊躇していた。

これより先は《圏外》つまりそこでダメージをければHPバーが減し、ゼロなってしまえばアリサの現実での命は失われる。

そしてもう一つ、噂で聞いた話だが、このゲームが普通では無い點が有る。

このゲームには痛みがあるのだ。

痛み、つまり痛覚がこのゲームでは存在する。その痛みは本當に怪我をしたのではと錯覚するほどリアルなものであるらしい。

その事実が、アリサを《始まりの街》に留める原因ともなっているのだ。

しかし、もう自分にはこの方法しか無い。宿屋に泊まる金も無く、信頼し頼ることの出來る友達もいない今、《圏外》に出てMobを倒す事でお金を稼ぐのだ。

大丈夫、さっき貰った攻略本にも書いてあったではないか。《始まりの街》からでてすぐの場所で沸くMobはメークドッグとゴブリンの2種類のみ。

ゴブリンはともかくもう一のメークドッグというMobは、こちらから攻撃しない限りは向こうも攻撃を仕掛けて來ないらしく、あまり攻撃も高くない様だ。

このMobが1匹の所を狙えば自分一人でも充分いけるはず……。

しかしこのMob達が沸くのは朝から夕方までだ。夜になれば手強いMobが発生する様になる為、それまでにお金を稼がなければいけない。

空はもうかなり日が傾いて來ていた。

あまり時間は殘っていない。

「しっかりしなくては。……大丈夫……大丈夫」

腕でを抱く様にしながら念仏の様に呟き、やがて覚悟を決めたアリサは歩き始め《始まりの街》から出た。

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