《Skill・Chain Online 《スキル・チェイン オンライン》》六話 死神との遭遇

「…………迷いました」

一向に森から抜ける事が出來ず、自分の周りは木で覆われていてMAPの何処にいるのかもよく分からない……。

なんという事だろう……。

アリサは己のあまりに間抜けな狀況に思わず天を仰いだ。

空はすでにしずつ暗くなってきており、もう直ぐ夜になってしまうだろう。

本格的に不味い。もし夜になってMobと遭遇してしまえばとても無事では済まない。いや、晝間でも森の中で遭遇するMobはなくともあの草むらに居るのよりは強い筈で、それにすら勝てるかわかったものではない……。

そう考えれば、未だMobと遭遇していない今はまだ運がいい方なのかもしれない。

「……あれは?」

しでも今の狀況をポジティブに考えようとした矢先、し先の森の中に木が生えていない広い空間があるのを発見した。

森の中に存在しているこの空間はMAPに書かれておらず、自分がいる場所がわからず遭難中という事に変わりはないが、この広い空間に出た時の謎の安心はなんだろう……。

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もしかしてここは《圏外》に存在する安全地帯という空間なのでは?

しばかり現実逃避気味な思考になるのを首を振って打ち消す。

よく見てみれば奧に窟がある。あれが攻略本に書いてあったダンジョンというやつだろうか。

そうだとしたらこの場所も決して安全地帯などではないわけで……。

…………ズン……ズン

それにこんな見晴らしのいい場所で立ち盡くしていたら當然見つかってしまうわけで……。

「……あ」

アリサが後ろを振り向き見たのは、緑を持ち、そのえた腹を惜しみなく曬している、見上げるほどの大男。

攻略本で見た《始まりの街》周辺で出沒するゴブリンやメークドッグとは違う。

その二よりも強く、ゲーム経験の薄いアリサですら名前程度なら知っている世界的にメジャーなモンスター。オークと呼ばれるMobは、片手に棒らしき武を持ち、じっと目の前のアリサを見下ろしていた。

「う……あ……」

逃げなきゃ、逃げなきゃとアリサは必死にこうとするが、この世界に來て初めて目にするオーク。自分に死を與える存在を前に、が震えく事が出來ない。

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オークがゆっくり構え勢いよく振り回された棒を、アリサはろくに防も出來ずにまともにけ、彼が宙を舞う。

「カハッ……」

も取れないまま地面に落下し背中を強く打った為、その衝撃で肺の空気が吐き出される。

「うぅ……」

一撃、たった一撃をけただけでアリサの青かったHPゲージは、半分以下を示す黃を通り越し赤になる。

すぐそこまで自分の死が近づいている狀況でもアリサはけない。

痛い! 痛い! 痛い! 痛い!

自分が思っていたより、あまりにも現実離れした痛みと衝撃で、もはやそれ以外考える余裕すらなかった。

「あ、ああああ!」

目の前がチカチカと點滅し、子供の様にんで、涙を流した。

にダメージを伝える強烈な痛みが走り、初めてけたダメージでのショックと、未だ止まらないの震えのせいで立ち上がることすら出來ない。

…………ズン……ズン

オークはアリサを仕留めた事を確信し、笑みを浮かべながらゆっくりとした足取りでトドメを刺そうと歩み寄る。

アリサは地面に倒れ伏したまま、この世界に來てからの全てを後悔し、何も出來なかった自分を恥じながら、こんな事で命を奪われる理不盡さに対して、悔しさのあまり先程とは別の涙を流した。

ああ……。今までの人生はなんだったのだろう……。

親に言われるまま、友達との付き合いもろくにせず勉強に勵み、良い學校にり良い會社にるためにと頑張り続けた日々。

たった一回、あの日初めて言った我がままが、これまでの努力を全て無駄にする結果となるなんて……。

ゲームなんて時間の無駄で、貴重な時間をそれに費やしている周りを、アリサは軽蔑すらしていたのに……。

…………もういいんじゃないだろうか。

自分でもあれ程軽蔑していたゲームの中で、いつか訪れる死に怯えながら生き恥を曬し続けるぐらいなら……。

こんな痛みをじるぐらいなら……。

もういっそここで死んでしまった方が楽になれるんじゃないか?

オークが目の前にまで接近し、手に持った棒を高らかに振り上げる中、アリサは生き続ける事を諦め、己の死をれ始めていた。

ああでもせめて……自分が納得出來る様な死を迎えたかったな……。

諦めの死では無く、自分は一杯生きたのだと誇って死にたかった……。

そして、それには全てが遅過ぎたのだと……アリサは自分に死が訪れるのをれた。

……剎那。

今まさにアリサにトドメを刺そうとしていたオークのが、頭から一直線に地面まで振り下ろされた背後からの剣によって、真っ二つに裂けた。

パリンッ……。

ガラスを砕く様な音と共に、二つに分かれたオークのは霧散し、消滅を示す安っぽいエフェクトのみが殘った。

「…………え?」

突然の出來事にアリサの理解が追いつかない。

ついさっきまでオークが立っていた場所にはもう消滅のエフェクトは存在せず、そのすぐ側に人影が一つ。

その人がさっきのオークを倒したのだと、理解するのにし時間がかかった。

それはアリサの意識が別の事に向いていたからである。

アリサの意識を奪ったのは、その人の行ではなく、その姿だ。

黒髪の、アリサと同じかし上ぐらいの年齢にじる年。年齢もそうだが、何よりその年がに付けている裝備……。

空が暗くなってきたにも関わらず、纏った者を強調し続ける真っ白なコート、その肩には幅広な、年のの丈程もある大きな剣が擔がれている。

年齢が想像以上に若いということを除くと、その姿はまさに、先程アリサが忌み嫌い、嫌悪の対象として見ていた死神の姿だった。

死神が倒れ伏したままのアリサを見下ろし、大きな剣を擔ぎながら、こちらに一歩踏み出した瞬間……。

「ぁ……嫌っ……!」

アリサは痛みも忘れ、ほぼ反的に飛び上がり、腰にあるブロードソードを死神に向けて構えた。

死神がアリサの反応を見て驚きに目を見開いた。

その理由を理解するだけの冷靜さを、今のアリサは持ち合わせていなかった。

森の奧でオークに遭遇し、死を覚悟したにも関わらず、自分は死ぬことなく、今度は悪評が絶えない死神と遭遇したのだ。

連続で起きるハプニングに、アリサの冷靜さは完全に失われていた。

アリサの剣を握る手がガチガチと震える。これでは威嚇にすらなっていない。

しかしアリサには死神から逃げる事しか頭になかった。

森の奧深く、人気の無い薄暗い場所に居るのはアリサと、死神と思わしき年の二人。

……襲われる。

相手の見た目が未年だからとか、防止コードがあるから大丈夫だとか、そんな余裕は持てなかった。

死神には“そういう事をした”という噂すらあるのだ。

嫌だ……嫌だ……。

“ヤられる”ぐらいならさっき死んだ方がマシだった。それ程の拒否反応をアリサは示していた。

攻撃的なアリサの反応を見ても、死神は立ち去らずジッとこちらを見つめている。

それはアリサには、自分が馬鹿にされている様な、侮られている様にしか見えなかった。

……どうせ何もできないんだろ。

そう言った幻聴すら聞こえた様な気がする。

SCOにってから、アリサの中に溜まりに溜まりまくったストレスが、正常な判斷力を奪い、普段とは全く違う思考へと変化させていた。

こんな男に“ヤられる”ぐらいなら……。

アリサの中で何か黒いが広がり、手に持った剣に力がこもる。

……瞬間。

震えが止まり、手に持つ剣がゆっくりと青く輝き始めた。

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