……どうしてこうなった。

俺は今激しく揺している。

《始まりの街》を出て直ぐにある森の奧深く。

帽子屋と別れた後直ぐに、新しく発見されたと言うダンジョンのある場所に向かったのだが、報通りダンジョンに辿り著いたそこで、今正にオークに襲われているを発見した。

條件反的にオークに斬りかかり助けたが、大丈夫かと近づいた瞬間、悲鳴に近い聲を上げながら全力で距離を取られ、腰の剣を抜きこちらに向けて威嚇してくる。

健全なお年頃の男としては、助けた筈のにそんな反応をされれば流石に傷つく。

いや、別に助けたからとか言って恩を著せるつもりはないんだけどね……。

なんと言うか……そんなに俺が嫌でした……？

思いの外メンタルへのダメージが半端じゃない……。

ショックのあまりフリーズしていたが、気がつけば彼の持つ剣が青くりだしていた。

思い切り臨戦態勢じゃん。攻撃スキル使う気満々じゃん。

彼の裝備やライトエフェクトから、あのスキルは片手用長剣の初期スキル《スラッシュ》だろう。

どう見ても俺に向けてますよね……。

この依頼が終わったらしばらく宿に篭って泣こう。うん。

というか彼は本當にスキルを打つつもりなのだろうか。

今このゲームはデスゲームとなっている。

通常のMMOならPKなど日常茶飯事だが、SCOでプレイヤーを殺そうものならそれは人殺しだ。

それにダメージを負わせれば、相手に痛みが伴う。

まともな人ならそんな事は普通しない。例えあの時の影の言葉が噓だったとしても、確証がない以上してはいけない。

彼の頭の上にあるカーソルを見る。

は緑。

それは彼はなくとも現在は犯罪的行をしていない事を意味している。

一度でも同じ緑のプレイヤーを攻撃すると、カーソルのはオレンジとなる。

オレンジのカーソルは犯罪者を意味し、一定期間を過ぎ再び緑に戻るまで、街や村などの《圏》にる事が出來なくなってしまう。

それはプレイヤーにとっては致命的だ。

宿で眠る事も、回復アイテムの補充も出來ないまま、期間が過ぎるまで《圏外》にいなければいけないのだから。

PKをする際のメリットがほとんど無く、デメリットがあまりにも大きい。

その為オレンジカーソルになるという事は、明確な悪意を持つ者だと証明することにもなる。

目の前のが悪意を持って俺を攻撃しようとしてるとは思えない。

というかどう見ても揺してパニックになってるよね……。

俺のせいなのかなぁ……。それしか考えられないよなぁ……。

とりあえず彼を落ち著かせることを優先しよう。

俺が原因でパニックになってるとしたら、下手に聲をかければ余計に彼を刺激してしまうだろう。

ここは彼が冷靜さを取り戻すまで攻撃を躱し続け……っ！

彼が持つ剣が僅かにいた瞬間。俺の脳から強烈な危険信號が鳴った。

ほとんど反的に後ろに飛び退いたその時、彼のがブレ、先程まで俺が立っていた場所に強烈な斬撃が放たれた。

……速い！

このゲームに慣れ、數々のスキルを見てきた俺でも、今彼が放った斬撃を完全に捉え切る事が出來なかった。

明らかに攻撃スキルによるきの補助だけではない。

攻撃スキルによってアシストされるきに、合わせて自分もく事でその速度と威力を底上げする技。

俗に言うシステム外スキルと言うやつだ。

アシスト任せに慣れてしまったプレイヤー程、この技は習得し辛い。

僅かにきにズレが生じるとスキルが中斷され、無防備な狀態に陥ってしまう危険があるが、それによる恩恵はとても大きい。

ただスキルのアシストに任せて攻撃を放って防げなかったMobの攻撃でも、この技を使えば防げるようになったりもする。

俺自も使っているが、今の彼のきを再現出來るかと言われれば難しいだろう。

それ程までに彼のきは極まっていた。

俺に攻撃を躱された事に気付いた彼が、再び剣に青いを宿し斬りかかる。

「ちょ……っ！」

を思い切りひねり、高速の斬撃をなんとか躱す。

振り向けば彼は既に次の斬撃を放とうとしていた。

初期スキルである《スラッシュ》は簡単に言うとタダの水平切りだ。

威力こそ大きくないが、その分リキャストタイムがかなり短い。

単純やきとはいえ、目で追うことが困難な程の速度の剣を、この近距離で躱し続けるのは無理だった。

三度目の斬撃を俺は躱すことが出來ず、手に持った大剣で防いでしまった。

ガキンッ！

「ッ……！」

金屬同士がぶつかる甲高い音が響くと同時に、俺のＨＰゲージがほんのし、僅かに減する。同時にダメージを知らせる鈍い痛みが両手に走る。

あぁ……やってしまった……。

どれだけレベルが離れていようとも、スキルで放たれた攻撃をスキルを使わずにけてしまえば、例えガードしようとも僅かにダメージが発生してしまう。

俺にダメージが発生したことによって、のカーソルが緑からオレンジに変化する。

これで彼は完全に犯罪者プレイヤーとなってしまった。

……もういいか。

ダメージをけてしまい、彼がオレンジになってしまった以上、もう躱し続ける必要はないだろう。

「ほっ」

彼の剣を自分の剣の腹でけた狀態から、俺は大剣を力任せに振り上げ彼の手から剣を弾き飛ばす。

「…………あ」

弾き飛ばされ、宙を舞う己の剣を見つめながら、目の前のはその場にへたり込んだ。

力無く座り込み項垂れるその瞳には、何処か絶した様な、諦めのが浮かんでいた。

にもう戦う意思が無いことを確認した俺は、大剣を腰のホルスターに収め話しかけた。

「落ち著いた？」

もっと気の利いた事を言えたら良かったのだが……。今さっきまで襲われていたとしてはこれが限界だった。

俺の言葉に反応を示すことなく、は地面を見つめながら沈黙を続ける。

……無視ですか。……そうですか。

空はもう暗くなっており、夜空を大きな月と大量の星が照らしていた。

これからはMobの強さが変わる。裝備やさっき俺に與えたダメージからして、彼のレベルはそれ程高くはないだろう。もしかしたらレベル1なのかもしれない。

それであれ程の斬撃の速度を出せるのは恐れるが、彼をここに放置するという選択肢は俺には皆無だった。

月のが俺たちのいる場所を照らし、彼の姿を明確に映しだした。

思わず息を呑む……。

襲われている時は気づかなかったが、目の前のはかなりの人さんだった。

月のによって黃金に輝く長い髪に、き通る様な白い。青い瞳を持ち、小振りで整った顔は、ゲームで出てくるエルフを連想させた。

健康的な付きを持つ手足に、布を僅かに押し出し存在を主張するはバランス良く整っており、見る者（主に俺）の視線を釘付けにした。

いや、全像ではエルフより騎士のイメージの方が近いか……って何を考えてる俺！　しっかりしろ！

今重要なのはこれからの事だと自分に言い聞かせる。とは言え、彼が反応をしてくれない限りはどうすることも出來ないのだが……。

うーむと俺が考えていると、今まで沈黙を守っていた彼が口を開いた。

「ーーーー」