《NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?》第--話 運営はどうしても定時で帰りたい。らしい。
型MMORPG『サウザンドオルタナティヴ2』
つい先程その発売延期が正式に決まり、私達開発チームはとても暗いムードだ。折角のベータ版限定テストプレイの試行日用に準備していたサプライズパーティーもそれどころでは無くなり、ほとんどの人が準備された料理やお酒に手を出さず、テレビの前に集まっていた。
開発部の壁に掛かってるかなりの大型スクリーンを、みんなかぶりつきで見守っている。テレビに映っているのは、我らの開発部部長、アイザックだ。神妙な顔つきで記者の質問に禮儀正しく答えてはいるの、テレビの向こう側は相當なバッシングの嵐だということは、時たまに映るゲームエキスポ會場の観客席の表から見てすぐに伝わってきた。
「今回のゲームエキスポ最大の目玉であった『サウザンドオルタナティヴ2』ですが、発売の延期になった最大の原因をもう一度視聴者にご説明下さい。」
「えーですから先程の説明にもありました通り、システム並びにサーバーに些細な欠陥が一部見つかりました。私以下の優秀なスタッフが原因の究明及びメンテナンスを開始している所ではありますが、一番の問題になっているのは、まだ我々の求める、新作を期待してくれる皆様の納得のいくクオリティーに到達出來ていない、と言うことです。
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今回は発売の『延期』という殘念な手段しか取ることが出來ませんでした。しかし、今年のクリスマスまでには皆さんの手元に、更なる進化を遂げた誰もが求める納得のクオリティーを提供します。」
「テストプレイ參加者に健康被害が及んだという報について解答お願いします。」
「皆さんどうか落ち著いて、健康被害が発生したというのは大きなデマです。それらのSNS上で発信された『何の確証』も得られない報を鵜呑みにしないで下さい。」
「開発部の一員がヘッドハンティングにあったという噂に付いては?」
「社の報についてはノーコメントです」
「今回の世界的なサーバーエラーは某國の謀という節がありますが・・・」
「皆さん落ち著いて下さい。ゲームに関係の無い質問についてはお答え出來ません」
會場はごった返しになっていた。政府の謀論まで語るようなゴシップ記者までもが會場に現れてアイザック部長にインタビューしている。そのくらい今回のテストプレイは大失敗に終わった。
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「誰だよ、まったく。『テストプレイ當日は、データを収集するぐらいしかやる事無い』って言ったのは。」
「それ自分でしょパーマーチーフ!アイザック部長が帰ってきたらパーティーやるって言い出したのもチーフでしたよ確か。」
「パーティーは俺じゃ無いぞ!そもそも誰だっけこれ注文したの?ランチに頼んだ折角のピザが臺無しだ。」
「あ、あのー私です。て、言いますか、その・・」
「・・・あぁ、『テンマ』かぁ・・・」
チーフの口からその名前が出たとき、みんなの顔が更に暗くなった。
「ま!!仕方ないって!ロジカ!後で請求書頂戴、経費でおとしておくから」
「!いいんですかチーフ!!」
「みんなここまでボロボロなんだ。モチベーション上げるために必要だって言ったら部長も許可してくれるでしょ。と、言うことで仕事はやめだ!みんな飲もう!食べよ!!」
パーマーチーフがわざと明るく振るまい、ソレを合図にみんなしずつだが笑顔を取り戻す。テレビの前に陣取っていた開発チームは、しづつオードブルの並べられたテーブルに移りだした。最早「ランチ」どころか「ディナー」の時間ではあるが、すでに発売延期は『決定』されたんだ。最早焦ってもがく必要も無い。
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「はいロジカの分、ビールもあるよ。」
「ありがとうウエンディ。」
「えーっと、たしか・・・ジャパンではこう言う時『泣いて馬謖を斬る』って言うんだっけ?」
「それ、中國のことわざよ。しかも使い方も意味も間違ってるし」
「あら、ごめんなさい。うふふ」
デスクからこうとしない同僚を心配して、ウエンディがわざわざこちらに食べとビールを持ってきてくれた。ウエンディと小さくビールで乾杯し、私が頼んでおいたピザとチキンを頬張る。その時デスクに肘がぶつかり、IDパスと數枚の書類が落ちる。
「あぁっとごめん」
「いいわこっちで取る」
ウエンディは足下に落ちたパスを拾い上げ、繁々と顔寫真を見つめる。
「・・・ホントにどうしちゃったのかしら?彼。」
「えっごめん、聞こえなかった」
「もう、聞こえてたでしょ?『テンマ』の事よ。貴同じ日本人だったから仲良かったじゃない。」
「・・・わからない」
「そう。そっかぁ」
自分のIDパスは首からすでに提げている。疲れ切った徹夜明けの顔の方がいつもの君らしいとか言って、無理矢理『先輩に撮られた寫真』。そしてその隣に表示される私の名前、『渚力 蕗華(しょりき ろじか)』。その二つが並ぶIDと、今ウエンディが拾い上げた顔寫真を黒く塗りつぶされたID。そこには『不知火 天馬』の文字が。
ロジカはその文字を見るだけで名前を呼んで、助けてほしい衝に駆られる。「こんな時に先輩が居ないなんて」。一今日だけで何回その臺詞を心の中に浮かばせたか。
遅すぎるランチだった事もあり、テーブルに並べられたオードブルはあっという間に無くなってしまった。乾杯用のシャンパンは流石にぬるすぎて、別の機會にしようとボトルごとワインクーラーに戻された。
「ね!飲みに行こうよ!」
「えっ今飲んでるじゃない?」
「だーかーらー!こんなの求めてないでしょ?冷えたピザでビールを流し込むなんてさ。今の私達に必要なのは冷えたビールで熱々のピザを流し込む事よ!」
「でもせっかく買ってきたのに・・・」
「だめよロジカ。貴昨日だってまともに家帰ってないじゃない。ほらさっさと準備して」
「そ、そんな・・」
「そうともロジカ!今俺達に必要なのは『大人のくつろぎ』だ。どうせ明日からまたハードワークの毎日なんだし、みんなでミスした時ぐらい明るくいこう!!」
「パーマーチーフまで・・・」
「さ、コートを著て準備するんだ!みんなパーっとやろーう!!なんせ數ヶ月ぶりの定時帰宅だ!がが踴るねぇ!!」
「あ!チーフ!!まって、日本のサーバーで起きた事なんだけれど」
「あー『未年者』の話?いいよテストプレイだし、警告文送ってアカウント消して。」
「いいんですか?」
「いいも何も、君の國の法律だろう?むしろ助けろって言われても困る。こっちだって今日だけでDMの暴言によるアク措置に何十人何百人とだいぶ時間かかってるんだ。そのぐらい些細な事だよ。」
「分かりました。消します」
「さあもう仕事は十分だ。ログインしてる奴らも次第に消えてくって」
「あぁ!ちょっとまって引っ張らないで!チーフぅ!」
ロジカは開発チームのみんなにひっぱられてデスクを後にする。なんとかアカウント消去の作は間に合った。後は・・次にしよう。そう、思い込んだ。最後の一人が部屋を出るとき、ブースの電気は消された。
後に殘ったのは、ログイン狀況確認畫面のままのロジカの端末と、彼のデスクにに殘された『先輩』のIDだけだった。
その後パブ、プールバー、ダイナーとハシゴし、パーマーチーフが酔いつぶれた事でやっと解放される。時刻は23時過ぎ、『まだ間に合う』。急いで會社に戻る。
ブースは小さく明かりが付いており、誰かが殘って仕事をしていた。アイザック部長だ。
「部長!お疲れ様です。あの、もしかして今お戻りですか?」
「あぁ、ロジカ。そうだとも。今日は・・・お互い大変だったな。」
「えぇ、全くです。」
部長にビールを渡そうとしたが、クーラーボックスには殘ってなかったので、思い切ってシャンパンを空けた。グラスにつぎ、一つを部長の前に差し出す。
「はて、今日はなんのお祝いだったかな?そうだ!もしかしてこれは私へのサプライズなのかな??」
部長が荒れ果てたテーブルの上の殘骸を見てジョークを言う。ロジカはクスクスと笑ってしまう。
「ベータテストに」
「ベータテストに」
二人で乾杯する。部長はぐいっとシャンパンを飲みほす。
「さてロジカ、私はこれから殘りない『今日』を反省しに地下鉄に乗ろうと思うんだが、君はどうするんだ?」
「私は・・・ベータテストが終わるまでモニターを監視して、ソレが終わり次第サーバーを落とします」
「そうか、すまない。それでは頼んだよ。」
もう帰り支度はすんでいたのだろう。アイザック部長は手荷を用意し上著を羽織ると、片手を上げて手を振りさっと帰って行った。
デスクライトを付け、デスクトップ畫面を確認する。今日は絶対にするって決めていた。私と『先輩』の始めた事だから、最後のけじめを付ける。ログアウトを確認してサーバーを落とす事を。
「あら?まだ一人殘ってる??」
ログインカウンターは35000/1になっていた。よくもまぁ、あれだけバグだらけの環境でここまで何も無く遊べた運の良い人も居たものねと素直に心する。サーバーの時計は23時45分を差している。あと15分だ、せめてこの人は最後まで自由に遊ばせようと思った。
今日のベータテストはハッキリ言って大慘敗だった。優秀なデバッガーを何人も雇ってテストプレイを重ねたのに、バグで強制終了する人が後を絶たなかった。このテストプレイでは再びログインする権利が與えられて無かった為、不満でDMを使ってクレームをれてくる人が沢山いた。そこで『前作の』失敗を活かし、DMを使って暴言を吐くプレイヤーをふるいにかけて選別したのだ。
後は細かい戦闘データやプレイヤーの傾向を蓄積し、発売日までにそれを最大限に生かせるように各種『調整』する。それが、私と『天馬先輩』の、このチームでの役目だった。
二人であれこれイベントを考えてはそれを形にし、マップに振り分けていく毎日。先輩は特にキャラ設定に凝っていて、いつもデータ殘量一杯まで使ってキャラ作りをする。どうでも良い一般人にまでそれを行うので、いつもストレージはパンパン。
他の部署からも容量が大きすぎると苦をれられたりしていた。先輩の口癖は「良いゲーム作りは、良いキャラ作りにある」がモットーの人で、いつも誰かかしらかと衝突している。でもその姿勢にあこがれてこの部署に異してきたのに。『どうしてあんなこと』になったのだろう。殘念でたまらない。
「なんでこうなったのかしら・・」
誰も居ないブースで安堵したからか、結構大きめの獨り言が出てしまう。そこまで酔ってる訳ではないが、目を覚ます為にコーヒーをれに行く。マイタンブラーにブラックを満タンに注いで、蕗華は自分のデスクに戻る。
ふと、最後のプレイヤーが気になりステータスを表示させてみる。そこに現れたのは懐かしい名前だった。條件反的に心臓が高鳴る。
「この丸丸ってキャラ名、『先輩』がデバッグ用に使ってたやつ!先輩がログインしてるの!?」
他のキャラには丹込めて設定を力していたのに、自分の使うキャラは真っ白のまま。そのギャップが面白いくらいだった『何も設定されてない先輩』。それが、この、デバッグ専用キャラ『勇者〇〇』。後から何かキャラ名をれようとしておいて、忙しくて結局何もれてなかったわね。
「なんでこのキャラがアクティブに・・サーバーと直接繋がってる端末からしか作できないはず。どうなってるの?」
ログイン先が日本になっていた。そんな訳ない。それで理解した。これ、先輩の殘した『イタズラ』だ。一気に気が抜ける。期待していた結果と違うことに多がっかりはしたが。
「なんて人。この日のテストプレイのためにイタズラを仕込んでおいたのね。まるであたかも本のプレイヤーのように、『自分の影』を設置していった。・・・うん。やっぱりさっきからあんまりいてない。」
がっかりはしたけど、なぜかこれで踏ん切りは付いた。うん。もう終わろう。あと5分でテスト終了だけど、これで待つ必要が無くなった。先輩のキャラにカーソルをあわせデリートキーを・・・
押すのをためらった。このキャラを消してしまえば、先輩が築いた功績を全て否定する。そんなような気がした。
「・・・仕方のない人ね天馬先輩。こんなイタズラを仕込むなんて・・フフ。」
キャラにカーソルを合わせ、右クリックしメニューを表示する。管理者権限専用の、各種屬一覧の最初の項目を、PCから『NPC』に書き換えた。
「罰として、『居なくなったあなた』の代わりに、あなたのキャラはここに殘ってもらうわ、何も設定されないままにね。それじゃ、バイバイ。天馬先輩。」
その時ちょうど24時になり日付が変る。先輩の作ったキャラもPC屬が取り外されたので、名前がその他NPCと一緒の紫の表示になる。ログインカウンターが35000/0になり、やっと肩の荷が降りた気分だ。
「はぁ、う、うぅーーん!くっ!」
椅子に座ったまま両手をあげ、大きく背びをする。さて、私も帰ろう。
サーバールームにり、シャットダウンの作をしてから帰り支度を始める。その時、アイザック部長のデスクに置きっ放しの口の開いたシャンパンボトルが目にる。
「最後まで頑張ったの私だし、いいよね?持って帰って飲み直そっと!」
ボトルネックを摑んでそのまま一口ラッパ飲みする。こんな高いシャンパンをラッパ飲みしている事に背徳をじてしまう。
「ぷはー!おーいしー!!さーてかえるか!」
ブースの電気を消し、蕗華は職場を後にする。
後に殘ったのは、シャットダウン中を示す青い畫面の端末と、デスクに殘されている顔の塗りつぶされたIDだけだった。
END・・?
ひねくれ領主の幸福譚 性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】
【書籍第2巻が2022年8月25日にオーバーラップノベルス様より発売予定です!】 ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あの親のように卑劣で空虛な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め稱える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これは少し歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※カクヨム様にも掲載させていただいています
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