《NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?》第168話 sideB 旅人の帰郷
─遡る事、約1ヶ月前─
日除けのフードを目深に被り、軽めの荷を背負った旅人が、晝間の街道をただ一人歩いている。
「ふぅ…この時期は暑いな」
旅人は荷から飲み水を取り出すと、殘りないその中を思い切って全て飲み干した。
空になった保水バッグを丁寧に折り畳むと、再び荷に仕舞い込み、歩みを続ける。
トコトコトコ…
すると、旅人の後方から小さな荷馬車が現れる。中年の男が乗っていたが、旅人の橫を通り過ぎるとその荷馬車は足を止めた。
「兄さん、どこ行くんだい?乗って行きなよ」
中年の男は親切にも旅人に乗る事を勧めた。
だが…
「いえ、結構です。一人旅は慣れているので。」
あっさりとその好意を斷った。
「あんた、この辺に詳しく無いだろ?最近、モンスターみたいな見た目した、タチの悪い獣人族がこの辺りに出るってよ」
「獣人族?ですか??」
旅人はフードを取ると、向こうに見える森の方を訝しげに眺めた。
「悪い事は言わねぇ、乗ってきな。荷はなそうだが…それでも盜られちゃかなわないだろう?」
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「あはは、お心遣い謝します。ですが…」
旅人は、フードを取って顔を見せた。
「自分、そう言った者の類にも慣れてますので。」
「…….そうかい?それじゃ、先に行かせて貰うよ」
旅人が謝の意味を込めて深めの會釈をすると、荷馬車の男も軽く手を振り前へと馬を走らせる。
(そうか……もう、そこまで近付いていたんだな)
旅人は辺りを懐かしむ様に見渡す。軽く荷を背負い直すと、再びフードを被り歩き始める。
─ヤンド・マッカルエ
─実に8年振りの帰郷である─
カントーファ地方、コアントレイクの傍にある、コアント村。
自然溢れる地域であるこの辺りは、飛び地の如く小さな集落が點々と存在する。
その中でも唯一、孤児院が存在するのはこのコアント村だけであり、ヤンドはその孤児院で育った。
父の顔は覚えていない。母の顔はぼんやりと覚えている。聞いた話では、ヤンドの両親は生活に苦しくなり、泣く泣くヤンドを手放して孤児院に引き取って貰った後、消息を斷った。その頃は伝染病が流行していたらしく、母は既に働けない狀態だったと言う。その後投げした、らしいとだけ聞かされていた。
コアントレイクは一応、湖の名前がついて居るものの、ハッキリ言ってしまえば大きな沼地と言っても過言ではない。地形的にの気が溜まりやすいらしく、昔から自殺の名所として地元民以外はあまり近寄らない。沼の水は濁っており、飲み水には適していないので周辺の集落は水の確保に苦労していた。
そんな場所ではあるものの、ヤンドの故郷には変わりなかった。コアント村ではヤンドの様に預けられた孤児達が、自給自足の生活を互いに補っている。狹い世界での慎ましい生活を送っていた。
そんなコアント村でも、今日は一際の賑わいを見せていた。
人を迎えて、冒険者として旅立った青年、ヤンドが8年振りに帰って來たからだ。
中にはヤンドの事を知らない孤児も居る。ヤンドが旅立った時に赤子だった子供達も、もうすっかり立派な年へと長していた。
ヤンドは子供達に取り囲まれ、次々に思い出話や土産をねだられていた。
「いやいや、ちょっと待ってよ、ははは」
「ねーヤンド兄ちゃん!俺達には?」
「お兄ちゃん、何処に住んでたの?」
「兄貴が居なくなってから、向こうに新しい家畜小屋作ったんだぞ!見てくれよ!」
10人程に囲まれて、次から次へと違う容を話し掛けられる。
「ねぇ、院長さんは?」
「お父さん?狩りに行ったよ!」
「ちげーよ!井戸の所だよ」
「行商人が來るかもって言ってたから、そっちに行ったんじゃない?」
ヤンドが質問しても、い子供達からはまともな報を聞き出せなかった。
「あなた達!いい加減にしなさい!ヤンド兄さんが困っているでしょ!」
の大きな聲が後ろから聴こえると、子供達は一斉にそれぞれ走って逃げた。
懐かしく、そして…院長よりも先に會いたくない人が、ヤンドの後ろから近付いてくる。
「や、やぁ。アスカ。久しぶり、帰って來たよ。」
意を決して振り返り、8年振りにその顔を見た。
アスカ・マッカルエ……ヤンドの妹である。
「……………ヤンド、さん。ヤンド兄さん」
アスカは…ただ懐かしい、と言った表ではなく、複雑な思いを悩ませている、と言った顔付きだった。
8年の年月が、2人の距離を素直にけれられないへと変えてしまった。
もちろん、彼とは本當にの繋がった兄弟姉妹では無い。ヤンドが育ったこのコアント村孤児院では、同じ年に預けられた孤児達を『兄弟』として、同じ苗字を與えていた。孤児院と言っても大きな建がある訳ではなく、空き家や古い建を改築し、それぞれの兄弟姉妹がひとつの家で過ごす。そして、この孤児院を管理しているのが……
「おぉ!帰ってきたのか!!」
釣竿と魚びくを肩から下げた初老の男が、嬉しそうにこちらに近付いてくる。森の中で生活しているせいか、歳の割には型がガッチリしていて、ヤンドと同じくらいに背が高い。ただ、頭や髭はすっかりと白くなっていた。
「ただいま…院長、いや、父さん」
「おかえり、我が自慢の息子」
2人は抱き合った。そして、その姿を見てから…
何故かアスカは、自分の家に帰って行った。
第168話 END
不老不死とは私のことです
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