《ノアの弱小PMC—アナログ元年兵がハイテク都市の最兇生兵と働いたら》第3節6部—ステイシス參列—
雛樹が耳につけていたインカムから、呼び出し音が鳴った。葉月からの連絡だろう。銃は突きつけたまま、男を押さえていた右手を離してインカムの通信ボタンを押そうとした。
が、その行に慣れていないためか、視線が一瞬男を離れ、インカムの方へ流れる。
普通なら見逃すような、一瞬の隙。
《遅い! おっ死んだかと思ったじゃないこの馬鹿!》
「悪い。問題なく制圧し、よくわからない機械も破壊……」
《機械? 違うわ、そこにあった機はクラッキングには関係ないの!》
だが、その隙を探していたバラクラバの男にとってはその一瞬で問題なかった。きを悟られないよう、潛めた右手の最小限のきで腰に差していたハンドガンを抜き、雛樹へ向け——……発砲。
「ぐぅあッ……!!」
だが、悲痛な聲をあげたのは雛樹ではなかった。男のきに気づいた雛樹はハンドガンを摑んだ彼の手を撃ち抜いたのだ。
床に転がったハンドガンを右足の側面で蹴り、屆かない場所までらせた。
《何!? どうしたの!?》
「問題ない、それよりあの機はなんだったんだ?」
右手から多量のを流しながら、肩で呼吸する男。彼から目をそらすことなく、雛樹は話の続きを求めた。
《ひどい怪我だけはしないでよ……? まったく》
葉月は一度咳払いをすると、急ぎ気味に続きを話す。
《あの信機はある場所からのアクセス狀況を取得するものだったわ。それを見て、クラッキングをある程度サポートしていたはずよ》
「ああ、小さなラップトップがあった。それでか……」
《いい、よく聞いて。不正アクセスの大元を逆探知できたわ。アクセス元はそこじゃないの……センチュリオンノア近海、海の中からよ!》
「海中……!?」
……——。
企業連本部、パレードへの參列口は大いに湧いていた。これから海上都市の最高戦力。ステイシスがお披目となるからだ。
先頭を切って出てきたのは、護衛の二腳機甲エグゾスケルトンソルジャー。企業連直屬の正規軍のエンブレムが肩部に輝く、見るからに禍々しい黒と灰が混じる迷彩ペイントが施された外裝。
海上都市最後の砦、企業連正規軍の一線級二腳機甲部隊による護衛。
機能を停止させているゴアグレアデトネーターと、薬品で眠らせたステイシス=アルマをパレードに參列させるために必要なのだ。
不明な特殊金屬製スフィアにれられたステイシスの姿は見えないが、主に戦闘を行う機がステイシスとして見られ、集まった人だかりは皆一様に口にしていた。
方舟の守り神、と。
《こちらゴフェル3。ステイシス、無事パレードへ牽引完了しました》
《ゴフェル1了解、そのまま進め。……大盛況だな。流石は方舟の守り神様だ》
《破壊神の間違いでしょう……。結果的に方舟へ被害が及んでいないだけで》
《そう言うな。民衆にとっては必要な存在だ。こうして、存在を表沙汰にするだけで彼らの企業連に対する信頼は盤石のものとなるほどにな》
《そうですかね……私はどうも……。いえ、失言でした。ゴフェル2、こちらゴフェル3。サイドはどうだ? ……ゴフェル2、応答してくれ、聞こえてるんだろう?》
二腳機甲、フォネティックコード、ゴフェル。その2番が通信に全くでない。回線が閉じているわけではない。聞こえているはずなのだが……。
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