《ノアの弱小PMC—アナログ元年兵がハイテク都市の最兇生と働いたら》第5節—遊ぼう、ヘンタイさん—

潛水艦の艦全域に響き渡るけたたましいサイレンと放送を聞きながら、防護服を著た何者かが、まだ寢ているステイシスを抱きかかえて走っている。

狹い艦、どこに何があるのかもわからないが……通信機から聞こえてくるオペレーターの言葉を頼りに走っていた。

《次の角を右に曲がりなさい!》

「はぁっ……、暑っ……この服めちゃくちゃ暑い……」

《そんなこと言ってる場合じゃないでしょう、我慢しなさい!》

頭まで全て特殊な服で覆われた雛樹は、その中の暑さにやられながらも走っていた。抱き上げている褐の彼はとんでもなく軽い。運ぶのは楽なのだが、この暑さと息苦しさはどうにもならない。

《そこの扉から中へって!》

防水壁が自で開き、さらに暑い部屋の中へって足を止めた。息を切らせながら、辺りを見回すとこの暑さにも納得する景が広がっている。

巨大なコンピューターが広い部屋に所狹しと配置されているのだ。このコンピューターを使用して、方舟の兵に不正アクセスをしていたようだが……。

「すごいな……。この數の量子コンピューターを本土がそろえたのか?」

《それを全て破壊できる?》

「破壊か……。この機全て、結構頑丈な強化ガラスで守られてるみたいだ。薬や銃でもあればどうにかできたけどな。ガバメントの弾倉も殘りないし……ライフルはセントラルストリートに置きっぱなしだ」

《なら一時停止に追い込むことだけ考えましょう。そこのコンピューターを停止させて格納庫にある正規軍の機を奪い返し、出するしかないわ。水深が深すぎてそのままじゃ出れないでしょうから》

「そうだな。グレアノイド変換もこれ以上使えば……」

《グレアノイド変換?》

「いや、気にしないでくれ」

火力のある得なしでこの施設をどうにかすることは難しい。例えあったとしても、薬でもない限りビクともしないだろう。

しかし、これをどうにかしないことには出の鍵である、潛水艦格納庫の機、そのコントロールキーを奪い返せない。

敵も追ってきている。時間がない……さて、どうするか。しばかり考え込んだところで、抱き上げていたステイシスの口から小さなうめき聲が……。

「ん……暑い……。なァに、お父様、お祭りは終わっ……」

と、言っていたところで防護服の男と目が合った。防護マスクで覆われてしまっている雛樹の顔は見えず、場所の不自然さと相まって、異常事態だということはすぐに把握したらしく……。

「ふあ……、ん。なぁに? アルマ、拐されたのかしらァ? 下ろしなさいよォ、ヘンタイさぁん」

「あ、ごめんなさい」

目が覚めた褐は、雛樹から降ろされてぺたんと床に素足をつけた。

「はぁい、じゃあお別れねぇ……?」

「……!!」

そのはあろうことか、降ろした直後間髪れず、刺すような蹴りを見舞ってきた。

かろうじてをずらして避けたが……、そのの足は、後ろにあった強化ガラスをぶち抜いて量子コンピューターへめり込んでしまっていた。

薬でどうにか……と考えていたことすら吹っ飛ぶ、量子コンピュータへの徒手空拳でのダメージ。

「へぇぇ……よくかわせたねぇ? くふ、くひひひ。なぁに? あなた、遊べる人ぉ?」

そういって、褐は悅びに満ちた歪んだ笑みを見せてきた。

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