敵に紛れ込むため奪ったグレアノイド防護服が裏目に出たようだ。面識があるはずのステイシスが、自分ひなきのことをわかっていない。それどころか、殺そうとしてくる始末。

前回會った時に、自分の気配をじていたと言っていたが、気配がわかるなら顔を見ないでもわかるはずだ。

しかし、ステイシスは自分を敵と認識し、ミサイルクラスの威力を持つ蹴りと手刀を繰り出してきた。

「あはぁ……、ゴミ屑のわりに避ける避けるぅ。たぁのし」

雛樹は息を切らせ、冷や汗を全に流させながら赤い右目を見開いてステイシスのきを追う。

この右目は普通の人間のものより視力が格段にいい。とんでもなく早い彼のきもギリギリのところで捉えられるが……、首の皮一枚繋がっている程度だ。反撃などできたものではない。

視界から彼の姿が一度消えた。この目を持ってしても追いきれなかった。しかし、戦闘の経験をいくつも積んできたからこそわかる、危機察知能力が警告を発し、顔を頭上に向けた。

跳躍し反転。天井に足をつけ、曲げたステイシスは勢いをつけて直降。突き刺すような蹴りを雛樹の頭へ叩きこもうとしてきた。

「——……ひィ！」

間一髪、足を引いてその飛び蹴りを避けたが、けない悲鳴が口かられ出た。

凄まじい一撃だ。回避できていなかったら頭から間まで一直線に裂かれていただろう。

「ふぅん、これも避けるのねぇ……アナタ。ああ、ああ……ダメよぉ……とても楽しくなってきちゃったぁ……。くひっ、止められなくなる前にやめ、ヤメないとぉ……」

首を不自然に傾げて恍惚な表を浮かべたステイシスが、金屬の床に刺さった己の足を引き抜きながら、こちらに向けてその歪んだ表を見せてきた。

狂気とも取れる彼のに當てられ、雛樹は背筋を凍らせた。

防護服をげばわかるだろうが、この防護服をぐには時間がかかってしまう。ステイシスを前にして、悠長にいでいる暇は無い。

「ねぇ……ねぇえ、これは？　これはどうかしらァ？」

ゆらりと前傾姿勢になったステイシスの、両手の指先に赤いが燈り……びた。

１０本に及ぶ、グレアノイドの爪をばしたのだ。

その爪はさほど長くないが燻っているように見える。見た目通りのリーチではないと察した雛樹は量子コンピューターの群れの中へ逃げ込んだ。

「追いかけるのめんどくさぁい。ぜぇんぶまとめて壊してあげるわぁ」

ステイシスはその兇悪なまでの力を持って、両腕を鞭のようにしならせ振った。

燻っていたグレアノイドの爪は、そ振る力に合わせてワイヤーのようにび、広範囲にわたって十本の赤く細い殘を殘す。

そのは、量子コンピューター、その全てを豆腐のように切り刻み、この部屋の壁も共に切斷した。

できるだけ距離を取り、伏せた雛樹の頭上を通ったそのの刃を目の當たりして、雛樹は震いした。

恐ろしいことに、この攻撃さえも彼は遊び半分で繰り出しているのだ。本気で狙いをつけてきていれば死んでいた。

斬られて崩れてきた強化ガラスの破片と、量子コンピューターだった金屬塊が伏せている上にのしかかってきて下敷きにされる。

先ほどまで見渡す限り機械が立っていたこの部屋の見通しが隨分と良くなった。

「あっはぁ、生きてるぅ？　それにしても隨分長く遊べたオモチャだったわねぇ」