《クリフエッジシリーズ第一部:「士候補生コリングウッド」》第四話
デイジー27號が沈められてから、八時間が過ぎた。四時間後には第二星のにり、減速と再加速を行うが、今のところ敵艦の向を追うだけで、特にすることが無い。
クリフォード・C・コリングウッド候補生はCICの航法士席に座り、艦長が示した行方針について考えていた。
艦長の示した方針は自分が艦長室で話した意見をもとにしており、欺瞞行を取った後、かに小星帯に戻り、敵の拠點ベースを探すと言うものだった。
艦長の考えでは、いくら長期間活できる通商破壊艦とはいえ、ゾンファ共和國を出発したのであれば、母港を出発して既に三ヶ月以上経ち、補給と整備のためベースに戻るだろうと言うものだった。
ベースの建設がいつから行われたのかは判らないが、力源パワープラントと工作機械を持ち込んだと思われる商船リバプールワンの消息が途絶えてから、まだ二ヶ月も経っていない。これらを設置し、運用し始めたのは最近のことだと思われる。
一方、ここトリビューン星系からキャメロット星系に行き、再び戻ってくるには単純に往復するだけで二十六日、キャメロットでの報告、部隊の編などを考えれば、一ヶ月以上掛かることは確実だ。
ブルーベルがここに殘り、通過する商船に報を託すと言う選択肢も無いわけではないが、三隻の商船が行方不明になっているため、アルビオン側からの商船の出港は見合わせられており、恐らくヤシマ側でも同様の処置がなされているはずだ。
結局、確実に報を持ち帰るためにはブルーベルが行かざるを得ない。
それならば、この一ヶ月と言う期間をチャンスと考え、通商破壊艦の補給と整備に回すため、ベースにる可能は高い。
幸い、通商破壊艦の位置はまだ把握できている。
小星帯と通商破壊艦の優秀なステルス機能のため、時々足跡が途切れるが、一度把握している四百メートル級の大型艦はパッシブセンサー類でも容易に追跡できる。
こちらは三時離れた第二星ので減速・再加速した後、0.05速という比較的低速で星系を進んでいく。
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デイジー27が沈められ、ブルーベルが逃げ出したと思わせた時から、三日くらい掛けて、ゆっくりと接近していくじになる。
この三日間を使って、ベースの位置の特定、潛部隊の作戦の立案、シミュレータでのリハーサルなどを行う予定になっている。
(しかし判らないのはゾンファの思だな。艦長たちの前では実効支配の可能と言ったけど、ゾンファの支配星系からは飛び地になっている。そんなところで実効支配と言ってもわが國アルビオンはともかく、ヤシマと連合から非難され、結局放棄することになるんじゃないのか?)
彼はゾンファの思が判らず、この作戦が正しいのか判斷に苦しんでいた。
(艦長はもっと悩んだんだろうな。ゾンファとは休戦しているとは言え、自分の決斷が戦爭の引き金になるかもしれないんだから)
彼は自分が同じ立場になったら、こんな決斷が下せるのかと考えてしまう。
(まあ、自分がその立場になれるかも判らないのに悩んでも仕方ないな。それよりゾンファの目的の方を考えよう。今なら時間もあるし、大尉に相談してみようか……でも、この前のこともあるし……)
彼が悩んでいると、デンゼル大尉が気付き、「どうした? 何か思いついたことでもあるのか?」と尋ねてきた。
彼は恐る恐る「しよろしいでしょうか」と指揮席に座るデンゼル大尉に話しかけた。
デンゼル大尉が頷くのを見て、「ゾンファの思についてなのですが、どうしても引っ掛かるのです」と話し始める。
「この前はこのトリビューン星系の実効支配と言いましたが、飛び地になるこの星系の実効支配を目論む可能は低いと思います。何か別の思では無いかと……」
デンゼル大尉は「続けろ」と言って、先を促す。
「はい、大尉アイ・アイ・サー。気になる點として、デイジーだけを攻撃しただけで、なぜ我々には手を出さなかったかという點です。あのタイミングなら、デイジーに神戸丸へ接近させ、我々が支援のため小星帯にってから攻撃を仕掛ければ、二隻とも沈めることができたかもしれません」
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彼は思っていた疑問點を吐き出していく。
それに対し、大尉は、「艦長が一番気にしたのはその點だよ」と頷いた。
彼は自分が指揮の考えを聞いてもいいのかと思ったが、大尉の表を伺いながら、「艦長のお考えを伺ってもよろしいでしょうか?」と尋ねる。
大尉は彼の葛藤に気付かず、士候補生ではなく、同僚に話すようなじで話し始めた。
「ああ、艦長はあえて我々を逃がしたのではないかと考えておられる。我々を逃がしてキャメロットに通報させることにどんな意味があるのかは判らないが、最初から一隻を逃がすつもりだったと」
彼も同じ疑問を持っているため、「もし、キャメロットに報告に行ったら、その後はどうなったのでしょうか?」と軍が取り得る方策について大尉に確認してみた。
大尉もその點は考えていたのか、すぐに答えが返ってくる。
「四百メートル級の通商破壊艦か私掠船に対するには四等級艦(重巡航艦)以上を派遣するのは間違いないだろうな。萬全を期すために十隻程度の小戦隊を編する可能もあるな……」
彼はその言葉を聞き、「十隻ですか……。中立星系に戦隊を派遣させることが目的だとすれば……」と呟いた後、「大尉、こうは考えられないでしょうか」と思いついた推論を話していく。
「中立星系に戦隊を派遣する場合、ヤシマと自由星系國家連合の了解が必要になります。もし、了解なしに進すれば國際的な非難をけるのではないでしょうか」
デンゼルは頷き、更に先を促す。
「連合と我が國の関係は対ゾンファという點で一致しているに過ぎません。連合にしてみれば、対アルビオンと言う點でゾンファと合意しても自分たちに被害が出なければ、アルビオンとゾンファが噛み合いを流すのは好都合と考えるのではないでしょうか」
デンゼルはその可能に驚き、「すると、君は連合がアルビオンとの関係を捨てて、ゾンファと結ぶこともあり得ると考えるわけだな。うーん、ゾンファが油斷ならない野心丸出しの國だと知っていてもそうする可能があると」と、ありえないだろうという顔で彼を見る。
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「いいえ、大尉ノーサー。あくまでゾンファがそう考えるのではないかと言うことです。連合、特にヤシマはゾンファの圧力に辟易していますから、々のことではゾンファになびくことは無いでしょう。ですが、ヤシマ以外の連合各國はアルビオンとゾンファが勝手に戦ってくれるなら、火に油を注ぐのではないでしょうか」
デンゼル大尉は「なるほどな。よく考えたものだ」と想を述べた後、
「もう一點ありそうだな。キャメロットとゾンファのジュンツェン星系の間は中立星系を経由するこのスパルタン星系ルートと直接ぶつかるアテナ星系ルートがある。アテナルートは防備が充実しているが、スパルタンルートはヤシマとの関係からスパルタンにすら基地はない。もし、ヤシマがゾンファに対しスパルタンルートを使うことを承認すれば、我々は二つのルートからの侵攻を考えなければならなくなる」
クリフォードは頷き、「アルビオン星系に直接侵攻した10年前のゴグマゴグ會戦の例もあります。敵は我が軍を分散させることに功したと習いました」と付け加える。
ゴグマゴグ會戦とは、約十年前のSE四五〇一年に発生した有名な會戦で、アルビオン側にとっては歴史的な勝利に終わった戦いである。
概要は、SE四五〇一年、停戦協定を一方的に破ったゾンファ軍がアルビオン王國の主星系であるアルビオン星系に奇襲を掛けてきた。
後に第三次アルビオン-ゾンファ戦爭と呼ばれる戦爭の開始を告げる奇襲作戦であったが、このとき、アルビオン王國は建國以來、初めて存亡の危機に立たされた。
第二次アルビオン-ゾンファ戦爭までは、ゾンファ共和國に近いキャメロット星系のみで戦闘が行われ、アルビオン星系は戦爭の間も平和をしていた。
だが、このとき、約五十パーセク(約百六十三年)離れたジュンツェン星系から、ゾンファ軍は直接アルビオン星系に侵攻してきた。
それまでの軍事理論では補給拠點の無い星系を渡ってくる侵攻作戦では約三十パーセク(約百年)が限界とされていた。
更にジュンツェン星系からの侵攻ラインであるバルベルデ星系側は、隣接する星系の間が八パーセク(約二十六年)と大きく離れたところが二箇所あり、艦隊隨伴型の輸送艦の超速航行ドライブFTLDの能力である六パーセク(二十年)を大きく超えていた。
このため、哨戒艦は配備されていたものの、バルベルデ側には艦隊と呼べる戦力が配備されていなかった。
ゾンファ軍は長距離侵攻用輸送艦を極裏に配備し、主力艦隊三萬隻で奇襲を掛けてきた。
當時、アルビオン星系には全軍の一割、約一萬隻の戦力しかなく、第五星ゴグマゴグの軌道まで侵攻を許してしまった。
一方、ゾンファ軍の方も補給の関係で余裕が無く、短期決戦を目指して強引に攻勢をかけていた。
當時のアルビオン軍の責任者は齢七十歳を超える老將ビーチャム大將であったが、彼は老練な手腕を見せ、敵をゴグマゴグの衛星スプリガンに釘付けにすることに功する。
更に補給線を斷ち切るため、大膽にも保有戦力の三十%に當たる三千隻をバルベルデ星系側のジャンプポイントJPに配置した。
ゾンファ側はこれを各個撃破のチャンスと考え、主力戦闘艦二萬五千隻を第四星タイタニア付近に進めて決戦を挑むが、エネルギー不足のため、満足な機ができず、三分の一以下の七千隻アルビオン軍に翻弄されていく。
一方、バルベルデ星系行JPに配備された三千隻はスプリガン付近に待機する輸送艦隊を急襲した。
生命線である輸送艦を失うわけに行かないゾンファ軍は急遽ゴグマゴグに転進するが、満足な艦隊運もできず、七千隻のアルビオン本隊と三千隻の別働隊による挾撃をけ、三萬隻のゾンファ侵攻部隊は壊滅した。
ゴグマゴグに落下した艦を含め、全損一萬隻、投降二萬隻、逃亡できた艦は僅か二十數隻に過ぎず、ゾンファ軍は全戦力の三十%を失った。一方、アルビオン軍も窮鼠と化したゾンファ軍の反撃をけ、司令ビーチャム大將(戦死後元帥に昇進)の戦死を含む、四千隻が沈められ、殘りの六千隻の九十五%が何らかの損傷を負っていた。
これがゴグマゴグ會戦又はゴグマゴグ殲滅戦と呼ばれるアルビオン軍の歴史の中でも最も偉大な勝利をもたらした會戦であった。
そんな中、大勝利にも拘らず、アルビオン軍および政府首脳はこの事態に憂慮していた。
安全だと思われたアルビオン星系が無理をしたとは言え、主力艦隊による奇襲が行われた事実に防衛方針の転換を迫られたのだった。
この後、アルビオン星系の防衛制が強化され、その影響でキャメロット星系の防衛部隊が小される結果となった。
ゾンファは、侵攻自は失敗したものの、キャメロット星系の戦力を低下させるという戦略上の目的は達していた。
そして、アルビオン王國は、その後の第三次アルビオン-ゾンファ戦爭の全期間において、キャメロット方面の戦力不足に悩まされることになる。
クリフォードが指摘した戦力の分散の話はこの話を指す。
デンゼルはキャメロット星系を思い浮かべながら、第三星ランスロットと第四星ガウェインの軌道を回る要塞の存在を思い出すが、アテナ星系からとスパルタン星系からの二方向を防備することは戦力の分散を招くか、キャメロットに引き込む作戦しか取れなくなることから、アルビオン軍に選択の幅が小さくなると考えていた。
デンゼルは笑いながら、「相変わらずゾンファのやることは質たちが悪い。まだ、ゾンファの仕業という証拠は無いがね」と言うと、クリフォードも「そうですね。確かにゾンファが仕掛けたと言う証拠はないのですが……」と笑って返した。
デンゼルがCICにいる部下たちの視線に気付き、コホンと咳払いをした後、「コリングウッド候補生。実習のため、潛作戦案の作を命じたが、その後の検討狀況を報告してもらおうか」とし真剣な表で話し始めた。
彼は「申し訳ありません。まだ、敵のベースが特定できていませんので、作戦案は作しておりません」と答えた。
「いや、それならいい。だが、素案くらいは考えてあるんだろ?」
デンゼルのその問いに「はい、大尉イェッサー。ブルーベルによる攻撃を囮にしてベースに潛させる隙を作るのが良いのではと思っています」
デンゼルはスクリーンをチェックしながら、「詳しく話してくれ」と先を促すと、クリフォードは考えを話し始めた。
彼の考えた案は、敵のベースが発見できれば、ブルーベルでかに接近し、小星のなどから搭載艇であるアウルを発進させる。
ブルーベルは敵のベースに遠距離からカロネードで攻撃を掛ける。カロネードは金屬製の散弾をリニアコイルで加速させる質量兵だが、遠距離から攻撃すると広範囲に広がる特があり、防スクリーンの外縁を狙って反復攻撃を掛ければスクリーン外にあるセンサー類を破壊できる可能が高い。
更にベースの中にいる敵艦はブルーベルが攻撃している間は不用意に外に出られない。出るためにはスクリーンを開く必要があるが、間斷なく攻撃を掛けている最中、スクリーンを開けば、ベースに被害が出るだけでなく、満足にスクリーンを展開できない敵艦にも被害が出るからだ。
このような攻撃は敵の焦りをえることと、こちらの意図を悟らせないことができる。
この隙にアウルはセンサー類が最も破壊されているであろう地域を目指し、接近する。
最終的にはアウルをどこかに隠し、小星の表面を人員だけで接近していくことになるだろう。急造ベースに対人用のセンサー類が大量に配備できるとは思えないので、この方法が最も功率が高い。
「ここから先は技兵の分野になりますから、機関長チーフや掌砲長ガナー、掌帆長ボースンなどに提案してもらったほうがいいかもしれません」
彼は潛時のセキュリティの無効化や潛後の敵ベースでの攻撃目標などは技兵プロの意見を聞くべきだと付け加える。
「どうせ、こちらの姿が見えなくなるまで、敵はベースにらないだろうから、まだ時間はある。潛作戦の立案もあるが、接近ルートの設定と航法計算をしておくように」
大尉はそう言うと話を打ち切り、クリフォードも航法士席に戻り、第二星から小星帯への航法計算に沒頭することになった。
エルマー・マイヤーズ艦長は艦長室で副長のアナベラ・グレシャム大尉と通商破壊艦への対応について協議していた。
艦長は「まずは君の意見を聞きたい」とグレシャム大尉に話を振る。
彼は、「不確定要素が多過ぎますね。敵の思はともかく、戦力があの一隻だけだとは限らないのではないでしょうか?」とまず報が足らないことを指摘する。
「判っている。だが、なくとも神戸丸は排除しなければならない……そのためにすべきことを考えたいと思っている」
彼は「了解です。艦長アイ・サー」と答えた後、安全な策と斷った上で話し始めた。
「まず、第二星TR2ので反転してからは索敵に専念すること。敵のベースがあるとして、その位置を特定できなければ作戦自が立しませんから」と述べた後、「敵のベース位置が判明し、神戸丸がそこにった場合ですが、ベースの外から攻撃を加えることが一番危険のない方法ですね」
彼は消極策過ぎると思い、「だが、それでは神戸丸は沈められないんじゃないか」と疑問を呈した。
それに対し、「そうですね。ベースに設置されたリアクターがリバプールワンの申請通りだったとしても、ベース自の大きさにもよりますが、防スクリーンの能力は我が艦の主砲の能力を超えます。ですから、ベース及び神戸丸にダメージを與えることは無理でしょう」とあっさり認めた。
その上で「我々に小星自を破壊できる兵があれば問題ないのですが、ブルーベルの兵裝では粒子加速砲とカロネードしかないですから、巖塊である小星に攻撃を掛けるのは嫌がらせ以外の何でも無いです。運良く我慢比べに負けて蔵から出てきてくれればの字と言ったところでしょう」と暗にこの作戦が無謀であることを告げる。
更に「蔵から出てくるまで、この辺りに潛み、スクリーンが開かれる瞬間を狙うという方法もありますが、さすがに何日もベースの近くに潛めば、敵も我々を発見できるでしょう。発見されにくい遠距離ではスクリーンの開閉時に有効な攻撃を掛けられないでしょうから、結局、この案も無理があります」と言った後、「考えられるのはこのくらいですが」と付け加える。
「確かにアナベラの言うとおりだが、候補生の言ではないが、我々がここを離れるわけには行かない。やはり、潛作戦しかないのか……」
それに対し、「潛作戦は更に下策だと思いますよ」と辛らつな言葉で否定する。
そして、「そもそも潛作戦と言っても強襲に近いわけですから、元から功率が低い作戦です。それにこの艦には宙兵隊――宙兵隊。それは海兵隊マリーンズの流れを汲む軍艦に乗組む陸戦隊。無重力、低重力下での作戦が信條としており、敵基地への強襲、敵艦の拿捕などの任務をこなす戦闘集団である――が乗り組んでいません。宙兵隊なしの強襲作戦など失敗すれば艦長の経歴に傷がつきます」と続けた。
マイヤーズ艦長は「私の経歴などどうでもいいが、確かに宙兵隊なしでは損害が大きすぎるかもしれないな。にり込んだ狡賢い狐を追い出す方法が思い浮かばない……」と普段は見せない落膽した表を見せる。
そして、「心を攻める…・・・か」と呟いた。
「”心を攻める”ですか? それはどう言ったことでしょう?」
「ああ、コリングウッド候補生の実習で作した作戦案にあった言葉だよ。相手の焦り、油斷、思い込みをい、こちらの思い通りに相手を導させるため、相手の最も嫌がること、実害は無くても嫌がればいいそうだが、それを行うか、相手が最もしてしいと思っていることを行うことで相手を導することを言うそうだ」
彼は片方の眉を上げ、「ぼう、いえ、ミスター・コリングウッドですか……。彼の考えは確かに理屈通りですが、経験が皆無です。あまり気にし過ぎると思わぬ落としに嵌るかも知れません」と注意を促す。
彼はバツが悪そうに頭を掻きながら、「そうだな。顔を見て話せばその通りだと思うんだが、彼の作戦案を見るとベテランの將が書いたようにしか見えないんだ」と言った後、「君にも彼の”実習”結果を送るよ。一度見てみるといい」と言って、攜帯報端末《PDA》を作し始めた。
彼は送られてきた報を見始めると思わず口に出して読んでしまった。
「……本作戦案で最も重要な點は敵の心を攻めることである。すなわち、敵の目的を察し、敵の最も忌避するであろう行、あるいは最もましい行を取ることにより、彼らの思考を制限することが肝要である……敵の企図するところはわが國への侵攻とその功であるが、本星系での作戦がその企図するところに合致していると考えるのは早計かも知れない……敵がゾンファ共和國であると仮定すると、かの國の権力構造は複數の派閥による複雑な政治力學によって形作られているため、國としての企図と権力者の企図が常に一致するとは限らない……この作戦自が派閥の力関係により企畫されたものであるなら……現地責任者は中央の権力者が求めている以上の結果を出そうと、自らの能力以上の行を取る可能は否定できない……現地指揮の思に沿ったように見せ掛け……」
彼はその全文を五分ほどで読みきると、「これは……」と言葉を失くしてしまった。
彼は笑顔で「どう思った?」と尋ねてきた。
彼は首を橫に振り、すぐに言葉が出てこなかった。そして、「これがあの航法計算で四苦八苦している坊やの案ですか? 私にはこんな作戦案は考えられません……」と再び言葉を失った。
「それを読む限りは我々にもチャンスはあるように見える。確かに彼は経験不足、いや、経験は皆無だが、そこは我々が考えればいい。私はそれに賭けてみようかと思っているんだ……」
彼は「副長としては艦長の命令に従いますが、指揮の考えに対案を示すのも副長の責務と考えております。ですから、私はまだこのプランに対し、納得できているとは申しません」と言った後、「ブランドンが彼をかわいがるのも判る気がします」と微笑みながらそう言って立ち上がる。
「そうだな。まだ、敵の規模、位置が判明していない。もうし報を集めてから、相談することにしよう。だが、副長ナンバーワン。君までミスター・コリングウッドを甘やかすなよ。それから、航法長マスターが甘やかすようなら、彼にも一言釘を刺しておいてくれ」と言って、立ち上がった。
彼も立ち上がり、「了解しました、艦長アイ・アイ・サー。ブランドンには一度釘を刺しておきます」と言った後、敬禮してから艦長室を出て行った。
- 連載中646 章
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記憶を失った青年『レイラ』が目を覚ました世界は、 命を創造し、恒星間航行を可能とした舊人類が滅んだ世界だった。 荒廃し廃墟に埋もれた橫浜で、失われた記憶の手掛かりを探すレイラは、 人工知能の相棒『カグヤ』と共に、殘虐な略奪者がのさばり、 異形の生物が徘徊する廃墟の街に身を投じることになる。 【いずみノベルズ】様より 【不死の子供たち③ ─混沌─ 】が販売中です。 公式サイト https://izuminovels.jp/isbn-9784295600602/ 【注意】感想欄では、物語や登場人物に関する重要な要素について語られています。 感想欄を確認する際には注意してください。 サイドストーリー中心の『ポストアポカリプスな日常』も投稿しています。 ※カクヨム様でも連載しています。
8 93 - 連載中41 章
【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表情令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺愛してくるのですが!?〜
★書籍化★コミカライズ★決定しました! ありがとうございます! 「セリス、お前との婚約を破棄したい。その冷たい目に耐えられないんだ」 『絶対記憶能力』を持つセリスは昔から表情が乏しいせいで、美しいアイスブルーの瞳は冷たく見られがちだった。 そんな伯爵令嬢セリス・シュトラールは、ある日婚約者のギルバートに婚約の破棄を告げられる。挙句、義妹のアーチェスを新たな婚約者として迎え入れるという。 その結果、體裁が悪いからとセリスは実家の伯爵家を追い出され、第四騎士団──通稱『騎士団の墓場』の寄宿舎で下働きをすることになった。 第四騎士団は他の騎士団で問題を起こしたものの集まりで、その中でも騎士団長ジェド・ジルベスターは『冷酷殘忍』だと有名らしいのだが。 「私は自分の目で見たものしか信じませんわ」 ──セリスは偏見を持たない女性だった。 だというのに、ギルバートの思惑により、セリスは悪い噂を流されてしまう。しかし騎士団長のジェドも『自分の目で見たものしか信じない質』らしく……? そんな二人が惹かれ合うのは必然で、ジェドが天然たらしと世話好きを発動して、セリスを貓可愛がりするのが日常化し──。 「照れてるのか? 可愛い奴」「!?」 「ほら、あーんしてやるから口開けな」「……っ!?」 団員ともすぐに打ち明け、楽しい日々を過ごすセリス。時折記憶力が良過ぎることを指摘されながらも、數少ない特技だとあっけらかんに言うが、それは類稀なる才能だった。 一方で婚約破棄をしたギルバートのアーチェスへの態度は、どんどん冷たくなっていき……? 無表情だが心優しいセリスを、天然たらしの世話好きの騎士団長──ジェドがとろとろと甘やかしていく溺愛の物語である。 ◇◇◇ 短編は日間総合ランキング1位 連載版は日間総合ランキング3位 ありがとうございます! 短編版は六話の途中辺りまでになりますが、それまでも加筆がありますので、良ければ冒頭からお読みください。 ※爵位に関して作品獨自のものがあります。ご都合主義もありますのでゆるい気持ちでご覧ください。 ザマァありますが、基本は甘々だったりほのぼのです。 ★レーベル様や発売日に関しては開示許可がで次第ご報告させていただきます。
8 62 - 連載中30 章
Fog HOTEL
運命のように迷いついた先のホテルは普通のホテルではなかった。 そこに居た従業員には大きな秘密があったのだ。 だが、誰がそのホテルに私を導いたのか 私の運命を左右するホテルでの出來事は誰が導いているのか。 謎と恐怖の先にあるものを手にした時に人はどうなるのだろか? どうぞ心の準備が出來ましたら、ページを進めて下さいませ。 恐怖と人々の思いが絡まったラビリンスから出れますことを願っております。 主な登場人物 ~Fog HOTELの従業員~ 優 ジェネラルマネージャー リーダー的存在 戦略を立てるのが好き。 恵吾 シェフ 副リーダー的存在 仲間の仲介役。 光 ベッドメイキング 誰にも束縛されず自由を愛している。 快 ウエイター 臆病者でいつも仲間の顔色を気にしている。 零士 ウエイター 喧嘩ぱやいが、誰よりも熱い思いを隠している。 青空 ベルボーイ いつも笑顔でいるが、本當の自分を隠している部分もある。 歩夢 バトラー いつも落ち著いた雰囲気で、信仰深い。 不定期ですが小説が出來次第、隨時アップしていきますので楽しんでいただけたら嬉しいです。コメントなどはお気軽にして頂けたら作品の參考にさせて頂きます(⁎ᵕᴗᵕ)⁾⁾
8 141 - 連載中63 章
複垢調査官 飛騨亜禮
某IT企業に勤務する《複垢調査官》飛騨亜禮と、巨大小説投稿サイトの運営スタッフの神楽舞とが繰り広げるドタバタコメディミステリー。 第二章では、新キャラの坂本マリアとメガネ君も活躍します。 第三章ではネット小説投稿サイト三國志的な話になってます。 第四章 僕の彼女はアンドロイド 少年ライトとアンドロイド<エリィ>の物語。ベーシックインカムとかアンドロイドが働いて家族を養ってくれる近未來のお話です。 第五章 複垢調査官 飛騨亜禮2 TOKOYO DRIVE(複垢狩りゲーム) 『刀剣ロボットバトルパラダイス』に実裝された<TOKOYO DRIVE>の謎を巡って展開する異世界バトル。 http://ncode.syosetu.com/n6925dc/ 第六章 《複垢調査官》飛騨亜禮の華麗なる帰還 《複垢調査官》飛騨亜禮が新ネット小説投稿サイトの調査に赴く。彼はそこで想像超えた恐るべき小説たちと出會うことになる。 第七章 AIヒューマン 「複垢調査官 飛騨亜禮」は第四章〜六章が未完になってますが、まあ、人工知能✕VALUの小説を書いてみようと思います。 複垢調査官 飛騨亜禮 https://kakuyomu.jp/works/4852201425154917720 書きたい時が書き時ということで、第四章なども書きながら完結させていきたいですね。 第四、五、六、七章は同時更新中です。 ほのぼのとした作品を目指します。
8 153 - 連載中98 章
やっと封印が解けた大魔神は、正體を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~
【主人公最強・ハーレム・チートスキル・異世界】 この作品には以上の要素がありますが、主人公が苦戦したり、キャラクターが死亡したりと、テンプレにはあまりない展開もございます。ご注意下さい。 それゆえの熱い物語を書く予定であります。 世界はまもなく、激動する―― 大魔神たる僕が、封印から目覚めたことによって。 魔王ワイズ率いる、魔物界。 國王ナイゼル率いる、人間界。 両者の存在によって、世界は危うくも均衡を保てていた。どこかで小規模な爭いはあっても、本格的な戦爭になることはなかった。 僕――大魔神エルガーが封印から目覚めることで、その均衡はちょっとずつ崩れていく。 なぜ僕は封印されていたのか。 失われた記憶にはなにが隠されていたのか。 それらすべての謎が解き明かされたとき、世界は激動する…… けど、僕は大魔神だ。 いくらスケールのでかい事件だって、神にかかれば解決できるはず。 ――面倒だけど、なんとかしてみよう。
8 139 - 連載中12 章
貧乏だけど、ハイスペックです!
12月24日。 クリスマス・イヴの夜。 あたりは幸せそうなカップルたちがイルミネーションを見にやってきている。 そんな中、僕は1人ボロボロだけどあったかいコートを著て路上を歩く。 お腹空きすぎてもう歩く気力もない。 あぁ、神様、どうか助けてください。 僕はこれからどうすればいいんですか? そんな最中、 「こんな寒いイヴの夜にどうしたんだ?お前は」 僕と同じくらいの歳の一人の女の子と出會った。 これは、そんな何気ない出會いから始まる奇跡の物語。 ⚠️初投稿作品でございます。 どうぞよろしくお願いいたします! 更新日が最新でないのは、投稿を予約した日が更新日となるからです。 エタっているわけではありませんし、サボっているわけでもありません。 毎週水曜18時更新です! すみません! 5話から、語り方や行間に変化がありますが、どうかお気になさらぬよう、ご理解ご協力のほどお願いいたします。
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