《クリフエッジシリーズ第一部:「士候補生コリングウッド」》第十四話

宇宙暦SE四五一二年十月二十三日 標準時間一〇時五〇分

<ゾンファ軍クーロンベース司令部・主制

一〇五〇

ゾンファ軍クーロンベースの主制室MCRでは司令のカオ・ルーリン準將が、敵のスループ艦のきを見て、敵が味方を救いに行くという自分の考えに間違いが無く、罠に掛かったと確信した。

シートから立ち上がり、満面の笑みを浮かべんでいた。

「よし、敵は私の策に引っ掛かったぞ! P-331のグァン・フェン艦長に出撃を命じろ!」

オペレータの一人が、「グァン艦長に連絡しました。五分以に出撃するとのことです」という報告を行う。

「防スクリーン開放時にベースが損傷するかもしれない。念のため、各エリアの閉鎖と急補修制を取らせておけ」と命じる。

(これで敵は沈められる。あとはP-331の超速航行機関FTLDと対消滅爐リアクターが損傷しないことを祈るだけだ。まあ、敵が私の策に掛かった以上、杞憂かもしれないがな)

彼は自分の思ったとおりに敵がいていることに安堵していた。

ブルーベルの副長アナベラ・グレシャム大尉であれば、コリングウッド候補生の作戦案にあった「……相手が最もましいと思う行を取ることにより、彼らの思考を制限する……」という言葉を思い出したかもしれない。

一〇五五

オペレータの「P-331から出撃許可と防スクリーン開放要請が來ました」という聲が聞こえてきた。

カオ司令は「出撃許可を出せ、防スクリーンはグァン・フェンの指示に合わせてやれ」と鷹揚に命じる。

メインスクリーンには敵のスループ艦が味方の搭載艇の援護に向かうため、ドック正面から離れ始めている様子が映っている。

オペレータの「P-331係留解除、十秒後に防スクリーン開放します」という聲が響いているが、彼の耳にはっていなかった。

(よし、そのまま加速していけ。そうだ、いいぞ……)

彼は自分の策の功を疑うことなく、スクリーンを見つめていた。

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この瞬間がこのクーロンベースを襲撃されたあとにおける唯一幸せな時間だということに彼は気付いていない。

<ゾンファ軍通商破壊艦P-331・戦闘指揮所

一〇五〇

ゾンファ軍通商破壊艦P-331のグァン・フェン艦長はクーロンベースのMCRからの報告をけ、出撃のタイミングを計っていた。

カオ司令が自慢げに自分の策に敵は嵌ったと言っていることに辟易とするが、確かに敵のきは司令の思通りになっている。

(あの”頭でっかち”の策が本當に効いているのか? そもそも策と言うレベル話でもなかったと思うが……どうも嫌な予がするな……だが、この”蔵”から抜け出すチャンスでもある。敵のきだと出撃時に一撃加えることはできそうにないが、もし撃たれたとしてもベースの被害はなそうだな……)

部下たちの出撃準備完了の言葉を聞き、ベースのMCRに連絡をれた。

「P-331のグァン・フェンだ。本艦の出撃準備は完了した。出撃許可と防スクリーン開放を要請する」

MCRから「出撃を許可。防スクリーンは貴の指示で開放します」という答えが返ってきた。

一〇五五

彼は「よし。出撃だ! さっさとあの鬱陶しいスループを沈めて、國に帰るぞ!」と部下たちに言ったあと、「P-331発進!」と命令した。

P-331を係留していたロックアームが銃を捧げる敬禮のような作で上がっていく。そしてP-331は靜かにドックの中を進み始めた。

スクリーン開放のカウントダウンが始まると、P-331は狹いドックで通常では考えられないような急激な加速を始めた。

ドックはアルビオン軍により破壊された機類が多數浮遊していたが、P-331の加速により、更に滅茶苦茶に飛び跳ねている。

壁や床に大型の破片が當たり、更にドックの設備を破壊していくが、グァン・フェンは気にしていなかった。

(どうせもう使えないドックだ。々壊れても気にする必要はないな)

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<アルビオン軍スループ艦ブルーベル34號・戦闘指揮所

一一〇〇

アルビオン軍スループ艦ブルーベル34號は敵ベースからわずか〇・一秒の位置にいた。その位置で味方の潛部隊を救いに行くという欺瞞行を続けていた。

「敵ベースの防スクリーン消滅! ゲート開放中!」という報士のフィラーナ・クイン中尉のび聲が戦闘指揮所CICに響く。

「ロートン大尉、艦首回頭、敵ベースゲート付近を主砲及びカロネードにより攻撃せよ。主砲が壊れても構わん。安全規定は無視していい」とエルマー・マイヤーズ艦長が靜かに命じる。

「了解しました、艦長イェッサー! 攻撃開始!」

士のオルガ・ロートン大尉が力強く命じると、メインスクリーンに主砲から速付近まで加速された荷電粒子が撃ち出され、星間質をプラズマ化した殘が白いの柱が現れる。

「初弾、ゲートに命中。出力五〇%で三秒ごとに発。五秒後散弾――カロネード砲の出した金屬弾――が著弾……」

ロートン大尉の抑えた聲音の報告がCICに響く。

「敵通商破壊艦現れました! 神戸丸のも……」

と言うクイン中尉の報告にロートン大尉の報告が被る。

「主砲、敵艦に命中。散弾三〇%命中。円筒狀弾薬容キャニスター――カロネードの散弾容――殘量八。更に攻撃を加えます……」

メインスクリーンには敵通商破壊艦の艦首から小さな発による発が確認でき、更に四百mの艦の右舷側の真ん中辺りに大きな発が二回見え、商船特有の太い艦がグラグラとよろめいているのが確認できる。

マイヤーズ艦長はその映像を一瞥し、

「了解。舵長コクスン、最大加速に切替えてくれ。ロートン大尉、敵艦のスクリーン展開まで撃ち続けさせろ。クイン中尉、敵艦の狀況を確認してくれ」

演習時と同じような落ち著いた聲で次々と指示を出していく。

CICは敵艦の損傷に興することなく、全員が艦長の命令に従い、淡々と自らの仕事をこなしていく。

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「敵艦、艦首および右舷中央部損傷確認! 敵艦防スクリーン展開します!……」

「最大加速開始! 針路安定! 十秒後変針……」

「ロートン大尉、主砲の狀況を報告させろ」

艦長の命令が転送されると、すぐに主兵裝ブロックMABから掌砲長ガナー、グロリア・グレン兵曹長の報告が上がってきた。

「こちらMAB。主砲各コイル溫度高インタロック強制解除中。主兵裝冷卻系MACCSに加え、急冷卻系を併用していますが、あと二回でコイル溫度異常高による強制シャットダウンとなります」

「了解。ガナー、シャットダウン後何分で使えるようになる?」という艦長の問いに、

「コイルの再調整に二十分、いえ、十五分必要です」

グレン兵曹長のプロらしい冷靜な聲がすぐに返ってきた。

「了解した。攻撃を一旦停止する。その間に再調整を行ってくれ。頼むぞ、ガナー」

「了解しました、艦長アイ・アイ・サー」

マイヤーズ艦長はすぐにコクスンのアメリア・アンヴィル兵曹長に

「このまま、三百秒間加速を続けてくれ。〇・〇一速になったら左に回頭する。回避パターンは任せる・クイン中尉、敵艦の狀況を大至急解析してくれ……」

艦長の聲に被るように機関長チーフのデリック・トンプソン機関大尉の報告が上がってくる。

「CIC、こちら機関制室RCR。質量-熱量変換裝置MECチャージ量二十%以下。運用基準逸。艦長、この加速で主砲をあと二、三発撃ったら、MECが空になるぞ」

「了解した、チーフ。加速だけなら問題ないな」

「ああ、問題ない。対消滅爐かまは二基とも順調だ。だが、MECが空になると二基のバランスが崩れやすい。どちらかが過出力OPになるかもしれないから注意してくれ」

トンプソン機関長もやや焦り気味なのか、いつもは敬語で話すように注意している彼から敬語が消えていた。

機関科士には上に対してもぶっきらぼうな言いをする者が多いが、彼は普段はできるだけ若い艦長を立てようと注意していた。

だが、數年振りの実戦でしメッキが剝がれてしまったようだ。

マイヤーズ艦長は全く気にせず、

「了解、チーフ。リアクターは任せた。だが、MEC殘量が五%を切るかもしれないから覚悟しておいてくれ」

<ゾンファ軍通商破壊艦P-331・戦闘指揮所

一一〇〇

ゾンファ軍通商破壊艦P-331は出口ゲートにぶつかる勢いでドックを進み、ようやく彼らがいるべき宇宙そらに戻ろうとしていた。

ゲートがゆっくりと開かれると、漆黒の宇宙が彼らの前に広がっていく。

「敵の攻撃が來るぞ! 撃てそうなら攻撃しても構わん! 各自の判斷に任せる!」

艦長代行のグァン・フェンはそう言い放つと、シートに腰を下ろし、メインスクリーンに映る宇宙空間を見つめていた。

(さて、あの・・司令は策が功したとんでいたが、本當にそうかな? 敵はどう出る?)

ゲートが完全に開いた直後、P-331はドックから出て行く。ゲートと艦の間はほとんど無く、僅かにタイミングがずれただけで接していた可能もあった。

ゲートが開いた瞬間、敵の攻撃が襲い掛かってきた。

初弾はベース側に命中したようで艦自に被害はなかったが、すぐに何かに衝突したような大きな衝撃が戦闘指揮所を襲い、床に発による振が伝わってくる。

普段の戦闘はほぼ無音なのだが、戦闘指揮所には警報が鳴り響き、非常照明の赤いを高めていく。

「艦首被弾!」

部下の悲鳴にも似た聲が喧騒の中に響く。

(やはり待っていやがったか。……あの・・司令の策に掛かるわけはないか)

グァン艦長は頭の片隅で自嘲気味そう考えるが、

「落ち著け! 被害狀況を確認しろ! あと數秒耐えればこちらの勝ちだ!」

彼が吠えるようにぶと指揮所に落ち著きが戻り始める。

しかし、彼は敵の攻撃の間隔が短いことに驚き、敵の決意の強さをじ取っていた。

(主砲、いや、リアクターも壊すつもりか? 俺の予想の倍以上の手數で攻撃してきやがった……ここで決著を付けるつもりだな……)

彼が僅かな時間、自分の思いに浸っていると、次々に報告が上がってくる。

艦ふねの損害は彼の予想とそれほど変わらず、P-331の継戦能力に甚大な問題は発生していなかった。

「艦首損傷大! 主兵裝ブロック減圧、連絡途絶! 主砲制コイル十%機能低下、角調整能力五十%低下します! 機関に損傷なし! ファントムミサイル発裝置、艦尾砲損傷なし!」

(まだ、充分戦える。機関やドライブ類に異常もない。いけるぞ)

「了解! よしゲートを抜けるぞ、すぐに防スクリーンを張れ!」とグァン・フェンが言ったところで、再び艦ふねが大きく揺れる。

今回は衝撃と共に大きな発音の後、小さな発音が連続し、その後、空気が流れるシューという音が戦闘指揮所を包み込む。

「右舷第三十一から三十五ブロックまで損傷! 隔壁急閉鎖! ああ、超速航行機関FTLD室で火災発生! 自消火裝置起! FTLD室との連絡途絶! 右舷防スクリーン出力低下中、五十、三十、二十……十五%まで低下!……」

運用擔當士の悲鳴に似た報告に指揮所は息を呑む。

急対策班! 損害を確認し、直ちに応急処置に當たれ! 敵スループの狀況は!」

「敵スループ、六kG加速で離中!」

「防スクリーンを張れ! ファントムミサイル発! 逃がすなよ!」

グァン艦長はそう命じた後、

「被害狀況を報告せよ! チャン・ウェンテェンは無事か!」

その問いに対し、すぐに甲板長のチャン・ウェンテェンから

「無事です! 急対策所からFTLDに向かうところです」との返事が返ってきた。

「チャン、FTLDより右舷防スクリーンを見てくれ。敵が戻ってくる可能がある」

グァン艦長は敵のスループ艦がこのまま逃げるとは思っていなかった。

なぜなら、敵潛部隊がまだクーロンベース付近に殘っており、それを回収するためには必ず引き返す必要があるからだ。

今までの行を見る限り、彼らが味方を殘して逃げ去ると言う選択をするとは思えなかった。

(潛部隊は負傷者を抱えて出している。ほとんど損傷をけていないスループがそのまま味方を見殺しにするとは思えん。まして、こちらがこれほど派手に損傷した今は……)

「砲士! 主砲を撃てるか! 敵はまだ速度が遅い。出力を落としてでもいい。撃ち続けろ!」

創痍のP-331は敵スループ艦に攻撃を加えながら、クーロンベース付近に留まっていた。

<アルビオン軍スループ艦ブルーベル34號・戦闘指揮所

一一〇五

ブルーベル34號は敵通商破壊艦に攻撃を加えたあと、最大加速で戦場を離し始めていた。

ベースを攻撃していたため、充分な相対速度が保てず、武裝に勝る敵に一方的に躙されるのを避けるためだ。

戦闘指揮所CICでは、報士のフィラーナ・クイン中尉が敵艦の損害狀況を報告していた。

「艦首及び右舷に損傷を確認。右舷側スクリーン強度低下の可能大。主砲のコイルの一部の損傷も確認。人工知能AIの評価では右舷防スクリーン能力五十%低下。主砲の使用は可能、但し、出力が五十%以下に低下している可能八十%。その他、加速、姿勢制等の航行能力の低下は認められず。戦闘指揮所への影響の可能ほぼゼロ……」

「了解した。引き続き、敵の解析を頼む」

敵艦のベース出撃時に仕留められなかったという事実がマイヤーズ艦長に重く圧し掛かってきている。

(敵の戦闘力を奪いきれなかった……せめて防スクリーンか主推進裝置に損害を與えたかったのだが……この中途半端な狀況をどうすべきか……)

彼は潛部隊を見殺しにするか、艦ふねを危険に曬すか悩んでいた。

ベースに一定のダメージは與えられ、敵艦にもある程度のダメージを與えた今、潛部隊を見捨ててでも撤退するのが、最もリスクのない道だ。

だが、命懸けでベースに潛し、ベースの外に出した彼らを見捨てることが彼にはできない。

彼はこの五分間の加速中に結論を出すべく、黙って考えていた。

彼のそんな思いとは関係なく、戦闘指揮所CICに警報が鳴り響く。

「敵艦よりファントムミサイルらしき高速飛翔四基出! 敵主砲の作も確認! ファントムミサイルは二分後に本艦に接、敵主砲の狙點はまだ合っていません」

艦長は今後の方針に関する思考を中斷し、

「回避機継続。ファントムミサイルは適宜迎撃せよ。変針を早める。三十秒後に変針し、敵に向かう」

その言葉にCICは一瞬沈黙が支配するが、すぐに全員から「「了解しました、艦長アイ・アイ・サー!」とやる気に満ちた聲が上がった。

彼はその聲に一瞬戸うが、すぐに敵のきに考えを集中させる。

彼が敵艦を攻撃すると判斷したのは、敵の攻撃が思いのほか早く、かつ的確であることから、自分たちだけでも逃げ切れる可能は低いと判斷したためだ。

三百秒間の加速では〇・〇一速にしかならない。だが、敵の主砲の程から逃れるためには更に三百秒以上の加速を続ける必要がある。この場合、回避機を繰り返しながら百回近い攻撃をかわし続けなければならず、防スクリーンの薄い後方から一撃でも食らえば即行不能になる可能がある。

(損傷している主砲は普段より扱いが難しいはずだ。出力が低下しているなら、ブルーベルの防スクリーンでも何とか対応できる。相対速度を上げ、カロネードで包み込むように攻撃すれば、防スクリーンの能力が低下している箇所に當たるかもしれない……ふっ、賭け以前の無謀な作戦だな……しかし、この狀況で嬉しそうにするなんて、俺以外も皆、馬鹿な奴らばかりだな)

彼はやる気に満ちたCICを見回し、

「クイン中尉! アウルの狀況を確認してくれ! ロートン大尉、反転するまでに主砲の調整を完了させろ! チーフ、聞こえるか! 今から質量-熱量変換裝置MECにたっぷりチャージできるぞ!」

明るい聲で各員に指示を出した後、

「よし! みんな、もう一度攻撃を掛けるぞ!」

その言葉にCICだけでなく、艦で歓聲が上がっていた。

<アルビオン軍ブルーベル34號搭載艇アウル1・縦室

一〇五五

アルビオン軍スループ艦搭載艇アウル1は敵ベース所屬の小型汎用艇の攻撃範囲に捉えられていた。

解析の結果、敵の方が機力は高く、短距離ミサイルを二発乃至四発搭載していると判明した。

クリフォード・コリングウッド候補生はこの狀況を打開すべく、思い切った手を打つため、縦中のサミュエル・ラングフォード候補生に思いついた作戦を説明していく。

「ミサイルを撃たせる前に沈めるしかない。サム、僕の合図で慣航行にってしい。敵に主機が故障したのか悩ませたいんだ。敵が悩んでいる時間を利用してパルスレーザーで攻撃する」

その言葉にサミュエルは驚き、

「大丈夫なのか!? 慣航行すればいい的だぞ。ブルーベルのほうに引き込んで沈めてもらうわけにはいかないのか?」

クリフォードは首を橫に振りながら、

「ブルーベルの位置は確認したんだが、この加速だと敵を引き付けるのに五分以上掛かる。それにブルーベルが隙を見せれば、敵の通商破壊艦が出てこないとも限らない。サム、僕を信じてくれ!」

クリフォードの真摯な言葉にサミュエルはこれ以上の議論は不要と判斷する。

「了解、クリフ。君に命を預ける! いつでも言ってくれ!」

クリフォードはその言葉に応えることもなく、真剣な眼差しでレーザー砲制裝置のディスプレイを睨み、タイミングを計っていた。

「僕のカウントダウンで主推進裝置と姿勢制を止めてほしい。頼む!」

クリフォードはやや張した聲でサミュエルに指示を出す。

サミュエルが「了解! クリフ!」と応えると、すぐにカウントダウンが始まった。

「五、四、三、二、一、停止……」

機首を敵に向ける途中でアウルは加速と姿勢制用のバーニアを停止する。慣でゆっくりと機が錐みのような回転を始め、気分が悪くなるような複雑なきをし始める。

クリフォードはアウルが回転し始めるとすぐに固定武裝であるX線パルスレーザー砲の照準を合わせていく。

敵の汎用艇は複雑な機をやや緩やかなものに変え、ミサイル発の準備を慎重に行っているように見える。

「チャンスは一度。敵のきが……よし!」

彼は小さく呟き、レーザー砲のトリガーを握った。

次の瞬間、「再加速! 回避!」とんでいた。

X線レーザーが確認できるよう可視化処理された映像が縦席のモニターに映るが、敵の破壊を確認する余裕はなく、サミュエルもすぐに反応し、アウルは敵汎用艇とその背後の小星AZ-258877に向かって、落ちるように加速していく。

姿勢制を生かすと気分が悪くなるような回転がすぐに収まり、ガクンという衝撃と共に最大の三kG加速が始まった。

クリフォードたちは敵の汎用艇の位置を一瞬見失うが、アウルの戦/汎用コンピュータは敵の位置をしっかりと把握し、人工知能AIの中的な聲が敵汎用艇の撃破とミサイル接近を告げる。

「ミサイル一基接近中。二十秒後本艇に接。現狀での回避功率三〇%……敵ベース所屬汎用艇、主推進裝置機停止。損傷度五〇%以上……」

敵の撃破は功したものの、敵の攻撃の方が一瞬早く、ミサイルが一基発されていたようだ。

サミュエルは必死の形相で回避運にランダムなきを加えていく。

「ミサイル接近、十、九、八……」

AIの聲が響く中、モニターには回避確率が僅かずつ上昇している。だが、このペースでは五〇%以上の確率で命中してしまう。

クリフォードは黙ってレーザー砲の照準裝置を見つめながら、ミサイルを撃ち落そうと必死にレーザーを撃ち続けている。

「……五、四、三……」

そこまでカウントダウンが進んだところで、モニターが一瞬発した。

「「うわ!」」

無音の縦室にガンガンという金屬片が打ち付けるような衝撃が響く。

「接近中のミサイルの迎撃に功。発により一部に損傷が発生。左舷アクティブセンサー機能停止。左舷學センサー機能停止。五番バーニア損傷……」

AIの損傷を伝える聲が続いている。

「AI! 敵の狀況を再報告しろ!」とサミュエルが鋭く命じると、

「敵ベース所屬汎用艇、反応爐出力一〇%以下。主推進裝置完全停止。損傷度五〇%以上。敵攻撃能力喪失九五%以上。敵汎用艇は無力化に功の模様」

その聲を聞き、一瞬の間が空いたあと、「「やった!」」と二人は聲を上げる。

「念のため、止めを刺しておくか?」とサミュエルが尋ねると、

「了解! まだ完全に死んでいないかもしれないから、回避運を継続したまま、接近してしい」

敵汎用艇に接近していくと、大きなが開き、そのから細かな部品が飛び散っている敵汎用艇の姿がモニタに映っている。

三発の近距離ミサイルが機に取り付けられており、彼らの目にはまだ脅威は去っていないように見えた。

彼らは慎重に汎用艇に接近し、パルスレーザーを撃ち込み離する。

その直後、反応爐リアクターかミサイルに命中したようで派手な発とともに敵汎用艇はその形を失った。

敵の汎用艇を葬った後、サミュエルがブルーベルの狀況を確認する。

「ブルーベルがベースを攻撃している!」

「やはり出てきたか……サム、みんなを早く拾いに行こう」

彼は敵の汎用艇の出てきたタイミングが遅かったことから、ブルーベルに対する囮に使われたと思った。

(艦長はそのことを見越して敵艦への攻撃を待っていたんだな。アウルが落とされるかもしれないと考えながら、決斷するのは……僕には無理そうだな……)

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