《クリフエッジシリーズ第一部:「士候補生コリングウッド」》第十七話

宇宙暦SE四五一二年十月二十三日 標準時間一一時二五分

<アルビオン軍ブルーベル34號搭載艇アウル1・縦室

一一二五

アルビオン軍スループ艦ブルーベル34號搭載艇アウル1の縦室では次席指揮ナディア・ニコール中尉と二人の候補生サミュエル・ラングフォードとクリフォード・コリングウッドが敵に向かうブルーベルを見つめていた。

彼らは敵艦からの死角にるよう小星AZ-258877に張り付くように隠れている。

クリフォードはブルーベルの狀況を見ながら、この先の行について考えていた。

(ブルーベルが敵艦を沈められれば問題は無い。敵艦を沈めそこなったときにどうするかだ。敵にどの程度ダメージを與えられたかが判らない狀況ではくにけない。この狀況ではステルス機能を全開にしても見つかることは間違いないし、最大加速でも逃げ切れない。どうすればいいんだろう……)

他の二人も同じように考え込んでいるようで誰も口を利かない。

ふと、敵ベースのことを思い出した。

(ドックは結構破壊したけど、整備を目的にしないなら充分に機能は殘っている。もし敵艦を破壊したら、あのベースはどうするつもりなんだろう? 証拠を消すためリアクターを暴走オーバーロードさせるかも……)

ここまで考えたとき、彼はブルッと震えがきた。

(あのベースのパワープラントPPはかなり大きなだった。機関長チーフは民生用だと言っていたけど、當然暴走できるように改造してあるだろう。もし、あのPPが暴走したら……この小星の半分は吹き飛ぶんじゃないのだろうか? それに暴走時の線量はかなりの量だったはずだ。この小さなアウルで耐えられるのだろうか?……)

Advertisement

彼はその可能を思いつき、ニコール中尉らに説明し始めた。

「敵ベースについて懸念があります」といった後、今考えていたことを説明していく。

それに対し、ニコール中尉は、

「充分考えられるわね。敵艦を沈められなければどの道、我々は全滅するわ。だけど敵艦を沈めても生き殘れないのは癪ね。サミュエル、クリフォード、何かいい考えはある?」

サミュエルがクリフォードの顔を見てから、意見を述べ始めた。

「PPの位置は判っています。暴走時にこの小星がどう壊れるかは判りませんが、しでも距離を取っておくべきではないでしょうか。今の敵艦の位置なら最初にアウルを隠した位置に行くことも可能です」

ニコール中尉はし考えた後、「サミュエル、縦を任せるわ」と言ってから、後部にいる部下たちのところに向かった。

一一三〇

アウル1は最初に著地した敵ベースとは反対側に到著していた。

そして、できるだけ見付からないようにと小星表面に著地しようと微調整を行っている。

周囲の報を確認していたクリフォードは急速に大きくなる巨大なエネルギーに気付いた。すぐに敵ベースの対消滅爐の暴走と判斷し、

「ベースのリアクター暴走! 衝撃波が來ます!」とぶ。

縦席のサミュエルは一瞬戸うが、すぐに著地を斷念し、現狀を維持することに切り替えた。

數秒後、アウルは真っ白な世界に包まれる。

空気が無い宇宙空間であるにも関わらず、強力なエネルギーによりアウルは大きく揺さぶられていく。

サミュエルは自姿勢制と自らの勘を頼りに小星表面への激突を防ぐことに全神経を集中させていた。

縦室ではガンガンという衝撃が何度も襲い、迫した聲に調整されたAIのメッセージが流れていく。

Advertisement

「多數の巖石飛來中。回避不能。艇外ガンマ線線量急増」

何秒間続いたのかは判らないが、気が付くと衝撃は小さくなり、艇外のガンマ線も下がっていた。

星AZ-258877はゆっくりと移し、サミュエルはその相対距離を保つのに苦労していた。

(いきなり自したのか? しかし、ここにいてよかった。小星が遮へいにならなければ、衝撃か放線で死んでいただろう……しかし、なぜこのタイミングで? まだブルーベルが攻撃する前だったはずなんだが……)

クリフォードはほっとしながらも、頭には多くの疑問が生まれていた。だが、今は後部貨室にいる味方の狀況を確認する方が先だと思い、

「ニコール中尉、ご無事ですか! フォックス、ジェンキンズ、無事な者は連絡をれてくれ!」

しばらくすると、ニコール中尉の聲が聞こえてきた。

「こちらニコール。後ろは全員無事よ。二人とも無事よね。狀況を報告しなさい」

ニコール中尉が無事だという事実にホッとしたクリフォードは、

「了解しました、中尉アイ・アイ・マム! アウルは今のところ問題ありません。外部のセンサー類が多數破損したようですが、主機、縦系に異常ありません」

「了解。そちらに行くわ」

ニコール中尉はそういうとすぐに縦室に戻ってきた。

「何が起こったの? ベースのリアクターが暴走したって聞こえたけど」

「敵ベースの対消滅爐が自したようです。なぜこのタイミングなのかは判りませんが、ガンマ線の観測データから対消滅爐の暴走に間違いありません」

は頷くと、「それにしても早めに移しておいて良かったわね」といつもの表に戻っていた。そして、し難しい顔をしながら、

Advertisement

「ブルーベルと敵艦狀況が知りたいわ。何とかならないかしら」

「センサー類がかなりやられましたから、難しいと思います。時間的にブルーベルは敵艦を通り過ぎているはずです。確認するためにここを出ると敵に見付かる可能があります」

ここでサミュエルが一つの提案をした。

「このデブリに乗って離してはどうでしょう? 今なら敵も混しているはずです。ステルス機能をフルに生かせば欺瞞の功する可能は高いと思いますが」

ニコール中尉はすぐに頷き、

「サミュエル、クリフォード、適當なデブリに張り付く形でここを出します。最適なデブリを見つけたらすぐに発進しなさい」

「「了解しました、中尉アイ・アイ・マム!」」

クリフォードはこの案に全面的に賛だった。

(いい案だ。今なら強力なガンマ線の影響と新たなデブリのおかげで敵のセンサーを騙せる。うまくすれば敵艦から離れられるかもしれない)

彼らはちょうど都合のいいデブリを見つけると靜かにそのデブリに同化していった。

<アルビオン軍スループ艦ブルーベル34號・戦闘指揮所

一一三五

アルビオン軍スループ艦ブルーベル34號は敵ベースのあった宙域を通り過ぎていく。

その僅か百mの小さな艦は大きく傷付き、艦首付近には大きなが開いていた。

戦闘指揮所CICではエルマー・マイヤーズ艦長が敵通商破壊艦に最後の攻撃を掛けるため、唯一殘った武である主砲、一テラワット級荷電粒子加速砲の発を命じようとしていた。

敵との距離は既に五秒以上あり、主砲の冷卻系を修理しても次に攻撃できるチャンスは減速、再加速を三十分近く行う必要があるため、一時間以上先になる。

(これが最後の攻撃だ。これで沈められなければ、このまま撤退するしかない。ブランドンたち潛部隊を見殺しにするのは忍びないが、ベースの報を得た以上、全滅するわけにはいかない……)

「主砲発準備完了。いつでも撃てます!」

「了解、主砲撃ち方始め。二連で攻撃を停止せよ」

艦長の命令で主砲が発される。

メインスクリーンに敵艦に向かう主砲の跡が映し出される。

そして、敵に命中するというタイミングで艦ふねを大きく揺るがす衝撃が襲い、人工知能AIのメッセージが流れ始めた、

「防スクリーン過負荷狀態……防スクリーン消滅。再展開は二十秒後。繰り返します……」

「総員、対ショック勢を取れ! 舵長コクスン、回避してくれ!」

艦長はそうぶものの、回避は無理だろうと考えていた。

「第二!」というロートン大尉の聲が聞こえるが、次の瞬間、先ほどとは比べにならないほどの衝撃が艦を突き抜けていく。

CICでは再び警報とAIのメッセージが響くが、艦長を含め全員が気を失っていた。

急対策所ERCでは対ショック勢が間に合わなかった不幸な技兵がピンボールの玉のように壁に何度も跳ね返っているが、シートに著いていた者も衝撃のため気を失い、誰もそのことに気付いていない。

機関制室RCRでは部下たちに指示を出していたデリック・トンプソン機関長が部下ともども吹き飛ばされ、制盤に挾まる形で気を失っている。

いち早く意識を回復したのは、舵長のアメリア・アンヴィル兵曹長だった。

は耐G訓練を多くけている縦士であるため、この衝撃でも數秒で意識を回復できた。その彼も現狀を把握しきれず、ややパニック気味にんでいた。

「艦長! ご無事ですか! ロートン大尉! クイン中尉! ERC! グレシャム副長! 誰でもいい、指示を出してください!」

そのびに最初に目覚めたのは、副長のアナベラ・グレシャム大尉だった。

グレシャム大尉はパニックになり掛けているアンヴィル舵長を落ち著かせるため、を排した聲で報告を求めた。

「コクスン、グレシャムよ。落ち著いてCICの狀況を報告しなさい」

「はい、副長イエス、マム。CICの一部が損傷しました。どの程度の損傷かは不明です。小以外全員意識がありません」

し落ち著いたのか、さっきより聲のトーンが下がっている。

「コクスン、回避機を続けなさい。パターンは現狀のままで結構よ。艦長の意識が戻られるまでERCで指揮を執ります」

「了解しました、副長アイ・アイ・マム!」

グレシャム副長はERCの急時制盤ECBで狀況を確認していく。

報が制限されているECBでも、ブルーベルの損害がかなり大きいことが確認でき、左舷側がごっそり削られていることが判った。

幸い事前の隔離が良かったため、大規模な減圧や火災は発生していない。

は敵のにいることを思い出し、敵の狀況を確認した。だが、その報は彼を困させるものだった。

(的に何が起こっているの?……)

<ゾンファ軍通商破壊艦P-331・戦闘指揮所

一一三五

ゾンファ軍通商破壊艦P-331はブルーベル34號の攻撃とクーロンベースの自により戦闘艦としての機能をほとんど失っていた。

だが、艦長代行のグァン・フェンはまだ闘志を失ってはいなかった。

彼は主砲の使用を決めた。主砲が破損している可能もあるが、そのことは無視し、最後の攻撃を掛けるつもりでいた。

(我々が生き殘るすべはもう無い。後は敵と刺し違えるだけだ。敵の搭載艇はクーロンの発に巻き込まれたに違いない。それならば、スループが戻ってくる可能はほとんどない。……これが最後の攻撃チャンスだ! 主砲が壊れようが、暴発して艦を失おうが、構うものか! ゾンファ軍人の意地を見せてやる……)

そして、主砲の発準備が完了したとの報告をけ、即座に発を命じた。

「最大出力、撃ち方始め!」

彼の命令で主砲を撃ち始めるが、一発目で艦に大きな振が走った。

彼が「今のはなんだ!」とぶが、

「原因不明! 艦の計測系がほとんど死んでいるため、判りません!」との返事しか戻ってこない。

彼らは知りえなかったが、その時、主兵裝ブロックでは加速された電子が集束しきれず艦れ出し、一部で対消滅反応を起こしていた。

その反応による発が先ほどの衝撃の原因なのだが、強力なガンマ線でセンサー類が破壊されたP-331ではそれを知るすべは無かった。

「敵スループに直撃、防スクリーン消滅!」

その言葉を聞き、ニヤリと笑ったグァン・フェンは「構わん、第二を撃て!」と命ずる。

彼の命令により主砲が発されると、先ほどより大きな衝撃が再び走り、その衝撃は収まる気配がなかった。

「防スクリーン消滅! 生命維持裝置機能停止!……主砲から電子がれています! 艦首が融けて……」

その報告を聞き、命令を発しようとした瞬間、艦で次々に発が連鎖していった。そして、その発により戦闘指揮所は完全に破壊され、彼は自分に何が起こったのか判らないまま死んでいった。

発の原因は主砲の制系が破壊され、リアクターからのエネルギーが無制限に出したことが原因だった。

だが、それを知ることが出來る者は誰も生きてはいなかった。

戦闘指揮所が発した直後、ブルーベルの主砲が命中し、更に破壊が加速していく。

そして、二十秒後、ゾンファ軍通商破壊艦P-331は部から崩壊していった。そして、その存在から小さな恒星が生まれ、そして消えていった。

<アルビオン軍ブルーベル34號搭載艇アウル1・縦室

一一三五

アルビオン軍スループ艦ブルーベル34號搭載艇アウル1は、デブリにを隠しながら、ゆっくりと宇宙空間を漂っている。

その姿は満創痍で外裝甲は數え切れないほどの凹みがあり、完全に放棄されたスクラップと言っても誰も疑わないほどだ。

ナディア・ニコール中尉は僅かに生きているセンサー類を使って、ブルーベルと敵通商破壊艦P-331の戦闘を見守っていた。

ブルーベルは〇・一速という高速で敵艦を通過し、艦首を敵に向けて攻撃の意思を見せている。

一方、P-331も艦首と右舷に大きな損傷を抱えながらもブルーベルに艦首を向ける。

ブルーベルの主砲がP-331の防スクリーンに當たり発するが、ダメージは與えられているように見えない。

やはり無理かと思いながら見ていると、P-331の放った主砲がブルーベルの防スクリーンを消し去る様子が見て取れた。

「ああ、ブルーベルの防スクリーンが……」と彼ぶと、

「敵艦の艦首を見てください! 発が起こっています! まだ、チャンスはあります!」というクリフォード・コリングウッド候補生の聲がした。

彼の言うとおり、P-331の艦首では小規模な発が斷続的に起こっており、第二は困難だとで下ろす。

だが、P-331は撤退するわけでもミサイルを打つでもなく、その場に留まっていた。

クリフォードは嫌な予がしていた。

(まだ、主砲を撃つ気か? 自するぞ……もしかしたら刺し違えるつもりでは……)

神ならぬ彼は、敵が自分たちの艦ふねの狀況を把握できていないとはとも知らず、ただ自棄やけになって相打ちを狙っているとだけ考えていた。

彼の予想通り、敵は主砲を放ち、防スクリーンを失ったブルーベルに命中する。

ブルーベルは艦首から左舷側がごっそりと削られ、ふらふらと姿勢制すらままならなくなっている。

一方、P-331は最後の一撃で艦の中央部から徐々に発が広がっていき、最後には艦全が膨らみ四散していった。

ニコール中尉が後ろにいる部下たちに聞こえるよう、

「ブルーベルが敵の通商破壊艦を沈めたわ!」とんでいた。

そして、クリフォードに、「ブルーベルに通信を」と言った後、

「ランデブーポイントを確認して。こういう崖っぷちクリフエッジな狀況なら計算できるでしょ」とウインクをしながら付け加えてきた。

クリフォードの隣でサミュエルが笑っているが、この會話は後ろのカーゴスペースにも聞こえていた。

クリフォードは恥で赤くなった顔を隠しながら、ブルーベルに通信をれた。

<アルビオン軍スループ艦ブルーベル34號・急対策所

一一四〇

ブルーベル34號の戦闘指揮所CICの士がすべて意識を失ったため、副長のアナベラ・グレシャム大尉は急対策所ERCで艦の指揮を執っていた。

敵の狀況を確認しようとERCのモニターを見たとき、彼は目を疑ってしまった。

敵艦が部から崩壊していく姿に何が起こっているのか、理解できなかったのだ。

だが、彼はすぐに立ち直り、CICの機能が復舊するまでの間に、防スクリーンを展開し直し、掌帆長ボースンに応急処置を命じていた。

二分後、CICでロートン大尉の意識が回復し、簡単に狀況を説明すると、すぐに艦長の狀態を確認しにいった。

ロートン大尉はすぐに軍醫のバーナード・ホプキンス軍醫大尉をCICに來るように命じる。

が見たマイヤーズ艦長は破損した部品の一部が簡易宇宙服スペーススーツに刺さり、部ではかなり出していると表示されている。

ロートン大尉は軍醫に連絡した後、負傷していないCIC要員を起こし、CICの機能を再立上げした。そして、CICで指揮を執り始める。

その時、アウル1からの通信がってきた。

「こちらアウル1、ブルーベル応答願います。こちらアウル1のコリングウッドです。ブルーベル……」

意識を取り戻した報士のフィラーナ・クイン中尉が

「こちらブルーベル34號。ミスター・コリングウッド、狀況を報告しなさい」

クリフォードが狀況を報告し始めると、CICに歓喜の聲が広がっていく。

CICで指揮を執り始めたロートン大尉が、

「ミスター・コリングウッド、三時間後にランデブーします。ランデブーポイントを計算して報告しなさい」

「えっ! あ、了解しました、大尉アイ・アイ・マム! ですが、私でいいんですか?」

「こちらも艦長が負傷されて、手一杯なの。貴方が一番手が空いているでしょう」

「はい、大尉イエス・マム。何とか計算してみます……」

CICでは笑いが起こるが、すぐに艦の狀況確認に沒頭し始めた。

(これから忙しくなるし、まだまだ油斷できない。でも笑える余裕があるなら大丈夫だわ……)

は頭の片隅でそう考えながら、艦の狀況を確認する指示を次々と出していた。

    人が読んでいる<クリフエッジシリーズ第一部:「士官候補生コリングウッド」>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください