《クリフエッジシリーズ第二部:「重巡航艦サフォーク5:孤獨の戦闘指揮所(CIC)」》第六話
宇宙暦SE四五一四年五月十五日 標準時間〇〇時三〇分
第二十一哨戒艦隊は予定の半分の日程を終え、ハイフォン星系行きジャンプポイントJPから三十分の宙域を航行していた。
引継ぎをけた通り、ゾンファ側からのきは全く無かった。艦隊は當初の計畫通り、訓練を行いながら、星系を蛇行するように哨戒している。
クリフォードは戦闘指揮所CICで當直シフトについていた。
本來、航法長ジュディ・リーヴィス佐が、當直長として指揮を執っているはずなのだが、突然の調不調のため、サロメ・モーガン艦長が當直の指揮を執っていた。
(艦長が指揮を執ると胃に堪える。突然、意味も無く命令を変更してきて、しでも命令通りになっていないと、部下の前だろうと関係なく當り散らすし……それだけならいいんだが、僕のせいで副長にまで當り散らすのはやめてほしいな……)
當直が始まってまだ三十分しか経っていないが、彼に対する命令が既に二回も出されていた。
そして、モーガン艦長がクリフォードに再び作業を命じる。
「コリングウッド中尉、駆逐艦ヴェルラム6と同ヴィラーゴ32の配置を〇一〇〇にれ替える。加速のタイミングと変更中の回避パターンを十分で計算し、報告しなさい」
クリフォードは「了解しました、艦長アイアイマム」と答えて、コンソールに向かうが、心の中ではこの命令の無意味さに辟易としていた。
(同じV級の駆逐艦をれ替えても意味が無い。れ替えるなら、最新のZ級ザンビジ20と舊式艦であるV級のどちらかを変えるべきだ。訓練の一環ということなのかもしれないけど、ヴェルラムもヴィラーゴもいい迷だな……)
彼はそう考えながらも、人工知能AIを呼び出し、諸條件を確認しながら、計算を始めた。
その時、彼は計算に集中しており、報士のスーザン・キンケイド佐の行に気付くのが遅れた。
キンケイド佐は指揮席の左手にある報士席でコンソールを作した後、ゆっくりと立ち上がり、艦長いる指揮席に向かっていたのだ。
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クリフォードが気付いたのは、「キンケイド佐、この計畫書の承認は必要か?」というモーガン艦長の問い掛ける聲によってだった。
彼の席、戦士席は指揮席の前方にあり、艦長とキンケイド佐を見るためには振り返らなければならない。だが、このタイミングで振り返ると、艦長から厭味を言われるため、彼はコンソールに集中し、後ろに注意を向けなかった。
艦長の問い掛けの直後、「あぁぁぁ! な、何をする!」という艦長の悲鳴にも似た聲がCICに響き渡った。
クリフォードはすぐに振り返り、指揮席の様子に目を疑った。
彼が見たものは、塗られた小型のナイフのような刃を握ったキンケイド佐と、を押さえ、苦しげに指揮卓に伏せるモーガン艦長の姿だった。
キンケイド佐は恍惚とした表を浮かべ、舞臺優のような大きな手振りをえてんでいた。
「あなたがいけないんですよ! 私を捨てようとするから!……ああ、でも、これで二度と離れることはないわ! これでずっと一緒に……」
モーガン艦長は「な、何を今頃……なぜ……」と呟くが、それ以降は言葉にならず、その目は虛空を見つめていた。
キンケイド佐は艦長の顔をしそうにでると、すぐに自分用の個人用報端末PDAを作する。PDAの作を終えると、艦長のをゆっくりと押しのけ、指揮コンソールの作を始めていた。
クリフォードは何が起こっているのか理解できず、くことができなかった。
だが、すぐに我に返り、立ち上がった。
そして、キンケイド佐を拘束するため、CICのり口で歩哨に立つ宙兵隊員に指示を飛ばす。
「宙兵! 直ちにキンケイド佐を拘束しろ!」
呆然と見つめていた宙兵隊員ボブ・ガードナー伍長は、跳ねるように背筋をばし、「了解しました、中尉アイアイサー!」とびながら、キンケイド佐に向かった。
クリフォードとガードナー伍長を除く六名のCIC要員は、目の前の景が信じられず、呆けたようにその様子を見つめている。
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クリフォードはけない下士たちに目もくれず、一番近くにいた機関科のサドラー三等機関兵曹に「サドラー兵曹! 軍醫に連絡しろ!」と指示を出しながら、指揮席に飛んでいく。
その時、キンケイド佐は既に指揮コンソールの作を終えていた。そして、もう一度艦長の顔を見て微笑み、靜かに自らの首にナイフを突きれた。
クリフォードの「佐!」というびがCICに響く。
だが、キンケイド佐は彼を見ることなく、彼の橫に倒れるモーガン艦長を見つめていた。
その顔には満足げな恍惚としたような表が浮かび、口を數回かした後、艦長に被さるようにゆっくりと崩れていった。
クリフォードはキンケイド佐の突然の行が理解できず、パニックに陥りそうになる。だが、彼はそんな自分を叱咤し、副長であるグリフィス・アリンガム佐に連絡しようと、PDAを作し始めた。
彼のPDAから呼び出し音が鳴る中、艦に中的な聲の一斉放送が流れ始めた。
『通信系故障対応訓練を開始する。ただいまより、PDAを含むすべての通信機の使用が制限される。使用者は直ちに作業を中止し、訓練に備えよ。開始、五秒前、四、三……』
そして、その放送に被るようにもう一つの放送が流れていく。
『部破壊者インサイダー対応訓練を開始する。CICを除くすべての出力裝置は訓練終了まで使用不能となる。作業中の者は直ちに作業を中止し、システムよりログアウトせよ。訓練開始、五秒前、四、三、二、一、開始』
二つの放送が終わった瞬間、CICのハッチを機械ロックする“ガタン”という音が響いていた。
(何が起こったんだ? 訓練なんて聞いていない……)
クリフォードはCIC要員に狀況を把握するよう命令する。
「各員、狀況を把握せよ! 通信兵曹、艦隊の各艦に連絡。モーガン艦長が行不能に陥った。現在、指揮はコリングウッドが執っていると!」
彼はそうぶと、アリンガム副長に連絡をれようとした。
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だが、艦の通信システムがシャットダウンし、彼のPDAから連絡ができない。他に手段がないかと、急用の一斉放送裝置を使おうとするが、それもロックされていた。
(連絡手段がないだと……待て、部破壊者インサイダー対応訓練と言っていたな。となると、戦闘指揮所CIC、急対策所ERC、機関制室RCRなんかはすべてロックされるはずだ……)
彼が通信手段を考えているとき、宙兵隊のガードナー伍長が大聲で艦長たちの狀況を報告してきた。
「モーガン艦長及びキンケイド佐は既に死亡! 急醫療キットによる蘇生を試みましたが、蘇生に失敗! 恐らく薬の使用によるものと思われます!」
クリフォードは艦長とキンケイド佐が死亡したという報告にパニックになりそうになるが、「了解した。艦長と佐のをCICから運び……いや、CICのどこかに安置しておいてくれ」と指示を出す。
ガードナーは「了解しました、中尉アイアイサー!」と答え、二人のをCICの隅に運び始めた。
そして、通信兵曹のジャクリーン・ウォルターズ三等兵曹の甲高いび聲がCICに響く。
「中尉! 通信不能です! ファルマス――五等級艦・軽巡航艦ファルマス13――とも、他の艦とも通信が……」
クリフォードは「落ち著け!」と一喝し、「正確な報告を頼む。ウォルターズ兵曹」と落ち著いた聲で命令した。
ウォルターズはパニックになった自分を恥じ、「申し訳ありませんでした」と言った後、
「現在、すべての通信システムがダウンしております。艦、艦外の音聲、文字、信號を含むすべての報での通信が制限されております」
「共通要因故障対応CCF系は?」
彼の問いにウォルターズ兵曹は「CCF系は報士の権限により、ロックされております……中尉サー」と泣きそうな顔で答える。
クリフォードは小さく頷き、「了解した。解除の方法は?」と尋ねる。
「通常のシステムは訓練の終了で復舊するはずです。CCF系は報士権限がないと復舊不能です……訓練の終了は指揮と報士の承認が必要になります」
クリフォードは「了解した」と言って、指揮席に座った。
部破壊者対応訓練とは、敵勢力に協力する乗組員がいるという想定の訓練である。このため、戦闘指揮所CIC、急対策所ERC、機関制室RCR、主兵裝ブロックMAB、格納デッキなどの重要施設が機械的に閉鎖される。また、CIC以外の制裝置が乗っ取られる危険を考慮し、CIC以外からの作をけ付けないようになる。CICで艦の運用を維持しながら、その間に部破壊者インサイダーを確保するというのが主な訓練容である。
つまり、現狀ではCICにいるクリフォード以下七名で、艦の運用を行わなければならない。
ちなみにCICが占拠された場合は、急対策所《ERC》にメインシステムとは完全に獨立している共通要因故障対応CCF制系を使用する。このCCF系により、第二戦闘指揮所であるERCから、艦の運用を行うことが出來る。なお、CCF系の使用には、人工知能AIによる戦闘指揮所機能喪失認定と、ERCでの士個人認証IDによる起承認が必要であった。
通信系故障対応訓練では、通信系の故障及び工廠作業員の破壊活サボタージュを想定し、共通要因故障対応CCF設備以外の報通信がブロックされる。本來なら、ERCにあるCCF系により代替の通信および制が可能であるはずだが、今回は報士のキンケイド佐が事前にCCF系をブロックしていたため、當該設備での通信も不能となっている。
つまり、現狀ではCIC要員以外、システムへのアクセスが不可能であり、あらゆる作がCICでしか行えず、更に他の乗組員との連絡すら取れない狀況であった。
クリフォードは現狀を理解するにつれ、キンケイド佐が何をしたかったのか、益々理解できなくなっていた。
(佐は何をしたかったんだ? サフォークが孤立しても何も変わらないが……今はそんなことを考えている時じゃない。どうやって、この狀況をするかを考えるべきだ)
「ウォルターズ、通信系の復舊手段を考えてくれ。サドラー、RCRでの監視ができない。君が爐リアクターの監視と制をやってくれ」
そして、殘りのCIC要員を見ていく。
彼の戦士席の橫に座る兵裝制員は、掌砲手のケリー・クロスビー一等兵曹。彼は三十代前半のがっしりとした軀のベテラン掌砲手であり、この狀況でも落ち著いているように見える。
CICの最前列にいるのは舵員のデボラ・キャンベル二等兵曹。彼は舵員らしく、CICの狀況にはあまり関心を示さず、艦の制に集中している。そのため、その表は見えないが、聲を掛けるとやや上った聲が返ってきたことから、この狀況を不安に思っているようだ。
報士席の橫に座る索敵員のジャック・レイヴァース上等兵は、今いるCIC要員の中でクリフォードを除けば一番若く、上司であるキンケイド佐が起こしたこの事態にかなり揺している。
航法員のマチルダ・ティレット三等兵曹は、未だにこの狀況が理解できないと首を振っている。荒事には向かない格のようで、艦長とキンケイド佐のが近くにあることが気になっているようだ。
通常、CIC要員には數えないが、この他に宙兵隊の隊員、ボブ・ガードナー伍長がいる。彼は屈強なを持つ兵士で、どこからか取り出してきた急用の防火シートを艦長らのに掛けている。
(ここにいる八人で、事態が解決するまで艦の運用をしていかなければいけないのか。というより、士は僕しかいない。指揮を執るのは僕しかいないんだ……)
クリフォードは指揮席に座り、コンソールを作し始める。
彼は當直長である艦長が死亡し、次席のキンケイド佐も死亡したため、指揮を引き継ぐため、艦の人工知能AIを呼び出し、指揮権委譲手続きを行う。
(艦長とキンケイド佐の死亡はAIも認識しているな。現在、システムにアクセスできる士で最高位は僕ということも認識している。ならば、CICの指揮権を僕にあることを認識させれば……これでよし!)
クリフォードは指揮権委譲手続きを終えると、CICにいる當直員に話し始めた。
「みんな聞いてくれ。モーガン艦長とキンケイド佐が亡くなられた。現在、システムにアクセス可能な士は私だけになる。今、AIに私の指揮権を認証させた。システムが回復するまで、私クリフォード・コリングウッドが艦の指揮を執る」
彼の宣言に掌砲手のクロスビー兵曹が「了解しましたアイアイ、指揮殿サー!」と敬禮しながら、野太い聲で答える。
そのあと、他のCIC要員たちも同じように聲を出していく。
クリフォードはそれに頷き、各員に指示を出す。
「全員、それぞれの任務を継続。ウォルターズは通信系の復舊を最優先してくれ。レイヴァースはいつも以上に気合をれて索敵を行ってくれ。この狀況で敵が出てきたら目も當てられない……」
クリフォードの言葉にCIC要員たちに張が走る。皆、その可能を考えていなかったからだが、もし、この狀況下で敵と遭遇すれば、圧倒的に不利であると悟る。
(しまったな。今の言い方で変な張を與えてしまった)
クリフォードはし言い方を間違えたと思い、しおどけたような表で航法員のティレット兵曹に話し掛ける。
「ティレット兵曹、航法は君に任せたから。僕がやると……この先は言わなくても判るだろ?」
その言葉に最も張していたティレットの顔に笑みが浮かぶ。
「了解しました。お任せ下さい。サフォーク彼を迷子にはさせません」
彼の言葉にCICの張が僅かに緩む。クリフォードは自分の航法の下手さ加減を出に、彼らの張を解すことに功した。
「クロスビー、サドラー、こっちにきてくれるか? 他の者は通常任務に戻ってくれ」
クロスビー一等兵曹と機関科のサドラー三等機関兵曹が何のようだろうと考えながら、指揮席に向かう。
「現狀について、意見を聞きたい」
クロスビーが頷き、話し始める。
「兵裝については、CICからの制は可能です。但し、戦闘中のような過負荷が掛かるような狀況では保証は出來かねますが」
クリフォードは「了解した」と頷き、サドラーに視線を送る。
「パワープラントPPについても問題ありません。防スクリーン及び質量-熱量変換裝置MECについても攻撃をけない限り、CICからでも制は可能です」
クリフォードは小さく頷き、「戦闘中はCICからの制は難しいということか?」と質問する。
「はい、中尉イェッサー。防スクリーン、MECが過負荷になる狀況では、機関制室RCRでの微調整が必要になります。CICでも対応できないことはないですが、安全率が著しく低下するとお考え下さい」
(通常航行は問題なしと。戦闘が起こるとして、長期間は難しいが、一応可能か……まあ、敵が出てくるとしてだが)
「了解した。副長が指揮を執れるようになるまで、私が指揮を執る。ベテランの二人にはサポートを頼みたい。何でもいい、意見があれば気にせず言ってくれ」
クリフォードは泰然としたクロスビー兵曹と、機関科のベテラン、サドラー兵曹と落ち著いて話している様子を見せることにより、他の若い下士兵の揺を抑えようと考えた。
(この二人は前の戦爭で実戦を経験しているはずだ。だから、々異常な事態になっても落ち著きを取り戻すのが早い。でも、他の下士、確か舵員のキャンベルが二十六歳で最年長だったはずだが、七年前の停戦時にはまだ十九歳だし、実戦経験はないはずだ。実際、かなり揺していた様子も見られたからな……)
彼の思通り、CIC要員たちは落ち著きを取り戻していた。
ウォルターズ通信兵曹より、徐々に現在の狀況が明らかになっていく。
「……キンケイド佐は通常の訓練承認プロセスより、上位の権限で申請を行ったようです。的には承認者が當該星系最上位士、すなわち、星系防衛指揮の権限となっているのです。更に當該星系最上級報士による起案となっております。つまり、ターマガント星系のすべての艦に向けて、訓練の命令が発信されています」
「つまり、サフォークだけでなく、哨戒艦隊のすべての艦と通報艦も、ここと同じような狀況に陥っているということか」
「はい、中尉イェッサー。訓練終了、または、通信機停止の解除には、現時點での星系防衛指揮の権限と最上級報士の権限が必要になります。防衛指揮権限は、中尉がお持ちですが、報士権限は現在、空位の狀態、すなわち、誰も権限を持っていない狀態なのです」
「……この狀況を正規の方法で終わらせるがないということか」
クリフォードは現在の狀況が非常に危険であると、背中に冷たいものが流れるようにじた。
(現狀では各艦のCICのみが機能している狀況だ。何もなければ、各艦の指揮の判斷でくことになる。だが、これが謀略なら……せめて、艦、そして、艦隊の連絡手段を確立しなければ……)
■■■
五月十五日 〇一〇〇
艦長殺害事件から三十分が経過した。
キンケイド佐の思は判らないものの、現狀でも艦隊の運行に支障が出ていないため、CIC要員たちも完全に落ち著きを取り戻していた。
クリフォードは部下たちを安心させるため、務めて冷靜に指揮を執っていたが、心では焦りをかなりじていた。
(あと二時間ほどで針路を変更する必要がある。當初計畫に沿っていてくれればいいが、この狀況で全艦が計畫通りくか不安がある……最悪、通信手段だけでも確保しないと。あれが使えればいいんだが……)
彼の思いはそこで中斷された。
索敵員のレイヴァース上等兵のび聲がCICに響き渡ったからだ。
「ハイフォン側ジャンプポイントJPに、ゾンファ共和國艦隊らしき艦影あり!」
その言葉にクリフォードは、「現狀判る報は?」と、靜かに尋ねる。
「距離約三十分。〇・二C速。本艦隊との差角十二・三度。四等級艦一、五等級艦三、六等級艦七。人工知能AIの解析では、四等級艦は武ウェポン級、五等級艦は鳥バード級の模様……」
「了解した。ゾンファ艦隊の速度、目標を推定してほしい。ウォルターズ、ゾンファ艦隊から通信らしい信號がっているか判るか?」
通信兵曹のウォルターズは「確認できません!」とぶ。
「了解した。レイヴァース、ゾンファ艦隊から通信波らしいエネルギーは確認出來るか?」
「……確認できます! 敵四等級艦から我々に向けて、高い指向の電波が放出されています」
「レイヴァース、まだ敵と決まったわけではない。落ち著くんだ」
レイヴァースは「了解しました、中尉アイアイサー」とやや不服そうな口調で答える。
クリフォードはレイヴァースの態度を気にすることなく、ゾンファ艦隊のことを考えていた。
(まだ・・敵ではないと言ったが、このタイミングで現れたということは、攻撃の意志があってのことだろう。若しくは、こちらの落ち度を咎めるような行を取るつもりかも……通信が送られているというのが気になるな。この狀況で我々に通信を送る理由は何だ? 何の目的か……今、敵と考えて行する方がいい。撤退できるなら、アテナ星系に戻ることも考えてもいいな)
「ティレット、ゾンファ艦隊をかわしつつ、アテナJPへ転進することは可能か。大至急計算してくれ」
航法員のティレット兵曹が「了解しました、中尉アイアイサー」と答えたのを確認し、「ウォルターズ、通信系の復舊見込みはまだ立たないな?」と確認する。
「はい、中尉イェッサー。承認者、若しくは、より上位者の取消が必要です。現在、訓練シーケンス自の無効化を試みていますが、時間が掛かりそうです」
クリフォードが「了解した」と言ったとき、航法計算を終えたティレットが報告を始めた。
「今すぐ減速にれば、五十五分後に約五分の距離を保って、相対速度をゼロとすることが可能です。ですが、敵、いえ、ゾンファ側が危険を犯して加速し、〇・三Cに速度を上げれば、追いつかれます」
「了解。でも、さすがに計算が速いな。私ならあと十分は掛かると思うよ」
CICに微かに笑いがれるが、クリフォードはすぐに表を引き締める。
「全員聞いてくれ! ティレットの報告にあるとおり、今すぐ減速・再加速すれば逃げ切れる可能はある。だが、味方がついてくるとは限らない。だから、まず、通信手段を確保し、その上でゾンファの思をはぐらかす」
撤退出來る可能があるのに、その判斷を下さないことに全員が驚いていた。
だが、クリフォードはそれ以上時間を費やすことなく、自らのアイディアを話し始めた。
「通信手段についてだが、思いついたことがある。対宙パルスレーザーを通信機として使う……」
彼は十ギガワット級対宙パルスレーザーをレーザー通信機として使うことを提案する。
「……パルスレーザーのパルスをデジタル信號として利用する。出力を最小に抑えれば、味方を傷付けることなく通信できるはずだ。クロスビー、パルスレーザーの照パターンは戦闘指揮所CICで変更可能か?」
全員が唖然とする中、クロスビーは「はい、中尉イェッサー」と答え、
「CICの戦士コンソールで変調回路の調整が出來ます。五分頂ければ、通信パターンに自調整できるように変更できます」
「よろしい。では、直ちに作業を開始してくれ」
通信兵曹のウォルターズが疑問を呈してきた。
「ですが、他の艦が気付いてくれるのでしょうか? もし、気付かなければ、我々は全滅するかもしれません」
「そうだな。だが、味方を見棄てるわけにもいかないし、他の艦も防スクリーンに不自然な攻撃が加えられれば、意味を考えるはずだ。それに賭けるしかない」
彼の言葉にまだ納得できないものもいたが、先任のクロスビーが間接的に支持したため、それ以上の意見は出なかった。
「艦への通信だが、定時放送システムは使えないか?」
定時放送システムとは、食事の開始やシフトの替の合図など、決まった時間になると音聲案が艦に流れるシステムだ。音聲案の容を書き換えることができるため、それを利用しようと考えたのだ。
機関科兵曹のサドラーが「可能です。ですが、一方的な通知にしか使えませんが?」と答える。
「我々が必要なのは、イエスかノーかだ。幸い各制盤からの報はCICにっている。ならば、制盤の警報試験アナンテストも可能だろう。それを利用すればイエスかノーかの確認はできる」
「警報試験を報伝達の手段に……確かにそれなら可能です。艦放送のメッセージ案を頂ければ、すぐに定時放送システムに力します」
「文案は艦長及び報士が死亡したこと、通信が使えないこと、ゾンファ艦隊が接近していることを放送してしい。そして、各制盤にいるものが、それを了解したら、三秒間警報を鳴させる。了解できない場合は十秒以上鳴させることも付け加えてくれ」
クリフォードは思い付いた連絡手段を試すよう命じた。だが、この危機的狀況を打破するには、程遠い策でしかないと考えていた。
【書籍6/1発売&コミカライズ配信中】辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に勵みます
身に覚えのない罪を著せられ、婚約者である第二王子エルネストから婚約を破棄されたアンジェリクは、王の命令で辺境の貧乏伯爵セルジュに嫁ぐことになった。エルネストに未練はないし、誤解はいずれ解くとして、ひとまずセルジュの待つ辺境ブールに向かう。 初めて會ったセルジュは想定外のイケメン。戀など諦めていたアンジェリクだが、思わずときめいてしまう。けれど、城と領地は想像以上に貧乏。おまけになぜかドラゴンを飼っている!? 公爵家を継ぐために磨いた知識でセルジュと一緒にせっせと領地改革に勵むアンジェリクだったが……。 改革を頑張るあまり、なかなか初夜にたどりつけなかったり、無事にラブラブになったと思えば、今後は王都で異変が……。 そして、ドラゴンは? 読んでくださってありがとうございます。 ※ 前半部分で「第1回ベリーズファンタジー小説大賞」部門賞(異世界ファンタジー部門・2021年4月発表)をいただいた作品ですが、他賞への応募許可を得た上で改稿加筆して応募タグを付けました。 ※ 2021年10月7日 「第3回アース・スターノベル大賞」の期間中受賞作に選んでいただきました。→2022年1月31日の最終結果で、なんと大賞に選んでいただきました! ありがとうございます! 加筆修正して書籍化します! 2022年6月1日 発売予定です。お迎えいただけますと出版社の皆様とともにとても喜びます。 コミカライズも配信中です。 どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
8 136平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)
時は2010年。 第二次世界大戦末期に現れた『ES能力者』により、“本來”の歴史から大きく道を外れた世界。“本來”の世界から、異なる世界に変わってしまった世界。 人でありながら、人ならざる者とも呼ばれる『ES能力者』は、徐々にその數を増やしつつあった。世界各國で『ES能力者』の発掘、育成、保有が行われ、軍事バランスを大きく変動させていく。 そんな中、『空を飛びたい』と願う以外は普通の、一人の少年がいた。 だが、中學校生活も終わりに差し掛かった頃、國民の義務である『ES適性検査』を受けたことで“普通”の道から外れることとなる。 夢を追いかけ、様々な人々と出會い、時には笑い、時には爭う。 これは、“本來”は普通の世界で普通の人生を歩むはずだった少年――河原崎博孝の、普通ではなくなってしまった世界での道を歩む物語。 ※現実の歴史を辿っていたら、途中で現実とは異なる世界観へと変貌した現代ファンタジーです。ギャグとシリアスを半々ぐらいで描いていければと思います。 ※2015/5/30 訓練校編終了 2015/5/31 正規部隊編開始 2016/11/21 本編完結 ※「創世のエブリオット・シード 平和の守護者」というタイトルで書籍化いたしました。2015年2月28日より1巻が発売中です。 本編完結いたしました。 ご感想やご指摘、レビューや評価をいただきましてありがとうございました。
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☆2022/11/4 スターツ出版様 ベリーズファンタジーより発売予定です☆ 改題「私が大聖女ですが、本當に追い出しても後悔しませんか? 姉に全てを奪われたので第二の人生は隣國の王子と幸せになります」 ☆2022/6/12 白泉社マンガpark様にてコミカライズです☆ 原題「聖女は、捨てられた森で訳アリ美青年を拾う~今の生活が楽しいので、迎えに來られても帰りたくありません!~」でコミカライズ中です。 リアは九歳のとき、十二歳になる姉プリシラについて神殿に行く。そこで、姉妹ともども聖女と認定されてしまう。 この國ではひと家庭で二人以上聖女認定された場合、一人を差し出さなければならない。両親は聡明で美しく魔法を使えるプリシラを手放すのが嫌で、迷わず妹のリアを差し出した。 神殿に召し上げられたリアは聖女候補として厳しい修行を積み、六年後晴れて聖女となる。神殿の聖女の中でも、最も強い神聖力をもつリアは、神託により王太子の婚約者となった。 リアは金髪で美しく優しい王太子に淡い戀心を抱く。しかし、順風満帆に見えた將來に陰りが生じはじめた。 アリエデ王國の最北にある黒の森で魔物が大量発生したのだ。リアはこの國の聖女として討伐隊に參加しなければならない。王都と愛しい王太子に別れを告げ討伐隊とともに旅立った。 そして二年にわたる戦いののち、魔物の封印をなしとげ、王都に凱旋するはずだった。 だが王都に帰ったリアを待ち受けていたのは同僚聖女と戦友のうらぎり。 王太子との婚約もいつの間にか破棄されていて、新たに姉のプリシラが護國聖女の名を冠し、王太子の婚約者におさまっていた。 魔物討伐を長引かせた責をおわされ、役立たずの聖女として國を追放されたリアは、西側の隣國との緩衝地帯である惑い森へ捨てられる。そこにたくさんの魔物が巣食っていて……。 森をさまよううちに彼女は、魔獣に襲われた瀕死の金髪美青年を拾う。 ≪全51話予約投稿済み! 毎日18時ごろ更新予定≫ 流行りの追放聖女テンプレのつもり。聖女は無自覚でざまぁ(予定)します。題そのものがあらすじです。足の不自由な人が出てきます。タグ注意、地雷のある方はお逃げください。 誤字脫字報告ありがとうございます!!
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