《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.08 ロックとバラード
このゲームを始めてから、あっという間に一週間が過ぎた。僕はリアラさんの家で居候を本格的に始め、カナリアの活としては毎日ひたすら僕の練習に付き合ってもらっているという形になっている。アタルくんはというと、初心者と言いながらもかなりの腕前を持っていて、結局僕は置いてきぼり狀態になっている。
「うーん、やっぱりうまくいかないな……」
「そんなに焦らなくて大丈夫ですよカオル君。これでも最初よりはかなり上達しているんですから」
そして今日も、いつものように練習をしているのだけれど、やっぱりうまくいかずに皆にめられてばかりだ。
「せやね。ある程度は叩けるようになったもんな」
「でも、まだまだイベントに參加するには程遠いよ」
今の狀態の僕がライブに出たところで、笑いものにされるだけだ。でも他の三人の実力だけなら、間違いなく上位を目指せる。
「まあ、それはそうかもしれないですけど。俺だってまだまだ練習不足ですから、リーダー一人だけ気負わなくても大丈夫ですよ」
「そう言いながら、アタル君もすごい腕前じゃなん。初心者とは到底思えないよ」
「そんな俺なんか、他の皆さんに比べたらまだまだですよ」
「またまたぁ」
正直初めて彼の演奏を聞いたときは、度肝を抜かれた。これで初心者なら、僕は何なのか分からなくなってしまう。彼のギターの演奏を一言で言い表すとしたら、どちらかというに近いじなのだが、時々靜にもなったりする。つまり彼の演奏は々な形に変化し、その変化を僕達にじさせるくらいの演奏だった。いわば彼も才能の持ち主という事になる。
「そういえばこのバンドでも、オリジナル曲とか作たりするんですか?」
「オリジナル曲? 何それ」
「あんた本當なにも知らんのな。簡単に言えばウチらだけの曲を作るか作らないかって事や」
「あ、なるほど」
それは確かに必要な要素かも知れない。このゲームに用意されているデフォルトの曲だって多いわけでもないし、上を目指すというなら自分達だけの曲を作る必要がある。けどそれを誰が作るのか見當がつかない。
「俺もあんまり作詞作曲なんてしたことないです」
「うちもやで」
「まあ普段自分から進んでやるようなものじゃないですからね」
「でもやらなきゃいけないことだよね」
皆がうーんと唸る。ここはリーダーとして何か案を出さなければ……。
「そうだ!」
「何かいい案思いつきましたか? カオル君」
「もういっそ、皆で曲作ればいいんじゃないかな。そうすれば誰かに任せっきりとかにならないし、それぞれのいい味を出すこともできると思うから」
「おお、それはなかなかええ案やないか」
「確かにそれはいい考えですね。皆で一つの曲を作詞作曲するのは面白いですね」
「それ、俺も賛です」
「よし、じゃあ早速だけど始めようか」
『おー』
こうして僕達の初めての歌作りが始まった。
■□■□■□
で、始まったのはいいんだけど……。
「いざ作るとなると、どこから手をつければいいのかな」
「やっぱりメロディーとかからでしょうか」
「でも歌詞も大切やで」
「いやリズムとかも大切かと」
皆がそれぞれ出す意見がバラバラ過ぎて、なかなかまとまらない狀況に陥ってしまっている。
「でもテレビとかでよく見るけど、やっぱり音から作って、後からそれに合った歌詞をつける人とかが多いらしいんだよね」
「それはよく聞きますけど、やはり曲作りって大変だと思います」
「そもそも簡単なものちゃうからな」
ナナミの言う通りいきなり曲作りは簡単なものではない。だからデフォルトで何曲か用意されているし、初心者用の曲だってある。僕達もそれを練習すればいいんだけど、なんかそれだと面白くない。
「そもそもどういう曲調にするかすら決めてないよね」
「言われてみればそうですね。曲にもバラードとかロックとかありますからね」
「俺は基本どんなのでもいいんですけど、皆さんはどうですか?」
「うちはやっぱりロックやな。ベースにあった曲といったらやっぱりそれしかないやろ」
「私はあまり激しい曲はちょっと……」
「僕はそもそも話にならないと思う」
再びうーんと唸り出す。それぞれ弾ける曲はバラバラだし、得意不得意もある。その中で一つの曲を作るのは、やはり難しいのかもしれない。
(でもそれを乗り越えてこそ、バンドなんだよなきっと……)
音楽と縁がなかった僕にはあまり分からないことだけど、それぞれの個をいかいだすのかがこの先重要になってくる事の一つだと思う。それを今どうやって乗り越えればいいのやら……。
「いや、ちょっと待てよ」
「どうしたんやカオル」
「ジャンルで悩むくらいなら、いっそ混ぜちゃえばいいんじゃないかな」
「それはどういう意味ですか?」
「つまり一曲にロックとバラードの両方をれちゃえばいいんじゃないかな」
「なるほど! そうすれば誰かが苦手意識する必要なんてないし、得意な所で輝けるってことですね」
「でもそれって難しいような」
「いや、そうでもないよ。だってロックパートとバラードパートごとに分かれて、メロディーを作って、それを組み合わせて歌詞をつければいいんだから」
「そんなに都合よくいきますかね」
「やってみないと分からないと思うよ僕は」
うまくいくか行かないかは、ど素人の僕次第なのかもしれないけど、きっとできると思う。なんせこのバンドは、それぞれの分野の天才が集まっているバンドなんだから。
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