《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.12 二つの選択 二つの未來

四人で行う初めてのセッションは、予想通りグダグダだった。もうすぐ初ライブを控えているというのに、この調子だと確実に笑いものにされる、そんなレベルだった。

「初めてのセッションだったんですから、落ち込まないでくださいよ」

「そうは言われても、時間がないわけだし、僕ちょっと怖くなったよ」

今日の練習を終えて、皆が帰ったあと僕とリアラさんは復讐もかねて練習をしていた。

「怖いって気持ちは分かりますけど、きっとうまくいきますよ」

「それは僕をれて?」

「當たり前じゃないですか。カオル君はこのゲームを始めてからずっと努力してきているんです。しずつではありますが、上達してきています。それは私が保証します」

「リアラさん……」

「さあ、失敗しないためにももっと練習しますよ。時間はないんですから」

「はい!」

この日もリアラさんは夜遅くまで練習に付き合ってくれた。それはすごく嬉しいんだけど、何故だか分からないけど僕の気持ちはしモヤモヤしていた。勝手に自分で解釈なんかしたけど、彼がこのゲームの中での人間でしかないという言葉が、やはりまだ頭から離れていなかった。

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(リアラさんは、どうしてゲームの世界の人間なのに、こんなにも僕に優しくしてくれるのだろう)

はいわゆるモブキャラに近い存在だ。特殊な何かを持っていたとしても、ここまで僕のために々してくれるキャラクターなんて、今までやってきたゲームの中で一度もなかった。

だから不思議なのだ。彼がここまでしてくれる事が。

「ねえリアラさん」

「何でしょうか?」

寢る前、その理由を直接尋ねてみようと思った。

「いや、やっぱり何でもない」

けど僕は、怖くて尋ねることができずにそのまま寢室へと行ってしまった。分かっている。今はそんな事考えるより練習が大切だって。作詞ももうしで終わりを迎えるのだから、こんな所で余計なことを考えている場合じゃない。そう分かってはいるのに、

(どうしよう、全然いい歌詞が浮かんでこない)

もうし、もうしだというのに余計なことばかり考えてしまう。やはり聞くべきなのだろうか? それとも……。

『そういうお前も、いつまでゲームしているつもりなんだカオル』

ふと遠くから聲が聞こえる。まさかこんな所であの聲が聞こえるなんて有り得ない。いや、これはゲームなんだから、外側の世界の聲が聞こえるのはおかしくないのかもしれない。でも何で今までそんな事起きなかったのに……。

『いつまでも寢てるんじゃねえ!』

突然聲が頭の中に響いたと思うと、視界がいきなりに包まれそれが消える頃には何故か僕の本當の部屋に戻っていた。

「え? どうして?」

「どうして? じゃねえよ。どれだけお前は心配かけるんだよ」

「よかった。このまま目が覚めないかと思った」

そしてその場には何故か竜介と千由里がいた。

■□■□■□

狀況をあまりできていない僕に、竜介はここまでの経緯を丁寧に説明してくれた。

「お前の両親から電話があったんだよ。家に電話しても出ないし、心配して起こしに來たらずっとゲームやっている狀況だって。だからどうにかしてほしいって頼まれたんだよ」

「僕の両親が? そんなまさか」

あり得るはずがない。あの二人のことだ。適當に理由をつけただけだろ。

「何で噓だって言えるんだ? 現にお前の狀況はそうだったのに」

「そんなの竜介には関係ないだろ! こっちは折角ゲームを楽しんでいたんだから、邪魔しないでよ」

「邪魔って、こっちは心配して來てあげたのに、それはないだろ!」

「心配しなくたって僕は大丈夫だよ!」

「二人共やめてよ。もう夜遅いんだよ?」

「その拠はあるのか? 言ってみろ」

「僕には仲間ができたんだよ! 信頼できる仲間が」

つい怒った勢いで僕は言ってはいけない事を今言った気がする。でもそれは紛れもない事実だ。三人は僕にとって新しい仲間だ。勿論二人だってそう。そうだけど……。

「つまりお前は、俺達はもう親友じゃないって言いたいんだな」

「べ、別にそういう事じゃ……」

「帰るぞ千由里」

「え? まだ話が……」

「もうこいつは仲間じゃないんだ。何にも話すことないだろ」

「でも……」

竜介は嫌がる千由里を無理やり引っ張って外へ出ていこうとする。何としても、何としても止めなければ。僕の初めての友達をこんな所で失いたくない。

「待ってよ竜介。僕は……僕は……」

言葉が浮かんでこない。どうすえば僕の気持ちが伝わるのだろうか? どうすれば引き止められるのだろうか? 考えろ、考えるんだ。

「もしお前が……まだ俺達を親友と呼ぶなら、來週の日曜日、例の場所に來い」

だが僕よりも先にそう言葉を殘した竜介は、千由里と共に僕の家から出て行ってしまった。

(來週の日曜日って……)

僕たちの初めてのライブイベントがある日だ。まさに僕の人生の分岐點。親友をとるか、ゲームの仲間を取るかの、究極の二択。まだこのゲームを始めたばかりなのに、どうして僕はこんなにも災難に合わなければならないのだろうか? 自分の責任があるとはいえ、こんなのって……。

(僕は、どっちを選べばいいんだ?)

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