《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.15 歌姫 前編

「じゃあ二人の一人は話がついたんですね」

「はい。ただ、もう一人の方が問題で……」

次の日、僕は睡眠をとらずに朝からゲームにログインして、リアラさんに昨日のことを一通り話した。

「でもそれだけでも充分進歩したじゃないですか。あとはカオル君は二人を信じて、練習に集中するだけですよ」

「そうですよね。竜介ならきっと……」

僕の心の中の不安はいつの間にか消えていた。一日で簡単に消えるようなものではないと思っていたのに、まさかこんな簡単に消えるとは。

(これも全部、千由里のおかげかな)

「それにしてもカオル君、かなり眠そうですけど平気ですか?」

「昨日全く寢てないんですよ。でもそのおかげで、」

「おかげで?」

「待たせましたが作詞が完しました」

眠気を我慢してまでログインした本當の理由はここにあった。千由里との電話の後、頑張って作詞に力をれた結果、ようやく一曲分の作詞が完了した。ただ、まだ音も付いていないので、本番に間に合うとは思っていないけど。

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「本番にですか?! すごいですカオル君。是非その歌詞を見せてください」

「あ、はい。こ、これです」

誰かに自分の作詞した歌詞を見てもらうのは々恥ずかしく、手を震わせながら僕は歌詞カードをリアラさんに見せた。果たしてどんな評価を彼はしてくれるのだろうか。

十分後。

「すごいですよカオル君! 非常に良い歌詞です。これに後曲をつければ、きっといい歌になりますよ」

「本當ですか?!」

全ての歌詞に目を通したリアラさんはそう想を述べた。まさかここまで評価してくれるなんて思っていなかった僕は、すら覚えてしまった。

「ナナミさんとアタル君が來たら、二人にも見せましょう」

「はい!」

◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「おぉ、やるやないかカオル。これならいい歌が作れそうやないか」

「初めてなのにすごいな」

僕が書いた歌詞を見た二人の想はこんなじだった。リアラさんだけでなく二人にも評価してもらえるなんて、ここまで何度も悩みながら書いてきた甲斐があった。

「ただ、問題はこれをどうやって短期間で形にするかやな」

「そうだよね。初ライブには流石に間に合わなさそうだし」

でも問題は殘っていた。そう、これをいかにして歌という形にするかという大きな問題が殘っているのだ。いくら天才が集まっているとはいえ、歌を歌うのと作るのとは全くの別だ。それを何とかするには、それなりの才能を持った人が必要になってくる。

「それなら心配しないで私に任せてください」

「何か考えがあるんですか、リアラさん」

「はい。恐らく明日には出來上がっていると思いますから」

『あ、明日?!』

リアラさんの言葉に、三人が同時に驚きの聲を上げる。いくら何でも明日までにこの歌詞を一つの曲にするだなんて、無理にもほどがある。

「大丈夫です。私を信じてください」

それでもリアラさんはそう言い切ったので、僕達はとりあえず信じて待つことにした。

その日の夜。

皆がそれぞれログアウトしていく中、練習がまだ足りていないとじた僕は、今日もリアラさんの家に泊まり込みで個人練習をしていた。

(まだまだ足りない。もっと上手くならないと)

本番まで殘り僅かに迫る中で、僕はしだけ焦りをじていた。これだけ他の皆が上手い中で、一人下手な僕は浮いてしまうのではないか、とか悪いことばかり考えているうちに、いつの間にか練習にも力がらなくなり始める。

(駄目だ一度休憩して、落ち著こう)

水でも飲んで落ち著こうと考えた僕は、リビングへと向かう。が、その途中、どこからか聲が聞こえてきた。

「これは歌?」

恐らくリアラさんだと思った僕は、彼の部屋へと向かってみる。

「やっぱり歌だ。リアラさんもこんな時間まで練習してるんだ」

の部屋の目の前まで來て、僕はリアラさんが練習している事が分かり、し聲をかけようと思ってドアノブに手をかける。

「あれ? これって……」

だがその手を一度止めた。彼が歌っていた歌の歌詞に聞き覚えがあったからだ。

「僕が書いた歌詞だ」

しかもよく耳をすますと、それに合ったBGMが聞こえてきた。まさか彼は、もう曲を完させたのだろうから。

(さっきまで一緒に練習していたのに、どうしてこんなに早く?)

任せてとは言っていたけど、まさかこんなに早くできるとは思っていなかった僕は、驚きのあまり扉を開くのをやめた。何だか邪魔をしてはいけない気がしたからだ。

『歌姫』

そして僕はふと彼がこのゲームで呼ばれている名を思い出す。これもその歌姫の一種の能力なら、それはもはや天才の域を越えている。僕がそんな天才とバンドを組んでいるという事実は、周りから見たらあり得ないのかもしれない。こんな才能のない僕が、歌姫と組んでいるということが。

「さっきから盜み聞きなんてずるいですよカオル君」

その事実に引け目をじていると、いつの間にか部屋を出てきたのかリアラさんが聲をかけてきた。

「別に盜み聞きなんてしてないですよ。し話がしたいなぁと思ったんですけど」

「けど?」

「何か僕、リアラさんに申し訳ないことをしているような気がしました」

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