《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.21 そして年は歩み始める 後編
それがどれだけ勇気のいる事なのか、僕は分かっていた。外に出ればまた辛い思いをするのではないかという恐怖、そしてまた引きこもりを繰り返すのではないかという予。
それらに果たして打ち勝てるのか、僕には自信がなかった。
「正直まだ怖い。またあの場所に戻る事が。でも僕は、このバンドを始めてしだけ勇気が湧いたんだ。全てが悪なんじゃなくて、ちゃんと評価してくれる人達がいるんだって」
「聞いたけどあの歌詞を作ったのも薫君なんでしょ? すごくいい歌詞だったと思うんだ」
「あれはリアラさんがメロディーを付けてくれたから、一つの歌として完したんだよ。僕一人の力じゃどうにもならなかった」
まさかゲームで音楽を始めて、作詞を始めるなんて思ってもいなかった。でもそれがちゃんと評価されて、ドラムの腕もしだけ褒められるようになった。
(全てはあの時、リアラさんの歌聲に出會っていなかったら)
今の僕がここにいる事もなかったと思う。
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「まだゲームを始めて一ヶ月しか経っていない自分が言うのもアレだけど、初めてステージに立って、しだけ勇気をもらえたんだ。だから千由里達からも逃げなかった」
「私もまさか薫君の方からライブを見に來てしいって言われるなんて思わなかった」
「それが今の僕の気持ちを伝える為の絶好の場所だと思ったんだ。でもそこに至ったのも、リアラさん達が背中を押してくれたからだったんだ」
「じゃあちゃんと謝しないとね。その勇気が、薫君の新たな一歩を踏み出すきっかけになったんだから」
「うん」
それについては改めてお禮を言わなければならないと思う。
「千由里、僕決めたよ。すぐには上手く行かないかもしれないけど、もう一度だけ高校生活を始める」
「ほ、本當に?」
「その為に協力してくれないかな」
「そんなの……當たり前に決まっているでしょ。どれだけこの時を待っていたと思っているのよ、馬鹿」
「ば、馬鹿は余計だよ」
「でも本當に良かった……」
安心したように千由里が言う。もしも、僕が引きこもりにならずにここまで生きてこれたら、彼にここまで心配される事はなかったのかもしれない。
(でも僕はあの時……)
現実から、全てから逃げてしまった。ゲームの世界に飛び込んでしまえば、何もかも忘れられると思って。
「千由里」
「ん?」
「ありがとう」
でも彼達は僕に手を差しべてくれた。だから僕はその手を摑む。逃げてきた自分から抜け出す為に。
「どういたしまして、薫君」
■□■□■□
その後明日は休日(気がつけばゴールデンウィークにっていた)という事で、千由里はログアウトせずにリアラさんの家に泊まることになった。
僕はというと、リアラさんに先ほどの事を報告して、彼との作曲を再開する事に。
「そうですか。ちゃんと答えを出してくれたのですね薫君」
「はい。おかげさまで。とは言っても、まだこれはスタートラインですけど」
「それでもいいんです。私もカオル君の事でしモヤモヤしていましたから」
「え?」
「あ、えっと、作曲を再開しましょうか」
再開する前にリアラさんは僕が一歩を踏み出してくれた事を喜んでくれた。どうやら僕がいつまでもこんな狀態だった事を心配してくれたらしい。それが僕にとってはしだけ嬉しい事だった。
「ふーん、薫君って意外と」
「な、何だよ千由里。寢るんじゃなかったの?」
「寢ようと思ったけど、折角だし私も一緒に手伝おうかなって思って」
「手伝うって、千由里に音なんてあったっけ?」
「何よ失禮ね。私にだってそのくらいは」
「今までで最高の音楽の績は?」
「二よ」
「うん、知ってた」
本人は自覚はないと思うけど、千由里はかなり音癡だ。それは一緒にカラオケとかに付き合わされていた僕と竜介が一番知っている。
「本人はやりたがっていますし、チユリさんも參加してもいいんじゃないでしょうか?」
「リアラさんは聞いた事がないから分からないんですよ。千由里の音の無さを」
「音はなくても、作詞はできると思いますよ」
「おお、ここに救いの神が。リアラ様!」
「さ、様だなんてそんな。私の事はリアラでいいですよ」
「じゃあ私の事も千由里でいいよ。さん付けなんて呼ばれ慣れていないし」
「ではチユリ。カオル君に作詞のアドバイスを出してください。私はそこにメロディーを付けていくので」
ほぼ初対面に近いのに、ここまで気軽に話せる二人は一何者なのかと思ってしまう。しかも呼び捨てだなんて、僕は未だにさん付けで呼んでいるというのに。
「じゃあ頑張ろう、薫君」
「う、うん」
その後僕達は三人で作曲をする事になり、それは千由里が寢落ちしてしまうまで続いたのであった。
「今日はこの辺にしておきましょうか」
「そうですね」
千由里をベッドに運び終えた後、リアラさんが言う。そもそも千由里がここに來た時間が遅かったので、気がつけば時間は夜中の三時を回っていた。
「曲も大分形になってきましたし、これなら次のイベントまでにはもう一曲メロディーだけでも形にできそうですね」
「あまり無理しないほうがいいですよ。頑張ったのはほぼリアラさんですし」
「そういうカオル君だってほぼ寢ずに頑張ってたじゃないですか」
「それは、まあそうですけど」
結局はどちらも無理しているのは目に見えていた。急ぐ必要はないのに、何故か頑張ってしまう。いつの間にか僕は作詞をするのが楽しくなってしまっていたようだ。
「リアラさん」
「はい」
「僕、音楽楽しくなってきました」
「それは良かったです。私も楽しいですよ、こうして曲を作れるの」
「僕も同じです」
最後にそう會話してそれぞれの部屋にる。
(まさかこんなに音楽を作るのが楽しいなんて思わなかったな)
この時間をもっと共有できればいいなと僕は思いながら、この日は眠りについた。
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