《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.22 一度の傷はいつまでも深く

二日後、ゴールデンウィークが半ばにった頃に一度ログアウトした僕は、千由里のいで外に出ていた。

(日差しのある時間に外へ出るなんて久しぶりだなぁ)

僕は待ち合わせの公園で千由里を待つ。しばらくして竜介を連れて千由里がやって來た。

「まさか本當に外へ出るなんてな、薫」

し久しぶりだね竜介。太った?」

「しばらく會ってない親友に対する第一聲がそれかよ」

僕は竜介をからかいながらも、心の中ではちゃんとした形で再會できた事に喜んでいた。あのイベントからそれなりに時間が経っていたし、もしかしたらまた元に戻ってしまっているのではないかという不安があった。

(でも、よかった……)

「それでこれからどこへ行くの? ゴールデンウィークだからどこへ行っても混んでそうだし」

「これから行くのは勿論、薫君の家だよ」

「ぼ、僕の家? どうしてまた」

「ゆっくり話をするならそこがいいかなって、竜介君と決めたの。それにほら、私達もこれ持ってきているし」

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そう言って千由里が取り出したのは、例のゲーム機。どうやらゴールデンウィークだというのに、家でゲームをするつもりらしい。

「それにまだ薫は人混みが多いところは無理だろ? だからそこがベストなんじゃないか?」

「まあ、そうだけど。だったら、僕の家に直接來ればよかったのに」

「それだと意味ないでしょ? 薫君は引きこもりを卒業するんだから」

「あ、そっか」

だからわざわざ気を使って、近くの公園でも外へ出るようにしてくれたのか。この晝間に外へ出るのはちょっと躊躇いがあったけど、どうやら僕は一歩ずつ歩み始められているらしい。

「じゃあ早速行こうか、二人とも」

「何だよ薫、なんだかんだ言ってお前がいちばん乗り気じゃねえか」

「そうかな」

「もしかして何かいい事でもあったの?」

「別に〜」

■□■□■□

という事で十分ぶりに我が家へ帰宅。両親は案の定仕事でいないので、二人をリビングに通す。

「相変わらずお前の両親は不在か。いつ帰ってきてるんだ?」

「さあ? 僕もしばらく會ってないから」

「本當親子なのかって疑いたくなるよなそれ」

「それは、まあ分かるけど」

現に全く會っていないのだから、僕もそれは否定できない(本當の親だけど)。

「私達も電話をけた以外は會った事ないもんね」

「というか、どうして電話番號知っていたんだ」

「言われてみれば確かに。何でだろう」

それに未だに疑問なのが、今まで全く引きこもりの僕を気にも留めなかった両親が、わざわざ僕を心配して千由里達に連絡した事だ。親なのだから當たり前だとは思うけど、僕の家は特殊だ。だから謎が多い。

「まあそれは置いておくとして、俺は薫に聞こうと思っていた事があるんだ」

「僕に聞きたい事?」

「千由里に聞いたんだが、お前は本當に高校生活をやり直そうと思っているのか?」

「すぐには、とはいかないけど僕はそのつもりだよ。もう一度だけ戻ろうと思うんだ」

「その気持ちに偽りはないか?」

「うん」

ここまで來て噓を言う必要はない。リアラさんや千由里が背中を押してくれた今なら、きっと立ち直れると僕は思っている。

ただ立ち直る事とは別に、僕の中にはもう一つのも湧いていた。

「そうか。それを聞いて安心したよ。変わったなお前」

「そうでもないよ。まだ外へ出るのだって勇気いるし、公園までしか行ける事ができなかった。それに」

「それに?」

「僕はまだ許せていない事が沢山ある。時間が経ったら忘れるかなって思ってたけど、改めて怖さと同時に怒りも湧いてきているんだ」

「それはもしかして私達の事をまだ……」

僕が引きこもり始めたのは高校二年生の夏休みが終わった頃。キッカケは學校でめられていたから、とは別に僕はこの現実を信じる事が出來なくなっていたからだ。

(僕はあの時裏切られたんだ。今もそれは忘れられていない)

その相手が、目の前の二人だとしてもだ。

「あまり僕も思い出したくないし、こういう場で話すと折角の楽しい事も出來ないから今は言わないけど、僕はまだ忘れてないからね」

「俺達も忘れてない。それでお前の心に深い傷を負わせてしまった事も。だから何度でも謝るよ」

「それは私もだよ」

「謝る気があるならさ」

思い出すだけでも心の中の黒い何かが湧き上がってくる。

「どうしてずっと僕を騙していたのさ」

「俺達もその、お前にいつかは話そうと思っていたんだよ。けどお前はそれよりも早く知ってしまったんだ」

「いつかは、ね。だったら黙ってなければ僕もしは気持ちは楽になれたよ。ただでさえ自分を支えるのがやっとだったんだから」

「……ごめんね薫君」

折角三人で集まったのに、空気が重苦しくなってしまう。僕もいつまでもネチネチしていて格好悪いのは分かっている。だけどそれを許したら、あれらを全てれてしまう。それが僕は嫌だった。

「っと、ごめんね。こんな話をするために集まったんじゃないし、ほらゲームやろうよ。わざわざ機械まで持ってきているんだからさ」

「う、うん」

「そ、そうだな」

この後無理やり空気を変えた僕は、折角なので二人を連れてマセレナードオンラインにログインするのであった。

(ドラムを叩いて、しでも気を楽にしないと)

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