《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.24 歌姫としての役目 前編

リアラさんと話をした後ログアウトした僕達は、近くのコンビニで買ってきた弁當を食べていた。

「薫、元気ないけどどうした?」

「え、あ、いや、何でもないよ」

「ん?」

リアラさんの話がずっと頭から離れていない僕は、先程から會話が頭にらなかった。ただリアラさんにこれは話さないでしいと言われているので、僕がしっかりしないといけないのは分かっている。

(分かっているけど、僕は……)

一人悩み続けても意味があるのだろうか。

「薫君、さっきまであんなに元気だったのに、何かあったの?」

「別に特にはないよ。さっきもリアラさんと今後の予定を話しただけだし、多分疲れてあたるだけなんだと思う」

「そういえばずっと練習しているもんね」

「うん」

ここはうまく誤魔化す。また怪しく思われてしまうのもアレなので、僕は無理やり話題を変えてみる事にした。

「そういえば二人共、今日練習してみてどうだった?」

「なかなか難しかったよ。よくお前一ヶ月でドラムを叩けるようになったな」

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「言うほど上手くなってないよ。まだナナミとかアタルの方が上手だし」

「その二人ってバンドのメンバーだっけ?」

「ナナミは関西弁のベースの子で、アタルはギターを弾いているんだけど、二人共すごく上手なんだ。ナナミなんてゲームで噂になっていたくらいだし」

「へえ。今度會ってみたいな私」

「それだったら今度は練習がある時にログインすればいいよ。二人共いい人だから、すぐに仲良くなれると思う」

「そうだな。何か今日練習したらまた弾きたくなったし、それもいいかもな」

僕からしてみれはこの二人とあの二人が會ったら、どんな化學反応を起こすのかし楽しみだし、それで二人もこのゲームにハマってくれればいいなとか思っている。

(そうすれば自然と……)

僕の中にある闇だって消えていってくれるだろうし、失った時間を取り戻す事だってできる。まあその前提として、僕がまず學校に再び登校しなきゃいけないけど。

「何かさこうして三人で顔合わせて普通に話すのって、久しぶりな気がするな」

夕食を食べ終えた後、竜介がそんな言葉を口にする。

「出會って最初の頃は毎日のように話してたからね、僕達」

「だな。何かそれも懐かしく思えるよ俺は」

「うん。そうだね」

「また毎日のように話せるようになるといいね」

「まあ、俺達も高校三年生だし、そんな余裕も無くなってしまうけどな」

「そういえばそうだね」

五月とはいえど、もうすぐそれぞれの進路に向けて本格的な準備をしなければならない。僕の場合は卒業すら危ぶまれるけど、それぞれの道がある分、同じ時間を共有できる日がなくなっていく。

今こうして和解して三人で話せているけど、それもいつかは……。

「さてと、そろそろまたログインするか」

一息ついて竜介がゲーム機を取り出す。そういえばこの後も練習するんだったっけ。

「あ、ちょっと待って」

「どうした薫」

「ちょっとリアラさんと話がしたいから、ニ十分後くらいにログインしてほしいんだけど」

■□■□■□

「それでわざわざお二人に待ってもらっているんですか?」

「はい」

竜介に頼んで先にログインさせてもらった僕は、リアラさんにその事を説明した。

「この話を二人がいるところで話せないんで」

「先ほどの私の話なら、もう話す事は殘っていませんよ?」

「それは分かっています。僕が単純に話をしたいだけです」

本當はし日付をあけてから話そうかと思ったけど、それだとナナミ達がいるのでタイミングをつかめないと思って、こうした形で話をする事にした。

「僕はまださっきの話を信じる事ができないんです」

「その気持ちは分かります。しかし事実なのでカオル君には知っておいてもらいたいんです」

「そうだとしても、何も証拠が無い限りではそれを信じる事は出來ません」

「証拠ならカオル君自験をしているのではないでしょうか?」

験?」

思い當たる節は一つある。もしかしてあれは、リアラさんも自覚があって……。

「私みたいな特殊なNPCのにはありとあらゆる報が流れている。それ故にその報を外へ出す事によってしずつその役目を果たしていくのです。歌を作り上げるのはその能力の一環、そしてこの私の歌でさえも」

じゃああの時僕がれたのは、リアラさんの報の一部だったという事だろうか。だからバラバラだったし、全くもって僕には理解する事ができなかった。

「じゃあその役目というのを全て果たした時が」

「私の終わりを意味しています。ようは私は歌を失うんです」

歌姫が歌を失う。それは普通のNPCへと戻ってしまうという意味を示している。リアラさんがさっき話したのはこの事だった。

仲間の話をした時寂しそうな顔をしていたのは、彼はいずれ自分の存在を失う。つまり僕達のやうなバンドのメンバーや千由里達のような友達と一生の別れを意味している。

「それが怖くて私はずっと避けていたんです。だからほぼ毎日のように一人でに歌っていたんですよ」

「そこに僕が現れたから……」

「今となっては後悔していませんよ。こうして素敵な方とお會いできたのですから」

笑顔でそんな事を言うリアラさん。僕はそんな話をされても、彼がそういう存在である事を信じたくなかった。こんなに苦しんでいる子がどうしてそんな……。

「でもすぐに別れが來るわけではありませんから、悲観する事はないですよカオル君。カオル君はいつも通りでいてくれればいいんですから」

「そんないつも通りだなんて……」

僕にはあまりににも荷が重すぎる話だよ、リアラさん。

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