《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.26 彼を想うほど

「どうして歌姫の事を知っているんですか? もしかしてあなたもマセレナードオンラインを……」

『違います』

「違うならどうして」

『そもそも何故あなたは歌姫と聞いて、そこまで反応するのですか?』

「そ、それは……」

明らかに向こう側は何かの意図を持って僕に電話をかけてきているに違いない。そうでなければ、こんないかにもなタイミングで電話を掛けてくるわけがないし、歌姫なんて言葉を突然口にはしない。

(でもそれがリアラさんと関係あるとは限らないし……)

リアラさんの口ぶりからして、歌姫はもしかしたらあのゲームには複數いると考えている。もしたった一人ならば、僕が出會ったのはほぼ奇跡に近いだろうし、それはゲームバランスとしてはどうなのだろう。

(そもそもリアラさんがゲームのキャラクターとは言えないけど)

『あなたが気になっているのは、リアラという子ですよね。彼は歌姫だといい、ゲームのキャラクターでしかないと言っているとか』

「僕はそれを信じていませんけど」

『私の推測では、恐らく彼は歌姫ではないでしょう。元々の能力が異常に高いプレイヤーだと思います』

「その言い方だとあなたはリアラさんの歌を聞いたような口ぶりですが、どうしてそこまで言い切れるのでしょうか。そもそもどうして僕がその事で悩んでいるのを」

『その話はいづれあなた自が理解するでしょう。そしてもし、あなたが彼の事を信じ続けるなら、私はあなたをサポートします。この件は任せてください』

「だから任せるも何も、あなたは一

『それではまた。迷リストにれたりしないでくださいね』

「あ、ちょっと!」

結局電話の主が誰なのか分からぬまま電話は切れてしまった。

(迷リストにれないでくれって言われてもなぁ)

リアラさんの事を知っていそうだから一応はれないけど、正が分からない以上信じる事は難しい。

(とりあえず今後は、警戒しておかなきゃ)

■□■□■□

謎の電話から三日後のゴールデンウィーク明け、僕は晝頃にログインしていた。しかしリアラさんの部屋にすぐに向かわず、ある場所に立ち寄っていた。

(このゲームの事をもっと知るべきだよな、やっぱり)

その場所とは資料館みたいな場所。ゲームの基本的な説明などもここで調べる事ができる。他にはこのゲームの単語や音楽教本、楽譜なども保管されていた。

(歌姫……このゲームでほぼ遭遇不能なキャラ、か)

出會えてもバンドにう事はほぼ難しいと言われている。でもう事ができたバンドは、大きなものを得る事ができるという。しかしその代償として、

(ずっと一緒とはいかない。彼達の歌はあくまで能力で、それを失えば)

ただのNPCになる。リアラさんが言っていた通りだ。

「こんな所で何をしとるんや、カオル」

黙々と資料を読み続けていると、背後から聞き覚えのある聲に話しかけられる。

「ちょっと調べたい事があって、リアラさんの家に行く前に寄ってみたんだ」

「確かにこのゲームはまだ分からん事ばかりやからなぁ」

ナナミは機を挾んで僕の目の前の席に座る。手元には何も持っていないので、たまたま僕を見かけて話しかけてきたのだろう。

「やっぱり気になるんか、リアラの事」

「え、ぼ、僕は別にリアラさんの事を調べているわけじゃ」

「隠しても無駄やで。まあ隠しても丸分かりやけど」

「そんなに僕分かりやすい?」

「バレバレや。そのページ明らかに歌姫の事が載っているものやし」

「あ」

「まあ調べたい気持ちは、分からん訳ではないが」

何かを理解したのか、うんうんと頷くナナミ。もしかして彼も実はリアラさんの事を。

「ナナミは本當にリアラさんが歌姫で、このゲームだけのキャラクターだって思う?」

「うちは思うとらんのう。カオルみたいな人間がそんな希キャラに遭遇できるとは思わんし」

「し、失禮な。僕だって」

「それにリアラが消えるなんて考えられん」

「え」

思わぬ言葉がナナミから出てきて、僕はちょっとだけ驚く。でもすぐに僕は理解した。彼はこのゲームのプレイヤーなのだから、その話を知っていても不思議ではないのだ。

「リアラは隠しとるみたいやけど、し調べればその位分かるんや。もしかしてカオル、知らんかったのか?」

「ううん。僕は最近リアラさんから直接聞いた」

「そうやったんか。だから調べっとったんか」

「うん」

でもあくまでここに載っているのは基本的な事な訳で、それ以上の事は載っていない。

「僕は信じたくないんだ。リアラさんが消えてしまうかもしれない可能を」

「うちもそう思っとる。でもこれって、ある意味彼のプライバシーを侵害してるとも言える。変に探るのもよくないで」

「うん。それはわきまえているよ」

僕が知りたいのは、たった一つ。それさえ分かればそれ以上の事を知る必要はない。

「それにしてもカオルがまさかそこまでリアラを思うておるとはな」

「どういう意味だよそれ」

「カオル、リアラの事が好きやろ」

「え?」

「せやからそこまでリアラの事を知ろうとしておる。それが例え危ない事でも」

「べ、別に僕はそんな」

「ええんやで。あんたも男やからのう」

ただ僕は、リアラさんを放っておく事ができないだけで、そんな好きとかそういうのではない、はず。

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