《とある素人の完全駄作》8話 一方通行と絶対支配

ある日の夜。時刻は午後8時を半ば回った頃。學園都市のある所で、怪と支配者が、ぶつかり合う。

ズボンのポケットに両手をれて立つ白い怪アクセラレータが言う。

「準備は出來たかよォ?」

數メートル離れた位置に立つ黒い支配者ドミネーターが返す。

「うん、あとは演算とタイミングの調整が上手くいけば、アンタをトバせるぜ」

ヂリッと。空気が焼けるようなが漂う。耳が痛くなるような靜寂を破ったのは前田だった。

「じゃあ、行くぜ」

ズバァァァァァァァァ!!!!!!!!

宣言するや否や、前田がその背に翼をばす。

翼を広げ、夜空を昇る。それを見て一方通行アクセラレータは、

「おー、スゲェスゲェ」

心するように笑い、同時にその正を見抜く。

(絶対支配ドミネーターってのは、あらゆるエネルギーをる能力。っつーことは、ありゃ熱で気圧イジってンのか。ハッ、なかなか考えたなァ)

そして、前田は上昇を止める。一方通行アクセラレータの真上で。

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「あァ?」

訝いぶかしむ第1位。その視線の先で、年の右拳が薄く青いを放つ。目視出來る程に圧された運エネルギーの。直撃すれば、その拳に宿る衝撃波の、絶対的な破壊力が敵を襲う。そう、直撃すれば。一方通行アクセラレータにとって、直撃とは直撃であっても直撃ではない。例えどんな攻撃が直撃しても、それは全てそのまま反され、自分に屆く事はない。前田のやろうとしている事は、玉砕確定の敗北固定イベントだ。

(さっきまでギャーギャー文句言ってたクセに、どォいうつもりだ?)

そして、もう一つ。第1位が不審がる事があった。

(さっきから何か反してると思ったら、こいつァ・・・・・・音波? 微弱な音波を右拳から放出してやがる。ンだァ、こりゃ?)

そして、前田は翼を広げるとーーー

急降下。

ゴッッッ!!!! と、空気が切り裂かれる。怪と支配者の視線がわる。

前田が蒼拳ソウケンを引き絞る。同時にそこから微弱な音波を放ち続ける。音波は全て第1位の防護壁によって反され、前田の右拳に當たる。放った音波の反響。その用途はと言えばーーー

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(......!、まさかこいつ!!)

前田の意図に気付く一方通行アクセラレータ。しかし、もう遅い。既に目の前まで迫っていた前田は、蒼拳を叩き込む。音波を放つ拳と跳ね返った音波。その距離がゼロになる、その瞬間。

(......今!!)

前田の脳を駆け巡っていた無數の數式に、新たな數式が加わる。演算が追加される。

思考が。

加速する。

一瞬という言葉でもまだ永ながい、ごく僅かな時間で前田は、あるエネルギーをる。制する。そして、それとほぼ同時に。

エネルギーの制を、自ら手放す。

その直後。

ドゴォォォォォォォン!!!!!!

轟音が鳴り響く。

學園都市最強の怪の意識がトバされ、が地に沈んだ瞬間だった。

と支配者の激突から數十分後、一方通行アクセラレータは目を覚ます。

(......っ!、......なンだァ、ここは?)

目を開けると、全く知らない天井が見えた。ベッドのようなものに橫たわっているようだ。額に何かが乗っている。手に取ってみると、濡れタオルだった。ようやく聴覚の方も働いてきた。ウゥゥゥゥ......という、機械が唸うなるような音、そして、カシャカシャカシャカシャカシャカシャという音。部屋は暗いが、音がする方からは眩しいほどのがある。一方通行アクセラレータがを上げると、音源と源の方から聲がかかる。

「おー、目ぇ覚めた?まだ痛む?」

目を向けると、黒髪の年がいた。意識を失う前にかち合った年。彼の前には機があり、その上にはデスクトップPCがある。音源と源はそれのようだ。

「どこだ、ここは?」

「學生寮の俺の部屋。で、まだ痛む?」

前田の質問には答えずに、逆に第1位は言う。

「音エネルギーをって音波を放ち、反したそれを利用して俺の防護壁の位置を割り出した。で、防護壁に拳が當たった瞬間に、右拳の運エネルギーの一部を位置エネルギーに変換した。そォすっとオマエの拳は位置エネルギーによって上昇しようとするが、『防護壁にれながら』上昇させる事で上昇が反され、逆に俺に攻撃が當たるよォになる。後はエネルギーの制を手放しちまえば、攻撃は勝手に當たる。つまりオマエは、俺の自的な反を逆手に取って俺を攻撃した。そォだろ?」

しばしの沈黙。

そして一方通行アクセラレータの言葉に前田は答える。

「流石さすがは學園都市最強。速攻で見破りやがった」

「チッ」

舌打ちをすると一方通行アクセラレータは壁に掛けてある時計を見る。

午後8時58分。

(あーあー、こりゃ遅刻だなァ。さっさと帰って行くか)

すると、怪の思考を読んだかのように、

「缶コーヒーならテーブルの上だよー」

「......おォ」

ベッドから降り、テーブルへ歩み寄り、缶コーヒーの袋を手に取る。そのまま部屋を出ようと、玄関のドアノブに手をばす。その時。

「おやすみー」

部屋の奧から聲が屆く。ドアノブを摑む寸前でピタッと止まる一方通行アクセラレータ。そして背を向けたまま部屋を出る。ただ、一言だけ。

「......おォ」

バタンッ

部屋ではまた、キーボードを叩く音と、CPUクーラーの音だけが響き始めた。

學園都市のとある路地裏。その暗がりを歩く人があった。一方通行アクセラレータだった。絶対支配ドミネーターの年の部屋を出て、一旦マンションの自室に戻って缶コーヒーの袋を置いてきたらしく、両手はズボンのポケットにれられている。俯うつむき加減で歩く彼の頭上から、抑揚よくようのない平坦な、の聲が降りかかる。

「実験開始時刻から、9分22秒の遅刻です。と、ミサカは報告します。あなたが遅刻とは珍しいですね、何をしていたのですか?と、ミサカは驚きを素直に表現しつつ、簡潔に質問します」

顔を上げた第1位の視線の先には、常盤臺中學の制服を著たがいた。肩まで屆く短めの茶髪。その上には大きな黒いゴーグル。學園都市第3位の超能力者レベル5、『超電磁砲レールガン』琴みさかみことのDNAマップを基に造られた、軍用クローン。『妹達シスターズ』の一人。この夜、狂気の実験、『絶対能力レベル6進化シフト計畫』の生け贄となるだ。

「別に、大した理由なンざねェよ。寢坊だ、寢坊」

吐き捨てるように言う一方通行アクセラレータ。そんな彼に、は聲をかける。

「そうですか。と、ミサカは納得します。それでは、遅れた分を取り戻すために、早速今日の実験に移ります。と、ミサカは宣言します」

「勝手にしろ」

ガシャッと音を鳴らし、両手で銃を構えながらは言う。

「それでは午後9時10分04秒。本日の実験を開始します。と、ミサカはーーー」

の言葉を、一方通行アクセラレータは聞いていなかった。

(俺に一撃喰らわせた奴なンざ、初めてだなァ。面白おもしれェ、面白ェな、あいつ。それに比べて......)

目の前で自分に銃を向けるクローンを見て、第1位の怪はため息をつく。

(こいつは、退屈だなァ......)

そしてこの日もまた、一人の軍用クローンのの命が、學園都市の闇に消えるーーー

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