「え......？、智也......君？」

絶対的な破壊力で幻想猛獣AIMバーストを追い込んだ、心強い味方。その前田が、全からを流して倒れていた。

「智也君!!」

慌てて駆け寄る琴みこと。

「智也君!? ねぇ、ねぇってば!!」

前田の橫に跪ひざまづき、そのにれる。

（何これ......傷が深すぎる!! ウソ、なんで......）

混する琴。そんな彼の脳裏に、前田の言葉がよぎる。

『この能力には、3つの致命的な欠點がーーー』 

絶対支配ドミネーターの欠點。それは、「コントロールが難しい・コントロールを誤った時のダメージが大きい・上手くコントロール出來ても消耗が激しい」

つまり、普通に使っていてもダメージをけるのだ。

しかも、全フル加速アクセルは負擔が大きいから1分しか使えず、更に3分休まなければならない。そんな技を別の技と組み合わせて強引に強化したのだ。制限時間タイムリミットは1分どころか、30秒もないだろう。その狀態で、前田は更に能力を全解放して大技を放ったのだ。下手をすれば琴の超電磁砲レールガンさえをも超越するような必殺の大技を。どれだけの負擔がにかかるか、その結果、どれほどの傷を負うか、想像に難かたくない。

それでも彼は、そのチカラを躊躇ちゅうちょなく使った。

劣勢の琴を、時間に追われる初春ういはるを、そして、倒れた佐天さてんを助けるために。

友達のために。

「バカッッッ!!!!!!」

思わずぶ琴。しかし、前田はピクリとも反応しない。

「こんなっ、こんなトコで死んだりなんかしたら、佐天さんがどれだけ悲しむと思ってるの!? 佐天さんの事、大切なんでしょ!? 佐天さんのためにチカラを使っても、そのせいで佐天さんが悲しむ事は考えなかったの!?」

なおも聲を張り上げるが、やはり前田はかない。

幻想猛獣AIMバーストが再生を終える。だが、琴はそんな事にも気付かない。そんな余裕などない。

目の前で、友達が死に瀕ひんしているのだから。

（っ！、どうすれば......！）

ビュルッッ!!と、怪の手が琴を捕らえる。

「っの......鬱陶うっとうしいわね!!!!」

ぶと共に雷撃の槍を放つ。琴を攻撃しようと迫っていた、別の手を斷ち切る。

（攻撃しても、すぐに再生するんじゃ......あれ？）

琴の頭に疑問が浮かぶ。怪の手が煙を上げて千切ちぎれたままなのだ。

（再生しない!? なんで......）

その時、琴は気付いた。學園都市中に奇妙な音楽が流れている事に。

（この曲......治療ちりょうプログラム！ 初春さんやったんだ!!）

それならば、あとは簡単だ。

倒せばいい。

び続ける幻想猛獣AIMバーストに向かって、學園都市第3位は言葉を放つ。

「悪いわね......これでゲームオーバーよ!!」

圧倒的な破壊の電撃が、幻想猛獣AIMバーストを襲う。ひときわ大きな絶ののち、怪が地に沈む。

解放されるや否や、琴は前田に駆け寄ろうとする。

「智也く

「油斷するな!! まだ終わっていない!!」

橫合いから、木山きやまのびが響く。

「なっ、アンタなんでこんな所に......!?」

琴のびは、再び途切れる。

理由は簡単。

幻想猛獣AIMバーストが、起き上がったからだ。

「なっ！ なんで!? 倒したはずじゃ......!?」

「ヤツは一萬人の子供たちの思念の塊かたまりだ。普通の生の常識は通じない！」

琴は木山の言葉に愕然がくぜんとする。

「そんな......じゃあどうすればいいってのよ!?」

答えはすぐに返ってきた。

「核が！、......力場りきばを固定する核のようなが、どこかにあるはずだ......それを破壊すれば......！」

その時。

この場にいるはずのないの聲が響いた。

『なんだかな......』

琴はハッとした。聞き間違えるはずがない。その聲は、彼の友達のそれだ。

「佐天さん？」

『無能力者レベル0って、欠陥品けっかんひん』

『だと思ってやがる』

『のが許せない』

『駄目だって』

『無能力者レベル0だからって』

佐天だけではない。彼の聲に続き、複數の人間の聲が聞こえる。

「これは......」

驚きの聲を上げる木山。

そう。これは、

幻想手レベルアッパー使用者たちの、心の聲だ。

『毎日が、どれだけ慘みじめか』

『あなたには、分からないでしょうけど』

『その期待が、重い時もあるんですよ』

最後の言葉は、佐天のものだった。それらを靜かに聞いた琴は、意を決して、木山に一言。

「下がって。巻き込まれるわよ」

「構うものか。私にはあれを生み出した責任が

「アンタが良くても、アンタの教え子はどうすんの」

ハッとした表になる木山。彼が幻想手レベルアッパーの事件を起こしたのは、とある科學者、木原幻生きはらげんせいに人実験のモルモットにされ、今なお眠り続けている教え子たちを救うためだ。彼は、「學園都市の全てを敵に回しても、止めるわけにはいかない」と、そう琴に宣言したのだ。

「快復かいふくした時、あの子たちが見たいのは、アンタの顔じゃないの？」

琴の言葉が、木山の心に刺さる。

「こんなやり方しないなら、私も協力する。そんな簡単に諦めないで」

琴の優しさが、木山の心に染みる。

その時。

幻想猛獣AIMバーストの手が、またも琴に襲いかかる。

それに気付く木山。

しかし琴が、

「あとね......」

そう続けた、次の瞬間。

ズヴァヂィィィィ!!!! と。眩まばゆい程の閃と共に電撃が手を迎撃げいげきする。その圧力に木山が圧倒される中、坂みさか琴みことは、

「あいつに巻き込まれるんじゃない」

學園都市最強の発電系能力者エレクトロマスターは、宣言する。

「私が巻き込んじゃうって、言ってんのよ!!」

言い終えると同時に、『雷撃の槍』を放つ。

直撃。いや、防がれている。

一度琴と戦った木山は、その理由を見抜いた。

（あれは、私が使用していたものと同じ電力場ゆうでんりきば。やはり、彼の能力チカラでは......）

そう思った矢先だった。

琴の放つ雷撃の槍が、激しくなったのは。

電撃を防いでいるはずの怪の巨に、ダメージがる。それも一時的なものではない。しずつ、巨が削れていく。黒ずんでいく。

（っ！電撃は、直撃していない......だが、無理矢理ねじ込んだ電気抵抗の熱で、の表面が消し飛んでいく......！ 私と戦った時のあれは、全力ではなかったのか......!?）

驚きを隠せない木山。彼の視線の先で、ふと、琴がいた。何かを見て、その目を見開き、何かに驚いている。その視線を追った先に、答えがあった。

まみれの年が、地に伏ふしたまま、右腕を琴に向けてばしていた。五指をしっかりと開いたその右手が、黃金のを放っている。そのは琴に吸い込まれていく。いや、違う。

彼自が、琴のに流し込んでいるのだ。

そして、黃金のは、もう一筋びていた。幻想猛獣AIMバーストに向かって。

琴が呟く。

「智也君......ありがとう。やっぱり『絶対支配ドミネーター』ってすごいわね」

驚愕する木山。

（絶対支配ドミネーター!? という事は、っているのはエネルギー......まさか......電気エネルギーを彼に譲渡じょうとして電撃そのものを強化している......!? しかも、熱エネルギーをって、電気抵抗の熱までも強化している......!? そんな事が......）

絶し続ける怪の中で、何か、謎のにダメージが、わずかに、だが確実にる。

「ギュアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

今までで一番激しい悲鳴。それと共に、長大な手を絡からめて巨腕をつくり、琴に襲いかかる。しかし、

「ごめんね」

そう呟いたのった、膨大な量の砂鉄が地面から吹き出し、巨腕を弾き、斬る。

無能力者レベル0たちの聲が聞こえる。

『俺だって』

『能力者に』

『なりたかった』

琴は続ける。

「気付いてあげられなくて」

空中に、巨大な氷柱つららのようなが作られ、琴に降り注ぐ。

『しょうがないよね』

『私には、何も......』

『ぶっ壊してぇ......』

バキャァァァァン!!!! と音を立てて、砂鉄が氷柱を々に砕く。

琴は呟く。いや、語りかける。

「頑張りたかったんだよね」

佐天の聲が聞こえる。

『なんの力もない自分が嫌で......でも、どうしても、憧れは捨てられなくて......』

心の聲に答える。

「うん、でもさ。だったら、もう一度頑張ってみよう」

甲高い雄びを上げて、幻想猛獣AIMバーストが襲いかかる。

琴が右腕をばす。

キンッ、と。

ゲームセンターのコインが、宙を舞う。

「こんな所で、くよくよしてないで。自分で自分に、ウソつかないで......もう一度!!」

青白いが琴の右腕を走り、前田の右手が、一際ひときわ強くる。そして、

ズドォォォォォォォ!!!!

轟音と共に放たれる、必殺の一撃。

『超電磁砲レールガン』

一直線にびる線が、幻想猛獣AIMバーストの巨のド真ん中を貫く。

何か、黒い三角柱のようなが、怪を形作っていた核が、破壊される。

怪の巨の真ん中に空いた巨大な風から、何かが溢あふれ、幻想猛獣AIMバーストのが真っ黒になる。それを見て、木山は呟く。圧倒されるように。

「これが......超能力者レベル5......」

し離れた所から見ていた初春は、

「やっ......たぁぁぁぁぁぁ～............」

力が抜け、警備員アンチスキルに支えてもらっていた。

その後、木山は警備員に連行され、前田は病院へ搬送はんそうされた。冥土帰しヘヴンキャンセラーと呼ばれるカエル顔の醫者によって、一命をとりとめた前田は、復活した佐天にスカートをめくられた初春の、

「キャーッッッッ!!!!」

で、目を覚ました。

「......、」

無言で自分の右手を見つめた前田は、その手を天井へ、いや屋上へ向けてばした。音エネルギーをり、佐天の聴覚をダイレクトに刺激して、伝える。

『オカエリ』

と。