《とある素人の完全駄作》12話 ありがとう(最終話)

「ハッ!!」

佐天涙子さてんるいこはガバッと起き上がった。荒い息を繰り返し、呟く。

「夢......?」

は、自分が先ほどまで見ていた夢に出てきた、年の姿を思い浮かべていた。年の名を呟く。

「智也ともや......」

前田まえだ智也。奇能力者レベル0+の年。琴みさかみこと、白井黒子しらいくろこ、初春飾利ういはるかざり、そして佐天の友人。

窓の外を見ると、外は雪で真っ白だった。季節はもう既に冬。ミニテーブルの上の卓上カレンダーに目をやると、この日の日付は、12月13日。

それを確認した佐天は、また呟く。

「誕生日おめでとう......って、お祝い、したかったな......」

しかし、「友達の誕生日を祝いたい」という、のささやかな願いが葉う事はない。

彼は、前田智也は、もういないのだからーーー

幻想手レベルアッパー事件が解決した後、琴たちはいつもの日常を楽しんでいた。いつものファミレスでガールズトークをしたり、いつものゲームセンターで遊んだり、いつもの広場でクレープを食べたり。とにかく楽しかった。當たり前の日常の楽しさが、一連の事件によって鮮明になっていた。

Advertisement

だが、そんな日常の楽しさを、

現実は、悲劇は容易たやすく壊す。

ある日の放課後。いつものように5人でお喋りをしながら帰り道を歩いていた時だった。

ドサッと。

子たちの後ろで、何かが倒れるような音がした。振り向いた琴たちの視界の真ん中で、前田が倒れていた。

「智也!!」

「前田さん!!」

「智也君!!」

「前田さん!!」

たちは彼の名前をびながら駆け寄る。琴が倒れた前田の様子を観察する。

「気絶してるだけ......みたいですね」

そう言った初春に、琴が返す。

「うん。でも、その割には衰弱すいじゃくし過ぎてる......黒子!」

「救急車なら、今呼びましたわ!」

風紀委員ジャッジメント仕込みの対応力で119通報した黒子。

「智也......大丈夫ですよね......?」

「多分、疲れてるんだよ。きっと、昨日の夜中にゲームしたりして、夜更かししてたんだよ」

不安そうに言う佐天に、琴は明るく言うが、佐天はかぶりを振った。

「いえ......なくとも、昨日の夜は智也、普通に寢てましたよ。あたし、宿題やってて夜更かししてたんです。その時、智也の部屋に、燈りは點いてなかったです」

Advertisement

「「「......、」」」

とりあえず、前田を救急車で病院へと搬送はんそうしてもらい、自分たちも病院へ向かった琴たち。その病院に勤めている、カエル顔の醫者が診斷結果を琴たちに報告する。

「壽命じゅみょうだね」

と。

「............へ......?」

たちの頭の中が真っ白になる。當たり前だ。いきなり醫者に、友達が壽命だと言われたのだから。まだ中學生の友達が。

「どういう、事ですか......?」

掠れる聲で沈黙を破ったのは琴だった。

「彼は、『絶対支配ドミネーター』の実験をけていた頃から、この病院によく來ていた顔馴染みでね、実験の事については僕も知っている。人実験をける過程で、彼はを強化するために薬を投與されていたんだ。壽命が急激にんだのも、その薬の副作用だよ」

急すぎる。出來の悪い小説のように唐突な展開だった。醫者は続ける。

「それでも、本來なら高校を卒業するまでは生きていれたはずだったんだが、この間ズタズタの狀態で搬送されてきた。あれは、無理して能力を使ったからだろう? その影響で、壽命が余計にんでしまったようだ」

Advertisement

「先、生......」

すぐに消えてしまいそうな、弱々しい聲で、佐天が問いかける。

「智也は......あと、どれくらい......」

の問いに、正直に答えるべきか。目を閉じて黙考した醫者は、正直に答えた。

「殘念だけど......あと1時間だよ」

ガタンッ!! と。座っていたイスが倒れるのにも気付かず、佐天は夢中で前田の病室へ走った。

(智也......!!)

「智也!!」

力任せに開けた個室のドアが、騒々しい音を立てる。

部屋の奧にあるベッドへと駆け寄る。その上にいる年は、弱々しい視線を佐天へ向けた。

「佐天さん......」

自分に向けられている年の笑顔が、無理をしてつくられたものである事を、佐天はすぐに察した。

「へんだな......痛くも、苦しくもないのに、なんか力がらないや......」

こんな時でも、いつものように呑気のんきに笑って、佐天を安心させようとしている前田の姿が、痛々しかった。

「なんで......なんで、黙ってたの......?」

佐天が當然の疑問をぶつける。

「なんでって......俺も、高卒までは、生きてるつもり、だったんだけど......壽命んだのが、『あん時』のケガだって、なったら......」

そこで一息つくと、前田は言った。

「みんな、自分を責めそうでさ......」

佐天は、そして遅れて部屋にってきた琴たちも、ハッとした。

坂さんは、『自分がもっと早くに、あの怪倒してれば』って......」

そうだ。

「白井さんは、『もっと出來る事があったんじゃないか』って......」

そうだった。

「初春さんは、『自分がもっと速く、データの転送完了させてれば』って......」

思えば、こういう人間だった。

「佐天さんは、『そもそも自分が、幻想手レベルアッパーなんかに手を出さなければ』って......」

自分の被害を無視して、他人の事を優先してしまう人間だった。

「みんなが、自分の事を、責めそうでさ......」

他人の命と自分の命。その価値を、何があってもイコールと見ない。どうあっても他人を優先する。

それが、前田智也という人間だった。

だが、そんな事で納得なんて出來る訳がない。出來てたまるか。

「何、言ってんの......何言ってんの!! そんなのどうでもいいよ!! 智也がいない方がよっぽど辛つらいよ!!」

ほとんど悲鳴のようなびが、夕方の病室に響く。

「でも、さ......俺が、いなくても......初春さん、いるし......坂さんも、白井さんも、いるしさ......」

前田の言葉を聞いた佐天は、再びぶ。

「いるよ!! 確かにいるよ!! 初春いるよ坂さんいるよ白井さんいるよ!! でも、智也はいないでしょ!? 智也は智也しかいないでしょ!?」

たち全員の目には、涙が浮かんでいた。

「あーもー、俺だって、一緒にいたいってのに......だから、泣かないでよ......佐天さんの笑ってる顔が、好きなのに......坂さんらもさ......最期さいごくらいは、笑って見送ってよ......」

途切れ途切れの聲で言う前田。最期くらいは笑顔で見送ってしいと、そう願う。

だが、

「やだ! やだよ!! 智也がいないと、あたし笑えないよ!!」

無慈悲むじひな現実をれた年の願いをれられる程、佐天の心は冷たくない。そして、それは琴たちも同じだった。

「そうだよ! 智也君がいなかったら、誰も笑えないよ!! 智也君がいるから、みんな笑えるの!!」

「お姉様の言う通りですわ! アナタ、ご自分がどれだけの人間に囲まれているか、分かってますの!?」

「なんで......なんで、こんな......あんまりですよ......」

ボロボロと涙を落とす初春。それに釣られたのか、琴と黒子の頬ほほを、涙が伝う。その時、前田は開き直ったように言う。

「んー......なら、さ......」

「え......?」

涙に濡れた疑問の聲をもらす佐天に向かって、前田は淡く微笑ほほえむと、琴に言葉を投げかける。

坂さん......今、ゲーセンのコイン、何枚持ってる......?」

「へ......? えっと、13枚だけど......」

スカートのポケットに手をれて確認する琴。黒子も初春も佐天も、琴さえも、前田の真意が分からずにいる。そして、その前田が口を開く。

「んじゃあ......5枚、ちょうだい......」

意味が分からないまま、コインを5枚渡す。たちの前で、年はーーー

何を迷ったのか、熱をり、コインを溶かし始めた。

「「「「!!!???」」」」

佐天たちは驚愕きょうがくした。こんな狀態で能力を使うなんて、正気の沙汰ではない。しかし、止める間もなく、前田は作業を進めていく。溶かしたコインを固めて金屬球を作り、1ヵ所だけし大きめのを空けておく。そのから音エネルギーを球の中に封し、再び熱をってを塞ふさぐ。熱を逆にって金屬球を冷やし固めると、それを右手で摑む。

その瞬間、前田の全から力が抜ける。倒れかけた前田の右腕を、佐天がしっかりと摑んで支える。

「こ、れ......け、取って......」

佐天は、差し出された金屬球をけ取る。直徑4~5センチメートル程の、銀の球だ。サイズの割にはズシリと重い。

「何?、これ......」

「ゲーセンのコイン溶かして、作ったボールに、俺の気持ちを、音エネルギーの形で、閉じ込めたんだ......」

まさにそれは、形見と呼ぶべきだ。

「それを割れば、1回だけ、だけど......俺の聲が、聞こえる、よ......ただ......」

「ただ?」

怪訝けげんな顔をする佐天に、前田は答える。

「それ、佐天さん宛あての、想いしか、ってなくて......坂さんらのも、作りたいん、だけど......もう、かないや......能力使ったせいで、また、壽命んだみたい、だし......」

「ウソ!? またんだの!?」

「うん......んだっていうか、もう、今がそう、かな......」

前田の掠れるような聲が、空気をかすかに揺らし、虛空こくうに消える。

殘酷で、冷酷で、無慈悲な、別れの時間が。

もう、そこまで來ていた。

(......、)

俯うつむいていた佐天が顔を上げる。

その目には、寂しさと、悲しみと、と、覚悟が、全て均等にあった。琴の目にも、黒子の目にも、初春の目にも、覚悟が宿る。

たちの目を、じっと見つめると、前田は口を開く。

「初春さん......佐天さんの事、よろしく......」

前田の目を見つめ返し、初春は答える。

「はい! 私だって、風紀委員ジャッジメントですから!!」

前田は、ゆっくりと頷うなずくと、今度は黒子を見た。

「白井さん......坂さんに絡んでる時とか、イカれキャラ扱いして、ごめん......でも、面白かった、よ......」

別れ際の言葉がそれですの......?と、ツッコミをれてから、

「別にアナタのためにやっていた訳ではありませんが、それでも、そう思っていただけたなら、良かったですわ」

と言う黒子。前田の目が、今度は琴に向けられる。

坂さん......は、ごめん......ありがとう、ってしか......言えないや......」

割と本気で申し訳なさそうな顔の前田を見て、クスッと笑うと、琴は言葉を紡つむいだ。

「ううん、私の方こそ、ありがとう......私も、このくらいしか言えないよ。もどかしいな~」

5人の顔に、笑みが浮かぶ。

そして前田は、最後に佐天を見た。

「佐天さんは......『それ』の中に、れといたし、いっか......」

「えぇっ!?」

なんか自分の扱いだけ雑い気がして、抗議の聲を上げる佐天。しかし前田は、

「だってさ......口で言うと、なんか恥ずかしいんだもんよ......」

「へ......?」

疑問のを浮かべる佐天。しかし、その答えは返ってこなかった。

前田の瞼まぶたが、下がっていく。ゆっくりと、しかし確実に。

死に向かっていく。

「智也!!」

「智也君!!」

「「前田さん!!」」

たちに名前を呼ばれた奇能力者レベル0+は、最後の力を振り絞って、音をり、自分の聲を拡張させる。

「ありがとう......」

「ーーーみんな、笑って......」

聲が、そして、前田智也まえだともやという、1人の年の命が、消えた。

沈黙が流れる。それを破ったのは、佐天が呟いた一言だった。

「智也......」

年の名を呟くと、彼は言った。彼の願いを葉えるために。彼が大好きだった、いつもの佐天涙子さてんるいこの笑顔で。

「......ありがとう」

あの日の事を思い出した佐天は、ベッドから降りて、機に向かって歩いた。斗ひきだしを開けると、

ゴロッと。重々しい音を立てて、直徑4~5センチメートル程の金屬球が転がった。

オブジェクト化された、前田の心。

年の誕生日である今日、佐天は、彼の想いをけ止めようと決める。

金屬バットを振りかぶり、思い切り叩き割る。すると、砕けた球の中から、音が、いや聲が溢あふれ出る。

『ーーー佐天さんへ』

間違えるはずがない。前田の聲。あまりの懐かしさに、この時點で既に佐天の目に涙が溢れる。

『ぶっちゃけ、言いたい事って3つしかないんだよね。いきなり死んで、悲しませてごめん。それと、今までありがとう。で、最後にーーー』

『ずっと、ずっとずっと、大好きだよ』

そこで、聲が消えた。

代わりに、學生寮の一室に、1人のの嗚咽おえつが響く。

「うっ......ひぐっ......う、えぇぇ......」

パタパタッと音を立てて、床に涙が落ちる。佐天の脳裏に、聞いたばかりの前田の言葉が甦よみがえる。

『ずっと、ずっとずっと、大好きだよ』

「うわあああああ!!」

大粒の涙をこぼしながら、佐天は泣いた。友達の想いをけ止め、友達の死をれ、それでもなお、悲しみに耐えきれなかったように。

それからどれくらい経っただろう。泣き疲れて床に寢転んだ佐天は、ふと、ミニテーブルの下に落ちているに気付いた。拾って見てみると、それはーーー

琴、白井黒子、初春飾利、佐天涙子、そして、前田智也の5人が寫った寫真だった。それを見つめ、フッと目を細めると、佐天は呟いた。

「智也......誕生日、おめでとう」

「ーーーあたしも......大好きだよ」

あとがき(っぽい何か)

Extra Editionも出すので読んで頂きたいと思いたい。

『読んで頂きたいと思いたい』。思いたいだけでまだ思う段階まで行ってないっていうね。

......はい、ごめんなさい、読んで下さい。

    人が読んでいる<とある素人の完全駄作>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください