《極寒の地で拠點作り》

正直、私は後悔していた。

このダンジョンはリタイアすることも許されず、ウィンドウからログアウトの項目も抜け落ちていた。実質、ゲームに閉じ込められたと言っても過言では無い。

このダンジョンが運営のイタズラだとすればかなり悪質なんじゃないかと思う。

それでも、私はそういう懸念が片隅にあったにも関わらず進む道を選んだ。

「ごめん、元はと言えば私がろうって言ったから……」

私は改めて隣にいる姿の見えないハープに謝る。こうなってしまったのは私の責任でもある。らなくてもそこから出する手段はなくとも今よりはあった筈だ。

「だーかーら、何度も言ってるでしょ?ユズは悪くないって」

「ごめん」

「どうしたの。いつもの何とかなるでしょ神はどこ行ったの?ユズらしくないよ」

実際、何とかならなかった。それが私の後悔の元でもある。そして私は座り込んで、天を仰いで呟いた。

「こんな機會だから言うけど、現実あっちでは回數で言えばハープ……琴音の方が私のことを振り回すことは多かったよね。それでも私はそう振り回されてる間、凄く楽しく思えた」

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「…………」

それまでの雰囲気と違うのを察したのか、琴音は黙っている。

私は続けた。

「それに比べて私は向こう見ずで、琴音にフォローされっぱなし……前々から疑問だったんだよね。なんでこんな私と一緒に居てくれるんだろう、こんな迷掛けてばっかの私と居てくれるんだろうって」

「……と……いよ」

琴音が何か呟いているけど、もう止まらない。

私はそれを無視して続ける。

「今までごめんね?だから今更ではあるんだけど、もし、ここから抜け出せたら私……」

言葉が詰まる。だって、これを言ったら今まで通りでは居られなくなるから。でも、仕方ないけど言わなければいけない。

そして琴音の手を最後にぎゅっと握って離す。

「柚……葉?」

「…………私、琴音……いや、『九條さん』とはこれを機に距離を――――「やめてっ!」

「……っ!」

パチン、とそんな音が暗闇に響く。

私は琴音……九條さんに頬を叩かれ、言葉を遮られた。ウィンドウで警告が表示されるけどもう気にする余裕は無い。

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「やめてよ、もう……」

その言葉は弱々しく、今にも泣きそうな聲だった。

「……」

私は呆然として頬に手を當てたまま、闇で見えない彼の方向を見る。

九條さんはそのまま続ける。

「……私だって、柚葉をいっつも振り回してる自覚はあるし、迷掛けてるなぁって思うこともよくある……柚葉はそう言うけど、私は柚葉と過ごしてて苦に思ったことは一度も無いよ。私も柚葉と同じ様に、フォローしなきゃいけなかったりして振り回されてる間も他の時と同じくらい楽しく思えてるんだよ?」

「……」

「だからさ。柚葉は柚葉で、そのままの格でいて?それから私のこと今まで通り、琴音って呼んで……もう、九條さん、って呼ばないでね?柚葉と離れるのは嫌なの」

九條さんはそう言う。つまりあれか、彼は今、この狀況でも私と居られて楽しいって訳か。

……々言われて気付いたけど私も本心では、こんな狀況でも彼と居られて楽しいと思っていたのかもしれない、そう思った。

…………なんだ、私も同じか。

そんな風に考えると何故か変な笑いが込み上げてくる。

「ふふっ……」

「……柚葉?」

「あははは…………なんだ。『琴音』も私と一緒だったんだ」

「っ!……柚葉ぁ」

そう言って琴音は私に抱き著いてくる。

姿は見えないけれども、琴音の暖かさはよく伝わってきて確かにここにいるとよく分かる。なるほど、このゲームは気溫、水溫だけじゃなく溫まで再現するのか。

私は琴音の背中に手を回して抱きかかえる。

「ごめんね」

「……何時まで謝ってるのよ、もう」

「あはは。でも大丈夫……もうあんなこと言わないから」

「約束だよ?私達、これからもずっと一緒なんだからね!」

それからしの間、私と琴音は抱き合っていた。

もう二度と琴音をこんな思いをさせてはいけない、そう思った。

「さて、分かり合えたことだし……そろそろまた進もうか」

私はやっと離れた琴音にそう言った。

「そう、ね。まだ先は長いものね、振り出しに戻ってきちゃったし。再スタートしなきゃ」

私にはその言葉に別の意味をじた。

私はそれに、

「……そうだね」

そうとだけ返した。私は続けて、

「それじゃ、行こっか」

もう一度琴音の手を握った。

「うん!」

私達は立ち上がって、再出発しようとした。

その時、

「――――よくぞ乗り切った、人の子よ」

「誰!?」

突然、暗闇の何処からともなく聲が響く。

瞬間、闇が晴れ、それどころか周りがに包まれた。私は眩しくて目を瞑る。そして琴音とも手を離さないでおく。

そして、目を開けるとそこは何も無い真っ白な空間が広がっていて、次に聞こえてきたのは、男ともともとれない不思議な聲だった。

「私はこの世界の闇と混沌を司る神、アフィポス」

神様?このゲームにそんな存在がいるんだ。

私達は引き続き、この神様の話を聞く。

「先程はすまなかった。貴方達を試すために行ったことでな」

その神様の言うことには、あの闇の正は、強い混効果を引き起こす特別な魔法を掛けた''もや''で私達、つまりダンジョンへの侵者がどれくらい耐えられるのか試すために使ったという。

確かにあの闇はおかしかった様な気がする。ししか経っていないのに気が狂いそうになったり、何より、大事な親友と喧嘩もしたこともそうだ。

「その無禮の詫びと言ってはなんだが、ほれ」

そう神様が言うと目の前に、The寶箱ってじの箱が二つ程出てきた。

「何ですか、これ」

琴音が問う。

「それは貴方達二人の裝備だ、開けてみなさい」

神様の言う通り、私達はその寶箱を開けることにした。すると、中にはし紫の混じった真っ黒な杖と裝備がっていた。

「それらは私の力が篭った特別な代だ。本來ならにつけるだけで神がやられてしまうだが……まあ貴方達なら問題無く使いこなせるだろう」

「ありがとうございます、神様」

私達は神様にそう言った。

勿論、あの出來事はすんなり通せるでは無いけれど、それは今言うべきじゃないと思った。

「ああ、それとこれも渡しておこう」

神様は思い出した様な口振りで言った。

【ユズは混沌の鍵を手にれた!】

「それは貴方達にとって役に立つだ。使う機會は今の狀態ならば、かなり近いと言えよう」

「何から何までありがとうございます」

「問題無い……さあ人の子よ、そろそろ別れの時間だ。帰りはそこの魔法陣から初めの街まで飛ばそう。元々そこへ行くつもりだったのだろう?」

神様の厚意に謝しながら私達はその魔法陣に乗る。再び眩いに包まれる中、最後に神様はこう言った。

「これから貴方達がどうなるかは私にも分からないが、私の闇を掻い潛った貴方達ならきっと乗り越えられるだろう……それでは、達者でな。期待しているぞ」

そして神様の聲は聞こえなくなり、も消えた。

目の前に広がるのは人の喧騒が聞こえてくる大きな街だった。來るのは初めてだけど、多分ここは世界の中心にある初めの街。戻ってこれたのだ。

結構な時間を彼処で過ごした様な気もするけど、何故か、街の中心にある時計臺の時間は私達が出発した時間と大差無かった。勿論、日付も変わっていない。それでも、

「戻ってこれたね」

私は琴音……ハープの方を見る。

「うん、よかった」

何だか今日は疲れたけどその分、私達にとってはとても大きな意味を持つ時間を過ごすことが出來た様な気がする。

「よし。じゃあ、最初の目的を達するのもあるし神様がくれたも確認したいから、とりあえず街へろっか」

私はハープに提案する。

「うん!」

ハープも元気に返事をしてくれた。そして私達は手を繋いで向かう。

出発する時は曇っていた空が既に雲一つ無い青空になっていて、その澄んだ空はとても清々しいじられた。

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