《極寒の地で拠點作り》ハープのライバル
「リンちゃん、危ない!」
「え? ハープさん、なん…………くひゅっ」
なんでしょうか、と言おうとしたであろうその聲は、首に突き刺さった短剣によって強制的に遮られてしまった。そしてそのまま、リンちゃんは前に倒れそうになった所で青いエフェクトを散らして消えた。
「リンちゃん!」
「リン!」
「ユズ、ケイ! 下がってて!」
ハープが前に出る。
リンちゃんは今、Lv.28であった筈。だからHPは74だ。それに私達と違ってリンちゃんはステータスポイントを満遍なく振っているので、當然VITにも振っている。
そんなリンちゃんが一撃でだ。相手は相當レベルが高いか、何かのスキルか、それともプレイヤースキルが単純に高いだけか、考えれば沢山出てくるけど、とりあえず今はこのリンちゃんを倒した相手に対応していかねばならない。
「貴方は、何?」
ハープが相手に向かって何者かを問う。
「さあ、誰だろうね」
問われた白髪ロング赤目のはふざけたじでそう答える。前にハープが言ってたけど、PKは別にこのゲームのルールには悪いこととは書かれていないので一応認められてるけど、それこそ常習的なPKはプレイヤー間のルール・マナーとしては法度なので敬遠されがちだ。
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何が言いたいかって言うと、この白髪は慣れた手つきをしていた。つまり常習的なソレだ。
「貴方、ここでイベントの他の參加者の邪魔をしてるの?」
「何のことかな?」
ハープの言う通り、このも參加者で他の參加者の邪魔をしてるっていうのも有り得るし、ただの通り魔ってのも考えられる。どちらにしろ質は悪いけど。
「うーん、よくわかんないんだけど……とりあえず」
ニィッ、と笑いながらは腰に差した短剣に手をばす。そして、
「殺すね」
「……っ!」
あのハープが一瞬で間合いを詰められた。
下手するとAGI値はハープと同等かそれ以上っぽい。それで、ハープはそれをギリギリ躱すと反撃に移る。
「やあっ!」
しかし相手も同じ様に、その一撃を避けられる。
すると両者、再び間合いを取る。
「凄いね、私の一撃を避けるなんて。だいたいの人はここで終わっちゃうのに」
「そっちこそ、私にギリギリの所で躱させるなんてね」
両者、絶対の自信である。
まあ、そうだよね。これくらい出來たら自信持っていいと思う。
そして両者睨み合いというか褒め合いの後は圧巻の攻防で、頑張ってるハープとやられてここにはいないリンちゃんには悪いけど、これは相當な見だ。ケイ君も目を見張って真剣に観戦しているし…………
あ、ハープ笑ってる。やっぱりこれくらい接戦出來る人そんなにいないから楽しんでるんだろうね。お相手の方も笑ってるし。
おかげで、張り詰めた空気はいつの間にか掻き消えて、こちらとしてはスポーツ観戦してる様な気分になった。
「ハープさん、頑張ってください!」
「ハープ頑張れー」
それなら、とギャラリーはギャラリーらしく応援してみる。避けて避けて突いて避けて斬って避けて……とずっとそんなじで両者共、與えたダメージはゼロだ。ハープは當たれば、無作為な混沌で優位に立てるんだけどね。
…………おっ、當たるか? あー、避けられた。
そんなひと時は突然に終わる。
「あ、ちょっとタンマ」
「は?」
戦闘の最中にいきなりそう言い出した。
途中からあんな空気になっても一応戦闘は続いてた訳だから、待つなんてことはおかしいと言わざるを得ない。
「あー、ごめん。うちのリーダーから引き上げ命令出されちゃってさ。中止でいいかな」
「え、あ、ああ、うん。いいけど……貴方、無所屬ソロプレイヤーじゃなかったのね」
「まあね。でもPKだし、基本は単獨行してるからほぼソロかな」
「そうなんだ」
「うん。じゃあ、私は戻るね? あ、そうだ。これも何かの縁だしフレンド登録しておこう」
「いいよ。じゃあこっちから申請するねー」
フレンド登録した後、そのはハープに別れを告げ、また森の中に戻っていった。
「さっきの子とハープ、良い戦いっぷりだったよ」
「ありがとう。でも、リザも強かったよ。楽しかったからいいけど」
あの白髪は『リザ』という名前らしい。
「それじゃあ、リザ……さんはハープのライバルだね!」
「そう、なるのかな」
そういう訳で、リザさんはハープのライバルとなったのである。
「それじゃあ、一段落したことだし。先に進みますか!」
「おー!」
…………そういえば、何かを忘れている様な気がする。うーん、なんだろ。の辺りまで出かかってるんだけどなぁ……まあ、いいか。忘れてても大丈夫! 後からでも何とかなるでしょ!
「あの、ユズさん」
ケイ君が申し訳なさそうに話しかけてきた。
「ん? どうしたの」
「リン……忘れてません?」
「あ」
忘れてた。完全に忘れてた。
全然大丈夫じゃなかったし、後からでも良くなかったね。ごめんね、リンちゃん。
「あはは。リンちゃん、ユズに忘れられて可哀想」
とか々思ってると、ハープが煽ってきた。
いやいや、それなら、
「いや、ハープだって忘れてたでしょ」
「うっ……ま、まあ、とりあえずリンちゃんのこと迎えに行こうよ。うん、それがいい」
そう、ハープは私達を急かすように話を逸らした。とりあえず、今やることはそういうことだ。という訳で、プレイヤーが死ぬとギルドホームに転送されるらしいので、私達は転移の石でギルドホームに跳ぶ。因みにデスペナルティでインベントリ中のアイテムの一部が死んだ場所に殘されるんだけど、リンちゃんは何も持っていなかったので回収の必要も無かった。
そして、戻ってみて、ギルドホームの中にってみると、
「あっ、おかえりなさい!」
と、リンちゃんがお出迎えしてくれた。
いつも皆で出かけるからか、こういう対応がなんか新鮮。
「うん、ただいま」
「ただいまー」
「ただいまです」
「ああ、お主ら。リンから話は聞いたぞ」
「あの、大丈夫でしたか? 私がやられた後、どうなったんですか?」
そっか、當たり前だけど知らないんだよね。
私は神様とリンちゃんに事の推移を説明してあげた。
「へぇ、ハープさんのライバルさんですか」
「リザ……か。PK常習とはなかなか異質だな」
やっぱり二人共、目のつけ所は違えどリザさんに関心を持った様だ。
「神様の目からしてもPKを生業としてるのは変なんですか?」
「ああ、そうだとも。まあ、こんな質の神であるが故に人が人をどうしようとも烏滸がましいとは思わないのでな。要するに、割に合わないということだ。デスペナルティでアイテムを回収出來ることくらいしか良いことは無い。経験値目的ならわざわざプレイヤーを狙う必要は無いからな。何よりヘイトが溜まれば、いつ攻撃されるかわからなくなる上、協力してくれる人間がいなくなって孤獨になる」
「え、でも、リザはギルドに……」
「だから異質だと言っているのだ。常習的なPK犯の名は所屬しているギルドにもなくとも悪い影響を與える。それを知っていて殘しているとすれば、そのギルドもかなりの黒だぞ」
そう言われればそうかもしれない。
神様はそして、これからも付き合うなら気を付けろ、という旨の忠告をしてくれて、この話は一旦終わった。ここからはまた、イベントの話はだ。
「結局、途中の山道にはいなかったのよね」
「うん。森の中にっちゃったかなぁ」
「いや、でもこういうイベントをわざわざ作るってことは特に何も無い所にゴールを置かないと想うんだよね」
「なるほど、作者の考えを汲み取ったんですね」
「そういうこと!」
となると、やっぱり何かありそうなのはあの谷だ。でも問題は、
「そうなれば、やっぱり谷だけど。どうするの?」
「どうするのって?」
「谷底にどうやって降りるのかな、って」
「あー」
報によると、あの谷は下に降りるまともな手段は無いらしく、自力で降りるか、大規模な風魔法やらを行使するしか無いみたいだけど、當然ながら私達にはそんなことは出來ない。
私達が唸っていると、神様がこんなことを言った。
「ならば上ればいいのではないか?」
「え?」
「あぁ、そういえばそこの川は西の谷が上流となっている川だった様な気がするのだがな」
そこまで言ってくれればもう大丈夫だ。
つまり、そこの川を辿っていけば必然的にあの谷の底に辿り著くということだ。
そうと決まれば、私達の行は早い。
というかそもそも私達はリンちゃんを迎えに行ったらまた向かうつもりだったので、早くて當然なんだけど。
「よし、じゃあまた行ってきますね」
「あぁ、今度は誰が私の話し相手に戻ってきてくれるのか。楽しみに待ってるぞ」
「わ、私は今度は倒されませんから!」
「はは、冗談だ。誰一人途中でやられて戻ってくることが無いようにするんだぞ?」
そんなじで、私達は川沿いに川を上ることになった。
リターン・トゥ・テラ
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