《極寒の地で拠點作り》防衛線作り その三

山にろうとすると、やっぱり、と言うべきか木が一部無くなっていて開けていた。

「おつかれー。どうだった?」

すると、散した原木の中に、ハープが切り株の上に座って手を振っているのが見えた。

私はリンちゃんを見るように言うと、何度か頷いていたので納得してくれたんだろう。

「どうする? こっちかなり切っちゃったし。一旦、そっち手伝おうか?」

「いいよ…………と言いたい所なんだけど。やっぱり大変じゃん? だから、お願いしたいな、って。ごめんね?」

「ああ、いやいや、全然いいよ! こっちは切れ味が良くて刃こぼれもしない短剣で楽に木、切ってるだけだから」

「そう? じゃあ、お願いね」

こうして、私達運搬役にハープが切り出し役とのかけ持ちで加わった。これで私とリンちゃんへの負擔が減ることになりそうだ。

そして再び山を抜けて荒野を慎重に歩いていると、何故か負擔が軽減されたこの時を見計らったのか、今まで出てこなかった敵が…………それも今の私にとって都合の悪い、何時かのアイツが左方向、丘の向こう側から飛び出してきた。

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「ブンブン!」

【ハードビートルが現れた!】

「ブンブンブン!」

そう。ブンブンしか言わない、煩いアイツ。

なんでこんな所にいるかなぁ。それもし楽になったこのタイミングで……

「ブンブン!」

ああ、もう、煩い!

私は今、原木運びでイライラしてるの!

「ハープ! 行ってくるからここお願い!」

「えっ、あ、重っ! ちょっとユズ!」

私は原木から離れて真っ先にハードビートルの所へ行くと杖を思いっきり振りかぶる。

「ブンブン!」

「……ッ! あー、もう! ほんとに煩いよ貴方! ちょっと黙っててッ!」

そして私は杖に思いを込めて一気に振り下ろす。

「……!」

「あー、イライラが収まらないぃ……」

ハードビートルは聲も出さずに青いになって散った。前戦った時は斷末魔のびをしでも出させてしまっていたので、今はそれだけSTR値が上がったという証拠だろう。この一撃は我ながらエグいなと思った。

問題はそれをすぐそこで原木を降ろして見ていたハープとリンちゃん。例によってと言うか、案の定ハープはリンちゃんに々吹き込んでる。

「ね? 怒らせるとあんなじになるの。私なんかよりずっと怖いでしょ?」

「ひゃ、ひゃい……確かに……」

リンちゃんはリンちゃんで疲れと寒さで頭が回ってないみたいでハープの言うことを信じちゃってるじだ。

「……ハープ」

「あっ、ほら、真顔!」

「ひッ!」

「今度は何吹き込んだのかな?」

私はそんなハープに半分呆れ半分イライラで聞く。

「ああ、別に吹き込んだ訳じゃないよ。ただ、ユズの怒った顔って怖いねって再確認したのをリンちゃんに共してもらっただけだよ。だから安心して?」

「安心……出來る訳無いでしょ!」

「きゃー、また怒ったー」

棒読みでそんなことを言うハープ。

私ってそんなに怒った顔怖いかなぁ? ふざけて言ってるんだろうけど私も気をつけなきゃ。反省反省。

そんな訳で再び、運ぼうとするけどその前に、

「あ、レベル上がってる!」

「ってことは、ユズは今のレベルは36?」

「そうだね。あ、新しい闇魔法覚えられるよ!」

「ほんと?」

ほんとほんと、とハープに言って武スキルにポイントを振る。すると、闇魔法Lv.5の所が明るくなって名前が出てきた。

「えっと、『闇の眷屬』?」

【ユズは闇の眷屬を呼んだ!】

「えっ、えっ?」

「ユズの今の、技使った判定になったんじゃないの?」

「あっ、お二人共! 見てください!」

「え?」

リンちゃんが指差した方を見ると何やら黒い影の様な、モヤを纏った様な人型の何かが立っていた。思わず構えてしまうけどその人型は、黒い手を出して指を揃えて振っている。

「えっと……?」

「怯えなくていい、って言ってるんじゃない?」

ハープがそう言うと、その影は親指と人差し指で丸を作って何かを伝えようとしてくる。多分、それで合ってるとでも言いたいのだろう。

そしてその影は指で私を差して、それから自に向けて差す。

「……?」

「つまり…………出來ることなら何でもしてあげられるから命令していいよ、ってこと?」

するとその影は再び親指と人差し指で丸を作る。

「ええー? ハープ、何でわかるの?」

「何となくかな」

ユズもこの子のご主人様なら汲み取ってあげないと、って言うけどあのジェスチャーを読み取れる気がしない。

ところでこの子は何でもと言った。それなら、今私がむのはただ一つだ。

「じゃあさ、早速なんだけどこの丸太二本、持ってギルドホームまで運んでくれない?」

そう私が言うと、例によってOKサインを出して、ひょいっと見たじ軽々と持ち上げてしまった。

「大丈夫? 重かったりしない?」

「……!…………!」

すると、影は人差し指で上を差して、モヤで文字を現してきた。

「えっ? 『これより長い奴、十本くらい運べる』って? へえ、力持ちなんだね!」

「……!」

私が褒めると影は手で後頭部を掻く様な仕草を見せた。結構良い子っぽいね。

それにしても、もしかしたら分割してない原木を

一気に十本程運べるかもしれないっていうことは私達にとってとても嬉しいことだった。

という訳で、とりあえず一回目の原木置き場まで運んでもらう。道中、ケイ君の橫を通り過ぎる時にケイ君はしギョッとしていたけど、流石はケイ君。すぐに作業に戻っていった。

それをあとから本人に聞いてみたのだけれど、

「ユズさんならアレくらい引き連れていても、既に『今更』ってじなので、すぐ納得出來ました」

と言っていた。

それはあれか、ユズはユズだ、っていうのが浸し過ぎてケイ君は私がどんなことをしていても、特にこれと言った理由も無く納得してしまうってことなのか。

とりあえず、影君に二本の木を原木置き場に置いてもらう。

「ありがとね、影君」

「またお願いねー」

「ありがとうございました!」

「……!」

指で丸を作った影君は、そのまま地面に溶け込む様に消えてしまった。ハープの言う、またお願いはあと十分とかしたら來るんだけどね。

「さて、また戻るんだよね」

「そうしましょう!」

リンちゃんは自分はもう運ばなくてもいいとでも思っているのか、安堵しきった元気な聲でそう言った。まあ、影君が私から離れても消えずに行出來るって言うなら任せようとは思うんだけどさ。でも、そうしたら私とリンちゃんの仕事は無くなる訳じゃん。なら、柵作り…………になるかなぁ。

それでその後、山に戻って未分割の原木十本を影君に運んでもらう時に、は試しだと思って私だけギルドホームに転移の石で先行して待つことにしたんだけれども、問題無く原木置き場まで一人で辿り著いたどころか、私達より早いペースで到著してしまった。ハープ達の報告でも、おかしな挙は無かった様なので良かったと思う。

何はともあれ、これで効率化を図ることが出來そうだ。

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