《極寒の地で拠點作り》防衛線作り その四

「あっ、そういえば未分割なんだった……」

原木置き場前にて、殆どが伐採したままの狀態だということに気づいた私とリンちゃん。

「私達、ハープさんみたいに刃は持ってませんから……何か切るための道があればいいんですけど」

「そこなんだよねぇ…………あっ、影くーん!」

私達が悩んでいると、丁度良く影君が何周目かの原木運びを終えた所で、私が聲をかけると顔……いや、モヤでよくわからないけど顔だけ振り向いた気がした。

「……?」

それでまたもよくわからないんだけど、首を傾げた様なじというか雰囲気でこちらに向かってくる。

「あー、ごめんね、引き留めちゃって」

「……!……!」

全然そんなこと無いよ、とでも言う様に全力で手を橫に振る影君。やっぱり優しいね。

「それで、またお願いなんだけど。運んできてくれた原木をさ、この…………よっ、と、これくらいの長さに分けられるかな」

「お、お願いします!」

私はハープが最初に二メートルに切った方を引き摺りながら持ってきて影君に聞く。でも流石に『何でも』って言ってたけど流石に切るのは難しいんじゃないかな。なんてことを考えてると、

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「……! …………!!」

「えっ!?」

リンちゃんが驚く。

まあ、驚くのも仕方無いよね。うん。私も考えを改めさせられたよ。

結果だけ言うと、影君が持っていた原木は綺麗に切れた。スパッ、って言ったよ、スパッ、って。

私としては影君はその鋭い爪というか指先で引っ掻いて切斷するのを想像してて、切斷面も雑なだと思ってたんだよね。でもあろうことか、影君は指を揃えて原木にそのまま手を食い込ませて切り分けた。

包丁で食材を切る様なじだったね。切斷面は凄く綺麗だし。

「凄いよ、影君!」

「……!」

「こんな調子で原木運んできたら、切ってほしいんだ」

「……!」

すると影君は丸を作ってくれた。これで私達は柵作りに集中出來そうだ。

「じゃあさ、早速なんだけど、今まで運んできた原木を切り分けてしいんだけど、いいかな?」

影君はそれも快く了解してくれた。ほんとに良い子だね。

そんな訳で柵作りだ。

柵作りは前にも言ったように、ケイ君の掘に沿って建てていく。因みにギルドホームのすぐそこ、つまり南側は崖というか段差になっていて一部降りやすくなっている所があって、そこから以前、ハープは降りてそのすぐそこにある川を渡ろうとしたんだよね。そこだけはケイ君は堀を作っていないので、私達はその段差に沿って柵を作る。

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「リンちゃん、そっち持って」

「はい!」

とりあえず作業にろうと思う。

木の一部を埋めるために地面を掘るだけの力も、杖を使えばSTR値に依存するのでそこは大丈夫。

「ん、しょっ……じゃあ一旦置くよ」

「わかりました!」

堀のすぐ橫の所に原木を置くと私は杖を手に取る。勿論、掘るのは柄の方を使ってやるんだけど今の私は言わば規格外だ。掘るための道じゃないとはいえ、フルパワーでやったらどうなるか知れたことじゃない。そういう訳で慎重且つ弱めの力で掘る。

「よい、しょ……っと」

「頑張ってください!」

「うん、ありがとね」

原木の直徑は十センチ弱。まずはその程度の丸を作る。作ったら、埋めるためのを掘る。だいたい三十センチくらいでいいかな。杖が私の長と同じくらいで、その五分の一程度なのでわかりやすい。今まで通り慎重に行く。

「よっ、と…………あー」

とは言っても、三十センチは三十センチ。私にとっては割と深い。このペースでも掘れてることには掘れてるんだけど、そのペースが結構じれったい。だから私は我慢しないことにした。

「もう、いいよね?」

「え? 何がです?」

「大丈夫! 私を中心に地面に亀裂ったりしないと思うから! ねっ?」

ねっ? の所で柄の方を思いっきり地面に突き刺す!

おお、なんか手応えが凄い、というか杖が埋まった。でもなんとか三十センチぐらいに抑えられた様な気がしたので良かった。

「わわっ! い、今し揺れませんでした?」

「そう?」

私はあんまり気にしてなかったけど、揺れる程のものだったらしい。まあ亀裂るよりは優しいかな。

そうして私はすかさず掘り返しにる。勿論、それもフルパワーで。

「うわっ、土が目に……!」

「ユズさん!? 大丈夫ですか!?」

「だ、だいじょぶ……」

そのフルパワーで自分の方に土を思いっきりかけてしまった。リンちゃんがこれだけ驚くってことはかなりの量だったんだろう。私が目にった土を取り除いて見てみるとかなり削れてた。やり過ぎたね、これ。

でも、これで何とか木をれられそうだ。

「うん。まあ、何はともあれ掘ることは出來たから早速、れてみようか」

「は、はい……」

リンちゃんは至って心配そうに見てくるけど、大丈夫と言ってこうなるのは慣れているから、問題無くは無いけど、なくとも私は問題無い。

「んじゃ、こっち持ち上げるから。リンちゃんはに合わせてね」

「はーい」

「指挾まない様に気をつけてね」

「わかりましたー。ん、しょ……と、出來ました! あとはお願いしますね」

「りょーかい。よい……しょっと。あっ」

私が木を立てると落ちて、ドン、という音がした。まだ傾いているので、削ってしまった地面を元に戻した上で念には念をれて、ケイ君が掘り返した時のであろう土を貰って本を固定する。

「……よし、まずは一本目完だよっ!」

「やりましたね! ユズさん!」

こんなに喜んでいるけど、あとこれを何回何十回、いや何百回と繰り返すんだよね。でもいっか、一本目ならではのだからこれは素直に喜んでおこう。

「じゃあ、続いて二本目やっていこう!」

「おー!」

そんな調子で私達は、掘って土被って植えて掘って土被って植えて……を繰り返しやってた。十回目くらいになると、流石に三十センチなので大きく削らないってことは難しくて出來なかったけど、一本目みたいに何かが発した様な土の飛び合は抑えることが出來るようになった。でもこれはこれで木をれやすかったりするから、我慢すればなんてことは無かった。

そんなじで何十本と柵作りに勵んでいると、いつの間にかケイ君に追いついてた。

「あ、ケイ君!」

「ユズさんですか、お久しぶりです」

「お久しぶりって、つい何時間か前に話したばかりじゃないですか」

「冗談だよ、リン」

「そっちはどう? 進み合は」

見ると、ケイ君のローブは土に塗れてし汚くなっている。いや、私も負けないくらい土塗れだけどさ。それにしてもケイ君の方が私よりも沢山掘ってる筈なのにペースがかなり早いような?

でもその理由はすぐにわかった。

「順調ですね。あの神様が言ってた通りでした」

「というと、つまり……」

「そういうことです」

「おおー!」

「えっと……スキルってことですか?」

「ああ、そういうことだ。『掘り』っていう任意スキルなんだけど、『スコップを使っている時、地面を掘りやすくなる』ってじで……まあ、見ててもらった方が早いか」

そう言ってケイ君は近くに立てかけておいたスコップを手に取って掘る勢をとる。

「『掘り』」

ケイ君がそのスキルの名前を口にしてから、スコップをれようとするとシュッ、という音を立てて、まるで砂の様に簡単に突っ込めてしまった。それだけではなく、それを持ち上げて脇に置いてしまった。でもそれ、結構持ってたから重い筈なんだよね。

「ざっとこんなじですね。これを使ってみるじ、ここら辺の比較的い土でもさっきみたいに砂を掘る様に掘れるので結構良いですよ」

「へぇ…………ん? どうしたの、リンちゃん」

私がケイ君の話を聞いていると、リンちゃんが私を見つめていることに気づいた。

「あ、いえ、ただユズさんならさっきからやってるみたいに上からだけじゃなくて、橫から普通に杖であれくらいは掘れるんじゃないかな、って思っただけですよ」

「え? いやいや、流石にスコップには勝てないんじゃないかな」

私の場合杖だし、そういう道じゃないから運ぶ作が出來ない。あー、でも『吹っ飛ばす』なら出來そう……じゃなくて! ん? いや、でも橫から突っ込んで上に思いっきり持ち上げるのって『掘る』になるんじゃないかな?

そんな訳の分からないことをずっと考えていると、

「それはそうだよ、リン。張り合うつもりは最初から無い」

というじでいつも通りケイ君の謙遜(?)が始まった。誤解というか、悲しいながらも殆ど合ってるんだけど、とりあえず止めにる。

「そうそう! ケイ君は掘りってどうやって習得出來たのかな?」

「だからユズさんには…………あ、はい。えっとですね」

良かった、収まった。ケイ君の中では私はどういう扱いなんだろうか、まったく。

まあ、ケイ君の言う経緯は、最初に言ってた通り間欠泉を使ってたっぽいんだけどそれだけじゃ掘れなかったみたいだから、その間欠泉で出來たに杖の先を突っ込んでと杖の隙間を埋めた上で水魔法Lv.1を使って地下に無理矢理空を作ったみたい。

水魔法Lv.1の『水』は、杖の先に一定量の水の塊を出現させるで、その空間がその量に満たない場合、その空間を無理矢理作る質があるのでそれを利用したらしい。

それでスコップでを掘ってたみたいなんだけど流石にそれを繰り返す程のMPは無いので、途中から気合いでスコップのみでい土を掘るようにしてたら掘りが手にったみたい。

「凄いね、ほんとに凄いよケイ君」

「ですね! 気合いでそこまでやるなんて」

「俺だって、スキルが手にらなければ心が折れてたかもしれませんから。ほんとスキル様様ですよ」

そう言ってケイ君はスコップにポン、と手を置く。

「……じゃあ、また私達は作業に戻るよ」

「はい、わかりました。目印は地面に線を刻んであるのでそれに沿って引き続きお願いします」

「わかりました。では、ケイさんも頑張ってください!」

そう言ってケイ君と二度目の別れを告げて私達は手早く作業にかかる。今度はリンちゃんも元気そうだ。

「先は長いですけどユズさん。頑張りましょう!」

「うん! そうだね、皆も頑張ってるし」

「私達は何というスキルを覚えることが出來るんでしょうね。わくわくします!」

「『柵作り』とかじゃないかな? でもなんか、そのまんま過ぎるね……」

「そんなことありませんよ、ケイさんだってそんなじですし」

「はは、『柵作り』……ねぇ」

私は目をキラキラさせて張り切るリンちゃんと共にひたすら原木を埋めまくるのであった。

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