《極寒の地で拠點作り》防衛線作り その九
「やっと、見つけた……! ユズさん、ただいまです」
「おかえり、ケイ君。でもわざわざ報告なんてしなくてもいいのに。探すの大変でしょ?」
チャットで伝えてくれればいいよ、と言った所を、距離が近いのですから使うまでもありませんよ、と返してきた。確かに直線距離だったら早いだろうね。直線距離だったら。
「こんなだだっ広い迷路なんだから、大変でしょ?」
「まあ、位置報もありますし」
「位置報って言っても、この柵の側の広さだと地図の尺が小さ過ぎるからアイコンが重なるんじゃない?」
「まあ、そこは…………勘です」
ケイ君ってこんな子だったっけ?
なんかこの短い期間に大分私達に毒された様な気がするし、最近は特にそう思うようになった。
「そういえば、リンはまだ來てないですね」
「普段なら事前に伝えてくれるから、多分急な用事が出來たんじゃないかな?」
「かもしれませんね…………っと、噂をすれば來たみたいですよ」
ケイ君はウィンドウを開いてリンちゃんのログインを確認した。
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「うん。じゃあ一旦、リンちゃんのこと迎えに行こっか」
「そうですね。今日分の話し合いもしたいですし」
そうして私達のいつもの開始場所、ギルドホームへと向かう。リンちゃんのアイコンはギルドホームで止まっているので神様と話でもしてるんだろう。
「それにしても、迷路、いつの間にかこんなに大きくなりましたよね」
「ね。おですぐそこのギルドホームに行くにも時間かかっちゃうよ」
勿論、私達専用の隠し通路はあるのだけれど、そこを通るためのり口は多く作ってる訳じゃないのでそれこそ迷うことは無いものの、こう面倒くさいことになる。因みに、転移の石を使えばいい、と言うかもしれないけどこれは屋や天井があったりすると使えないので迷路では無理だ。
そんな訳で、し時間をかけつつもギルドホーム前に到著する。そして私は向かってる最中、ある箇所を通る度に思うことについて呟く。
「それにしてもケイ君も悪いことするなぁ」
「何がですか。まあ言いたいことはだいたいわかりますが、普通の迷路じゃ面白くないですよ」
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「でもさぁ…………ゴールを湯の隠し扉にするのは、流石に悪いこととしか言い様が無いと思うんだけど?」
ケイ君は確かに前に言っていた通り、ゴールを溫泉付近に置いた。ただケイ君は、
「迷路の出口即ちゴール、じゃなくてもいいんじゃないですかね」
とか何とか言い出して、迷路の出口を溫泉の橫のあからさまな場所に、南側に出るように作り出した。
出口とはその名の通り迷路の外へ出るなんだけど、ソレは迷路の外だけではなく柵の外にまで出てしまう。當然ながら、ギルドホームへ通じてはいない。
水流か、どういう仕組みかは知らないけど、一方通行になっているので戻ってこられる心配は無いらしい。なので、とりあえず溫泉にってもらった後、隠し扉に気付かずにごく自然に出口へとってもらってそのままお帰り頂けるという訳だ。男の方は特に。
「いいじゃないですか。罠とか作っておいて隠し扉なんて今更どうってことないですよ」
ケイ君が言う罠とは、迷路中に作られた落としなどの罠のことだ。
「まあ、いいけどさぁ。とりあえずろうよ」
「ええ、わかりました」
リンちゃんは相変わらずギルドホームからかずにいる。そんなに會話弾んでるのかな。
「おーい、リンちゃーん!」
「ひ、ひゃいっ!?」
中にってリンちゃんを見かけた私が聲をかけようとしたら、何か知らないけど過剰に驚かれた。
「リン、どうした? 神様と話でもしてたのか」
「……い、いえ」
「……?」
リンちゃんは誤魔化す様に否定した。
「神様、何かあったんですか?」
「む。いや、私も知らないぞ。お主らの所へ向かうと思ったら戻ってきて、そこらをウロウロしていた様だが……」
「リンちゃん。何かあったの?」
「あ、い、いえ、大丈夫です! ……すみません」
リンちゃんはそう言いながらぎこちない笑顔を浮かべている。今日のリンちゃんは何処かおかしい。
「そう? まあ、何かあったら何時でも相談してね」
「あ、はい……わかりました……」
とりあえず、そんなじのリンちゃんと共に今日の予定を決めた。
「では、さっき俺が天井の上に作っておいた囲いの側に毒を撒きます」
「天井伝っていきなりギルドホームのり口まで來られない様にするんだよね。大変だったでしょ」
「まあ、単純作業でしたけどね」
「それでもありがとね。じゃ、早速行こっか」
毒は毒魔法Lv.1を使えばいい。ここにいる三人はそれが出來るので分擔作業が出來る。毒を広げるのは即時解除の私と水上歩行のケイ君の役目だ。
道はギルドホームにあったブラシでやる。
「おっとっと……んしょ、っと」
「じゃあ次、リン、そこに立って」
「はい……」
「そこでいいよ。じゃ、『壁』」
ケイ君は私とリンちゃんを『壁』で押し上げてエレベータの様にする。その後、自分を乗せて天井の上まで來た。文字通り壁にも出來れば天井にも出來てエレベータみたいに移にも使えるんだから、やっぱり『壁』って萬能だ。
「よし、と。それじゃあ、巻き始めますか」
「最近の任意スキルと違ってMP使うから、MP足りなくなったら私に言ってね」
「わかりました……ほら、リンも」
「は、わ……わかりました……」
「まあ、使い過ぎるとハープに怒られちゃうから出來るだけ広げるじで行くからね。んじゃあ、早速私から……『毒』」
そんなじで毒撒きが始まった。
私とケイ君は積極的に囲いの側に降りて、唱えてはブラシで広げ、を繰り返す。リンちゃんはそういったスキルが無いので通路から広げてもらう。
「あ、ユズさん。ちょっと提案いいですか?」
「いいよ。どうしたの?」
シャッシャッ、とベトベトヌルヌルした紫のを引きばしているとケイ君が話しかけてきた。
「俺が前に使ってた、『毒の雨』って覚えてますか?」
「ん……あー、えっと、『毒』と『水』のコンボ技だっけ」
「そうです。それで、この前それを使ってて思ったのですが、『毒の雨』の時の毒って普通の『毒』よりもよくるんですよね」
「つまり、ハープとかそういうAGI重視の人への対策をしたい、ってこと?」
そういうことです、とケイ君は大きく頷く。
確かにAGI値の高い人には毒にやられる前に天井上を抜けられて毒を回復されることもある筈だ。
それに対して、足下がりやすくなっていればそのまま転んでタイムロスし、毒の効果をしっかりけてくれるだろうとケイ君は踏んだのだ。
「多消費MPは増えますが、毒の効果は薄まらない上に作業効率の向上も図れると思ったのでいいかな、と」
「うん、いいと思うよ。それで行こう」
もし、ポーションを使いきってもちゃんと説明すれば大丈夫だろう。わかってくれるだろう……きっと。大丈夫大丈夫、怒られたらその時はその時だ。
「リンちゃんもそれでいいよね?」
「……や……ことは……っ」
「……リンちゃん?」
リンちゃんはすぐそこで話を聞いていたと思ったら、何か怯えた様な目でし俯いてうわ言の様に呟いていた。
「……め……ません……」
「おい、リン!」
「ひゃっ!? ……あ、ああ、あ、すみません……」
「リンちゃん、なんかおかしいよ? 今日はもうログアウトした方が……「嫌です!!」」
「えっ?」
私が休むように言うと、明らかに様子が豹変して大きな聲で思いっきり拒否された。それでも、その時の目に先程よりも強い怯えが現れていたのを私は見逃さなかった。
「あっ、いえ、何でもないです……すみません」
そう言って、転移の石で戻っていってしまった。
その様子を私達はただ訝しげに見つつ、心配していた。
結局リンちゃんは、ギルドホームからこの日の作業終了まで出てこなかった。
「えっ? リンちゃんの様子がおかしい?」
「そうなんだよ」
一応、ハープにはまだ木を切ってもらっており、作業終了を伝えて合流した私達は今日のリンちゃんの様子についてハープに伝えていた。
「でも、おどおどしてるのはいつも通りじゃない?」
「それが、何かよくわからないんだけど何かに怯えたじでね」
「距離をじるというか、よそよそしいというか……そんなじですかね」
「うーん。とりあえず、本人の様子を見るよ」
そうしてギルドホームの中にる。
リンちゃんは別に神様と話してる訳でもなく、部屋の隅に虛ろな目をして座り込んでいた。
「リーンちゃんっ!」
「ひゃっ、ひゃい! あっ、ハープさん……」
「二人から聞いたよ? どうしたの?」
「あ、いえ、ご迷をおかけしてすみませんでした……私は大丈夫ですので、どうぞ。いつも通り今日のまとめを始めてください」
これは駄目だ。晝間と全く変わっていない。
それに対してハープは優しい聲で話し始めた。
「……リンちゃん、何か悩みがあったりする?」
すると、リンちゃんはしハッ、とした様な顔をした。でもまた元のじに戻ってしまった。
「……いえ、本當に大丈夫ですので」
「本當? 何かあったら、何時でも相談してよ? 私達は仲間なんだから」
そう言うと、今と同じ作をして俯いてしまった。
とりあえず、言う通り今日分のまとめをする。
私とケイ君は、今日は毒撒きを半分程度終えた。ハープは変わらず木を切っていた。もう、天井上から見る限り、大分山が出している。どうせ、こんな辺境に他にギルドホーム置く人なんていないだろうから存分に使わせてもらうけど。
「よし、じゃあ今日はこの辺で!」
「おつかれー」
「お疲れ様でした」
「…………」
そんな中でリンちゃんは淡々とウィンドウを開き、ログアウトしようとする。そこにハープが聲をかける。
「リンちゃん。明日は演技のリハーサルやるからね」
一瞬、リンちゃんのがビクッ、と震える。
「……はい、ありがとうございます」
そうして、リンちゃんはログアウトボタンを押す。に包まれて消えるその瞬間、リンちゃんが、
「……すみません、皆さん」
と、言った様な気がした。
気のせいかもしれなかったけど、二人からは角度的に見えなかっただろうから、確認のしようもなかった。
翌日、私達は殘りの毒撒きを終わらせた。
しかしリンちゃんは來なかった。
その次の日も同様に、その次の日もそのまた次の日も、そんなじで現れず…………そしてリンちゃんが來ないまま、私達はイベント當日を迎えた。
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