《極寒の地で拠點作り》第二回イベント その一

「……リンちゃん、來ないね」

「そうですね……」

「私、心配だよ……」

イベント開始まで數時間となった私達、和みの館の面々はイベントの賑やかで熱い雰囲気から外れて、一人のメンバーを気にしている。あの日以來、リンちゃんは私達に顔を見せずにいた。

ギルドメンバーの一覧とかでもずっとログアウト表示のままで、一応フレンドやギルドメンバーにログインを伝えさせないようにする設定はあるけど、リンちゃんがそうするとは考えにくい。

神様にあの日のことを聞いてみたけど、

「聲をかけても虛ろな目で生返事で応えてくるだけでな。だから放っておいた」

というじで神様もよくわかっていない様子だった。

「全く、リンの奴……仕方無いです。俺達だけでどうにかしましょう」

「……そうだね。私達がどうこうしても狀況が変わる訳じゃないし」

「では、一日目の今日……と言っていいのかわかりませんが話し合いを始めます。一日目は……」

そうして私達はリンちゃんのことを紛らわす様にして話し合いを進めた。

そういえば今ケイ君が言ったことで思い出したけど、今回のイベントの詳細の中にし驚いた要項があった。それは、『時間加速によりリアル時間の半日がゲーム時間の四日分になり、その四日間で競い合います』と言った容で、これを見た時に私とハープは思わず顔を見合わせた。

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私とハープは以前、闇の迷宮にてこれと同じ様な験をしている。明らかにかなりの時間をダンジョンで過ごしていた筈なのに、実は殆ど時間は進んでいなかったのだ。シェーカさんはその時、実用には至ってない筈と言っていたけど、実は元からちゃんと組み込まれていたみたいだ。

參加ギルドが各個のギルドホームについてからイベント開始なので、私達は最終チェックをしてからギルド対抗戦に臨む。

參加ギルドと言ったけど、參加しないギルドは時間加速の範囲にらない特設施設で観戦しながら過ごす様だ。ただ、現実世界でも中継は行われるそうなのでそこで見る人はそんなにいないと思われる。

「さて、カウントダウンが始まりましたね」

「団戦ね…………出來ればリンちゃんも揃ってやりたかったんだけど」

「嘆いても仕方無いよ。心配だけど、私達にはやっぱりどうしようも無いし……」

一度は収まった、力になれない歯さがぶり返してきそうになったのをイベントへの思いやで何とか押し返す。

「おっと、あと十秒…………三、二、一」

「『START!』と、遂に始まりましたね」

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「よし。じゃあ、各自持ち場に、と言っても相手さんが來るのは川を挾んだ向こう側だろうし、この城から南側を見ていればそれだけで事足りると思うんだよね」

「それじゃあ、それは俺がやります。我らがハープ隊長にはちゃんと役目を果たしてしいですから」

ハープはケイ君からそんなことを言われて、あはは、と笑う。

「期待に答えられるように善処するよ」

「……それにしても、ハープには嬉しいんじゃない? プレイヤーを倒すだけでもポイントがるのはさ」

「そんな、何処かの『リ』で始まって『ザ』で終わる様な子と一緒にしないでしいんだけど。そりゃ、嬉しくないと言えば噓になるよ? 対人戦は得意だし……」

今回のイベントは小規模ギルドが不利になる、ということで神様が言っていたルールの他にPK數もカウントされるらしい……けどそもそも、小規模ギルドは殆どが參加していないっぽいので、その処置に意味があるのかは知らない。でもまあ、これで個人に戦力集中しているギルドは救われる訳だ。

それで最終的に、ギルドごとの石像破壊數とPK數でそれぞれランク付けされて、その上で総合ランキングが出るらしい。なので今回は、第一回と同じ様にしても評価されるということだ。

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「でも、やっぱり石像の方も狙うんだよね?」

「そりゃ、勿論だよ。イベントに參加したからにはちゃんと要素取っていかないとね」

「……導の方も?」

「リンちゃんがいないからね。折角作った迷路にってきてしいんでしょ?」

私としては保険である迷路は保険のまま終わってしいんだけどね、とハープは言う。

私が言うのもおかしいけど、保険にわざわざ突っ込んで來てもらって溫泉って帰ってもらうっていう導は謎だと思う。けれど、やっぱり折角作った迷路なのである程度は防衛設備として活躍してもらいたい。まあ、湯の隠し扉見つけてくれたらまた別だけど。

「うう……まあ、仕方無いかぁ」

因みに導の方とはリンちゃんがやる筈だった演技のことである。一応、上手く行かなかった時のためにも他の方法も用意しているので殘念ながら心置きなく出來てしまう。

「別にそのままの姿でもいいんだよ?」

「恥ずかしいからやだよ! それに私、怖がられちゃうし……」

「大丈夫、世の中にはギャップが良いって言う人もいるから!」

ハープはグッ、と親指を立ててそんなことを自信満々に言う。

「全然大丈夫じゃないよっ!」

その時何となく、私が普段、大丈夫と言った時の皆の反応が理解出來た様な気がした。

「えー? じゃあ、一回だけでいいから!」

「だから嫌だって!」

その後、ハープに何度もせがまれて押し切られてしまったので、仕方無くそれを了解することにした。

「はぁ……一回だけだからね?」

「やったぁ! ……ふふふ」

「ハープなんか気持ち悪いよ?」

ケイ君にギルドホームからの見張りを頼んで神様に挨拶してから、そんなじのハープを連れて外へ出る。

「よし。じゃあ柵の外に出ようか」

「どうするの?」

「うーん、まあ一日目は様子見かな」

「とか言って、ハープのことだからどうせ何処かのギルド、攻めちゃうんでしょ?」

「失禮な…………って言いたい所なんだけど、小規模ギルドくらいは狙ってもいいかなぁ、なんて」

「もう……私は何すればいいの?」

「おおっ! ユズ、乗ってくれるの!?」

「そりゃあ、ギルドホームに敵を導する様なことしようとしてるし……その分、前線に出ないと割に合わないかな、って」

「そんなの気にしなくていいのに。私達、親友でしょ?」

「間柄で済ませられるのかなぁ……?」

まあでも、一応利敵行為だというのにハープは優しいね。

「いいのいいの。で、何処攻めようか」

「えっ? ああ、えっと、ハープが決めていいよ」

話がいきなり戻ったのでし戸いながら、ハープが出したウィンドウを見る。

今回はギルドホームの場所を決めた時の様な全てのギルドが表示された、専用マップが各プレイヤーに送られ、規模毎にそのアイコンのが違っている。私達は小規模なので緑のアイコンだ。

「やっぱり最初の見た時と大同じだね」

「ね。相変わらず北側には誰もいないけどね」

この世界は割と広い。前に行った様な西の谷や東にある騒ノ會も地図で見れば意外と街に近いことが分かる。

運営なんかは散らばるだろうと思って広くしたんだろうけど、最初見た時と比べて合が変わらないのを見るに明らかに失敗している。もっと私達みたいなのが増えればいいのに、住めば都だよ? 都というか単に慣れただけだけど。

そういえば思ったけど、街のちゃんとした名前って『最初の街』だった筈。最初と言うのだから第二第三があってもいいのに、今まで聞いたことも無ければ地図にも載っていない。こんなに土地空いてるんだから、新規プレイヤーのために運営も過解消も兼ねて別の街作ってあげればいいのに。

「うーん。大規模ギルド同士の衝突に巻き込まれたくないし、やっぱり集地の外れの方かな」

「東側は……外れにも大規模ギルドはいるね」

東側といえば、ブラストさん達は山の麓で集の中心辺りだ。充分激戦地帯だけどブラストさん達なら問題無いだろう。

「南側は遠いから、やっぱり西側かな」

「そうだね。合も東側より弱いし、外れにこことかこことかこことか、小規模ギルドはちらほらあるね」

「よし。じゃあ、ここ行ってみようか」

ハープが指したのは、外れの中でも近くに中規模以上のギルドも無く、二つの小規模ギルドがし離れた所にある程度の小規模ギルドだ。

「良いと思うよ」

「ありがとう。んじゃ、向かいながら作戦立てよう」

そうして私達は川をカーブで渡り、そのまま南下する。今回は谷まで行かないので、途中から川沿いから森沿いに変えて歩く。目的のギルドは集地の外れというだけでなく森の外れの方でもある。

「それにしても北側から來ただけあって他の人達に出くわさないね」

「私としては出くわした方がPK數稼ぎになるからいいんだけど……っと、ユズ」

「ん? どうしたの?」

ハープは口に人差し指を當てて姿勢を低くする。次にハープが指差した方向を見やると木々の隙間からそれっぽい建造とその前に立つ見張りの二人が見て取れた。

「それじゃあ、作戦通り」

「うん。行ってらっしゃい」

事前に立てておいた作戦のために私とハープは二手に分かれる。ハープはその見張りを倒すために相手ギルドホームの後ろに回り込み私は出來るだけ近い茂みに隠れる。丁度、ラアトの時と同じ様なやり方だ。

あ、ハープが後ろ側の茂みから飛び出した。正面側にすぐ向かった辺り、後ろ側にはいなかったのだろう。角を曲がったハープは一人目の首に一撃。それに気づいた二人目が片手剣を抜こうとした時には既に遅く、同じ様に首を貫かれ引き裂かれていた。見張り二人を難なく倒しきったハープは茂みに隠れている私に向かって笑顔で手を振ってきたので茂みから出る。

「やっぱり見事だねぇ」

「いやいや、技的にはPKerのリザの方が上だよ」

ハープはPKerの所を強調しながらわざとらしく謙遜してそう言った。意外と気にしてるのかな。とりあえず今のでPKポイントが+2された。

「それに弱點システムがあるからこそ出來ることだし、無かったら私役立たずだよ?」

「……AGI値高くて、STR値もそれなりにあるバリバリの戦闘向きステータスの人が何を言ってるの?」

「STR値が規格外で魔法も々おかしい人に言われてもなぁ」

「……まあ、お互いおかしいってことで」

「賛。で、っちゃう?」

「うん。私は問題無いよ」

と、いう訳で中に潛……しようと思ったら、思い切り開けた扉の隙間から矢が飛んできた。

「おっと!」

顔を出して中を覗こうとしたハープは矢が目の前を通り過ぎて聲を出した。

「ユズ、中の人。あの落としで落とせる?」

「うーん。あまりにも遠かったら出來ないし、そもそも見ないと上手く足下に作れないから難しいかな」

「そっか。それじゃあ、私が突っ込むから暗転お願い」

「りょーかい」

私はハープに頼まれて最近使ってなかった暗転を使う。あ、なんだろう、凄い落ち著く。

「ありがとう。それじゃ」

「お願いね」

目を瞑ったハープの二度目の見送りをして、私は中の様子を見る。予想通り、突然の闇に驚いて狼狽えている。ハープが弓の人を倒すと、ここからじゃ見えないけど他の人を倒しまくってるのが悲鳴でわかる。

「そろそろいいかな」

そうして、手筈通り私も中へ突する。

設置方である闇のドームを抜けて向かうは擬似石像、プレイヤーの方はハープを信じてる。というか音的にもうほぼ戦闘は終わってるっぽい。流石、我らが切り込み隊長。

廊下を抜けて広場に出るとハープは丁度、最後の一人を倒した所だったみたいで、石像にそのままの勢いで杖を叩きつけようとしている私を見てにっこりと振り返りながら笑っていた。

「やぁっ!」

【擬似石像 HP0/500】

【ユズは擬似石像を破壊した!】

【和みの館に石像破壊ポイントが+1された!】

「よし!」

「やったね!」

私とハープはハイタッチする。

それにしても意外と擬似石像って脆いんだね。てっきり、HP1000くらいあるのかと。まあそれでも擬似石像は防力が無いから、どちらにせよ一撃なんだけども。

「意外とスムーズに行ったね」

「小規模ギルドだったからかもしれないけど、この調子なら中規模ぐらい行けるかな」

因みに小規模とはギルドメンバーが十人以下のギルドのことで、十人から百人が中規模、それ以上が大規模だ。

「凄い自信だね。でも流石にハープでも一人じゃ百人相手するのは大変なんじゃない?」

私がそう言うとハープは笑顔でこう言ってきた。

「その時はユズにも手伝ってもらうよ」

ユズは集団戦得意でしょ、とも言ってくる。

「よーし! ユズ、次行くよ!」

「えっ?」

「えっ?」

どうやら、ハープはギルド一つだけのつもりじゃなかったみたい。さっきの話も半ば冗談で聞いていたので、思い出して一瞬固まる。

「ああ、安心してよ、次のもお隣の小規模ギルドだからさ。流石にいきなり中規模行かないよ」

「一応中規模も行くつもりなんだ……」

「今日じゃないけどね? さ、早く早く!」

「あっ、ちょっと待ってハープ!」

張り切っているハープは私を急かしつつ、自は出り口へと向かっていた。

その後私達は、周辺の小規模ギルド二つを倒して、更に次の小規模ギルドへと向かった。

因みに一日目は私達のギルドホーム及び迷路に侵者は無く、ケイ君は城の見張り臺で神様と話して終わったみたいで、

「暇でしたね……」

って言っていたから、ケイ君にも何かやらせてあげなきゃなぁ。考えておこう、っと。

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