《極寒の地で拠點作り》第二回イベント その八

「『分』」

大丈夫大丈夫! と、私は自らをい立たせつつシェーカさんに警戒していると、私が唯一名前を知っている、その技を繰り出してきた。すると、何時か見た時みたいに彼から分裂し、テレビの砂嵐っぽくブレていたのが解けてちゃんと形をす。

「さーて、ユズちゃん。覚悟しときなさいよ?」

合計五人となったシェーカさんの一人がそう口にする。それを見て安心した。

こういうのって、全員が同じことを同じペースで話し出すものだと思っていたから、ごちゃ混ぜになったらどれが本かわからなくなっちゃうなぁ、なんて懸念してたけどそこの所は大丈夫そうだった。

「『一閃』!」

「……? って、危なっ!」

それが起きると同時に私は滅茶苦茶ビビらさせられた。

真ん中の一人……つまり本人が『一閃』とやらを口にした途端、全員がを纏ったかと思えば一瞬にして間合いを詰めてきたのである。

「せ、せーふ……?」

だけどそこは私。いつも、向上心溢れる速さ大好きっ子と過ごしてるおで何とか避けることに功したのであった。でも慣れているとはいえ、こうも突然迫られると心臓に悪い。

私なんかはこんなじでギリギリで避けるじだけど、ハープはもっと余裕があるじで避けることが出來るのだろう。あんなじにまでなりたいとは思わない上に今更なれると思えないので諦めも何も無いけど、やっぱりあの反神経とか察知能力はしばかり憧れる。

「安心してる暇は無いわよ?」

「わっ!」

そして、再び背後からあのとんでもない速さで迫ってきたシェーカさん達をまたも避ける。やばい、危なすぎる。

さっき言った様に慣れてるってのもあるけど、いざと言う時の為に避けられるように、ハープに協力してもらって各方向からハイスピードで迫ってきてもらう練習をしたことがあったんだけど、ここで役に立った。

しかし、私とて元々AGI値が高い訳でもないどころか恐らく標準レベルさえも無い。その辺り壊滅的なので、それに準ずる瞬発力は勿論無い。反神経がし良くなったとしてもきが鈍ければどうしようもない。

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なのでんな方向から襲いかかる怒濤の五本の直線攻撃に負け、その後すぐに掠ってしまった。

「見つけたわよ!」

「えっ!? ちょ、ちょっと待って下さい! 『一閃』って何ですか! シェーカさん、幻使いでしたよね?」

「あら? 何か忘れてるみたいだけど私は幻や短剣使いである前に魔法の杖使いなのよ?」

そう言われてやっと気づく。

そうだよね、なんで忘れてたんだろう? 派生のオマケ魔法群ってだけで元の魔法は進めてないとは限らないのか。幻の方ばっか気にしてて、完全に魔法とは別として見てた。

それで、その『一閃』というのは魔法の中でもステータス上昇の効果を持つ補助魔法で、AGI値を一定時間上昇させるというものだった。

聞けば、ユニークシリーズを手にれた當初は短剣は使わずに元からの杖で幻だけを使っていたらしいけど、『分』を覚えた時にその分にも『一閃』の効果が付くことがわかって、

『あれ? これ、分出しまくって上手く陣作って一閃使ったら逃げる隙無く相手切り裂けるんじゃ?』

なんて思ったらしく、態々お高いステータスの振り直しアイテムを使用してVITのポイントをAGIに振り直した上で短剣に変えたみたい。ただ、分を出し過ぎるとその分だけ個々のステータスも分割されるっぽいので現狀五、六人が丁度くらいという話だ。まあ、そんな大きな転換をして後悔はしてないと本人は言うのだから良いのだろう。

とりあえずそれについて聞いたのと同時に場所を変える。一応、時間稼ぎにもなったのでこっそりと移させてもらった。でも、あの速さでは再び見つかるのも時間の問題、早急に解決策を練らなきゃいけない。

ここであまり見てなかったハープとサラさんの様子をしだけ見てみると、一対一が始まって割と経ったというのにお互いダメージを與えられていないというのが驚きだ。

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両者息切れしつつも、避けたりけ止めたりで停滯している様だった。あのハープと互角だというのはサラさんも相當な実力者だということ。それなのにどうして、第一回イベントの時とかお邪魔させてもらった時の騒の時とか機會はいくらでもあったのに見かけなかったんだろう? まあ単に都合が悪かったかれ違いになったとかそういうのだろうけど、もし第一回の時に出會してたらあんな結果は得られなかったかも。

話は逸れたけど、ハープには『無作為な混沌』がある。一撃でも當たれば何かしら狀態異常が付くのでしばかりハープ側にアドバンテージがあると言えるし、多分何とかやってくれる。

まあ、ハープとかは良いとして、私、どうしようかな。対抗策はあるにはあるんだけど範囲がね…………

「納得してくれたかしら、じゃあ再開するよ? 今ので時間を稼いだみたいだけれど、それだけじゃ私は止められないわよ」

あー、もう考えてる暇無い! ほんとについさっき、ハープは何とかやってくれるって言ったばかりだけど私がどうしようもないし、それにこれでハープとケイくんも纏めて現狀打破出來るかもしれないから、巻き込んじゃうけど許してね? もしもの時は謝るから!

「それじゃ、一せ――」

「『重力支配』!」

【ユズの重力支配!】

「――ん!?」

その一文が表示されると共にシェーカさんが聲を上げた。どうやら、技名を言い終える前に発させてしまった結果舌を噛んでしまったらしい。

さて、今使ったこの技だけどシャード君、つまり『闇の眷屬』。それに続いて最近新しく得た闇魔法、それがこの『重力支配』だった。

その名の通り、重力をることが出來る様で最初は皆には緒で、來るべき時まで黙っておこうかと思ったんだけど、一度試しに迷路の隅の方で発させてみたらこれがまた範囲魔法だったみたいで運悪く近くを通りかかったケイ君が被害をけた。そして、

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『こんなことするのはユズさんしかいない!』

って心外にもそうなったっぽくて、後から迫ってきたっけ。

まあ、どういうであれ工夫が如何様にもできそうな代っぽかった。

「えっ!? な、何、これ……?」

「あなた、何やったの?」

「わたっ、私じゃないよ! こんなことするのは……」

「小癪な……この、下種野郎……!」

「お、俺じゃないですよ!」

「おおっ……!」

被害に遭った人達はそれぞれその反応を口にする。何故かケイ君に怒りが向けられるが、これはお約束だろう。ブラストさんに至っては凄い楽しそうにしてるし。てか、これ溫泉の建大丈夫かな? ギルドホームは神様のだし全然問題無いと思うからそっちはいいけど。

「……!」

「あれ? シャード君は大丈夫っぽい?」

もしかすると、シャード君も私の技のだから影響をけないのかも。それなら大分楽になる。

さてさて、皆さんキツそうな表を見せているけど今かけている重力はだいたいジェットコースターが急に上がった時くらい。技発の時に何行か項目が出てくる。その中で今回選んだのがソレだ。

他にも宙返りの著地くらいやら戦闘機が旋回するくらい等々、的なのかよくわからない例えで表されている。ただ、どんなに酷いプラスGになっても人への影響が痛覚と同じく薄いので、意識を失ったりグレイアウトやブラックアウトと呼ばれる癥狀も現れない。なので、重力がかかっている様な錯覚に陥っているのと同じ様な狀態と言えるだろう。

因みに、『重力支配』が私自も対象にするかは発前に選択出來るので安心だ。

ジェットコースターが急に上る時なので嫌がらせ程度にしかならないかもしれないけど、とりあえずこれで速いサラさんとシェーカさん、そして飛びかかったりするクアイさんのきを抑えて鈍重にさせた訳だ。まあ、それはこちらも同じでハープとケイ君も遅くなったということなので完全にプラスとは言えないけど。それは私とシャード君がいるので大丈夫だと思う。

「さーて、行きますよ。シェーカさん!」

くのがキツくなってる相手に気合いれて闘うというのは卑怯かもしれないけど、こうでもしないと勝てないから仕方ない。これも戦だ。

「へぇ? やっぱり、ユズちゃんなのね」

「あはは……まあ、そういうことです」

「ふふ。でもね、きは封じられたけれど分はまだ殘っているしその場でもある程度戦えるのよ?」

シェーカさんの言う通り、分がまだ殘ってる。それに重力に苦労しながらも未だ余裕を見せるのは、流石上位のプレイヤーと言えるだろう。

しかし、これは想定済み。私だってちゃんと考えることもあるのだ。

「ハープ! ケイ君! それから、シャード君もジッとしてて! まずは『奈落の』!」

「……っ! 殘念だったわね、これくらい何とか避けられ――」

「『重力支配』!」

「なっ!?」

重力支配は支配でも今度は0G、つまりは無重力だ。発させた瞬間、を避けようと踏ん張って斜め45°くらいにジャンプしようとしたシェーカさんはそのままその方向に飛んでいってしまった。よっぽど踏ん張ったのか、それも結構なスピードで。それは分も同じことで同じ様にジタバタしながら吹っ飛んでいった。

さて……三回目だから、さてさてさて、かな? まあいいや。そんなことはどうでもいいとして、私はこの技は範囲魔法と言った。では側と外側の境い目に辿り著いたらどうなるだろう。

「とりあえず、追いかけなきゃ」

先程ケイ君が被験者……じゃない、被害者第一號になった話をしたけれど、その後そのケイ君が食いついてきて支配と言うんだからアレも出來るだろうってなって無重力にしてみた結果、調子に乗ってジャンプしてしまってパニックになったのはケイ君と私だけのである。まあ、この後それをシェーカさんにさせるつもりだけど。

「あれ、意外と広い? でも確かドーム狀の筈だからそろそろ……あっ」

上を見上げて範囲の広さに驚いていると、急に終わりは來た。みるみるうちに飛ぶスピードを下げて今度は真っ逆さまに落ちてくる。

私はこれを狙っていた。範囲の外は勿論、通常の重力が働いているので、外に出ればそれに従って落ちてくるという訳だ。幾らシェーカさんでもゆっくりだけど下への推進力を持った上に、空中ではき取れないだろうと。つくづく、『一閃』が瞬間移じゃなくてAGI値上昇で良かったと思う。仮に空中でもそれが出來たらこの策は無意味だったから。

ここで私は落ちてくるシェーカさんに大聲で呼びかける。

「シェーカさん! 避けられると仰いましたが、これではどうですか!」

ここでさっき使ったばかりお馴染みの、『奈落の』を発させる準備をする。如何せん、が狹いので苦労するけど本人だけを落とせば分も消えるだろうからいいし、き出來ない相手の落下地點くらいどうにかわかる。

私が様子を見ながら真下でうろちょろしていると、シェーカさんは何か悟った様な顔になってから返してきた。

「ふふっ、ユズちゃんは何時も何かしら凄いことをしてくれるわね…………思えば、プレイ開始二日目でユニークシリーズ取得する程だもの。當然と言えば當然よね」

「そんなこと無いですよ。あれは偶然ですし、何より私の力ではありません。それに、私にとってはまだシェーカさんやブラストさんは壁ですから」

そのユニークシリーズとかを取得出來たのも唯一無二の親友のお、私は足を引っ張っただけ。

私がそう否定するとわざとらしく起こった様な顔になり、

「あまり謙遜していると嫌味に聞こえるわよ? ユズちゃんはこのゲームの中では強大? いや、兇悪かしらね……そんな存在なんだから」

「い、言わないで下さいよ……!」

「ふふっ、まあいいわ。今回は負けたけれど、次は私が勝つんだからね」

「はい! 私もその時はもっと強くなっておきます! ……それじゃ、『奈落の』!」

を出現させると、上手くそこに吸い込まれる様にシェーカさんが落ちていった。それにしてもゆっくり落ちてくるとはいえ、話し込んでしまった。そのせいで地面ギリギリまで発させなかったんだから危ない危ない。あんな會話した後で失敗したら、どんな顔すればいいんだか。

「あっ! やば、解除しなきゃ!」

完全に忘れてた。

そう思って、振り向くと驚きの景が広がっていた。ハープの所には『orz』なじの勢のサラさん、そしてケイ君達の所には膝を付いて悔しそうな表のクアイさんが居た。

これはどういうことだろうと思いつつ、ブラストさんがけるようになるとマズいので『暗転』だけ解除してそちらは解除せずにハープの所へ向かう。

「えっ? ど、どうしたの、この狀態!」

「ふっふーん、どう?」

「どうって……この無重力の中やったの?」

「そうだけど?」

聞けば、ハープ自、傷つけられればどうにかなると思っていたけどなかなか當たらずに捌かれる。従來の技を使おうと思っても投擲じゃ避けられるし、影いも一本短剣を失うことになるので以ての外だったらしい。新技を試そうにも、自分がやられるのがオチだった。

そんな所に私が『重力支配』をしてきた。影響をけるのはケイ君と違ってハープは初めてで戸ったけど、流石はAGIお化け。無理矢理かせそうだったという。でも、流石に普段通りにける訳でも無いので様子見していた所で今度は無重力。更に面倒な狀態になって大人しくしてるかと思えば、そこはハープだった。

お互い下手にけない狀況で、逆に新技を試す機會だと思い立った様で早速使ってみた所功し、その上切りつけることにも功したという。そして更に幸運なことにその時、『無作為な混沌』でサラさんに加えられた狀態異常は麻痺、きを封じることに至った。

そこからはずっとハープのターンで、鬼の如く切りつけて付けられる限りの狀態異常を付けまくった結果がコレであった。

狀態異常の量と容を聞くと、未だ項垂れているサラさんが気の毒になってくる。幾らゲームの中とはいえ、こんな鬼畜なことされたらひとたまりもない。

「へ、へぇ……それで、その新技っていうのは?」

「なんかユズ引いてない? まあいいや。ふふふ、聞いて驚かないでよ?」

「……もったいぶらないでいいから」

何処か自慢げでもったいぶって話そうとしないハープにイラッときた私は、し語気を強めてそう言った。

「もう、つれないなぁ……新技ってのは『地』だよ」

「『地』?」

地というと仙だっけ? あの瞬間移するっぽい奴。

ハープの説明を聞くには、そっちじゃなくて日本武の方っぽかった。その技は暗殺レベル4でその肝心の説明文は、

『AGI値関係無く、相手との間合いを瞬時に詰める。なお、地面に足がついている時のみ使用可能』

だった。

瞬間移では無いので、無重力空間でそのままの推進力を保ったままぶつかったことになる。道理で最初に居た場所から離れている訳だ…………もしかしてもしかしなくても、この時點で既にサラさんとっては大ダメージだったんじゃ?

益々サラさんが気の毒になっていく中で、改めてあの狀況下で新技を試そうとしたハープは凄いと思った。

「もう、ちゃんと後先考えてからやってよね?」

「……ユズ、それツッコミ待ちなの?」

「ん? 何が?」

よくわからないけど、しょうがなさそうに肩を竦めてハープは笑う。

「うぅ……」

「あ、サラさんのこと忘れてた!」

「失禮だよ……ハープ……」

唸りながらしずつ起き上がるサラさん。もしかしたら、勢いあまって飛んでいっちゃうかもしれないので私が支える。何かあってもに落とせばいいので大丈夫。

「あー、酷い目にあったぁ」

「どう? 私のユニークスキルは」

「降參だよ、降參。まだチェックメイトじゃないとはいえ、ここまでやられちゃあね」

どうやら平和的に終わったっぽい。良かった、親友が項垂れて苦しそうにしているを一方的にザックザクやってる所なんて見たくないからね。

「副団長もやられちゃったかぁ……先輩、すみません」

殘念そうに私とシェーカさんが闘ってた方を見たと思えば、今度はブラストさんを見て申し訳なさそうに笑った。そのブラストさんは、

『後は俺に任せろ』

ってじのサインを眩しい笑顔で表してきた。その後、サラさんは私を見て、

「ユズちゃん、だっけ? あなたも凄いね、重力を無くす技なんて……あはは、クアイも悔しそうだよ」

話していて忘れてたけど、クアイさんも居たんだよね……私もハープのこと言えないや。

「ユズ、様子を見てきてよ。ここは私がいるからさ」

「大丈夫?」

「どちらにせよ、ユズしかけないでしょ」

「あっ、そうだった……」

そんな訳で、今度はケイ君達の所に行ってみる。

というかブラストさん、実はけるんじゃないかな。発した時もあんなに楽しそうにしてたし。ブラストさんは優しいし、多分待っていてくれるのだろう。

ただ、裏を返せば今のこの狀況を挽回出來る程の余裕がまだ殘っているということ。そう考えると、やっぱりブラストさんは違う。シェーカさんに言った通り、未だ私にとっては壁だね。そう改めて実した。

「おーい、ケイ君、シャード君!」

「あー、ユズさん……」

「……!」

「くっ……」

高い壁に直面していた所で私は二人の名前を呼ぶと、何やら困ったじの表で何とも言えないケイ君が応じてくれた。

「この、下種が……っ! その忌々しい土魔法から見下ろして……毒魔法を加えてきたかと思えば……そこの影が攻撃してくる……下手にけない私をとことん嬲るとは……やはりお前は下種野郎……癖クズの……クソ野郎……もう、煮るなり焼くなり、好きにするがいい……」

通常通りの途切れ途切れの言葉でケイ君をとことん罵るクアイさんは、もしかしたらが強くなるとこう饒舌になるのかもしれない。だから戦闘が始まってから突然こんな風になったんだろう。でも、おでだいたいどういうじだったかわかった。

ケイ君は『壁』をガード代わりに使うのではなく、足場として使ったんだ。そうすれば、確かに無重力空間での行は可能だ。逆に乗られそうになったら、引っ込めたり変な所を突出させたりしてまたればいいだけの話だし。

そうなると、アドバンテージがかなりとれてた訳だ。シャード君は元々効かないからね。そうなるとやっぱりクアイさんの言う通り、嫐る狀態になるんだろう…………じとーっ。

「ユズさん。俺、間違ったことはしてないと思うのですが、そんな目で見られるといたたまれなくなるのでやめて下さい……」

「え? あー……」

どんな狀況だったかを想像してたらクアイさんの証言? もあってか、私の中のケイ君がすっごい格悪くなってて、いつの間にか目に出ていたようだ。あ、また私の中のケイ君が、

『ふへへ……もっと、もっと悔しそうな顔を……っ! そうです、そうですよ、その顔です! あぁっ、ゾクゾクしますね! さあ、今度は悲鳴を聞かせてください!』

とか言ってるよ……。

あー、なんかケイ君に悪いや。反省反省、っと。でもまあ、近くでちゃんと見てても引いてたかもしれないのは否定しないのはだ。

「はぁ……また俺のイメージが……」

「あれ? また私、目に出てた?」

「また、って何ですか。今度はなんて言ったんです? ユズさんの中の俺は……」

「う……」

私が妄想を繰り広げる中、ケイ君がまたもや落ち込んでるじがしたから聞いてみたら気づいてなかったみたい。態々自分から言っちゃったよ、マズいマズい。

「あ、ああ! そういえば、クアイさん! クアイさん、どうする?」

「はぁ、話逸らさないで下さいよ。もういいですけど……っと、クアイさーん?」

呆れた様な諦めた様な顔したケイ君は壁を伝ってクアイさんを揺さぶる。

「っ……こんな奴に辱めをけるなんて……」

「しませんよ、そんなこと!」

そしてこちらもまた諦めた様な悔しそうな顔をしたクアイさんがケイ君を睨み上げる。

「仕方ない……が、こんな下種にを見せるとは……屈辱……」

「いや、だからですね!」

「確かハラスメント行為の警告って本人了承すれば解除出來るんだっけ?」

「……流石にユズさんでもそろそろ本気で怒りますよ?」

「あはは、ごめんごめん」

「あぁ、最初の頃は誰かさんと違って心の優しい方だと思っていたのに……」

む、心外な。何時だって私は心の綺麗な優しいの子だよ? 誰かさんと違って。

そんなやり取りをしていると、私達をよそ目に自分の世界を繰り広げているクアイさんが大きな山場を迎えていた。

「……っ、覚悟を決めろ……私……」

「って、ああっ! がなくていいですから、クアイさん!」

気づけば、著ていたローブは既に無重力空間を舞っていた。実年齢はわからないけど、ケイ君の前で型なクアイさんがぎ始めていると犯罪的な何かをじる。

そしてそこからケイ君の説得が始まり、お互い會話が立しなかったりと大変そうだったけれど何とか功して落ち著かせることが出來たのだった。

「う……取りした……すまない……」

調子も元に戻り、恥ずかしさからかフードを目深に被っている。

「俺はを嬲って興するクズじゃないんですから、わかって頂けましたか?」

「うん……」

ケイ君の目線が一瞬こちらに向いたのは、私にも言っているということだろう。まあ、私としても冗談で言っている訳だから、そこの所はね?

「とりあえず、円満解決と行きたいので今回は俺の勝ちでいいですかね?」

「うん……悔しいけど……仕方ない……お前の勝ち……」

どうやらこちらも綺麗な終わり方をすることが出來たみたい。良かった良かった。

そうそう、ブラストさんはいつの間にか観戦モードに切り替わっていたみたいで、完全に寛ぎモードに変わってた。ブラストさん対策に、ずっと無重力にしていたのに元々意味無かった様だ。

何か損した様な気分だけど、私は警戒を解いて安心して『重力支配』を解除しようとする。でも、それがいけなかった。

解除して三秒くらいした時、突如迷路の壁から発が起きた。壁際のハープとサラさんを巻き込んで。

「ハープ!」

「サラ……っ!」

その劈く発音と閃にこの場にいる全員が反応して、それぞれを心配する聲を上げる。始めは私達への攻撃としてブラストさん側が仕掛けたかと思ったけど、クアイさんとかの反応……そして、発で巻き上がった土埃の中に見えた人影でその考えは掻き消えた。

「あー、二人巻き込んじまったかぁ……結構上玉っぽかったんだが、損したなぁ」

土埃から現れた男はそんなことを口にしながら殘念そうな顔をして私達の方へと歩いてくる。

「おい! 何だ、お前らは?」

と、ブラストさんが男に聞いた。不屆き者ならブラストさんに掛かれば問題無い。そう思っていた私だったがその考えは大きく破られることになる。

「……あ? 野郎はいらねぇんだよ。とっとと消えろ」

すると、男は距離がありながらもブラストさんへと掌を向ける。

「『発エクスプロージョン』」

その瞬間、二度目の発が起きた。それもブラストさんの居た所で。

「団長……っ!」

ブラストさんが煙の中から出てくる様子は無い。

「おおっと、くと危ないぜ? そういや、あのおっさん。どっかで見たと思えば、あの『騒の會』の団長様か? ハッ、この力があればそれほどのお方も紙同然ってか!」

「え? だ、だって、ブラストさんだよ? そんなブラストさんが……一撃?」

絶対的強者だと思っていたブラストさんが一撃。それは私にとってとても重大なことだった。となると、この目の前の男はとんでもないユニークスキルとかを持っているということだ。こんな発を直接起こす技なんて見たことも聞いたことも無いし。

「ははは、いいねいいねぇ、その顔!」

「屑が……!」

「何度でも言うがいいさ」

そんな態度で言葉を返す男に、邪魔されたことも相まってイライラしてきた頃、男の後方で微かながらが見えた。

「……ッ!?」

男が橫に飛び退いて、驚きの表を見せる。

「ハープ! どうして?」

「事は後だよ! 先にコイツをどうにかしなきゃ!」

ハープは所々傷をつけた格好でそう言う。は、闇ノ短剣が反しただった。事というのもサラさんが見えないのも、大方ハープを庇って……とそんなじだろう。

それにしてもこの男、あのハープの直線攻撃を掠りながらも避けるなんて……発の辺りで只者じゃないと思ったけど、こういうのを見る限りヤバい相手だと再確認する。

「ってぇなぁ……!」

ハープに切りつけられた男はさも不機嫌そうな顔でこちらを睨みつける。激昴して何かしてくると思った私達は、男に向かって構える。

「はは。まあ、赦してやろう。この後、やるべきこともあるからな……おい! 來ていいぞ!」

偉そうな態度で話す男にまたもイラッとしていた私達だったが、その男が発した壁へ向かって呼んだ相手がそのから出てきて男のすぐ側へとやって來ると私とハープ、ケイ君は言葉を失う。

「ほら、挨拶しろよ」

「…………」

「おい、聞いてんのかよ! ああ!?」

「ひッ……! すみませんすみません……!」

そう。男に呼ばれ、今も怒鳴られて怯えるは他でもない『和みの館』のメンバーで、私達の大切な仲間のリンちゃんその人だったのだ。

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