《極寒の地で拠點作り》リンの回想 前編
リンというは、両親が共働きで共に朝早くから夜遅くまで帰らない環境で育った。基本、學校に行っている時以外は獨りで現在もまだいながらそんな生活を送っている。
両親も別に放任主義という訳でも娘へのが薄いという訳でも無く、寧ろ強い方であったのでたまに會える時には、時間を惜しまずにたっぷり話したり遊んだりすることに費やした様だ。
ただ、やはり忙しいものは忙しくなかなか時間を取ってやれないということで、ある年の誕生日に寂しく無いようにと最近流行りのVRゲームを買ってあげた。他にも々対策法はあっただろうけど本などはもう足りているし、何より必要なのは人との接だろうと考えていた。
実の所、リンには友達が殆どと言っていい程いなかった。元々、人とのコミュニケーションが苦手だったリンにやっと友達が出來たと思った所でその子が転校してしまったのだ。仕方ないと言えば仕方ないが、その話をした時のリンの表がとても悲しそうな顔をしていたのを見て可哀想に思ったらしい。
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そんなじで始めることになったのが『GSO』だった。その時、新商品として店頭に並べられており、パッケージからギルドというシステムの存在を知った両親が、寂しさを紛らわす上で、ゲームを楽しみながらリンのコミュニケーション能力を上げることが出來れば、という思いも込めてのものだ。
実際やってみれば案外上手く行くで、無事ギルドに加することが出來た。しかし、今の本人にとってみれば、それが運命の分かれ道だったのだろう。
そのギルドは小規模寄りの中規模ギルドで、団長は正に好青年という雰囲気の男だった。最初の街のギルドメンバー募集の場所、後にユズ達にわれることとなる掲示板に何処かこんな自分でもれるギルドがあればと探していた所、聲をかけてきたのがその男だった。このゲームに慣れていなかった始めの頃こそ、リンは彼のことを怪しんだがその時の優しい対応に、安心して彼のギルドに団したという訳だ。
それで実際、彼のギルドのギルドホームに行ってみた。そこでリンはしばかり驚いた。何故なら、団長含めて十數人メンバーが居るのだがそのメンバーが団長以外全員だったからだ。そんなギルドに再び訝しんだリンだったけれど、にっこりと微笑む団長の男とメンバーの達は手厚く歓迎してくれたので、湧き上がった怪しさは一抹も殘さずに消えて無くなった。
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今の彼からすれば、ここでもう一つ思いとどまってどうにかしていれば、と後悔しているが恐らくその時の流れからして彼の格的にそのタイミングで抜け出すことは困難だっただろう。勿論、本人も自覚している。しかし思わずにはいられない程、これが最悪の出會いとなるのだ。
本當に最初の方こそ、快くレベリングや探索に付き合わせてもらっていた。しかしし経った頃のことだ。ログイン直後のギルドホームにて、あるメンバーが虛ろな表で壁に手を付きながら廊下を歩いていた。
『ど、どうしたんですか!?』
『あ、あら……リンちゃん? あ……心配しないで。特に……何も無いから』
『で、でも……』
リンが尋常じゃない様子の彼に駆け寄る。見た所、目立った外傷は無い。しかし、あったからと言ってここはゲームの中。痛覚が抑えられているこの世界ではそれが原因だと思えない。
しかし、リンが聞くと無理に作った様な笑顔でそんな言葉を返してきた。そんな筈は無い、とリンは心配するが、
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『大丈夫……大丈夫だから』
と、彼は大丈夫の一點張り。そこで話は終わってしまった。
リンとしても、それ以上詮索するつもりも無かったので毒とか何かの狀態異常に掛かってた、今にも倒れそうな様子で自分の部屋へる彼を見て、そう無理矢理思い込むことにしたのであった。
しかし、そのだけでなく他のメンバーも様子がおかしくなることが目に見えて多くなってきた。これはおかしい、と団長の男に訴えかけた所、
『ん? あぁ、君は気にしなくていいんだ、うん』
などと、調弄されてしまった。
どうも怪しいと睨んだリンは獨自に調査を開始した。突然、いつもとは違う時間帯にログインしてみたり、メンバーの様子をより鋭く観察してみたり、時には盜み聞きをしてみたり。
『ギルドホームにこんな所が…………』
そうして辿り著いたのが、地下室だった。
よくよく考えてみたら不自然な行き止まりだったと思う。り口って真っ直ぐ進んだ後の丁字の廊下、その右の通路の奧には木箱や袋が山の様に積まれていた。普段はそういうだと思ってリンは近づかなかったが、それらのには地下へと続く階段が隠れていたのだ。
ここを進めば、ここ最近メンバーの様子の原因の謎が解ける筈。そう思ったリンは彼らの話やこの隠し合から何か確信し、見つからないように慎重且つ迅速に降りていく。
地下深く続く階段を降りきると、剝き出しの電球が天井からぶら下がる薄暗い一本道の通路に繋がっていた。通路の両側には鉄格子の付いた狹い窓のある扉があり、収容所増し増しの不気味な空間となっている。その中でも正面、つまり一番奧、その部屋の明かりだけが點いていた。
リンは気配はじないながらも抜き足差し足で壁伝いにその部屋へと近づく。そして扉の前まで來たは良いものの、小窓にまで屆く程の長を持っていないリンは耳を扉にくっつけることで中の様子を何となく伺った。
『誰も……いないのかな?』
何分か確認して、そう思い至ったリンは思いきって扉を開いてみることにした。
中の様子をしずつ確認するため、ゆっくりと開ける。裝は通路と同じく薄汚れた石造りの壁だ。しかし、開いていってもただそれが見えるだけで特に何かある訳でもない。安心した様ながっかりした様な、そんな微妙な気持ちになったリン。
そんな彼だったので、部屋の中央まで見渡せるようになると絶句することになる。
『ひゃ……っ!』
思わず後ずさりして聲を上げてしまった。
そこには目隠しされて項垂れた人らしきが椅子に座っていたのだ。よく見ると、その手足は椅子に縛られていることがわかる。
『えっ……誰、誰か居るの?』
『あっ……』
いたのでひとまず座っていたのは人間だった。最初こそNPCかと思ったが、聲を聞いてリンがメンバーの中で最初に様子のおかしいことに気づいたあのだったということがわかった。リンはその時の如く慌てた様に駆け寄って、
『だ、大丈夫ですか!?』
『えっ? 団長じゃ……ない?』
『……どういうことですか?』
『その聲は、リンちゃん?』
『はい! あのっ、今助けますので!』
『だ、駄目! リンちゃん、今すぐここから出て!』
リンが目隠しを外して、きの取れない彼の縄を解こうとすると、彼は何故か拒絶する。
『どうしてですか!?』
『どうしてもよ! あなたがここにいるのがあの人に見つかったらあなたも…………ッ』
あの人。そういえば、さっき団長と言っていた様な? でもあの団長がこんなことする筈……でもあの時の誤魔化しもあったし……などと、疑う気持ちとそれは無いという考えが頭の中で相反している。
そんな所、が言葉を途切れさせてはっとした顔でリンを…………いや、後ろだ。彼の目線は扉の方へ向いている。
『あなたも……なんですか?』
『それは俺が説明するよ』
そこでやっとリンも気づく。彼の見ていた扉の方向、そこには一人の男。このギルドの団長がいつも通りの優しそうな顔で微笑みながらそう言ってきた。
『あ……いつから……』
『んー? あぁ、心配しないで。ほんとに今來たばっかりだから……ところで、何処まで説明してくれちゃったのかな?』
『ひっ、ま、まだ全然……』
『そっか。じゃあ俺が直々に詳しく叩き込……教えてあげないとね』
『や、やめてあげて! リンちゃんは、まだ小さいのよ!?』
未だ縛られつつも、そう大きな聲でリンを庇う彼に疑問を持ちながらどういうことなのか、ここで問いただそうとする。
『……あ? それがどうしたよ。お前だってわかってただろ? 俺がこんなガキ連れてきたのは何の為かってよ』
『でも……!』
『るっせぇ! お前は素直に俺に嬲られてりゃいいんだよ!』
『っ、あッ!』
しかし、突如豹変して彼ごと椅子を暴に蹴り倒した団長の男の言に萎する。だがゲームの中とはいえ、こう拷問地味たことや続いて暴する様なことはリンにはどうしても許せなかった。
『あ、あの! 可哀想じゃないですか! どうしてこんなことするんですか!』
蹴り倒した男は無表で振り返り、リンの方へやってきてリンの前で止まる。
『…………』
『な、なんですか……!』
リンは、表も変えずに前に立つ男に怯えながら構える。
『ふっ……』
しかし、男が一瞬気味悪く笑ったのを見た所でリンの視界が眩む。
『え……』
座り込んでも何をされたのかわからなかったが、突如頬に走った痛みで理解することとなった。
『いたぁっ! 痛い……いたいよ……』
『はははっ! やっぱ、毆るにしてもこんなガキでもイイもんだな!』
『いぁ……どうして……』
リンは混していた。男が何故こんなことをするのか、それも疑問であったが問題はそこではない。どうして、どうしてこんなに痛むのか。ここはゲームの中で、痛覚は抑えられてる筈なのに、まるで現実世界でじる覚にそっくりだった。
『あ、いいねその顔……んじゃほら、來いよ』
『ひッ……!』
『やめてあげて……やるなら、せめて私を!』
『てめぇは黙ってろっつったろうが!』
そう言って再び彼を蹴り飛ばす。リンといえば先程の様に怒る気力、そして逃げる気力さえも沸かず、ただ座り込むことしか出來なかった。
『ふぅ……それじゃ、來よっか』
『はい……』
完全に抵抗する気が失せたリンは男に連れられて別の部屋にる。ここで、どうしてこんなことに……とリンは初めて思った。こんなことならあの時斷っておけば、と思ったが時すでに遅し。もう無意味なのである。
『ほらっ』
『いやぁっ!』
腕を引っ張られ、力ずくで部屋にれられようとしているリン。気力は一時失ったが、これから始まる恐ろしい出來事を想像し得る範囲で考えてみたら抗わずにはいられなくなったのだ。
『チッ、まあお前がそれでいいならそれでいいんだけど……なっ!』
『うぐっ……!』
腕を上に引き上げられて懐ががら空きになったリンの腹に男の拳が突き刺さる。やはり、これも何故かリアルな痛みで全然抑制されていなかった。
 
『はー! 一度やってみたかったんだよなぁ、ロリに腹パンっての。これいいな、ハマったわ』
『な……やめ……』
そんな自分勝手なことを言う男に腕を摑まれて、腹を毆られた痛みに悶絶するリンは抵抗出來ずに部屋に引き込まれて扉近くの壁に抑え込まれた。
『ゲームの中だし? 臓とかアザとかその辺心配無いから、なっ?』
『うっ……やめてくださっ……!』
『うるせぇ! お前は俺に腹パンされてりゃ、それでいいんだよ、っと!』
『ぐっ……!』
『やっぱいい、イイよその表! うん、堪んない、なぁっ!』
狂気的な言葉に乗せて、何発も何発も腹を毆られてサンドバッグ狀態のリンは最初の數発で既に心が折れていた。
どうすることも出來ず、ただただ毆られ続けられる時間が過ぎるのを願うばかりだった。
どれだけの時間が過ぎただろうか。五分? 十分? 三十分? 一時間? もっとだろうか。それ程までに本人にとって長い時間にじられた。
『ふぅ……あぁ、良かったよ、リン』
『ぁ…………』
ドサリと崩れ落ちて倒れ込むリンは、虛ろな目で男を見上げる。こんなことを他のメンバーは延々と毎日の様にさせられているのだろうか。自分が呼ばれるのを怯えて過ごしているのだろうか。これから自分もそれに加わって、こうして嬲られなければならないのか。そう混する頭で思考を張り巡らせる。
『あ、言っとくけど、これ運営とか部外者にバラしたらお前とお前の家族が危ないからな。わかったら言うんじゃねぇぞ?』
『…………』
『……聞いてんのか、あ?』
『はっ、いやぁっ、やめて! やめてください!』
『ははっ! すっかり、心折れてんじゃねぇの。そんなんじゃこれから先持たないぞ?』
そんな他人事みたいに、と思ったが勿論言える筈もなく、ただ怯えることしか出來なかった。
でも、とりあえずこれで一旦は乗り切った。あと暫くは呼ばれない……そう束の間に安心しているリンだったが次の言葉で再びどん底へと落ちることとなる。
『よし、じゃあ今日は一旦終わりだ。明日も來い。來なかったら、どうなるかわかってるよな?』
『え……』
男の言葉に凍りつく。それもそうだ。あんなことをされた直後にまた同じことをすると宣告されたのだ。家族を槍玉にあげられ従うしかなくなったリンは絶する。
こうして、リンの地獄の様な日々は幕を開けた。
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