《極寒の地で拠點作り》第二回イベント 終

「い、たた……」

地面が割れた。そして私は今、そのの底にいる。幸いなことに巖に潰されることも挾まれることも無かった。発の間接的な災害だったのでこちらも幸い、痛覚抑制無効の範囲でなく、多痛い思いをすることで済んだ。

リンちゃんのいた所まで崩れたっぽいのでの底はそれなりに広く、巖は積もり、足場は悪い。ここで男に遭遇したらかなりキツい。速さで勝負してるハープやリザは特に。まあ、男がきできなければそれはそれで嬉しいんだけど。

「あっ。み、んな……? 皆、大丈夫!?」

このに落ちたのは私以外では男含めて五人だ。その中でも最後一番近くにケイ君だった。因みにシャード君は調べたけど多分また引っ込んじゃったと思う。

それで、私の問いかけには誰も反応を示さなかったので、とりあえずそんな危機から自力で探すことにした。

「よっ、と」

巖を乗り越え、隙間を避けてケイ君の所へ向かう。私のおばあちゃんの家は山の中の更に山の中ってじの所にあって行き方次第では大分険しいけど、こっちの方が凄い大変な気がする。こんな滅茶苦茶な地形、つくづく酷い発をしてくれたよ、全く。

そうして暫く進んだ先で不自然に巖がいているのを見つけた。

「えっと……」

「……え? あ、その聲はユズさんですか?」

「どうしたの……って、見ればわかるね」

聲を掛けようか、一瞬迷ってらしてしまった言葉に反応してきた聲はケイ君だった。どうやら瓦礫に埋もれてる様子できが取れないみたい。

「ええ。著地は間欠泉フルパワーで出してギリギリセーフで、でも落ちた後の上からの巖で下手にけなくて……それも間欠泉続けながら壁作ってたらどうにかは守れたんですが、閉じ込められちゃって」

巖に遮られてこもった聲ではあるけれど、割と詳しく説明してくれたのは聞き取れた。多分、そんな奧って訳でもないのかな。

「何とか出られるの?」

しずつ壁ってるんですが……」

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「壁る」

何か新しい言葉が出てきた。

「ええ、壁ります。それでですね。今は巖を持ち上げて退かしたりしてるんですけどあまり変わりませんし、ユズさん達から頂いたMPポーションももう無いですから正直いつになったら出られるか…………」

ふむふむ、よくわかった。よっし、それじゃあアレだ。

「心配しないで、ケイ君。良い方法思いついたから」

「あ、本當ですか?」

「ほんとほんと。で、今、の周りってどうなってる?」

「え? えっと、狹いですが『壁』で天井と、咄嗟に作ったので左右二方、多分ユズさんがいるのは俺の左側でしょうからそっちには壁作ってますけど……それが?」

「ううん、大丈夫だよ。安心して」

うん、わかった。それなら何とか安全に行けるかな。『壁』も落ちてくる巖程度からは守ってくれたみたいだし。

「え、何、何が安心なんで――」

こまっててー」

「えっ」

さてさて、出來るだけ手加減はするけどどうなるかわからない。まあ、これが一番手っ取り早いからね。それじゃあ行くよー。

「えいっ!」

その瞬間、目の前の巖が大きな音を立てて四散する。別にあの男がやった訳でも、ましてや私が発技を使った訳でもない。

「っ!? ちょっ、ユズさん……もしかして、杖で毆ってま――「よっ、とっ!」うわあっ!」

ただ私は杖で毆ってる、それだけだよ? 隣にあった巖が弾け飛んでケイ君がぶけど、気にしない気にしない。

そうして、出來るだけケイ君が危なくないようにあっちをガンガンこっちをゴンゴンした結果、何とかケイ君の所に繋がった。

「ふー、開いた開いた! ケイ君! 大丈夫だった?」

「大丈夫って……俺、何回か死にかけましたよ」

「……?」

「何ですか、その『何言ってるのかわからない』みたいな顔は…………ユズさんって天然じゃなかったと思うんですが」

「あれ、もっと強かった方が良かったかな?」

「あーこれ絶対わかっててやってる反応ですね」

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私が問うとケイ君は呆れた様に『駄目だこりゃ』ってじの顔をしてる。だって仕方無い、アレが一番手っ取り早いし私の持ち味なんだもの。橫だけじゃなくて危なくないように上も削ったけど、ケイ君には杖で壊す時點でアウトだったみたいだけど。

後先考えた様な考えてなかった様なじだったけど、何にせよ結果オーライだ。

「あはは……さて、どうしよっか」

「どうする、とは?」

私は上を見上げた後、辺りを見回しながらケイ君に意見を求めた。

今、私達には二つの選択肢がある。地上に戻るか皆を探しつつ男を見つけて再び拘束するか、だ。

けれど、まあ実質一つと言ってもいい。どちらにせよ放ってはおけないのだから、地上に戻っても同じことだ。上るのは捕まえてからでも遅くない。

私がそう考えていた丁度その時、巖山の更に向こうの向こうの方で最早聞き慣れてしまったあの音が響くのが私達の耳に屆いた。

「……ケイ君」

「わかってますよ」

斷続的に聞こえるその音に、それがどういうことか理解した私とケイ君は顔を見合せて頷き合い、足早にその音のする方に向かうのだった。

あー、最悪。ほんとに最悪。

「っ! 皆見つけてないってのに早速會ったのがアンタってどういうことなんだかっ!」

私は最っ高に運が悪いね。何てったって最初に會ったのが、リンちゃんとかリザに因縁のあるっぽいギルドの団長さんだったんだから。まあ最初の発に気づいたリザが駆けつけてくれたおで二対一でどうにかなってるけど。

「俺は嬉しいがなぁ?」

「ハープっ!」

「大丈夫よリザ! ったく、こんな足場悪いのに…………」

上でリザが闘ってたのを見るに、この男は同時に発させることは出來ないと見なしていた。でも今はどうか。掌を向けて狙いを定めるまでは同じだけれども両手を別々の方向へ向けていて、それぞれ同じ規模の発を二つ同時に起こしている。最初からそれは可能だった筈、その上でやっていなかったのを見るに、元々こういう狀況にしようとしていたのかとじる程だった。

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元よりした覚えはないけれど、やっぱり油斷出來ない相手だと思った。

「安心しろ。綺麗サッパリ整地してやるからよ、お前ごとなぁ!」

「そりゃありがたいことだね。リザ!」

「はいよ、っと!」

「ぐっ……」

でも、私のきに合わせて闘ってくれるリザがいるのでしだけ余裕がある、とも思った。

これだけのコンビネーションを組めるのはユズ以外には初めてかな? 尤も、ユズとの時は前衛と後衛みたいなじで、ユズも出る時は出るけど今やってるみたいに積極的に前に出る前衛アンド前衛のきは新しくじられた。

「よっし!」

「調子に、乗るな!」

リザが喜ぶと男は怒り始める。笑ったり怒ったり悔しがったり、ほんとにかというか忙しいよね。その変化合のせいか、後悔するぞ、とか言った割には余裕が無さそうに見えた。

それから、攻撃が當たって怒る度にちょくちょく攻撃の仕方が変わるからそれがまた面倒。今回はし間隔が早まった。

そもそも、この大を使うのが予定にあったとしても奧の手だったろうから、決して私達が不利という訳じゃないと思う。ならばこの男は何の為にまだここにいるのかな。さっさと逃げればいいのに。まあまだ更に奧の手があることは拭い去れないけども。

とりあえず一応、の中だから実態のある発は使えない筈。だから逃げようにも逃げられないのかもしれない。

何にせよ、どういうことかは々と考えられるので考えるだけ無駄だと思った。

「甘いね。二つ同時発になっても私にも當てられないなら、ステータス暴力のハープには當たらないよ」

そうしたら、私が考え事しながら発を避けているとリザがそんなことを言い出した。

「なっ、そんなステータス酷くないよ! ……ないよね?」

言われて否定は仕切れないのが嬉しい様な悔しい様な……? それに皆にも、主にユズにAGIお化けとか向上心の塊とか言われてるし実際そうなのかも……自分だってSTRお化けな癖にね。

「謙遜し過ぎると嫌味だよ?」

「あっ、そんなつもりじゃなかったんだけど……リザのきだって真似したいくらい凄いし」

「あはは、お世辭でも嬉しいよ」

お世辭じゃなくてほんとに真似したいくらいかっこいいのに。

「くっ、そがぁ!」

私達が戦闘中にそんな會話をしていると、男は黙っていたかと思えばいきなりアクションを取ってきた。いつもと違ったのは片方の掌を私達の方向へ、もう片方は自らの後ろへ向けて後退し始めたことだった。

「何処に向けて……っ」

「どうしたの、リザ……!」

予想外の行で一瞬戸ったけど、その忌々しい掌の先にはからじっと心配そうに見つめる人影に気づいて驚いた。

「あっ……」

見つかってしまった、とでも言う様な表で巖から顔を出していたのはリンちゃんだった。

そうか、このの規模だ。リンちゃんが落ちててもおかしくない程度の広さはある。それにしてもなんでここに……

「行かせない!」

「來るな!」

男はその掌を向かう私の方でなく手前、仰角大きめに掲げて発させた。私達が闘っているのは割と壁際の方、男はそうして崖を破壊した。

「っ!」

するとどうなるか。男と私の間は瓦礫に覆われて元々道なんて無かったけど、通れそうな所は尚更無くなってしまった。

「どうしよう……これじゃリンちゃんがまた……」

「落ち著いてよハープ。まだ道はある筈だよ」

「……そうですよ。ここに居るのは、ハープさん達だけって訳じゃないんですから」

そんな時、聞き慣れた聲が聞こえた。

左側、丁度塞いだ瓦礫と同じくらい高い所に一人立っている男の子。

「ケイ! 無事だったの」

「ちょ、ケイ君……待って速い……あっ」

「ユズも無事だったんだ……」

「そ、そんな殘念そうな目で見なくても……」

ヘトヘトになりながらそのケイの後ろから這い出てきた親友に無意識にそういう目線を送ってしまった。こういう時、ユズはよく『反省反省、っと』って言うんだよね。たまにそれが頭かられてることがあるんだけど本人は全然気付いてないみたい。気付いてないのもだけど、いきなり言い出すから普通にこわい。

「それでですね。俺がリンを助けに行きますんでハープさんとリザさんはゆっくり…………は出來ないか。後から來て下さい。多分リンも安心すると思うんで」

「ケイも言うようになったねぇ…………あれ、ユズは?」

「わ、私も行くよ!?」

わかってるけど一応聴いてみたら、慌てて応えるユズに何処か笑えてきた。

「ははっ! ……まあ、宜しく頼むよ」

「私達もすぐ行くからね」

「任せて下さい」

ガッツポーズをして微笑んだ後、巖々を乗り越えてに消えていくケイをし頼もしく思いながら、リザと私は互いに頷く。

「私達も早く行かなきゃ」

「それじゃあ、迂回路探そっか」

という訳で巖山登りが始まったのであった。

「やばい」

「えっ? 何が?」

「あっ、いえ。何でもないです……」

「そうなの?」

ああいう場面だったし、俺としてもリンを早く助けたいと思ったからけない姿は見せられなかった。だから、ある程度格好がつく様にあんなこと言ったけれど的な策は全く無い。やばい。

とか言ってたら、いつの間にか頭かられてたらしく、その呟きにユズさんが反応して恥ずかしくなった。

「ええ。あ、そこ降りられますね」

「だね。んしょ、っと」

失禮になるけど、俺はユズさんみたいに楽天家じゃないから大丈夫大丈夫とかどうにかなる、で片付けられない。ユズさんはそれで何とか行ってるから凄い。もしかしたらユズさんは裏で々計算しててそれを表に出さないだけなのかもしれないけど、なかなかに強引過ぎるというか力技過ぎるというか…………こんなこと考えて、また呟いてたら危ないからここらで止めておこう。

尤も、ユズさんとかハープさんは俺は既に染まってるとか言ってるけどそんなことは無いと思いたい。

「ケイ君」

「は、はい!?」

「ど、どうしたの? 私、聲かけただけだよ?」

いきなり名前だけを呼ばれて、何考えてるのか見かされると思って驚いてしまった。

「いえ、何でもないですけど」

「なんかケイ君変だよ? まあいいけど……それよりほら、あそこ」

「居ますね」

気を取り直してユズさんが指差す方向を見る。そこにはあの男と連れられるリンの姿。何をするか知れたものじゃないし、もうズルズルぐだぐだと逃す訳にはいかない。

俺達は気づかれないように近くまで行って様子を見ることにした。

「ここまで來りゃ、追ってこないだろ」

「……」

男はどうやら俺達のことに気づいていない様だ。

「一旦撤退だリン。それでお前、上まで俺連れて戻れるか」

「……」

「戻れるかって聞いてんだよ! だんまりしてんじゃねぇよ!」

「……っ、戻れません」

パンっ、という破裂音と共にリンが頬を抑える。

同時に、ユズさんが俺の腕を摑んだ。

「ケイ君……」

「あっ」

そのユズさんは、真剣そうな哀しそうな目で俺を見ている。そして俺は無意識のに半歩踏み出していた。

「すみません…………」

…………どうやら俺はいてもたってもいられなくなったらしい。ただ、もうしの辛抱なんだ。それをユズさんもわかってる。だけど我慢している。リンを助けるためだ。それを俺は、また相手にチャンスを與えそうになってしまった。

「大丈夫。それはそれだけリンちゃんを大事に思ってるってことだから……別に、悪いことでもおかしいことでもないよ」

ユズさんの目は変わらず真剣だ。

「すみません……」

「わかってくれたなら、問題無いよ。だからさ、ケイ君はリンちゃんのこと守ってあげて」

「はい……え、でもユズさんは……」

「私? 私は、戦うよ。今の和の館の第一優先目標はリンちゃんの救出だから。その過程にあの男を引き離すことがってるだけ。最悪、私が代わりに」

「そんなの駄目です!」

俺は臺無しにしないようになるべく聲を抑えてそう言おうとしたけど、無理だったかもしれない。ユズさんだって無くてはならない存在だ。団長っていうのもあるけれどそれだけじゃない。それにリンだってそうなった後助けられても自責の念に囚われるだろうし。

「ふふっ。そう言うと思ったよ、信じてた」

「え?」

俺が真面目な表でユズさんを見ていると突然表を緩めて靜かに笑い出した。拍子抜けして俺がぽかんとしていると、更に笑ってくる。

「まあ、安心したよ。そうだよね、和みの館は私達全員居て初めてり立つんだから」

「は、はぁ……」

「それじゃあ、いつ行っても良いようにしておこっか」

そうして俺達は、再び二人の方へ耳を傾けて機會を窺う。

「チッ。しゃーねぇな、お前先戻ってろ」

「えっ」

「勘違いすんじゃねぇよ。転移の石で飛んだらギルド前だろう。今のリスポーン地點は俺が書き換えただろう? あの地下室にな」

「……」

「心配するな、電気はついてた筈だから。まあ、扉は開かないと思うがな? はははっ!」

「…………」

「ってな訳で」

そしてその時は遂にやってくる。

クズみたいな笑い聲を上げた男が腕を上げ、そしてその掌を開く。

「実がある方だ。安心しろ、ちょっと首から上を吹っ飛ばすだけだから」

「……っ」

「じゃ、えくす――――」

「させるかぁぁ!」

俺は巖から飛び出して、男よりも若干こっち側に居たリンに向かって飛び込んだ。

「きゃっ!」

瞬間、俺の背中ギリギリの所がぜた。今までの中でも比較的小さい炎は腐っても炎。俺の背中を焼いたけれど、ダメージはそんなでも無かった。俺はリンのことを煙がある程度消えるまで抱き締める様に庇い続けた。

「あ、あの……ケイ、さん?」

「っ! リン、大丈夫か!?」

突然のことに戸うリンに対して、俺もまた慌ててそう問うた。

「あ、はい……ありがとうございます、っ!」

するとリンは戸いをし殘しながらもにっこり笑って謝してくれた。

「ああ。それじゃ、早く離れよう」

そうだ。第一優先目標であるリンの救出完了で、終わった様な雰囲気を出してしまったけれど、まだ事態は殆ど解決していない。実際、救出完了も完璧とは言えない。

「おいおいおい、どういうことだこれはよ!」

イライラして喚き始めた男、これを倒さなければいけない。

だけどそこは心配していない。

「よろしくお願いします、ユズさん」

俺が小聲でそう言って頷いた。ユズさんも頷き返してくれた。俺が背を見せるその時、ふとその口が『任せて』といた様な気がした。これなら問題は無い。俺は彼を信じて、リンを背後から守る様にして進む。

結局人任せになってしまったけれど、今の俺のやるべきことは『リンを守ること』、それだけだ。なら俺はその任務を全うしよう。今、丁度戦っている我らが団長の為にも。

「っ!」

ケイ君がリンちゃんを庇って離れるまで私が男を足止めしていた。そうして遠くの巖に二人がり、姿を見せなくなった所で私は戦闘中ながらも安堵した。よし、これで心配事は無くなったね。

「チッ。アイツら消えやがったか……まあいい。お前を痛めつけてからでも遅くはないよな?」

一度は不満そうな顔になったかと思えば、今度はまたデフォルトであろうニタァ、ってじの嫌な笑顔に変わった。

「生憎、ご期待に沿える様な良い聲は持ってないよ?」

「そう謙遜するな。良い聲だぜ。それによ、俺お前のこと割とタイプなんだよ。髪型、歳、長etc……理的にも的にも壊してやりたくなる程最高だぜ?」

「…………」

突然のの告白をしてきたと思えば、最低な言葉を口走る男に私は何も言えなくなってしまった。恐らく、今の私は生まれてから今までに無いくらいの蔑みの目を向けていることだろう。普段はこんな顔絶対にしない。それくらいに男の言葉は不快に溢れ、異臭を発するゴミの様なだった。

「おうおう、イイ表だな! この後、俺に屈した後な? もっとんなの見せてくれよ」

「誰が貴方なんかに屈するのよ」

私がき速く無さそうだと踏んだのだろう男は、ハープやリザに対する苛立ちや悔しさは何処へやら、最初の自信満々な偉そうな態度に戻っていた。

「言うなぁ? んじゃ、早速これでどうだ?」

男がそのモーションにった。多分今までの話からすると、実の無い方かな。つくづく趣味が悪い。

「ははっ、大人しく當たってろ!」

やはり男は私が避けられないと思っている。

だから私は、杖を振り上げながら後ろに思いっきり跳んで著地の瞬間、バランスを崩しながらも前に二歩くらいの所に一気に振り下ろす。

すると、下にあった私よりも大きい巖が割れて、その勢いを殺さずに前を塞ぐ形で盛り上がった。

直後、発音。しかしその炎と風は私に屆くことなくその巖によって防がれた。

打撃によって出來た窪みの中で伏せていた私は、煙が上がる前に別の大きな巖に移する。

…………この闘い、距離を詰めれば私の勝ちだ。だから、発はなるべく今みたいに大きな巖の上でけて対処して、隙を見て攻撃に移るって進行で行こうと思う。

「ハッ、木っ端微塵になっちまったか?」

私は冗談だろと笑う男の背後に今言った通り、攻撃する為にり込む。

「私は死んでない、よっ!」

「ぐあッ!」

そして、未だに余裕ぶっこいてる男の腰にフルスイングしてやった。やっぱり最初の辺りから思ってたけど、HPバーを見る限り全く減ってる様に見えないからどうせその手のチートなんだろう。生気の強奪も使えないし、もうホント何でもアリだね。

まあそれでも理法則には従うみたい。フルスイング食らった男はそのまま吹っ飛び、ノーバウンドで巖壁に激突した。我ながらなかなかエグい。

「……っっ、この野郎!」

そんなことやっちゃったら余裕を見せていた男は、キレてからようやく危機を持ったらしく警戒する様に私から更に距離を取る。

「野郎じゃないよ」

「知らねぇぇッ!」

私が揚げ足を取ってやると更に怒り出した。知らないよ、だって実無いの撃ってきたのそっちだし油斷したそっちが悪い。

かと言って、油斷をしてくれた方が有難いので今みたいに距離を取られるよりは良い。

うーん、どうしよう。とりあえず、やることは同じだ。破されたら、防いで隙を見て突撃。VIT値は相変わらず低いから基本防優先で。

「一応手段はあるっちゃあるんだけどねー」

「あァ!?」

あ、聲にれてた。反省反省っと。

手段、っていうのはもうこの條二回目だから言っちゃうけど新技なんだよね。遂に私も闇魔法Lv.6まで習得しちゃいました。いやね、建設途中とか移中にしつこく出てくる敵を積極的に倒してたらそこまでレベルが上がっちゃったもので。多分ハープもそれなりに上がってると思うけど見せ場がなくて殘念に思ってるんじゃないかな。

それで闇魔法ってなんかこう……強いんだけどそれに見合う程度には難易度高いんだよね。

「って危なっ!」

「ふはっ、どうしたどうしたぁ! ……って、テメェ!」

そうして私がピンチっぽくなるとまた気味の悪い笑みを浮かべて油斷するのでそこを叩く。余裕を見せ始めたかと思えばまたキレる……この間五秒、凄い表変わる。

それからこの人、一対一で闘ってわかったけど全然學習しないね。だいたい何処に撃つかもわかるし、もう発の威力に頼りきってるじ。使う人が使ったらもう勝てっこないだろうに。

それでもこんな人が使う発でも一応発で厄介と言えば厄介だ。それにこの人結構タフだし……で、さっき間合いを詰めれば勝ちと言ったけれど正確には最初からの通り、最終的に拘束することでそれは達される。

という訳で、もうその新技を使ってしまおうと思う。ただ、普通に使用するだけではさっさと逃げられてしまうかもしれないから工夫したりけなくさせたりする必要がある。

これが割と大変で、さっき言った通りタフなせいで打ち付けられてもすぐ立ち直っちゃうから、一人じゃしキツいかもしれない。まあこうしてる間にも吹っ飛ばしてやってるしこっちが有利なのは変わりないけど。

考える私の前を黒いが超高速で通り過ぎたのはそんな時だった。ソレは打ち付けられた男の所まで文字通り一直線に飛んでいった様で、その勢いはそこで殺されて男が壁面に更に押し付けられる。

「これで、暫くはけないかな?」

「ハープ、來てくれたんだ……」

「さ、ユズ。何かやりたいことあったんでしょ? ほら、やりなよ」

「うん、ありがとう」

私はハープに謝して二個目の新技を使わせてもらう。

「『暗黒球』」

暗黒球、もとい謎の球。それが今、私の前に浮かんでいる。いや、ほんとに謎なんだよね。何だろう、い様ならかい様な、重い様な軽い様な……でも実はある。因みに無い時もある。

「こうして……練って練って」

そんな謎の球は、自在に変形する。今回は実アリで、大四分の一の球で中は空。まあ丁度、殻のある暗転みたいなじ。それを男の近くに行ってから展開する。

「くっ、離せ!」

ハープは地した上で、影いして男を一瞬で壁に固定したみたいで足をバタバタさせたり、壁に刺さっている闇ノ短剣を頑張って抜こうとしているけどソレは本人にしか抜けないから無駄だ。

男がしでも冷靜さを取り戻して、発やら何ならして抜け出してしまう前にとっとと展開してしまおう。

「新技二つも立て続けにやりたくないんだけどねー……はい、展開完了っと」

「どう……?」

防音アンド真っ暗なので中の様子は使用者である私以外わからないのでハープは私に心配して問うてきた。

「うーん、自分のを案じてるのか知らないけど中で小規模発やってるみたいだけどその程度じゃこれ壊れないし、何かあっても練り直せばいいし……」

「じゃあ、問題無い?」

ハープの問いに、ちょっと不安だけどだいたい大丈夫と答えた私は、ふと気になったことを聞いた。

「でもなぁ…………あ、ハープ。ダガーは?」

「え? ああ。使ったの一本だけだし後から回収すればそれでいいよ」

「うん、わかった」

「うーん、それにしても何か、こう……呆気無かったね。まあそっちの方がいいのだけれど」

そういえばそうだね。でも何だろう、引っかかるんだよね、何かが。倒したと思ったらこんな大開けてさ? 充分足掻いたのにこの後に及んでこの球の中からアクションを起こしてくるとは思えないんだけど、とりあえず引っかかるじた。

「あ、終わっちゃった?」

そうやって詰まるが何かを考えていると、遅れてリザが到著した。

「うん! ごめんね、突っ走ってちゃって」

「いいのいいの。さ、それよりあの二人を……ってもう來てるわね」

リザがそう言って後ろを見遣ると、巖からひょこっと姿を現した二人が駆け寄ってきた。

「ユズさん、信じてましたよ」

「ユズさん、ハープさん、ケイさん。それから……リザさん。本當にありがとうございましたっ!」

「どういたしまして」

「どうってことないよ」

「俺は……まあ、殆ど何もしてないけど助けられて良かったよ」

皆、口々にリンちゃんのお禮に応える。そしてリザだ。

「……リンちゃん。私、私さ……直接じゃないとはいえリンちゃんに酷いこと……もうし早く助けられるチャンスは幾らでも……っ」

「リザさん」

リンちゃんが俯き震える聲で言葉を紡ぐリザに聲を掛ける。けれど、リザは止まらない。

「別に赦してなんて言わない……リンちゃん、言葉じゃ伝わらないくらい、痛い思いしただろうから……」

「リザさん」

「ごめんっ、ごめん、リンちゃん……」

「リザさん!」

「っ!」

リンちゃんがし聲を張り上げた所でようやくリザは顔を上げる。

「リザさん。寧ろ貴方はを張って私を守り切ってくれたじゃないですか……私はそれだけで充分ですよ。リザさんには謝してもし切れません」

「リンちゃん…………ありがとう」

その言葉に暗かった表が一気に明るくなった。

ここで何があったのかを聞くのは無粋だろうし、無理に聞き出して嫌な思いもさせたくなかったから聞かなかった。それに、リンちゃんは優しいから聞いても普通に話してくれちゃいそうだからね。

「さーて、皆。完全に忘れてるだろうけど、コレ、運ばないと」

そんな空間を現実に引き戻したのがハープの言葉。実際ここで何か言うのもそれも今すぐにどうにかしないといけないことだからムードぶち壊しとか言ってられない。

それに今、何かとてつもなく嫌なことが重なっている様な気がするから…………

「……そうね、さっさと本部に屆けちゃいましょ。イベント中だけど取り合ってくれると思う。で、この崖だけど、どうやって登るの?」

「あ、そうだった…………転移の石だとリザが別だもんね」

「ケイさん。あの、間欠泉でどうにかならないんですか?」

「いや、アレは安定に欠けるからね。かと言って壁を崖からせり出して使うのもMPもう無いですし」

「…………」

「どうしたんですか、ユズさん?」

「うーん、いやね? 何か凄く嫌なことが二つ程ある様な気がしてね」

「なーに行ってるの。あのクズ男を完全無力化させたのはユズじゃないの」

「そうなんだけどさ…………あれ、揺れてない?」

そんな時だった、私の予が的中したのは。

「……っ!」

「地震!?」

「伏せて皆! ……あのクズ、最後の最後に『多重発』をぶち込んで來るなんて、っ」

地面が大きく揺れて崖が所々崩れて大きな巖が落ちてくる中、遠くの方で大きな音がした。それと同時に私にだけ聞こえる、暗黒球の側に居る男が呟きを聞いた。

「……死ね」

その瞬間、私達を取り囲む崖全ての壁面の中腹辺りが吹き飛んだ。鼓を突き破るぐらい大きな音と共に。

私が死んだら暗黒球の効果が消えて、折角捕まえたあの男に逃げられてしまう。生き埋めだったとしても、屆けることは難しくなる。どちらにしろ、それだけは避けたかった。けれど、それは無理そうだった。何てったって、全方向からとんでもなく巨大な巖が上から私達を潰さんと襲いかかってくるのだから。

手段はあるにはあったけど明らかに時間が無い。

「もう、駄目かな……」

そんな時、忘れていた誰かの聲が響いた気がした。

「私を……私を忘れておいて……勝手に諦める……? これから一生、私に謝り続けろ……脳花畑共が……っ!」

私が顔を上げるとそこに、大槌を手に持ち跳び上がるあのの姿を見た。

「『雷神の怒り』」

が技の名を呟くと、そのの丈に合わない大槌に紫電を纏わせてそのまま目の前の大巖に打ち付けた。

「えっ!?」

「きゃっ!」

すると、その大巖を文字通り木っ端微塵になった。それだけでなく、破壊される直前にその巖から紫電が枝分かれして、ソレがその別の巖を木っ端微塵にした。その連鎖で巖から巖へ、という形でドンドン巖を破壊していく。

そうして、彼が著地する頃には全ての巖が破壊し盡くされていた。それ程一瞬の出來事だった。

その後、彼はフラッとしたかと思えば、疲れ果てたのか倒れ込みそうになったけれどそこはハープが無事支えてどうにかなった。

「クアイさん!」

ケイ君が彼の名前をぶ。

「五月蝿い……近くでぶな……クソ野郎……」

「す、すみません……」

するとクアイさんはそう不機嫌そうにケイ君に吐き捨てた。

「クアイさん、助けて頂いてありがとうございました」

「ふん……私のこと……忘れておいて……こんな面倒なこと……」

「あはは? すみませんでした……」

「いい……だが、この貸し……高くつくぞ?」

続けて私が謝るとクアイさんは意地悪そうな笑みを浮かべてそう言った。

「うっ……まあ、謝もしてますし出來る限りなら」

「ふふっ……楽しみにしてる……あ、丁度迎えが來たみたいだぞ」

ハープの腕の中で疲れ果ててそんなことを言うものだから勘違いしそうになった。危うく失禮なこと言う所だった。

そしてその迎えというのが、

「おーい! 皆!」

「助けに來たわよ」

多くの杖使いの軍勢を引き連れたブラストさん達だった。崖は大きく崩されていたからその軍勢が見えたのだけれど結構な數が居る。

「って、もう終わっちまってたか」

「いいじゃないの。底から出させるって仕事があるのだから」

「それもそうだな」

それから私達は杖使いの人の、風魔法の人や土魔法使いの人に助けてもらうことでから抜け出すことに功したのだった。

外に出てみると周辺は想像してた通り、かなり酷い狀態になってた。修復はかなり大変そうだけどとりあえずはこの男を屆けてくることにした。

「じゃあ行ってくるね」

「うん、よろしくね」

リンちゃんも疲れただろうし、ハープ達と一緒に居てもらう。そうして私はブラストさん達に護られながら、イベント本部へと向かうのだった。

さて、特に何も言うことが無かったので省いてしまったけれど本當に何も無かった。驚くべきことに引き渡しの手続きはスムーズに進み、且つ安全に進んだ。今までの運営の対応が噓の様だった。

「へえ、いつもそんなだったらいいのにね」

「ねー」

ハープに片方の短剣を返した後、それを皆に話したら、同じ様な反応をされた。

そして、リンちゃんは別に大丈夫だと言ったのだけれど、大事をとってということで今回のイベントはここでリタイアすることにした。

あの男のおでリンちゃんやリザが酷い目に遭って、私達五人の初イベントも狂わされてしまった。けれど皆無事で本當に良かったと思う。

イベントマップは時間加速されているので、リタイアしてリンちゃんを見送ってし待ってたら三日目四日目も過ぎて第二回イベントは終わりを迎えた。結果として、騒の會は私達をあんなじで助けておいて第一位という績を殘した。

そういえば今回、副団長のシェーカさん、それから幹部クラスのクアイさんの大技は見られたけれど肝心のブラストさんのは何度も見る機會はあるんだけれど、何かしらでその機會を失うことが多い。ほんと、いつ見られるんだろう。

それから忘れてはならないのがあの男の持っていたギルドだ。運営に引き渡したことで恐らくギルドは解散だ。そこの所リザは、

「んーとね……私はあのギルドのメンバーの様子見たりするかな。まあこのゲーム辭めるメンバーも多いだろうし」

これからは気楽に楽しめる、とリザは言う。

一応、ハープがリザを和みの館にったけれど斷られた。理由は普通にソロ活を本格的にしたいから、ということらしい。まあ別に會えなくなるって訳でも無いし、ハープとしてもライバルとの距離もこれくらいが丁度良いとも言っていたから問題無かった。

イベントとしてはしっくりこない終わり方ではあったし、良かったとは決して言うことの出來ない経験だったけれど、それでも一段と私達の連帯は強まった気がする。

そんなじで私達の初イベントは幕を閉じるのであった。

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