《極寒の地で拠點作り》ハープこわい

「はあ……はあ……」

ケイ君の息遣いが荒い。この辺は平地なのだけれど、街からはそれなりに距離があってここに來るまであまり休憩を取らなかった。だから疲れているのだろう。

「そろそろ休憩にしよっか」

そんなケイ君の様子を見てようやく休憩をれることになった。

「リンちゃんもお疲れ様」

「いえ。ケイさんの方が私よりも大変でしょうし、私の応援が力になるなら嬉しいです」

正直、ここまでケイ君が頑張れたのはリンちゃんの応援のおでもあると思うんだ。どんな時でも天使の笑顔で、リンちゃんも歩き疲れてるだろうに調子も変えずに応援し続けるなんてケイ君もリンちゃんも賞賛したい。

あ、因みにシャード君に代わってもらったらいいのに、と思うかもしれないけれど、シャード君は人型ではあるけれど完全に人間と同じって訳じゃない。例えば、腳が無くてがそのまま地面の丸い影にくっついてる。後は角が生えてたり背中にトカゲみたいな突起があったりする。

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で、出來ない理由としては背中のソレが邪魔って言うのもそうだけど一番はその鋭い爪だ。元々闘う為の存在なのでそういう所は特化してる。

HPもあるし、NPCとはいえまだ小さいの子だ。萬が一何かあってその鋭い爪が刺さってしまったら危ない。クエスト失敗しても仕方無いので、ここは悪いけどケイ君には頑張ってもらうことにした。

「それにしても、あの男の子も言っていましたけど、よくこれほど敵モンスターが沢山居る中かくれんぼやりますね」

「そういう設定だから何でもアリなのよ」

「それ言ったら終わりじゃ…………」

窟も同じくらい出てくる筈なのに怖くないんでしょうか…………はぁ、私もそれくらい強気な格になれたらいいのに」

ハープのも蓋もない応えにじることなくリンちゃんは自分の格を疎む。

「私は今のリンちゃんが一番好きだよ。リンちゃんはリンちゃんで良い所いっぱいあるんだから」

「そ、そうですか? ふふっ、ありがとうございます」

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照れるリンちゃんも可い。

なんだろう、私最近リンちゃんのこと可い可い言ってる様な気がする……いや、前も可かったけどさ。まあ、罪にはならないからいいよね?

「じゃ、そろそろ休憩終わりにしようか」

「あと半分くらいだよね」

「ルミナさんはアクティブな方ですね」

「はぁ、運ばされるこっちのにもなってしいよ」

「弱音吐かないの」

はーい、と気力無さげに応えてケイ君は再びウィアちゃんを背負って立ち上がる。

力的にもハープ的にもキツいだろうけどあと半分お願いね」

「負けないで下さい!」

「ありがとうございます。それだけで両方と戦えますよ」

「……ちょっと皆?」

「わわっ、そんな、大丈夫なんですか……?」

「ああ。どっちかって言うと後者の方が大変でキツい障害だけど何とか乗り切ってみせるよ」

「その意気だよ!」

「…………」

あ、ヤバい。やりすぎた。にこにこしてる。でも視線だけで麻痺付けられそう。目が笑ってない。改めてヤバい。死ぬ。

「っ、さ! 皆、行こう!」

「そ、そうですね! 早くしないと……!」

「ハープさんに殺されます。主に俺が」

「うん、正解」

……ハープはいつの間にか、腰に差してあったダガーを両方共抜いていた。

「えっと、ハープ? それ危ないよ?」

「うん、そうだね。それが?」

「わかった。まずは落ち著こう? ね?」

そのダガーは相変わらず禍々しい雰囲気を放ちながら、日を反させてその鋭さをアピールしてくる。

そうだ。前にリンちゃんにハープの怖さをを張って教えたあの時でさえ、ドスの効いた聲で脅してきた。

「失禮だなぁ、ユズは。私はこんなにも落ち著いているのに」

それすらやって來ない今のこの狀態異常はつまり、以前のソレを超越した相當なものなんだろう。

「え、いや、でも」

「ただ私はちょっと痛い目に遭ってもらおうってだけなんだから」

「っ!」

それが始まりの合図だった。

ハープが騒な一言を言い放った途端、捕まったら即終了、死の鬼ごっこが私達の中で突然に幕を開けた。

進行方向は目的地である窟の方に逃げて、場所はだいたい窟の手前辺りで地図ではもうすぐそこだ。ここまで一瞬だった気がする。滅茶苦茶疲れた。

それで今は茂みに隠れているのだけれど、目の前で起こっているのは鬼が標的を捕らえる、その真っ最中の出來事だ。

「あ、あ、し、死ぬ、死にます……!」

「はーい。ケイ、しゅーりょー!」

「ま、待って……っ」

ハープの手によって死に直面しているケイ君は、疲れきった表で怯える様子を見せる。ウィアちゃんを背負って走っていたケイ君は、真っ先では無かったけれど一番最初に捕まってしまった。

「どーしよっかな? そうだね、私も慈悲はあるからね。ユズの居場所で許してあげるよ」

「ひっ!」

お願い、ケイ君! 悪いけど、黙っててくれないかな?

「因みに口割らなかったら狀態異常付けていくから」

「あ、そこです、そこ。そこの茂み!」

って、ケイ君!? 早いよ! 脅されてから全然間が開いてなかったよ? そんなに自分のが……大事だよね、ごめん。ハープ怖いから仕方無い。

って、こんなこと考えてる場合じゃない。ハープに見つかる前にとっとと移しなきゃ。

幸いここは木で影いは使えない。だから後は靜かにここをすり抜けるだけだ。

「いざとなったら重力作すればいいか。ふふ、意外とどうにかなりそう」

「へえ、逃げられると思うんだ?」

「へあっ? うっ!」

大丈夫だろうと思った瞬間、ぞわりとする様な冷たい聲で耳元でそう囁かれた。そうして振り向いた途端、私のは重くなって後ろに倒れ込んだ。

「あはっ、つーかまえた!」

私に馬乗りになる、ハープは無邪気な聲で……しかし目は相変わらず笑っていない、そんな表で私と顔を合わせる。

「あ、あの、ハープさん? 退い」

「駄目」

即答。

「ごめん、やり過ぎた! いやでも、私よりケイ君の方がっ!」

「そうだね。で?」

「で……で、で、そんなじ? あははー?」

「全然面白くないよ。逃げようとする気満々だね」

「うっ」

そう言いつつ、ハープは顔を近づけてくる。こわい。

「因みにね。今ケイは私がランダムで引き當てた麻痺(強)食らってるんだ」

「へ、へー、そうなんだ……」

なんとお気の毒。

「でもユズには効かないんでしょ?」

「え? ど、どうかな?」

確かに私には混沌の克服があるから、狀態異常にはならない。さて、私をどうするつもりなのか。大方予想はついてるけど。

「じゃあ、これならどうかな?」

ハープは逆手に持ち替えたダガーを振り上げる。

ここで私を攻撃する意味は無いから消去法で影いしてくると思う。

でもどうしよう。ここで私が何かしらして逃げたとしても機嫌を更に悪くさせるだけだ。ハープの機嫌を悪くせずにここから抜け出す最善の…………あっ!

「『影「ちょ、ちょっと待って!」……何?」

私はその技名が呟かれた瞬間、遮って制止を促した。すると、イラッとした様子を見せながらもハープは止まってくれた。これで大丈夫だ。

「ねえ、リンちゃんは?」

「……リンちゃん? そういえば、見てないね」

私とケイ君と同じ方向に逃げたのは確か。でも途中で見失ってしまった。

「ね、念の為調べてみないと」

私は反応してくれたハープに乗じて起き上がろうとする。しかし、

「…………チッ」

「あぅ……」

し、舌打ちされた……選択肢間違えたよ、死ぬ、ハープに殺される。

そしてハープは暫くの間、殺す様な目で私を鋭く見下ろしていた。

「はぁ…………仕方無いか」

「ほ、ほんと?」

けれどハープは呆れた様な諦めた様な表をしてから私の上から退く。

「で、リンちゃんの場所調べてみたけどさ」

「ええ? あ、うん。私も開くね……」

さっきまでのが噓みたいに普通に進行し始めたハープに戸いながら私も地図を開く。まあ、諦めてくれたなら呆れられても構わないよ。

まあでも実際、追いかける時も手抜いてたね。ハープが本気出したら一瞬で捕まえられる筈なのに、そうしなかったから。多分ハープ的には、勿論仕返しの気持ちもあっただろうけど、お遊びに近いものだったんだろう。

…………お遊びで強めの狀態異常とか割と本気の脅しまでやってくるのはハープだけだと思うけれど、それ言ったら本當にリアルでも一週間くらい喋ってくれなくなりそうだから辭めておく。

「ユズ?」

「は、はい! なんでしょう!」

どうやら、ハープの怖さを改めてじて戦慄してたら完全に意識を外界とシャットアウトしてたらしい。

「だからさ、リンちゃんがもう目的地に著いちゃったって話よ」

「あ、ああ、うん! 聞いてたよ、聞いてた」

「……まあいいけど。んで、リンちゃんが窟の中っちゃってて、もしかしたらルミナちゃん見つけちゃってるかもしれないし、強い敵モンスターも居るかもしれないからさっさと行こうって話になったの」

「うんうん。って結構奧に行ったっぽいね。そんなにハープがこわ…………!」

私は慌てて口を手で抑える。危なかったぁ、殆どアウトかもだけど。

続きとしてはリンちゃんとの初遭遇の時のことを言ってしまいそうになった。

「私が……何?」

「い、いいや何もっ? なんにも無いよ! ほら早く行こう!?」

私はバレバレでしょってくらい更に慌ててしまい、ハープの手を繋いで先導しようとする。

折角回避したってのに。態々地雷を踏み抜いてしまうなんて…………ああ、終わった。

「わかったよ。じゃあ行こっか」

あ、あれ? 何も無いの? 怒らないの? 焦り損だったみたいだけど良いの?

「そ、そうだね。ケイ君連れてれっつごー!」

なんかよくわからないけど大丈夫そうなので、私は引き続き手を握って行こうとする。

「あっ、ちょっと言い忘れてたことがあるんだけど」

それに対してハープはその応えとして、痛いくらいに握り返し……って、いたっ! 痛い! 痛いよハープ!

「さっきまでのこと、忘れてないからね」

「えっ?」

私の手を強く握りしめながら、普段と変わらないトーンで話すハープ。それがまた違った恐怖を掻き立てて、話と話の區切りの喋っていない僅かな間をで溢れさせる。

「だからさぁ、ね? ふふっ、不意打ちには気をつけてね」

「あ、あぁ……っ」

私は再びの死刑宣告に固まってしまった。

ハープは許してくれた訳じゃなかった。ああ、反応が薄かったのはこの為だったんだね。おでまだ背筋に冷たいものが走ってるよ。

とりあえず、一人で窟の奧地へとってしまったリンちゃんが心配だ。何かあったらと思うと居ても立ってもいられない。

こんな狀態でハープが隣に居るのも怖かったけど何とか切り替えて、逸る気持ちを抑えてまずはケイ君の狀態異常回復を待つことにした。

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