《極寒の地で拠點作り》狂気
「あっはははっ!」
「ぐっ!」
「もー、ハープったらそんなに守って。ちゃんと殺させてよ!」
「幾ら親友の頼みとはいえそれは聞けない、なっ!」
「おっ、と! やるね、あはっ!」
私はユズの隙を突いて防態勢から攻撃態勢に転じる。しかし、普段のユズとは比べにならない程のきで杖でガードする。
そうだ、これはユズじゃない。柚葉でも無い。ただの狂人だ。もうケイ君もリンちゃんもキルされた。つくづく、これが現実世界じゃなくて良かったと思う。
どうしてユズがこんなことになったのか、だいたいその予想はついている。
ユズの持つ『混沌の克服』は狀態異常即時解除の効果を持つ。即時解除とはつまり、かかってからすぐに狀態異常を消すということだ。かなりチートなスキルではある。でもそれは裏を返せば一瞬だけ狀態異常にはなるということだ。
つまり、その一瞬狀態異常にさせられれば後は別に解かれても構わない技を使えばいい。けれど、そんな狀態異常、ある筈が無い。あったらもう、私が引いている筈だから。なくとも、ここに來るまではそう思っていた。
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そもそも『一瞬だけでも効果のある、消されてもまた復活する狀態異常』とか言う出鱈目なのを狀態異常と言っていいのかわからないし、その仕組みもわからないけど、現にユズはこんな狀態になってしまった。
元に戻すには……倒すのが一番効果的だろう。仮に私が倒された時にこのダンジョンの主が元に戻してくれるかは保証出來ない。
「やあっ!」
「フッ……!
「とっとと……危ないなぁ」
考え事をしていた私に、ユズは隙をじて大振りで叩いてきた。それを避けて、を持っていかれている所に一発だけ刺突する。
が、ユズはやっぱり普段は有り得ない、異常な反神経で避ける。
「クソっ…………ユズも普段からこんなきしていればもっと強くなれるのにね」
「私別に強さ求めて無いよー? っと」
「っ……そんなSTR値上げといてよく言うわね」
そもそも、どうしてあのちょっと偉そうなダンジョンの主がここまでするのか。
明らかに通常のプレイからかけ離されたこの狀況。私達の関係を破壊させようとしてまで攻略させたくない理由として、『ただの設定』と完結させるには過ぎた理由だ。何か別の思が…………と、私みたいな普通のプレイヤーがそこまで考えるのはそれこそ過ぎたことだというものだ。
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って考えると戦闘は継続するしかない。悪いけど、ユズは私に倒されてもらおう。
『ああっ、なんて悲劇的なのでしょう! 最も信頼を置いていた友人は狂気に囚われ、仲間を甚振り、自分に襲いかかる。自分は親友と闘わなければいけない…………最高ですよ』
「煩い! そんなことよりアンタ、ユズ倒したら治るんでしょうね?」
『ええ、約束しましょう。ああでも、貴方が負けてしまったその時は…………どうでしょう。貴方の知るご友人にはもう二度と會えないかもしれませんね』
そんな他人事みたいによく言う。
言ってることが事実ならほんとにタチが悪い。もうこれゲームの域越して……いや、そんなこと言ったら神様の時の時點で遊びじゃなくなってるね。
「あはっ! 私、嬉しい、楽しいよ! こんな快に浸れるなんてっ!」
「ユズ……!」
「ゲームだからリアリティには欠けるけど、それは我慢するよ。今までは即死する様にキルしてきたけど、これからはなるべく痛むようにしていくよ。私のSTR値なら強さ加減は自由だから!」
「え……?」
ユズの言っていることに引っかかった。
運営は、確か一定の強さの力に達したらそれ以上の痛みは與えられない様にしていた。現実で大怪我以上に含まれる怪我の苦痛はけることは無く、ソレ未満に設定している、と。
「リンちゃんとこの、あのクズ団長みたいに手間のかかることなんてしなくていいだからねー」
「それ、ユズの本心じゃないよ? すり替えられたのをただそう思ってるだけ」
こんなに長く続けているんだ。ユズが知らない筈が無い。そんな所から、益々ユズが思い込まされているとじた。
「んー? いやいや、そんなことないよ。私は昔っからこんな調子。いつも通りだよ」
「普段からこんなこと考えてたの? そんな筈無いよ。そういう所、見たことないよ。柚葉、ねぇ!」
だけど、ユズは思い込まされていることを否定した。私は焦る。だから、つい『柚葉』とんでしまった。
「だってさ、こんなこと言える訳無いじゃん? あと、そんな名前呼んだ所でよくある語みたいに元に戻る訳ないから。これが私の正常なんだよ」
「でも……っ!」
「しつこいよ。ハープは私に倒されて、現実に戻っても変わらなくてショックけていればいい、のっ!」
「あッ!」
必死になって正させようとした結果、肩に打撃をけてしまった。
あー、私、々考え過ぎてるなぁ。でもこんな狀況で冷靜になんて無理だよ…………柚葉がさ、ずっとこんなじだなんて、私、やってけないよ。
『ふふふ。頑張って下さいな。早くしないと完全に呑まれますよ』
「……言われなくとも」
毒の神の言うことで、私は気を取り直す。マイナスになるのはにあわないな。そうだ、私が柚葉を元に戻してやるんだ。私がやらなきゃ誰がやるって言うのよ!
HPポーションを飲んだら、対抗策だ。今のユズには安直な技は効かない。私にもリザみたいなきがあれば、普通にワンチャンあったかもだけど、まあそこは仕方ない。
で、策を練る上でとても好都合なのは、どういう訳か魔法を使ってこないということだ。多分、『狂気』はそういう狀態異常なんだろう。早く死んで、とか言ってくるのに使ってこないのだからほぼ確定だろう。
となればユズを倒すのに一番手っ取り早くする方法は、メイスを取り上げることだ。あっちが素手なら私は勝てる。
そうと決まれば早速く。
今回は新技を持ち込もうと思う。ユズばっかりズルいからね。とは言っても、ソレ単で使うだけじゃ駄目になってしまうので、々組み合わせて使う。
まずは準備。
「『闇との同化』」
これでSTR、AGI値を二倍にする。用があるのはAGIの方だ。次に、口の扉まで戻る。
「闇との同化ねぇ。そんなの使ってどうする気? 今の私は……って何処行くの!」
「あはは、何処だろうね」
『ま、まさか逃げる気? 貴方、諦めるの?』
ユズも毒の神も私の行にし驚いた。それもそうか、戦闘中にいきなり相手に背を向けて出り口目指すんだもの。
「待ちなよ。私を見捨てて逃げるの? 逃げるんだったら殺させてよ」
「嫌だったら追ってきたら?」
「…………」
挑発気味に言ってやると、ユズは黙って追ってくる。私がペースを上げるとユズも走り気味になる。そうそう、そのままそのまま。私が辿り著いた時が開始の合図だ。
そうして私は絶妙なペースで同じ距離を保ち、扉まで來て振り返る。するとユズも立ち止まった。
今だ!
「『地』!」
「ッ!?」
突然の詰めに反応出來なかったユズは、それでも防態勢を取る。これだけでも充分おかしいレベルだ。
でも、私は攻撃目的で詰めた訳じゃない。ここで私は一気に仕掛ける。
「『影い』、『投擲』!」
を上手くかして勢いを殺さずにユズの橫をすり抜け、その瞬間に闇ノ短剣をフラッシュで出來ているユズの影に近距離の投擲で、思いっ切り地面に刺さらせる。だけど、勿論これだけじゃ終わらない。次だ。
「『闇の糸』、『地』!」
私は新技と言った。暗殺Lv.5『闇の糸』がそれだ。文字通り、闇で出來た糸だ。使用するなら何処かに巻き付けてアクション映畫みたいに飛び移ることも可能だろうけど、初回はソレをユズの右手にある闇ノ戦に向けて放つ。
上手く絡みついたのを橫目で捉えたら、フラッシュを消されて自由になる前に再び地する。
対象が居ないじゃないか、と思うだろう。けれどここには私とユズ以外にもう一つ対象となるものがある。
『わ、私!?』
そう、毒の神だ。これは割と予想外だったけど、正面の石像に潛んでいた。
一度目の地のスピードを出來るだけ保ったまま、二度目の地にる。距離があるので糸を手放しそうになったけれど、これを放したら全てが臺無しになるので絶対に離さない。
「ああっ!」
私は手に糸を巻き付け何とか耐えて、私が石像へと著いた瞬間に、ユズは杖を手放した。
こうして、私にとってかなり長くじられたこの三秒間は作戦功を持って過ぎ去ったのだった。
怒濤の技、連続発だったのに、ほんとよく功したと思う。こんなに沢山組み合わせて上手く行くとは思えなかったよ。
私は目の前にまで飛んできた杖を蹴り飛ばして、更にしでもユズから引き離す。
「返してよっ!」
「やだ」
「返して返して返して返して!」
ユズは闇ノ戦が無ければ勝てないのを理解しているんだろう。半ばヒステリックにんで私に要求する。
「うあああっ!」
「っ!」
すると何を思ったのか、ユズはこちらに向かって全力で走ってきた。私は構えたがそれは意味をさなかった。
『今ですっ、転移!』
そう聞こえたのと同時に、辺りは白く、眩し過ぎるに包まれたのだから。
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