《極寒の地で拠點作り》散歩

――眩しい白が視界から消える。

辺りはシーンと靜まり返ってかすかに風の音が聞こえるだけ。どうやらまだ誰もログインしていないみたいです。

「む、リンか。今日はお前一人だぞ」

誰もログインしてないだけで誰も居ない訳ではありません。私達が『神様』と呼んでいる、自稱闇と混沌の神であるアフィポスさんがただ一人居ます。

「そうなんですか……あれ? ユズさんとハープさんは良いとして、ケイさんはどうして?」

「ああ、ケイだったらさっき一旦ってきてな。急用を思い出したから今日はプレイ出來ないかもしれないとお前に伝えとけとのことだ……はは、そうがっかりするでない」

「が、がっかりなんかしてません!」

くくく、と私をからかって笑う神様ですけど悪い人ではないです…………良い人でもないですが。

「ん、なら、何しようかな」

ケイさんが來ない日は珍しく、こうなってしまうとどうしても暇になっちゃいます。

「ふむ、ではちと散歩してきたらどうだ? たまには一人で街を歩いてもいいだろう」

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「そう、ですね。わかりました、そうします!」

「ああ、行ってこい」

神様の提案の下、街へとお出かけすることにしました。雪は神様が止めておいてくれたのですが、シャードさんが居ないので遠回りに行くことになります。けれどそれも散歩の、そう思うことにします。

道中は一人な上に戦闘向きではない私なので、弱い敵モンスターは逃げてしまうのですが、念には念をれてエンカウントしにくいルートを選んで歩きます。それでもエンカウントする時はしてしまいます。

「ビビッ!」

「やあっ!」

遭遇したのはファットキャタピラー。文字通り、太った芋蟲です。

私とて蟲の中でもこういう類はかなり苦手な方ではありますが、最初の頃よりは問題なくなってきてはいます。

それもこれも、だいたいユズさんとハープさんのおですね。いつかのレベリング作業では一日で數十匹倒しましたから……。

杖を振り下ろし振り下ろし振り下ろすこと數回、ファットキャタピラーは青いエフェクトを散らして消えた。はぁ、やっぱり私一人だと遅いですね、あのお二人なら一瞬なのに。

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あ、たまに勘違いされるのですがユズさんやハープさんと違って私とケイさんは常人です……わわっ! ちょっと言い方が不味かったですね、すみません。

私は特別なお二人と違って極振りをしてる訳でもユニークシリーズを所持している訳でも無いただの一般人、という意味です。

なのでくれぐれも和みの館を化けギルドなんて呼ばないで下さいね。お二人にも悪いですから……け、けっして私が化けって呼ばれたくない訳じゃありませんから!

そんなことを考えているに數の敵モンスターを倒して森を抜けていた。街はもう、すぐそこだ。

「いつ來ても良い匂いですね」

いつもの様に北門からると、両隣からこれまたいつもの様に味しそうな匂いが鼻腔をくすぐってきます。

屋臺は右に左にずらりと並び、それぞれ特徴のある食品、裝飾品、怪しいポーション屋、中には本屋など割と沢山種類があるので全く飽きません。

「クモ糸綿菓子、舌に絡みついて味しいよ!」

「ムカデタコ焼き、噛みごたえあるよー! そこのお嬢ちゃんどうだい?」

ええ、飽きません、飽きませんとも。見ている分には。私は丁重にお斷りして再び歩き出す。

このように、數ある店の中には名前からして明らかにゲテモノな食べは幾つもある。

今のクモ糸綿菓子のお店はプレイヤーさんが経営しており、その『クモ糸』とは空に浮かぶ雲ではなく文字通りクモ糸なのです。クモ系モンスターから取れるクモ糸の中でも味しくて、且つより綿っぽいを厳選に厳選を重ねたらしい、ツッコミ所過多な食べです。

そしてムカデタコとは、足がムカデみたいに沢山あるタコです。確かサイズはそのムカデくらいで群れで窟に住み、集団で敵を攻撃する習を持っていた気がします。

私自、闘ったことはありますが、あまり思い出したくないです。だって彼ら、張り付いてきたり登ってきたりするのですから堪りません。その時はハープさんに落としてもらいましたが、ローブの側にり掛けた時は死ぬかと思いました。

話が逸れましたがそんなじです。それで、そんなゲテモノの中でも行列をしているのが、

「はーい、コスバそばだよ! 安いよ味しいよー!」

「ああ、まーた並んでるぞコスバそば」

「しょうがないよ、あの味は癖になるからね」

例のコスバそばです。ユズさんとハープさんも食べたと言っていましたがとっても甘く、お二人はまずまずという評価でした。まあゲテモノというのは當たり外れの激しいものなので仕方の無いことなんでしょうが。

その列に並ぶことなくスルーして向かうのは、私にとって思い出の場所である中心部の掲示板です。私が和みの館に団した、その場所。あの時の加で私はどれだけ救われたことか。

だけど私が今日、ここに來たのは傷に浸る為でなくただの散歩、暇潰しです。しみじみとた気分になるのはまたの機會にして、大きな掲示板の前に立ちます。

「何かないかなぁ」

掲示板はパーティやギルドのメンバー募集に限らず、ちょっとした世間話的な話題もられています。私は掲示板のウィンドウを開いて、スライドして気になる話題を探す。

「んっと、『紅蓮連盟の勢力拡大は何処まで』……違いますね。『最初の街名、北部商店街レポート』、ここはもう頻繁に來るので別にいいです」

指を下から上へ、何度も何度もかす。でもあんまり面白そうな話が無いんですよね。一応あることにはあるのですがそれが、

『ちょっと恐怖の魔の実態に迫ってくる』

『例のUFO事件、恐怖の魔が関わってるかもしれないぞ』

『あれ? 恐怖の魔ってもしかして普通に可い?(蔵畫像ってく)』

等々、私にとっての話となるものが割とあって、その殆どがユズさんの話題でした。いつも會ってる人となれば、真面目に議論されていることがなんだか面白おかしく見えますね。

ただ、今挙げた三つ目のは、私達と一緒に居るユズさん中心に撮られていて、いつ何処から撮ったのというじでちょっとゾワッと來ました。

そんな真面目からおふざけまで取り揃えられているカオスな掲示板のタイトル達の中、ちょっと気になるタイトルを見つけた。

「『変わったギルドホーム? 見つけた』」

そこには、森の中にひっそりと佇むちょっとお灑落な一軒家が建っている寫真がってあった。投稿者の人は通りがかった際、偶然見つけたと言っています。そして丁度その時、中から人が出てきて見つかったので怪しまれないように挨拶したら何故か仲間全員キルされた、と。

タイトルに『?』があるのは、ファンタジーな家でギルドホームらしくは無かったけれど出てきた人は確かにプレイヤーで、投稿者の人を見つけたらすぐ攻撃したからそこを守っているのだろう、ということで確証は持てないけど多分ギルドホームってつもりでの『?』らしいです。

「うーん、でも會いに行くのは危なそうですね……あっ、これなんか良さそう」

『謎の大、突起、立方の巖々……何かのイベントか』

次に私が目をつけたのはこんな記事だった。

場所は最初の街から南にある草原、掲載された寫真を見ると並べられたり突き出てていたりする巖々、そしてとんでもなく大きながぽっかりと口を開いていた。

その記事のスレッドには當然、土魔法の一環じゃないかとレスポンスがあったけど、こんな大きくて一度で掬ったかの様にきれいな半球はなかなか作れるものじゃないとのこと。

なるほど、確かにケイさんも一度、出來るだけ大きな『壁』を作ろうとしたことがあったのですがこの寫真のほど大きくなることはありませんでした。

「へぇ、行ってみるのもアリですね」

私が一人で頷いている、その時だった。

「なーに見てるのリンちゃん」

「ひゃわっ!?」

不意に橫からひょこっと顔が現れた。

その顔は見覚えのあるもので、綺麗な白い髪に赤い目、そしてその髪に負けないくらい眩しい笑顔のの人。

「り、リザさん!?」

「ふふっ、どう? 驚いた?」

ええ、リザさんです。

リザさんはそう無邪気な雰囲気を振りまいて笑う。その笑顔に私はふと、あの時のことを思い出してしまいました。

「っ、すみませんリザさん……あれからまともな挨拶もせず」

「いいのいいのリンちゃん。まあ、あの後のことは順を追って話すからさ」

私は以前、和みの館とはまた別のギルドに所屬していました。その頃、そのギルドにてそこの団長さんから酷く……その、暴行をけていました。そこから助けて頂いたのがこのリザさんです。

そして前イベントの際、再度捕まってしまいなんやかんやあって再び助けて頂いたのですが、それからのことはリザさんが自分で片付けると話していたので私は知りません。

「……まずアレかな。あのギルドのメンバーについて」

「お願いします」

私とリザさんは近くの休憩所にって、テーブル席で向かい合って座っています。座ってすぐ、リザさんが口を開き、あのギルドで同じ様な被害をけていた達の話が始まりました。

「やっぱりね、殆どは辭めたよ」

「……」

「殘ったメンバーもそれぞれのツテだったり私のツテだったりで別々のギルドにったりしたよ」

「……あの、団長さんは」

「アイツ? あーそれがさ、音沙汰無くてね。まあ私的にはこっちの方が助かってるから良いんだけど」

「そうなんですか」

「うん。今の所変なこともしてこないし、だから多分大丈夫だと思うよ」

リザさんはそう言って安心させてくれる。こんな時に何だけれど、誰かさんの大丈夫よりもよっぽど大丈夫に聞こえてくる。

「ありがとうございます」

「どういたしまして。ま、そんなじよ。だからこの話は終わりね? それでリンちゃん、さっきは何見てたの?」

突然の切り替えだけど、いつまでもしんみりした空気が続いても仕方ない。それにこういう所もリザさんの良い所だ。折角親切にしてくれているのにそれを無視するのは良くない。

「あ、えっとですね……」

私はさっき見ていた、二つ目の記事について話をする。

「ふーん、大に大巖ねぇ」

「散歩がてら、行ってみようと思うんです」

「そっか、じゃあ私も行くよ」

「えっ?」

私は、散歩への突然の參加に驚いてつい聲を出してしまった。

「ごめん、もしかして迷だった?」

「いえ! 全然そんなこと!」

「そう? なら良かった」

そうしてリザさんはまた微笑んだ。

やっぱり、リザさんは良い人だ。そうじながら休憩所を後にして、私達二人は件の大へとを運んだ。

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