《極寒の地で拠點作り》會敵

「それじゃ、著替えなきゃいけないわね」

「著替える?」

後についていって玄関まで來た時、ふとローズィさんがそんなことを言った。

「ええ。私の本職、コレじゃないもの」

「コレじゃない……ってローズィさん杖使いじゃなかったんですか!?」

し待って」

ローズィさんはウィンドウを開く。多分、裝備欄を作しているのだろう。すると數秒後、服裝に大きな変化が現れた。

「うわあ……!」

「こんな飾り気の無い裝備、驚くことでもないでしょうに」

比較的軽裝の鎧をに纏い、その手には槍が握られている。柄の先が黒く、そこから先端に向かって鈍い金にグラデーションがかかっている、そんな槍だった。

ローズィさんはそう言うけど、私にとってはそんなことないです。寧ろかっこいいとすら思えます、で槍使いの人はあまり見たことがありませんから。どうしてか、剣使いの人は割と見かけるんですけどね。

「さ、行きましょう。時間が惜しいわ」

「は、はい!」

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私達は、あまり態度を変えずに話を流してからドアを開けるローズィさんを追いかける。

外は特に変わった様子は見られず、風で木が揺れる音しかしない。こんな靜かで明るい中でも兇暴な敵モンスターが何も闊歩しているとは思えないけれど、こちらに向かっているのは確か。

あれ? そういえばどうして向かってきているんでしょう。

そう思っていた所、そんな疑問をリザさんが先に聞いてくれた。

「ローズィさん、どうして奴らは襲ってくるんですか?」

「……そうね。はっきりこれと言える原因は無いけれど、多分し前に群れを殺し盡くしてしまったのが原因かもしれないわ」

ローズィさんは思案顔になってから自信なさげにそう言った。

「いやいや、絶対それです! 多分でもかもしれないでもなくキッパリ原因だって言えますよ!」

「そうかしら」

「そうですよ! ……ん、でもあれ? どうして見てもないのにその敵だってわかったんですか」

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リザさんが言ってから気づいたけれど、よくよく考えたら確かに変だ。ケーフさんは掃除中だった筈、そこで突然ピンと気づいて知らせに來るって有り得るんでしょうか。

「そんなこと? ケーフは索敵範囲が広い上に対象の気配だけで識別が可能なのよ。犬だからかしら」

ローズィさんは冗談を言っているけれど、索敵範囲があるのが前提な時點でおかしい気がする。いや、そうじゃなくても言ってることが人間離れし過ぎてる。

でもまあ、ハープさんの気配察知能力の進化版みたいなものですかね。何にせよ、ケーフさんが益々何者かわからなくなってきました……。

「この辺りで待っていれば通る筈よ」

そうして一旦の目的地に著いたらさっさと茂みに隠れてしまう。ケーフさんが察知はしてくれたけど、ローズィさん自は當たり前だけど察知出來ないのでいつ來るかわからないからだ。

「大丈夫でしょうか」

「問題無いわ。あの程度なら私だけで何とかなるから」

「じゃあ私達はサポートに徹しますね」

「危なくなったら支援します!」

「ええ、ありがとう」

それから數分後、私達は自然の音ではない音を耳にした。徐々に大きくなる土を踏む音、明らかに近づいてきているのがわかる。

「ん、ちょっと待って。何か人の聲聞こえない?」

「そういえば……そうですね、確かにします」

こういう狀況に慣れているんだろう、リザさんは真っ先にそれに気がついた。本來なら、全然関係の無い人達が偶然そこを通りがかっただけと言えるけど、態々これを言うのは、おかしなことにその聲が土を踏みしめる音と一緒に大きくなっていくからだ。

どういうことかとローズィさんに聞こうと向き直ると、彼は私達に向かってさも不思議そうに首を傾けて、

「何を言っているの?」

と言い放った。

こう字面だけ見れば人を馬鹿にしている様にも見える発言だけど、これは不思議100%だってよくわかる。

そしてローズィさんは続けて言う。

「人の聲? 當たり前じゃない。敵は人間、プレイヤーなんだから」

「ええっ!?」

その付け加えに聲を抑えるのも忘れて驚いてしまった。だって答えが出たと思ったら予想外のことだったから。

「リンちゃん、聲! ……んー、まあ私も今まで敵は敵でもモンスターの方だと思ってたし、強くは言えないけどさ」

そう弱めに言うリザさんだけれど、心做しかしウキウキしている様な気がします。標的がプレイヤーに変わったことで、PKerのが騒ぐんでしょうか。

ともかくこうなったことで、リザさんにとっては良いことになったかもしれない。でも私にとってはそうじゃない。

「止めておく?」

そうした私の心を見かしたかの様にローズィさんは優しげな口調で問うてきた。

ここで私は止めないという選択肢を取ることも出來る。明白な形ではローズィさんは言ってなかったけど、あの家を守るという名目が私達にはある。勝手にキルするという訳ではないし、戦う理由には十分だ。しかし私がここで參戦することで和みの館の敵が増えることに繋がりかねない。そうなればケイさんやハープさんは勿論、リーダーであるユズさんに迷をかけてしまう。

でも私個人としては……いやいや、和みの館の一員としてそんな勝手なことは言ってられない、でも……等々、深く悩んだ末に私は、

「……いえ、闘います」

覚悟を示した。

「本當にいいのね」

「はい、問題ありません」

こういう時、あの人達ならほぼ間違いなくこっちを選ぶと思う。だからと言う訳ではないけど、私はこっちを選んだ。何より、多數相手に戦う數を前にしたらこんな格の私でもいてもたってもいられなくなってしまう。

「ったく、何処にあるんだよそのギルドホームは」

「ここら辺だよ。あとしで見えてくるんじゃないか?」

私が丁度決意した所で、聲がはっきり聞こえるくらいにいつの間にか近づいてきているのに気づいた。

「手筈通りよ。私が初手でそれに合わせてリザ、貴方も出てきて」

「わかりました」

「リンはなるべく見つからない所で後方支援ね。特に相手が行不能系の狀態異常技やってきた時は即座に対応出來るようにしておいて」

「はい、任せてください!」

私は大事な役割を任されたので意気込んで応えた。

「ええ……じゃあ行くわよ」

そうして二人は飛び出していった。私はそれに合わせて大周りして二人の背後の木のを隠す。

「何だろうがさっさと倒して迫って仲間に……ん? おい、今何かそこを橫切らなかったか」

「そうか? 俺はそもそも見てなかったからわから、なぁぁっ!?」

大きな聲を挙げて八人居る中の前方一人が突然現れたに吸い込まれた。恐らくローズィさんの攻撃だ。

「ぐあっ!」

「どうした!?」

続けて後方の杖使いの人が倒れる。リザさんの仕業だ。

「クソっ、ソイツだ!」

「わぁ、見つかっちゃったぁ」

敵の姿をはっきりと視認した彼らは聲を荒らげる。対してそのリザさんは態とらしく発見され、逃げる素振りを見せる。

その隙に未だ存在のバレていないローズィさんが、リザさんの方を見ている剣使いの人を背後から一突き。

「ぐぅっ!?」

だけどあちらも足音には気づいたらしく、すんでの所でかされて急所を避けられてしまった。

「もう一人居たのか……だが!」

突かれた人は突き刺さった槍をそのままに、を呈して固定した。こちらから表は見えないけど焦る様子を見せないローズィさんに、こちらがし焦ってしまい、どうするのか心配していると、

「今だっ、攻撃してく――っ!?」

男の人のの至る所から先の尖った何かが突き出てきた。つくづくリアルな表現がされなくて良かったと思える衝撃的な景だけれど、倒すことには割と確実な技だ。その人は確かに青いエフェクトを散らして消えていった。

ローズィさん、そして相手の人達は共に引き下がる。

「てめぇ、思い出したぞ。その長く黒い髪、無想な顔、あの時俺らを殺した奴だな!」

退きつつ、憎らしげな顔でローズィさんを睨む、また別の男の人はある程度引き下がってから苛立ちのこもった聲でそんなことを言い出した。

「無想は余計よ。まあこの際それはいいとして何かしら。まさか今まで貴方達、私達のことを通りすがりのPKerだと思っていたの?」

「私はほんとにPKerだけどね!」

それに対しローズィさんは小馬鹿にした様な口調で返す。それを聞いたリザさんは、付け加える様に話す。リザさん、それ例えですからそんな満面の笑みで言わなくていいです。まあでもわかってて言ってると思いますがね。

そうしたら苛立っているのも相まって、二人の態度がカンにれたらしく誰にでもわかるくらい怒りを顔に表し始めた。

「クソ共が、調子に乗りやがって。俺たちゃ今回ばかりの寄せ集めだけどよ、本気にさせたらヤバいんだぜ?」

「そうだそうだ!」

「お前なんか瞬殺だからな!」

三人がかりで威勢の良い、よくわからないことを口にし出した彼らに向かって一度ため息を吐いてから、より呆れ気味にローズィさんは言う。

「妙に仲間意識推してくるのね。にしてもこの狀況でよく粋がっていられるわね。先手を取られ、仲間一人は落とし、二人は倒され、おまけに今この時も後ろの二人は押されているじゃない」

「くっ、だがアイツらもまた練、この程度でどういうことは……」

「あら、彼はまだ全く力を出していないわよ? 実際、今も遊んでるんじゃないかしら」

「何だと?」

話を遮る形で苦し紛れの男の人を押し潰す様にしながら話すローズィさんはリザさんの方を見遣って、

「そうよね、リザ」

良く言えば信頼の込められた、悪く言えば無茶振りとなる一言を送ったのだった。

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