《極寒の地で拠點作り》開戦
外に出てみれば、既に居合わせた多くの騒の會団員が慌ただしく走り回っていて、今まで見た中でも一番余裕が無さそうな雰囲気になっていた。
「なあ、紅蓮連盟ってどんな奴らなんだ?」
「俺もわかんねーよ。最初に集団を確認した奴の話じゃ、相當數居たってだけだ」
「お前ら……何、ぼうっと……つっ立ってんだ……」
「ひぃっ!? すみませんすみません!」
そこには立ち止まって話をしている男二人をとてもイライラしているらしい聲で叱責するクアイさんの姿もあったけど、サラさんやシェーカさんは相変わらず探しても見つけることが出來ないので多分また前線の方に行っているのだろう。
「というか、本當に戻らなくてもいいのか?」
クアイさんのことを見ていたら、ブラストさんがふとそんな心配をしてきた。
侵攻してきたとの報がった際、同時侵攻の懸念があったので集まった団長さん達はひとまずそれぞれのギルドホームに戻った。
「大丈夫ですよ。まだ私達の存在は知られていない筈ですから」
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うん、だから心配の必要は無い。それにあんな魔境化しちゃってるんだから、そんな簡単に攻略されちゃ困る。
「ところで、俺達は何処に居ればいいんですか?」
「おう、それなんだがとりあえずユズちゃんとハープちゃんは來てくれ。相手が相手らしいんでな、ちょっと偏った構で行こうと思うんだ」
と、ブラストさんは絶え間なく流れ続ける騒の會のギルドチャット欄を睨んで唸りながら言う。
「私とユズで偏った? えっと、その相手って……」
「そうだな、『鉄壁製造』って所か」
「製造、ですか」
例えのセンス悪くてゴメンな、とブラストさんは軽く謝る。
「まあそんなところだ……っと」
そんなところで、チラチラとウィンドウを見ていたブラストさんが小さく聲を挙げた。
「――敵集団が近い様だ。説明も至極不十分で悪いが、急いで行くぞ」
より一層重い顔になったブラストさんはそう私達に告げた。その言葉に自然と気が引き締まる。
「はい! じゃあ二人共、行ってくるよ」
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「頑張ってください、こっちも萬が一があってもここを守れるようにしておくので」
そして、私とハープは二人に見送られて急ぎ足で最前線へと足を向けた。
…………のだったけれど、
「そろそろ到著だ。相手の戦法が話に聞いた通りなら飛び道は無い筈だが一応気をつけてくれ」
「わかりました……ってユズ? だいじょーぶー?」
「はぁっ、はっ、大、丈夫!」
気が引き締まった所、非常に申し訳ないけど私は二人のペースに全然ついていくことが出來ずにいた。
私のAGI値は極めて低い。それは平均と比べてもそうだけどこの二人とはまさにかたつむりと車ってレベル。普段なら急ぐことがあってもそんなに大変な用事という訳でない限りハープや皆は私のスピードに合わせてくれるし、何より最近は暗黒球便利な乗りが出來てしまったので完全にこういうことが起きることを失念してしまっていた。
「ごめんなさいブラストさん、うちのユズが……」
「いいんだいいんだ。俺も普段は皆に合わせるからこういうこともいつも通りだしな」
「すみません、攻撃力極振りで」
一応今もINTにも振ってはいるけど、基本理攻撃で何とかなってたりそもそもの魔法の効果が強かったりしてるせいで最近は振る量も減ってきている。これでも尚、攻撃力の方には世間的に注目されないのだからよほど魔法の印象が悪過ぎるってことなのかな。
「それがユズちゃんの強みじゃないか。さ、目的地はすぐそこだからもうし頑張ってくれ」
ブラストさんに勵まされて、私はなんとか前線へと辿り著くことが出來た。
連れられてきたのはし開けた所で、団員の人達が集まっていた。
「シェーカ、連れてきたぞ」
「あら、久しぶりね二人共」
「シェーカさん! イベント以來でしょうか?」
「私も居るよ!」
よくよく考えてみたらハープの言う通り、イベントから全然會う機會が無かったから一ヶ月ぶりになるんだろう。更に今、ひょっこりと現れたサラさんなんてあの時が初対面だったからそれが最初で最後だったことになる。
「全然會ってなかったんだから二人共忘れてるでしょ? いやぁお姉さん寂しかったよ。それに比べてクアイと言えばちゃっかりアピールしまくってて、あ痛ぁ!」
「アピールじゃない……ただサラが居ないだけ……」
「あれっ、クアイさん?」
よろめくサラさんの後ろには、さっきまで騒の會ギルドホームに居た筈のクアイさんが自のの丈を越す大鎚を下ろして立っていた。
「おっ、クアイも到著したか」
「ん……じゃあサラはもう……戻っていい……」
軽く小突いたクアイさんは、サラさんに素っ気なくそう言った。
「そんなぁ! せっかく會えたのにこれじゃまた記憶から薄れてっちゃうよ!」
「そういう約束だろ?」
「先輩まで……うぅ、わかりましたよ」
どうやら元から私達が揃ったら拠點防衛に戻るよう決めていたみたいで、渋々サラさんは私達から離れていった。その際、周りに聲を掛けてなかなか大勢の人を連れて帰ろうとしていたけど、ギルドホームにはそれなりに人は居たしこちらで戦う人がなくなるのでどういうことなんだろうとシェーカさんに聞いてみると、
「あら、ブラストから聞いてないの?」
「いや『鉄壁製造』って話はした」
「何なのよその名前は。まあ、一言で言えばそうかもしれないわね」
「えっと……」
「あ、ごめんなさい。それでね、今戦おうとしているのはまさに鉄壁よ」
「ああ、だからユズちゃんみたいにSTR値が高い奴を基本として、あとは數だが突出して何かに長けた奴か特殊な力を持つ奴を殘してそれ以外を帰したんだ」
「えっと、それってつまり、VIT値が凄く高いってだけですか?」
それだけならよってたかって何度も攻撃していれば倒せるし、極振りなら尚攻撃力も無いからVIT値の低い私やハープでもなんとかなりそうだ。それなのに警戒しているのは他に何か理由があるのかな。
「個々の元々のVIT値はそんなでもないわ。親玉の製造はもっと低いんじゃないかしら」
「あれ?」
「さっきと話が違う、そう思うわよね。でも事実なのよ」
「風のつてだが、奴のスキルは周りの味方の防力を三倍程度まで引き上げる効果があるらしい」
「さ、三倍!?」
三倍って相當だ。
私自、二倍やらなんやら持ってるけど裝備やスキルなどに付いてくる固定數プラス系ステータスアップをよりばせる、倍率系ステータスアップのスキルってあっても通常20%アップとかそんなもので、ほとんど今持ってるのはビギナーズラックみたいなじでそれ以來大きく上がる倍率系は手にれていない。
そんな中でも珍しい高倍率アップスキルはせいぜい行っても二倍が最高だと言われている。一つのスキルで三倍や四倍なんて都市伝説レベルだ。そういう意味では隣のブラストさんは既に都市伝説だけど。何にせよ三倍、更に周囲にもその効果を撒き散らすなんてそれすら超えて有り得ないとじる。
「でも……恐らく奴は……弱化している筈……」
「そうよな。攻撃を加えた人間は居ないから実際にはどうかわからないが、デメリット無しでそれが発出來るのも流石におかしいからな、代償として多分防力0くらいまで下がってるんじゃないか?」
「じゃあ、その人を叩けば!」
「いいだろうな。だがまあ、引き連れてる奴らがなぁ」
「VIT値にポイントをそれほど割り振る必要が無くなったから他のステータスに割り振る余裕が出來ちゃってる筈なのよね」
「それに範囲バフってだけで最大範囲も正確に摑めていないから、中心である奴の位置も全で何人居るかってこともわからないのよな」
不特定多數居る敵全員が防力高くて、それプラス他のも高いってことかな。多分これがブラストさん達が警戒してる箇所なんだろう。
「ん……団長……」
ふと、クアイさんは何処か別の方向を見てブラストさんの名前を呼ぶ。すると、向こうから大急ぎで団員の人がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「団長!」
「その様子だと、接したか」
どうやら向こう側で待機していた敵側がいよいよき出したらしい。既に、戦闘が始まっている様で耳をすませば怒號が飛びっているのがわかった。
「來たわね……」
とっくに覚悟は決めてある。私とハープはそうして戦場へ足を踏みれた。
「やぁっ!」
「ぐっ」
杖が盾とぶつかり、ガァンと音を立てる。なるほど、簡単に弾き飛ばせない所から相當に防力が高いんだろうと確かにじる。
「だけどっ!」
「ぐぁっ!?」
相手がもう片方の手に持つ剣を振りかざせず、必死で盾で抑えている所を更に強い力で毆り込む。すると盾は弾き飛ばされよろめく彼だけが殘った。すかさず私は踏み込んでもう一撃加えようとしたその時、
「危ないユズ!」
聲が聞こえると背後から大きく影がびてくるのに気づいた。毆打するのに夢中になって周りへの確認を怠っていた。避けようとしたけど時既に遅く、振り返った所に居たもう一人が剣を振りかざしている。
だけど間一髪、しまった、と思った時には橫から凄いスピードで飛び込んできたハープに抱えられてその一撃から逃れることが出來た。
「ハープ、助かったよ」
「ユズも気をつけてね? 私達攻撃けたらマズいんだから」
「わかったよ。それにしても皆、苦戦してるね」
改めて辺りを見回すとんな所で戦闘が行われている。今はまだ拮抗してるぐらいには見えるけど、さと強さ、速さなどを兼ね備えた相手側に押されかけている。
「離れるとキツいから一緒に行しよっか」
「そうだね。二人で戦えばこの人達相手でもなんとかなりそうだし」
「油斷しちゃ駄目だよ? まあでも、ユズが居れば心強いかな」
私も、とハープに返す。
「という訳で早速、『投擲』」
そう言ってハープは近くの敵に向かって短剣を投げる。カン、と高い音がして弾き飛ばされるが鎧には赤いエフェクトがっている。ダメージは抑えられるけどプレイヤーに直接攻撃を加えなくても一応攻撃はるのだ。
「よっし、麻痺引いた! ユズ!」
「うん!」
そんなハープの攻撃はそんな蚊の刺す様な程度のダメージを與える為にやった訳では當然なく、こういった攻撃の通りにくいキツい戦闘の中でハープのる理由の一つである無作為な混沌を発する為であった。
私はソレに応えるべく、相手に麻痺狀態を解除される前に駆け出し二回程し強めに杖で毆る。相変わらずのさだけど、かなければただの巖同然だし私にとってそれはどうってことはない。
「一人目やったね!」
「改めて思うけどやっぱ私達、組むと結構良いかもよ」
そういえば、リンちゃん、そしてケイ君とってくる度に二人だけで共通の敵を相手することって無くなってた。リンちゃんとケイ君と一緒に戦うのが楽しくない訳じゃないけど、やっぱり最も信頼している馴染みとこういうことをすると心の底から湧き上がってくる楽しさと特別があって、この時間が大切なものだと思えてくる。全的に見れば決して優勢とは言い難い辛い狀況だけどその気持ちは変わらない。
「ハープっ、あそこ押されてる!」
「おーけー、すぐ行こう!」
そうして私はすぐに気持ちを切り替え、ハープと共に助太刀して無事二人目となる敵を倒し、その後も三人目四人目と戦闘を重ねていき僅かながら騒の會サイドを優位な狀態へと進めていく。時折見かけるブラストさんをはじめとする強者もそれぞれ協力することで打ち倒していた。
若干ではあるけど確かに手応えをじた私は、これなら敵が死んで再びここへ戻ってくるよりも早いペースで數を減らしてその間に大將首を獲ることが出來るんじゃないかと思った。
そのようになくともこの時の私は、このまま行けば順調に押し進めていけるものだと何処からか思い做していた。
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