《極寒の地で拠點作り》生意気な子供

「えぐっ……うぅ……くそっ、姉ちゃんに、言いつけてやるぅ……っ!」

「ええっと……?」

結論から言おう、敵の親玉はあっさり見つかった。だが何故だか、見つけた覚があまり無く、辺りには微妙な空気が漂っている。その理由は明白だ。

「離せよぉ、このっ、クソビッチがぁ……えぐっ」

「なっ! 私、そんなんじゃないよ!? というか、そんな言葉使っちゃダメ!」

「ふふっ、ハープは変な所でお姉ちゃん出してくるね」

「……」

何と言うか、ガキだ。絵に描いた様な生意気なガキ。私としてはもう肩かしを食らった気分で、この空気と一化する様に今の私は微妙な表をしていることだろう。

というかそもそも、こいつが泣き出したのはどうしてだったか。

中心に向かって進んでユズが暗転させていくのを範囲外で待っていたある時、側からユズ以外の聲が聞こえたんだ。暗転前、見たじ周りに敵兵も味方も居なかったからこれはアタリか、と思っていたら今度はパニックを起こしたのか大聲で泣き出したのだった。

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ユズには部でも他人の姿は視認出來るらしいが、念の為私達二人も確認、そして確保する為に一旦暗転を解いてもらおうとして今に至る。

「煩い……そのガキ早く……どうにかして……」

そんな、敵兵にバレないように聲を抑えさせたから泣き合は弱まってきたが尚も喚き続けるそいつに私は一言愚癡る。

「なっ、んだ、とぉ……! お前だってっ、子供の、癖に!」

「……今なんて言った」

どうやら煩いと言われたよりガキと言われたことの方が癇に障ったらしく言い返してくるが私にとって問題はそこではない。

嗚咽混じりでよく聞こえなかった。私の聞き間違いでなければ『子供の癖に』と口走った様な気がするんだが。

「だっ、から、お前こそ、子供の癖に、って……ひッ!?」

「死ね……悉く……」

慈悲は無い。それはタブー、私の中で最もれてはいけない悩みの種だ。

顔だから、背が低いからそう見える? それに相手は子供だ? 関係無い、私の尊厳を踏みにじった奴は誰であろうと許さない。

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「やばい、クアイさんがマジだ……!」

「ほ、ほらクアイさん! 怖がってる、怖がってるから!」

「知らない……そこを退け……」

敵を守り、私の前に立つということはどういうことかを持って教え込んでやろうとする。

が、諸共吹き飛ばす前に私は二人に抑えられてしまい、宥められること數分。

「取りした……本當に……すまない……」

今が紅蓮連盟の奴らと戦闘中だということをすっかり失念して、私でこの子供を処分してしまいそうになった。

まったく、私と來たら皆必死に戦っているというのにたかがコンプレックスを刺激されただけで呑気に怒っているだなんて……。

「もう……死ぬしかない……」

「えっ!? いやいや、そこまで落ち込まなくても……!」

そうだ、いつもそうだ。話を聞かないから子供っぽいままなんだ。先のイベントのケイへの思い込みの様に、時にはそれで恥ずかしい思いをすることもある。

「はは、私は……ふふ……」

「わ、クアイさんがおかしく……」

「クアイさん、大丈夫ですって!」

非常に申し訳ないことだが、そうして私は再び數分間宥められてようやく落ち著く。

「悪かった……」

「いえいえ、私もあんなクアイさんが見られて良かったですよ」

「そうそう、まさかネガティブが地とはね」

「……忘れろ」

そして私はフードを引っ張ってとっとと目深に被ってしまう。

「あっ、でもどっかの誰かさんは頭おかしいんじゃないかってくらいポジティブだよね」

そしてここで何故かハープ、ユズを煽るんだな。

「ひっどいなぁ、そこで私のこと出してくる意味無いと思うよ?」

「なんでユズ? ……あ、もしかして自分のことだと思っちゃった?」

ユズが、あからさまに狙いを定めて煽ってきたのになんでとか言っちゃうのってどうかと思うよ、とでも言いたそうな顔をしている。

格悪いなぁ」

「そうかな、私はそうは思わない」

「いやいや、なんで自分で否定するの」

「……あのぉ」

二人がこう、ふざけて々言い合ってると、傍らで妙に改まったそいつが怖々と聲を掛けてきた。完全に存在を忘れていたのだが特に喚くことなく、そこにずっとハープの影いをけて拘束されて大人しくしていた。

「俺のこと忘れな……ヒッ」

「は……?」

「っ、俺の存在を忘れるなって言ってんだ!」

かと思えば元の威勢を取り戻してぶそいつだが、何処か怯えてる様な気もする。

「ん、元気になったね。そんなだとまたクアイさんに怒られるよ?」

「はっ、そ、そんなこと! そんな奴、全然怖くな……な、あっ、うぁっ……」

ハープに仕向けられてそいつは一度は勇みつつもいざ私を見上げてくると言葉を詰まらせてしまった。

私を使って子供を怖がらせるのも良い気分では無いが、この程度で黙らせられるなら楽なだろう。勿論、子供を怖がらせる趣味は無いから用はしないが。

「恐怖の対象は……ユズだけで充分……」

「うーん、でも周りで一番威圧あって怖いのクアイさんだと思うんですよね」

恐怖の魔の名はお譲りしますよ、とユズ。いやいや、私には過ぎた名だよ。それに私は大槌使いだ、魔ではない。

「まあいい……それより、そいつだ……」

「なんだよ……俺をどうにかするつもりかよ!」

「勿論、捕縛対象だから……」

こいつが報を吐かなくとも元より確保してしまうつもりだった。今、こいつをキルして戻してしまっては相手の戦力は変わらずじまいで戦い損となってしまう。

「捕縛って、どういうことですか?」

「ん……知らないのか……」

ギルドホームのオプションとして『牢獄』というがある。それは名の通り誰かを監する為のだが、その使用用途は他ギルドと戦爭になった際に敵兵を捕らえておくことにある。そうすることで、丁度さっき言った様に相手の戦力を抑えることが出來る。

ユズ達は知らないと言っているが、あの規模のギルドホームだ。無い訳が無い。となればちゃんと確認していないことになるが隅々まで見たとユズ達は話すのだから、牢獄システムの無いギルドホームなんてあるんだと納得するしかない。

まあそれはさておいて、今はこの子供の処置が最優先だ。ユズが輸送の辺りはやってくれると言うので任せてしまおう。たった今、各々のギルドホームに戻っていた同盟の団長もある程度の味方を引き連れて、一部こちらに戻ってきたとの報がった。これなら狀況は相當良くなるだろう。

そう考えていた時、突然傍らのそいつがおかしなことを言い出した。

「くく、あっはっはっは!」

「何を……笑っている……」

「馬鹿っ、ばっかだなぁ! お前らんとこは!」

突然笑い出したガキは何を拠にか調子に乗った発言を得意気に繰り返してきた。こいつが初めの方から話している姉らしき存在が話を聞く限りどうこうしているらしい。

「同盟組んでる奴ら、戻ってきちまったんだろ!? はははっ!」

「どういうこと? ちゃんと話して!」

「とりあえず俺達の作戦は功した。ああ、功だ」

功……? まさか……」

作戦功、この口振りからして噓ではないだろう。

恐らく、その作戦の目的とは時間稼ぎ。こいつは姉とかいう奴らの工作の時間を確保する為の側だったということか。

相手がこんな鉄壁を初手で送り込んできて尚且つ前進するスピードが遅かったことにはちゃんと理由があったのだ。

こうしてはいられない。至急、団長に伝えて戻るよう話をしなくては。

「もう遅いぞ! 俺達は充分に時間を稼いだ。姉ちゃん達は上手くやってるよ!」

こんな風に依然として勝ち誇ったガキをユズが用意した乗りで移送する。

まあなんとも、その乗りというのが、つい最近巷をしだけ騒がせていたUFO騒のソレと特徴の似たであったことについてはツッコまないことにした。

それは勿論、団長と連絡を取りながらという狀態だから気にしないというのもあるが、多分ユズ達のそういう點に口出ししているとキリが無いと知っているからということもある。

「ははは! 今連絡しても遅いぞ! 俺の姉ちゃんは凄いんだからな!」

道中、ガキが煩いのを除いて誰に攻撃されるでもなく無事に航行することが出來た。まさか相手に空を飛ぶ奴が現れるなんて誰も思わなかっただろう。

という訳で問題はやたらと姉ちゃん姉ちゃん喚くガキのみだ。

「シスコン……煩い……」

「なんだよ、そのしすこんって! 馬鹿にしてんのか!?」

「チッ……」

ああそうだよ馬鹿にしてんだよこのクソシスコンガキが。一々煩い、しは黙れ、出來なきゃ死ね。

「あーあ、ウチの弟もこんなだったらいいのになぁ」

私の中で沸々と怒りが沸いてくるのをじていると、ハープがそう呟くのを聞いた。

「こんなって……この煩いのが……?」

「あ、聞こえてました? いえ、煩いとこじゃなくて……その、『お姉ちゃん大好き!』ってじのとこです」

「ああ……そこか……そうか……」

「ん? どうしました?」

そこのガキにクソシスコンと言ったが、しっかりと言葉にしてみればハープの言った様になるんだものな。そう、そうか。

「いや……何でもない……」

「……? 変なクアイさん」

こんなじに兄妹姉妹の話で一旦逸れたが、もうそろそろ到著しそうだから気を引き締める。

すると丁度その時、団長から返事が屆いた。だがその返事というのは何も変化は無いという旨のもので、この子供の威勢の良さに反して実に大人しい容であった。

それをそいつに伝えると、

「姉ちゃんは確実に慎重に仕事をこなそうとするタイプだからな。油斷した時がお前らの最後だぞ!」

とのこと。

というか、こいつ度々私達に有益な話をらしてくるのだが良いのだろうか。まあリンやケイが出來過ぎてるだけで、ガキにそれを求めるのは酷かもしれないな。

……さて、この後はどうするか。割と疲れは出てきているがこの程度でくたびれる私では無いし、ましてや敵は待ってはくれない。

今や騒の會と紅蓮連盟ははっきりとした敵対関係にあり、その関係を示す様に眼下では怒號が飛びい、互いに剣を弾き合ったり睨み合ったりしている。

そんな戦場の様相に、ようやく私はこれが異常な事態だとじ始めた。確かに先程までも覚悟を決めて真面目に闘ってきたつもりだが、その時の覚と言えば普段の小競り合いやちょっかいを相手にしている時と同じ様なものにじられた。

それは普段から真剣な気持ちでやっているということなのかもしれないが、私とてこのギルドの中では上方に立つ人間だ。どちらかといえば率いていく側の存在としてはしばかり生半可な覚悟だったかもしれない。

「もっと……もっとちゃんとやらなきゃ……」

「――クアイさん? あの、著きましたよ?」

そう、自分を戒めているといつの間にか既に著陸していたことに気がついた。

「っ……そうか、わかった……」

一旦は自分の中で答えは出た。それに自を省みるのは後からでも出來る。

とりあえず今やるべきことをしよう。ガキの牢獄りは他の団員に任せるとして私は、

「おっ、クアイお疲れ。ユズちゃんとハープちゃんもお手柄だったな」

「あれ、ブラストさん?」

と、団長と直接話をしようとしていたら丁度団長が現れて労いの言葉を掛けてきた。

恐らく団長がここに居るのは私が連絡を取ったからというのもあるだろうが、中心であるガキが居なくなったことで急激な弱化を強いられた連中が退卻していくのを確認したからだろう。先程まで眼下に見えていた奴らも今頃は撤退している筈だ。

そして私は早速あのガキの言うことについて詳細に問おうとする。

「団長……どうなの……?」

「ああ、でもさっきから言ってるけど各々に確認しても特に何があるという訳でなかったからな。ハッタリってか、強がってるだけなんじゃないか?」

団長は専用のアイテムで拘束されて連行されるそいつを見てそう言った。

「まあ念の為だ。まだ自分のギルドホームに殘ってる団長達にはそのまま戦闘準備狀態で待機しておいてほしいと言っておいた」

「そう……」

団長はそうは言うが、今回攻め込んできた奴らは既に撤退の真っ最中だし敵將も獲ったから、実質今度の戦闘は私達の勝利と言えるだろう。

そう確信した時だった。

「まあ何はともあれ、一旦は落ち著いたんだ。今日は休…………は?」

今日は休め、と言おうとしたのだろうか。団長は突如開いたウィンドウを見ると言葉を詰まらせて一瞬驚き、深刻そうな顔になった。

「ブラストさん?」

「団長……」

私は嫌な予がした。団長はかな人で、その反応はとてもわかりやすい。その団長が口を半開きにして固まってウィンドウを凝視している。何を見ているのかは知らないが、それがただごとじゃないのはよくわかった。

そして団長は重い口をゆっくりと開く。

「……ハッタリなんかじゃなかった」

「は?」

「落された。同盟のギルドが二つ……ああクソっ」

とても悔しそうに告げられた言葉は私やユズ、ハープ、そして周りに居合わせたメンバーに衝撃を與えるには充分だった。

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