《クリフエッジシリーズ第四部:「激闘! ラスール軍港」》第三話
宇宙歴SE四五一八年十月二十日。
クリフォード・コリングウッド中佐のもとに、十日後の十月三十日から王太子エドワードが軍施設を問するという連絡がった。
連絡をけたクリフォードは直ちに部下たちに準備を命じた。
「既に個人用報端末PDAで連絡したとおり、十月三十日、一〇〇〇にアロンダイトを出港する。王太子殿下は一二〇〇にワッグテイルで本艦に搭乗され、その後にターマガント星系に向かう。護衛艦はいつも通りシレイピス545、シャーク123、スウィフト276。その三隻に加え、宙兵隊を乗せたロセスベイ1も同行する。殿下が乗り込まれるまで護衛艦との連攜訓練を繰り返し行う。部下たちにその旨を徹底させておいてくれ。各艦長には打合せを行う旨、連絡を頼む。以上だ」
士たちから「了解しました、艦長アイ・アイ・サー!」という了解の聲が上がり、すぐに自分の持ち場に走っていく。
ワッグテイルせきれいは長艇ロングボートの名稱だが、DOE5搭載のものは王太子専用であり、DOE5と同じく純白の艇に王家の紋章が描かれている。基本能は標準型とほぼ同じであり、全長三十メートル、加速能は六kGと高く、固定武裝にX線パルスレーザー砲二門と小型ミサイルを持っている。
DOE5の護衛艦であるシレイピス545、シャーク123、スウィフト276はいずれもS級駆逐艦である。
S級駆逐艦は船団護衛など獨航作戦に主眼を置いた駆逐艦であり、標準的な駆逐艦であるV級やW級に比べ、加速能、主砲の出力、ミサイル発管の數は同數であるものの、質量投兵であるレールキャノン、通稱カロネード砲がなく、ミサイルの搭載數もない。逆に超速航行システムFTLDの能力が高く、また作戦行可能期間が長いため、DOE5の護衛に選ばれている。
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ロセスベイ1はベイ級リムベイ型高機強襲揚陸艦の改造艦である。
リムベイ型は星や衛星にある敵基地に強襲揚陸するために使われ、高い加速能と強力な防スクリーンを持ち、二個宙兵大隊六百名と六機のヘルダイバー型裝甲揚陸艇が搭載できる。
ロセスベイ1も王室専用艦としてDOE5と同じように純白の艦に王家の紋章が描かれており、王太子の護衛兼儀仗兵である宙兵隊一個大隊が乗り込む。
搭載艇はアウル型大型艇とマグパイ型雑用艇が各一艇、ヘルダイバー型裝甲強襲艇二艇とリムベイとは異なり汎用に重點が置かれている。
更に王太子をサポートする広報擔當などが乗り込めるよう百名分の居住スペースが確保されている。
この四隻にDOE5が加わり、王太子護衛戦隊、正式にはキャメロット第一艦隊第一特務戦隊C01XF001となる。
DOE5の艦長室に護衛戦隊の艦長たちが集まった。
彼らは八人掛けの楕円形のテーブルに序列に応じて座っていく。
クリフォードの正面にはDOE5護衛戦隊の副司令となるロセスベイ1艦長カルロス・リックマン中佐が座った。
彼はクリフォードより十二歳年長の三十七歳。子爵家の出だが、鍛え上げられた巨軀と短く刈り上げた髪、四角い顎に意志の強そうな太い眉は宙軍士というより、宙兵隊の下士と言った方がしっくりくる。
しかし、その表は明るく、豪放磊落を絵に描いたような人だとクリフォードはじていた。
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また、先任順位でもリックマンの方がはるかに上だが、司令であるクリフォードに対してもわだかまりなく接するなど、好印象を與えている。
リックマンの右隣にシレイピス545の艦長シャーリーン・コベット佐が座り、やや不機嫌そうな表でクリフォードを見つめていた。
コベットは今年三十六歳になるベテランの駆逐艦艦長で、鋭利なじの目元とアップにした髪形で、金融街にいるキャリアウーマンのような印象をクリフォードに與えていた。
その印象どおり仕事はできるのだが、運に恵まれず、シレイピスの艦長を既に四年間務めている。そのため、とんとん拍子で昇進する彼に対し、挑発的なけ答えをすることが多かった。
彼の反対、リックマンの左側に座っているのはシャーク123の艦長イライザ・ラブレース佐だ。
コベットとは逆に意味深とも見える笑みを常に浮かべており、やや派手な化粧とウェーブの掛かったかな金髪により、高級娼婦のように見えないこともない。
艦長になって二年目の三十四歳だが、海賊討伐や輸船の臨検など臨機応変の対応が必要な任務でも、常に沈著冷靜な指揮を見せる優秀な指揮という評価を得ている。
彼とコベットは見た目からしてそりが合わないが、格的にも合わないらしく、ことあるごとに衝突し、クリフォードの前任者が苦慮していたと零していた。
そして、八人掛けのテーブルのクリフォード側に座っているのが、スウィフト276の艦長ヘレン・カルペッパー佐だ。
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ラブレースと同じ三十四歳だが、カルペッパーはラブレースとは正反対の地味なじの士だ。
手れを怠っている艶のない髪とややぽっちゃりとした形から、乗組員たちは“やる気のないハウスキーパー”と口を叩いている。クリフォードも従兵のモリスからその話を聞き、思わず頷いてしまったほどだ。
その見た目とは異なり、副長時代の評価は満點に近く、管理者としては非常に優秀だった。しかし、指揮としては決斷力に欠け、この戦隊の弱點になりうると前任者が注意を促していた。
全員の顔を見回した後、クリフォードは徐おもむろに話し始めた。
「既に知っていると思うが、ターマガント星系に建設している補給基地の視察と問が決まった。ターマガントは我が國の支配宙域だが、戦場になる可能は否定できない。今回はロセスベイも同行せよとの命令だが、忌憚のない意見を聞かせてほしい」
クリフォードがそう切り出すと、最選任であるリックマンが発言する。
「小としては同行に反対ではないのだが、目的がはっきりしない。この辺りの報はっているのだろうか」
その問いにクリフォードは小さく頷く。
「一つはアテナ星系のアテナの盾ⅡイージスⅡの訪問のためです。対ゾンファ戦の勝利をキャメロットで祝えなかった將兵を労するために、大々的な式典を計畫していると聞いています。そのために儀仗兵が必要であると」
クリフォードは先任のリックマンに対し、敬語で接していた。リックマン自は部下であるのだからと斷ったのだが、「若輩者ですので」と言って敬語を貫いている。そのため、敬語を使わないリックマンの方が司令に見えるとコベットからクレームが出ているが、彼は自の考えを変えなかった。
ちなみに同じ階級の場合、公式な場以外では同輩として敬語は不要という慣例があり、コベットの指摘は的を外しているものではない。
「もうひとつの理由は何でしょうか」とコベットが発言した。まだ、リックマンが質問しているところであり、ラブレースはその禮を失した行に、形のいい右の眉を上げる。
クリフォードは険悪な雰囲気になる前に話を続けていく。
「二つ目は訓練のためだ、佐」
彼の答えにリックマンが疑問を口にする。
「訓練? どういうことだ、クリフ」
「私が原因のようです」と苦笑いした後、
「新任の艦長が戦隊各艦との連攜を深めるため、ターマガント星系の小星帯で訓練を行うことになっています」
「それなら宙兵隊はいらんだろう」とリックマンが首を傾げる。
「ええ、私もそう思うのですが、総司令部には別の思があるようです。宙兵隊には無重力下での拠點強襲訓練を行うと通知がありました」
彼がけた命令書にはDOE5と三隻の駆逐艦は戦隊機の連攜訓練を行い、その間にロセスベイは小星の一つを使い、拠點強襲の演習を行うとあった。王太子護衛隊である宙兵隊が拠點を強襲することは想定し難く、クリフォードは総本部に意図を問合せている。
しかし、総司令部からは明確な回答はなく、個人的な知り合いである総參謀長アデル・ハース中將に確認したが、彼からも明確な答えは得られなかった。
「リンドグレーン派の殘黨の嫌がらせだな」とリックマンは斷定的に言った。
「未だにリンドグレーン派というか、反コパーウィート派が暗躍しているのだろう。君に面倒を押し付けて事故でも起きれば大々的に非難する。そんなところだろうな」
元第三艦隊司令ハワード・リンドグレーン大將は第二次ジュンツェン會戦での命令違反とクリフォードに対する不當な査問で、軍部やマスコミから厳しい非難をけていた。そのため、現在は病気療養を理由に休職扱いとなっている。
元第一艦隊司令エマニュエル・コパーウィート退役大將は現在、アルビオン政府の軍務次であり、次期政権では防衛長に相當する軍務卿になるといわれている人だ。
コパーウィートは現役時代に強引に派閥を作るなど、必ずしも清廉な人ではなく、多くの敵が存在する。
クリフォード自にその意識はないが、一時期コパーウィートの副をしていたことと、義父であるウーサー・ノースブルック伯爵が現政権の財務卿であることから、コパーウィート派と目されていた。
「その話はやめておきましょう」と言って話を打ち切り、リックマンに「実務に関して意見があれば、お願いします」と再度質問を投げる。
「訓練に関しては戦隊で詳細を詰めてもいいのだな」と確認すると、クリフォードは「大まかな計畫しか來ておりませんから、その認識でいいでしょう」と明快に答えた。
「ならば俺の方からはないな」
その言葉に頷くと、コベットに視線を向ける。
コベットはその視線をけ止めると、「特にありません。本分を盡くすだけです」と答えるに留めた。
その次にラブレースに確認すると、
「小に訓練計畫の立案をお任せいただけないですか。本戦隊の特を生かした訓練を立案してみます」
クリフォードは他の艦長たちに「私はラブレース艦長に任せてもよいと思うが、何か意見は?」と確認し、悔しそうなコベットが何か言いたげにしている中、リックマン、カルペッパーから了承の聲が出ると、コベットも渋々了承する。
「では、ラブレース艦長に任せることにする。アテナ星系到著時に私まで提出するように」と言い、ラブレースが嬉しそうに了解すると。すぐにカルペッパーに視線を向ける。
「カルペッパー艦長、発言していないが、何か意見は?」
「ございません、艦長サー」
彼はし待つが、それ以上何も言いそうにないため、小さく頷く。
「では、殿下をお迎えするまでに補給と部下たちに半舷上陸の許可を。出発前に一度、君たちを招きたいと考えている……」
その後は雑談に移行するが、不機嫌そうなコベットとやる気のないカルペッパーのため、中途半端なじで解散となった。
クリフォードはこの戦隊をどうまとめるべきか悩みながら、舷門ギャングウエイまで艦長たちを見送りにいった。
十月三十日、DOE5は軍事衛星アロンダイトを出港し、ランスロットの首都チャリス上空にあった。三隻の駆逐艦がDOE5彼を守るように正三角形を作り、その後方には強襲揚陸艦ロセスベイ1が従者のように待機している。
チャリスから純白の長艇ロングボートが上昇してくる。ワッグテイル型と呼ばれる長艇でしい流線型の艇に気圏航行用の翼が開き、悍さがより増している。
ワッグテイルがDOE5の格納庫にった。
格納庫のあるJデッキにはクリフォードを始め、戦闘指揮所CICおよび機関制室RCR要員以外の乗組員が整列し、王太子を出迎える。
ワッグテイルの扉が開くと、アルビオン國歌が演奏され、王族の正裝にを包んだ三十代半ばの男、王太子エドワードがステップを下りてくる。ひょろとした長でやや貓背、長すぎる顔で男子とは言い難いが、親しみやすい笑顔が印象的だ。
クリフォードは王太子を迎えるべく、前に出る。
「ようこそ、本艦へウェルカムアボート、殿下ハイネス」
そう言って敬禮すると乗組員たちも一斉に敬禮する。
王太子は「出迎えありがとう、艦長」と言って右手を差し出し、クリフォードが手を取ると軽くハグするように肩を叩く。
王太子の後ろから書ら五名と護衛十一名が降りてくる。
書の筆頭はセオドール・パレンバーグ伯爵で、王太子と同じ三十七歳。秀でた額と銀縁の眼鏡が憐悧な僚という印象を與える。
護衛の先頭には刈り込まれた金髪と鋭い目付きでがっしりとした格をした壯年の士がいた。その士は侍従武のレオナルド・マクレーンで、二十年に渡り王太子の護衛を勤めている人だった。
彼の後ろに宙兵隊とは異なる制服の護衛、近衛兵であるソヴリンズ・ボディガーズ(SB)十名が付き従う。この十名が王太子の直接的な警護を擔い、更にDOE5のパターソン大尉率いる宙兵隊二十名が護衛を務める。
「ようやくゆっくりできそうだ。君は忙しくなるんだろうがね、クリフ」
そんな話をした後、王太子は右手を挙げて乗組員たちに笑顔を振りまき、Eデッキにある貴賓室に向かった。
クリフォードは王太子がエレベータに乗ったことを確認し、「各自、星系通常任務に戻れ。解散!」と言って、自らもCICに向かった。
DOE5はアテナ星系行きジャンプポイントJPに向けて加速を開始した。
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