《クリフエッジシリーズ第四部:「激闘! ラスール軍港」》第九話

宇宙歴SE四五一九年十二月二十七日。

アルビオン王國王太子エドワードの専用艦デューク・オブ・エジンバラ5號(DOE5)はシャーリア星系に到著した。

ロンバルディア側の最後の星系カーヌーンを出発する直前まで報収集に努めたが、シャーリア側からの反応におかしな點は見つからなかった。そのため、予定通り超速航行FTLを行った。

ジャンプアウト後も警戒を続けるも、迎えに來たシャーリア法國の軽巡航艦は一隻であり、外の様子にもおかしな點は見つからなかった。

「どうやら杞憂だったな」と戦闘指揮所CICに來ていた王太子がクリフォードに笑いかける。

クリフォードもシャーリア側から送られてきた航路を確認し、目的地が當初の予定通りラスール軍港であることから、安堵の息を吐き出していた。

シャーリア法國では唯一の有人星であるジャンナへの大型艦船の降下は、宗教上の理由から認められていない。これは神聖なる大地を宇宙からの穢れから守るという意味があった。

そのため、すべての艦船は赤道上空にある宇宙港に港し、地上に降りる人間は宇宙港に接続されている軌道エレベータを使うことになる。

軍艦であるDOE5も例外ではなく、當初の計畫通りであるラスール軍港への港には疑問の余地はなかった。

また、対応する軍関係者のいずれにもは見られず、謀略の可能は低いと考えていた。

一點だけ気になったことは、外がDOE5を訪れなかったことで、慣例に従えばJPから加速する前に表敬訪問するのだが、この點についても各國で微妙にやり方が異なるため、大きな疑問とはならなかった。

や軍関係者に不審な點が見られなかったのは、シャーリアの上層部が報を極端に制限し、アルビオン擔當の外や実戦部隊に、アルビオン戦隊拿捕の計畫を告げていなかったためだ。また、外がアルビオン側を訪れなかったのも上層部の指示で、これはアルビオン側との接を極力なくし、スヴァローグ帝國の特使が來ているという報が不用意にれないようにしたためだ。

Advertisement

クリフォードも各艦のパッシブセンサー類でおかしなきがないか調べさせたが、シャーリア法國軍のきに不審な點はなく、當然正不明の艦船が見つかることもなかった。

この時、アルダーノフ指揮下の戦隊は別の宇宙港であるクライシュ軍港にっており、見つけようがなかったのだ。

二十時間後の標準時間二〇:〇〇、王太子護衛戦隊は第四星ジャンナ上空に到著した。

ラスール軍港は赤道上に設置された軌道エレベータのシャフトと接続され、地表面から約十萬キロ離れた場所に第一軍港が、靜止軌道に當たる約三萬九千キロ上空に第二軍港がある。

第一軍港は釣り合いを取る重りカウンターウエイトを兼ねており、直徑十キロ、高さ五キロの円柱型だ。この軍港には大型の船渠ドックが設置され、定期整備や改造などで長期間港する艦船が利用する。

第二軍港は直徑三十キロ、高さ一キロの円盤型で主に地表面との行き來をするための港である。

これは宇宙港と地表を結ぶ軌道エレベータの平均速度が時速一萬キロであるためで、第一軍港に港した場合、地表面にたどり著くには十時間以上掛かるためだ。

それらのことを考慮した結果、クリフォードたち王太子護衛戦隊は第二軍港に港することになっていた。

王太子護衛戦隊が港する五時間前、ラスール軍港では混が起きていた。

が発生した原因は報統制により軍上層部のごく一部の者以外、アルビオン戦隊の拿捕の命令は伝えられていなかったためだ。

計畫実行の直前になって第二軍港の管制責任者であるサイード・スライマーン佐に、軍のトップである軍法カザスケルアル・サダム・アッバースから直接命令が伝えられた。

Advertisement

スライマーンは軍法から命令が伝えられたことに驚くが、その容に更に驚愕し激怒する。

「我が國を信頼し港してきた者を捕らえよと仰せですか! これは重大な戒律違反です! 小はそのような命令に従えません!」

アッバースは興するスライマーンに対し、諭すような口調で再度命令した。

「これは導師イマームもお認めになったことだ。神も教えを守るために必要なことであると許してくださる。だから命令どおり、エドワード王太子を捕らえるのだ。但し、丁重に扱え。分かったな」

それでもスライマーンは「我らに正義はありません。小はこの命令を拒否いたします」と言って反発した。

アッバースは「頭の固い頑固者め」といい、通信を切った。そして、別の士に同じことを命じた。その士も當初は拒否したが、國が滅ぶといわれ渋々承諾した。

アッバースの命令を拒否したスライマーンは軍警察MPに拘束されそうになったが、彼はその場でも正論を吐いた。

「君たちは神の教えを踏みにじる行為を許すのか! 軍法の命令は明らかにシャーリア法に反している。法を守らずして、“法國”と名乗ることができるのか!」

を知らなかった軍警察の兵士はスライマーンの言葉に正義を見た。

「スヴァローグ帝國に恫喝され、戒律を破った指導者の命令を聞く必要があるのか! 私は自らの正義に従い、アルビオンの王太子を助ける! 邪魔をする者は背教者と知れ!」

下級兵士になるほど純樸なものが多く、また、軍警察の士もスライマーンの言葉を信じた。

「帝國に降伏するという噂を聞いた。あの國に支配されれば、教えを捨てるか死を選ぶしか道はなくなる! 神の國を求める者は我に続け!」

Advertisement

こうしてスライマーンは軍警察を味方に付けることに功した。

慌しく響く軍靴の音と、ブラスターが空気を焼く獨特の音がラスール軍港を支配する。

スライマーン率いる反軍がアルビオン戦隊を拿捕しようとする部隊と戦闘を開始したのだ。しかし、戦いの趨勢はすぐにスライマーン側に傾いていく。

彼の言葉を聞いた兵士が次々と寢返ったのだ。

五時間後、スライマーンはラスール第二軍港を完全に掌握した。しかし、その時すでにアルビオン戦隊は軍港の直前に到著していた。

クリフォードはラスール第二軍港に接近した際、違和を覚えていた。

第二軍港は円盤型で二十四の扇型セクターに分かれ、円盤の外周部が港場所になっている。管制室からクリフォードに伝えられた指示は、各艦がそれぞれ別のセクターに港するというもので、本來あり得ない指示だったのだ。

通常であれば、外使節の艦船はひと塊にして専用區畫を設定する。これは警備の負擔を軽減させるためもあるが、防疫上の理由が最も大きい。いつの時代でも新たな伝染病は発生しており、鎖國狀態に近いシャーリアなら特に気にする事項である。それが全く考慮されておらず、別の意図をじたのだ。

しかし、気づいた時には減速が完了しており、離のための機を行うことは困難だった。強引に加速したとしても、衛星軌道上にある大型要塞、ハディス要塞から攻撃をけ、容易に撃沈されてしまうためだ。

「何かが起きているようです。港するしかありませんが、私の指示に従ってください」

クリフォードは王太子にそう言うと、全艦に油斷しないよう暗號を用いて連絡する。

「軍港の様子がおかしい。シャーリアが何を考えているかは分からないが、決して油斷しないように。旗艦の命令には常に注意を払ってほしい……」

指示に従い港しようとした時、軍港の管制室から通信がった。

「こちらはラスール第二軍港管制室。管制擔當のスライマーン佐である。アルビオン戦隊は直ちに港を中止せよ。今後の行について、指揮と協議を行いたい」

メインスクリーンに映るスライマーンは汗を掻き、れた髪が額に張り付いていた。

「こちらはアルビオン王國軍キャメロット第一艦隊第一特務戦隊司令、クリフォード・コリングウッド中佐である。港中止については了解した。また、貴の話を聞く用意があるが、現狀について正確な報を教えていただきたい」

スライマーンはクリフォードの若さに一瞬驚くが、すぐに表を引き締める。

「迅速なる応答に謝する。報についてもすぐにお伝えする」

と答え、報を伝えていく。

「現在、我が國にはスヴァローグ帝國の外使節団が國している。我々も正確な報は得ていないが、我が國の指導者たちは貴たちを帝國に引き渡そうとしている。しかし、それは我が國の総意ではない。現在、本ラスール第二軍港は小の指揮下にある。貴戦隊に対し、直ちに出することを提案する」

クリフォードは帝國の外使節がいるということに驚きを隠せないが、すぐに返答を行った。

「貴の勇気ある行謝する。我が戦隊は直ちにジャンプポイントJPに向かう……」

クリフォードがそう返信した直後、報士のオハラ大尉が普段のおっとりした口調とは異なり、焦りを含んだ聲で報告を始めた。

「敵味方識別裝置IFFに反応がない艦船が急速に接近してきます! 軽巡航艦二、駆逐艦五、スループ艦三! 防スクリーンのスペクトル解析ではスヴァローグ帝國の艦船である可能九十九パーセント以上! 既にに捉えられています!」

その報告に驚くものの、クリフォードはすぐに指揮用コンソールで正不明艦のデータを確認する。

(近すぎる……今から加速しても離は不可能だ。軍港に逃げ込むしかない……)

彼はすぐにその命令を発した。

「全艦、我に続いて港せよ。港後は百八十度反転し、正不明艦に艦首を向けよ。但し、許可なく攻撃するな。旗艦からの指示を待て」

そして、ラスール軍港のスライマーンにも連絡をれる。

「正不明艦が我々の航路を塞ごうとしています。銀河連邦および銀河帝國航宙法に従い、軍港に避難します」

彼が告げた“銀河連邦および銀河帝國航宙法”とは、銀河連邦と銀河帝國で使われていた國際的な航宙のルールのことである。正式には“銀河連邦航宙法”であるが、スヴァローグ帝國が銀河帝國の後継者と公言していることから、銀河帝國という名稱もれていた。

このルールだが、対向する艦船が回避する場合は、右舷側に避けるとか、星系では國籍を示す信號を常に出すなど、航宙に関する基本的なルールを定めたもので、四千年以上の歴史を持つ規則だ。

アルビオン王國や自由星系國家連合だけでなく、ゾンファ共和國やスヴァローグ帝國でも使用されている。

航宙法の中には船が損傷し危機的な狀況にある場合や、宇宙海賊等の國籍不明船から避難する場合には、港灣管理者に通告するだけで優先的に避難できるというものがある。彼はそのルールを使い、ラスール軍港に退避することにしたのだ。

ラスール軍港のスライマーンから了承の通信がる。

港の件、了解した。國籍不明艦については當方からも敵対行を取らないよう連絡する」

これにより、クリフォードたちは軍港に逃げ込むことに功した。各艦は軍港の口付近に待機する。しかし、ラスール軍港は軍事施設ではあるものの要塞ではないため、防スクリーンの能力は低く、敵からの攻撃を防ぐことができない。

(袋のネズミだな。帝國がシャーリアの損害を無視するなら、我々の運命は死しかない。降伏を視野にれておくべきだろう……)

クリフォードは打つ手を思い付かないまま、帝國の戦闘艦の機を見つめていた。

一方、スヴァローグ帝國の指揮セルゲイ・アルダーノフ將は余裕の表を浮かべていた。

彼はアルビオン戦隊がラスール軍港に港する直前、シャーリア側に混が発生したことに気づく。このままではアルビオン戦隊がJPに向かい、星系を出してしまうと考え、強引にクライシュ軍港を出港した。

「銀河帝國所屬艦に告ぐ。直ちに係留場に引き返しなさい! 軍港での艦は管制の指示に従うことが當國の港灣法により定められています! 直ちに発進を中止し……」

クライシュ軍港の管制の悲鳴に近い警告を発した。しかし、アルダーノフは管制の言葉など聞いていなかった。彼にとってシャーリアは帝國に降伏した従屬國であり、帝國の高である自分を罰することなどできないと確信していたのだ。

それよりもアルビオンの王太子を捕らえることの方に意識を集中させていた。

(危うく逃げられるところだった。シャーリアの上層部は部下の掌握すらできんのか……まあよい。この位置まで來れば奴らは逃げられぬ。後はシャーリアの連中を使って拿捕させればよい……)

彼はシャーリア法國にアルビオンの王太子を捕らえさせるつもりでいた。これは現狀ではスヴァローグ帝國とアルビオン王國が戦端を開いていないためで、彼の行がアルビオンの參戦を促すことになれば、自由星系國家連合への侵略の妨げになると理解していた。

そのため、本來作が義務付けられている敵味方識別裝置IFFの作を止め、國籍を明らかにしないようにしている。

この點について、彼が座乗する軽巡航艦シポーラの艦長ニカ・ドゥルノヴォ大佐から注意が喚起されていた。

「このままでは海賊としてシャーリアに攻撃されます。IFFの起を許可していただきたい」

それに対し、アルダーノフは「不要」と一言で切って捨て、それ以上の説明は行わなかった。

國籍を明らかにしていない艦船はその星系を支配している勢力から、海賊として無條件に攻撃されるのだが、彼はシャーリアが帝國艦を攻撃するほどの気概を持っていないとして、帝國が王太子拉致に関與していた事実を隠すことを優先した。

「奴らが逃げ込んだら、軍港出口を封鎖する。攻撃可能な位置ポイントに各艦を配置せよ。但し、小の命令があるまで、攻撃は行うな」

十隻の帝國艦はラスール第二軍港から一秒の位置で待機する。この位置であれば、軍港から最大加速で出しようとしても、百秒以上の加速が必要であり、充分に撃沈できる。また、アルビオン側がステルスミサイルを発しても到達まで五十五秒ほど掛かるため、発見および撃破は容易であった。

アルダーノフは通信士に「シャーリアの軍法カザスケルに繋げ」と命じた。

すぐに回線が接続され、軍法アル・サダム・アッバースがスクリーンに現れる。

「貴國は小の依頼を無視するつもりか! 幸い、軍港に確保できているのだ。八時間の猶予を與えてやる。今すぐ行を起こすのだ」

アッバースはその高圧な言葉に怒りを覚えるが、それを抑えて「了解した。直ちに部隊を派遣する」と言って通信を切った。

アッバースは軌道エレベータを使って新たな部隊を送り込もうとしたが、スライマーンの行を支持する將兵が多く、時間だけが過ぎていった。

    人が読んでいる<クリフエッジシリーズ第四部:「激闘! ラスール軍港」>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください