《クリフエッジシリーズ第四部:「激闘! ラスール軍港」》エピローグ

エドワード王太子はラスール第二軍港で待機していたが、港してくる自國の艦を見て言葉を失った。

(倍する敵と戦ったから當然なのだが、私がここに來ることを反対すれば、これほど大きな犠牲を払うことはなかった……)

そのことを侍従武であるレオナルド・マクレーンにいうと、彼は即座にその考えを否定する。

「彼らの犠牲があったからこそ、シャーリア法國は帝國に降らなかったのです。彼らによって多くの人々が救われました。殿下にはそのことを心に刻んでいただきたいと思います」

王太子はその言葉に苦笑する。

「相変わらずレオは容赦がない。しかし、言いたいことは分かった。私がすべきは彼らの死を無駄にしないこと。そういうことだな」

王太子の言葉にマクレーンは無言で頷いた。

激しい戦闘を終えたアルビオン王國軍の各艦はラスール第二軍港に港し、応急修理をけている。

軽巡航艦デューク・オブ・エジンバラ5號(DOE5)は最下層のJデッキが大きく抉られ、格納庫が完全に破壊されていた。しかし、戦闘中にJデッキに配置される部署はなく、人的被害は衝撃により転倒した軽傷者のみだった。

S級駆逐艦シレイピス545號は艦首部分にある主砲が完全に破壊された。また、艦尾側も損傷し、艦の心臓である対消滅爐が一系列使えないなど、戦闘艦としての機能は完全に損なわれている。そのため、艦首付近にいた掌砲手ガナーズメイトと機関室にいた機関士たちに死傷者が出ている。

同じS級駆逐艦であるシャーク123號の損傷はシレイピスの比ではなく、ほとんど殘骸と言っていいほど破壊されていた。艦の前部は醜く溶け、発しなかったのは奇跡と言われているほどだ。掌砲手ら兵裝関係の乗組員を中心に全の半數を失っていた。

喪失したスウィフト276號と合わせて、実に百五十名近い未帰還者を出している。

この狀況にクリフォード・コリングウッド中佐は顔には出さないものの、適切な手を打てなかったことに激しく後悔していた。

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彼は戦隊を率いた當初から、駆逐艦の艦長が弱點になることが分かっており、それを改善できなかったことが今回の結果だと考えている。

(もっとやりようはあったはずだ。なくともスウィフトとシャークは救えた。私が指揮として、艦長たちをしっかりと統率していれば……)

心の後悔を隠しながら、負傷した將兵たちを見舞い、慣れない他國の軍港で修理を行う掌帆手ボースンズメイトや技兵テックたちに聲を掛けていく。

そんな中、やらなければならないことがあった。

それはシャークの艦長イライザ・ラブレース佐に対する処分だ。

ラブレースは敵艦との戦闘の最終盤、自らの功績のためクリフォードの命令を無視して豬突した。そのため、DOE5は敵ミサイルによって損傷し、更にシャークとシレイピスが敵軽巡航艦シポーラの砲撃で大きな損傷をけた。

はクリフォードの命令で自艦の艦長室で謹慎している。

クリフォードは王太子にラブレースの処分について説明にいった。

「ラブレース艦長を更迭します」

クリフォードの言葉に王太子は「君が指揮だ。私は君の判斷をいつでも支持する」と言って承認する。

のテオドール・パレンバーグは控えめに反対を表明した。

「王國の支配星系に戻ってからでもよいのではないか」

それに対し、クリフォードは明確に否定した。

「ラブレース艦長の命令違反は明確です。幸いリックマン艦長がおられますので、シャークの指揮に不安はありません」

そう言い切ると、パレンバーグもそれ以上何も言わなかった。

クリフォードはラブレースに面會するため、シャークの艦長室を訪れた。

ラブレースはいつもの妖艶な笑みが消え、憔悴しきっている。艶やかだった髪すら輝きを失っているように見えた。

「何か言いたいことはあるかな、ラブレース佐」

努めて事務的にそう問い掛けると、ラブレースはゆっくりと顔を上げる。

「あの時はあれが最善の手だと確信しておりました。戦の教本通りの行ですし……敵があのような手を打たなければ……」

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そこまで言ったところでクリフォードに詰め寄り、「私の行は勝利のために必要なことだったのです!」とぶ。

必死に言い募るラブレースに、彼は靜かに反論する。

「それでも君の命令違反は明確だ。もし敵が何もせず、我々に損害がなく勝利したとしても、私は今回と同じように君を更迭しただろう。君は自ら手で勝利を決めるために友軍を危険に曬した。いや、多くの將兵を死に追いやった……」

ラブレースは彼の言葉を遮った。

「しかし! 私は! 中佐も武勲を挙げた時、無茶をしているんじゃないんですか! どうして私だけが……」

悲嘆にくれるラブレースを無視し、再び事務的に話を進めていく。

「ここには君を裁くべき將がいない。軍法會議はキャメロットに戻ってから行われる。シャーク123號の艦長の任は戦隊司令である私の権限で一時的に剝奪する。臨時の指揮としてリックマン中佐が引き継ぐから、準備しておくように。引き継ぎ後はDOE5に移ってもらう」

ラブレースががっくりと膝を突く。クリフォードは僅かに憐憫のが浮かぶが、控えている宙兵隊員に拘束を命じた。

ラブレースを拘束した後、シレイピスに向かった。

応急修理の指揮を執るシャーリーン・コベット佐の姿を見つけ、聲を掛ける。

佐のおで助かった。今回の戦闘がどのような扱いになるかは分からないが、司令部にはできる限り正確に伝えるつもりだ」

コベットは「ありがとうございます」といって軽く頭を下げると、

「艦長のもとで戦えたことは私にとって誇りです。この戦いがどのように評価されるかは分かりませんが、我々が帝國軍を叩きのめさなければ、シャーリアは降伏し、このペルセウス腕で大きな戦が起きたことでしょう。我々はそれを防いだのです。この事実は何があろうと変わりません」

あれほど挑発的だったコベットがサバサバとした表でそう言い切ったことに、驚きを隠せない。そのことをじたのか、コベットが更に話を続けていく。

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「私は中佐のことが嫌いでした。運に恵まれて出世したあなたが憎かったと言ってもいいでしょう。ですが、今は違います。中佐はいついかなる時も目的のために全力で行していました。あなた以外にこんな狀況をどうにかできる人はいません。運というより、神がそうなるように配したとすら考えています」

いつもの厳しい表ではなく、笑みを浮かべてそう言った後、

「ですが、こんな崖っぷちクリフエッジは二度とごめんです、私は」

そう言いながら笑い、敬禮してから作業の指揮に戻っていった。

シレイピスからDOE5に戻ると、サミュエルの出迎えをける。

「リーコック佐が見つかりました。軍港の一室で酔って寢ていました。作戦中行方不明者MIAではなく、無斷離AWOLです」

サミュエルは事務的にそのことを告げるが、DOE5の航法長マスターハーバート・リーコック佐がAWOLすなわち、敵前逃亡したことに怒りを覚えていた。

(副長に次ぐ士が敵前逃亡だと! これではクリフの経歴にも傷が付く。副長である俺がしっかりしていなかったからだ……)

それに対し、クリフォードは「佐はどこに」と、ラブレースに対した時と同じように事務的に話を進めていく。

「DOE5の営倉が使えませんので、軍港の保安部隊の収容施設を借りて収容しています」

DOE5の営倉は最下層のJデッキにあり、今回の戦闘で使用不能になっていた。

「でもよかったと思いますよ」とサミュエルが自嘲気味に言うと、クリフォードは首を傾げる。

「DOE5の営倉は未だかつて使用したことがないことが誇りだったのです。それが最も不名譽な敵前逃亡、それも士に対して使うことになるところだったのですから」

「しかし、応急修理で営倉も使えるようになるのではないか?」

クリフォードの問いにサミュエルは大きく首を橫に振る。

「DOE5の営倉はがないため修復しません。ですので、シレイピスに収容してもらいます。コベット艦長は嫌がるでしょうが、その方がリーコック佐も堪えるでしょうから」

修理の責任者は副長であるサミュエルであるため、その権限を使い、航宙に不要な設備である営倉の補修を取りやめるつもりでいた。

そして、死傷者がいないDOE5より、善戦し満創痍のシレイピスの方がリーコックに相応しいと考えた。

クリフォードはサミュエルの考えに苦笑するものの、それ以上何も言わなかった。

クリフォードは負傷者の見舞いや応急補修の指揮で忙しくき回っていたが、二日目になって時間ができたため、リーコック佐に面會することにした。

「何か言いたいことは、佐」

リーコックは一日で十歳以上歳を取ったかのように疲れきった表でクリフォードを見つめている。

「自分はどうしてしまったのでしょうか? 気づいたら軍港の中にいたのです……私はどうなるのでしょうか……」

焦點の合わない目でそういうが、クリフォードはを排した聲で事実を告げる。

「君が志願した任務で失敗したことは聞いている。それだけなら、まだ何とかできただろう。しかし、君は士としての責務を放棄した。その時點で士たる資格を失ったのだ」

「覚えていないんです……」

「君は戦闘中に酒を飲み、艦を無斷で降りたのだ。私は君の士としての権限をすべて剝奪した。キャメロットに戻り次第、軍法會議に掛けられるだろう」

軍法會議という言葉にリーコックは嗚咽をらし始めた。

クリフォードはそれ以上何も言わずに立ち去った。

クリフォードたちが艦の応急補修を行っている時、シャーリア法國では大きな政変が起きていた。

ラスール第二軍港の管制擔當サイード・スライマーン佐とスヴァローグ帝國特使セルゲイ・アルダーノフ將との會話がシャーリア全土に流されると、シャーリアの國民は反帝國を訴え、指導部であるハキーム・ウスマーン導師に対する抗議行を起こした。

彼らは導師イマームの行をシャーリア法に反する行為と斷罪し、直ちに退任を要求した。

更にハディス要塞司令アフマド・イルハーム大將が導師を弾劾する。

「導師イマームは真に守るべきものを見誤った。我らシャーリアの民が守るべきは神との契約であるシャーリア法である。しかし、導師は帝國の恫喝に屈し、その守るべき“法”をないがしろにした」

それに対し、ウスマーンは反論した。

「君はあの場にいなかった。我らの信ずるものを守るため、一時の屈辱に耐える決斷を私はしたのだ」

それに対し、イルハームは斷固とした口調で糾弾する。

「我らと戴く神は違うが、アルビオンには帝國の恫喝に屈せず、主君を守った勇者がいる。あれほど不利な狀況で最後まで勝利を目指し、大切な主君を守り通した。小は彼の戦いを見て思ったのだ。戦うべき時に戦わねば、真に守るべき大切なものを失ってしまうと。帝國との戦いは聖戦である。それを異教徒の若者に教えられたのだ。導師はあの若者を見てもまだ自分が正しかったと言うのか!」

ウスマーンはがっくりと肩を落とし、それ以上何も言わなかった。

イルハームはウスマーン派の軍法カザスケルアル・サダム・アッバースや他の法カーディーを僅か一日で排除し、政権を奪取した。彼は圧倒的な民衆の支持の下、導師イマームに就任する。

「諸君らも帝國の恫喝を見たであろう! 帝國に降ることはシャーリアの民の死を意味する! 前導師イマームが手を拱いている時、異國の勇者は帝國に果敢に立ち向かった! シャーリアの教えを戴く我らに同じことができぬはずがない! 神との契約を守るため、私はここに聖戦の発を宣言する!」

その力強い言葉に民衆は熱狂した。

イルハームがこれほどまでに急いで聖戦の発を宣言した理由はアルビオンに見せるためだった。特に國民への影響力が強いエドワード王太子の前で戦意の高さを見せ付けることは今後のアルビオンとの同盟に有利に働くと考えたのだ。

そして、イルハームはアルビオン戦隊に対し、可能な限りの助力を申し出た。

「我らの目を覚ましてくれた勇者に対し、最大限の助力を申し出たい」

この申し出に対し、クリフォードはのパレンバーグらと協議し、要事項をまとめた。

損傷した各艦の補修への協力、失った強襲揚陸艦ロセスベイ1の代わりとなる輸送艦の手配、ロンバルディア連合までの護衛艦の派遣が主な要だった。

その要に対し、イルハームは即座に了承した。

最も損害が大きかったシャーク123號の応急補修には十日程度掛かるため、その期間を利用して、王太子および外は今後の外関係について協議を行った。

その結果、シャーリア法國は今回の不法な戦闘行為対し、スヴァローグ帝國に厳重な抗議を行うと共に、ロンバルディア連合他の自由星系國家連合各國との連攜を強化することとなった。

一方、アルビオン王國は今回の戦闘の取扱いに苦慮した。

エドワード王太子を拉致しようとしたことはスヴァローグ帝國の特使セルゲイ・アルダーノフ將の発言で明らかだが、このことを公開すると、アルビオン王國で反帝國の機運が高まることは必定だ。最悪の場合、帝國への宣戦布告すら考えられる。

現在、ゾンファ共和國と戦爭狀態であるアルビオンにとって、もう一つの大國である帝國と戦端を開くことは國力的にも無理がある。

それだけではなく、現在戦力を消耗し一時的に大人しくなっているゾンファ共和國が、再び牙を剝いてくることも充分にあり得る。

王太子のパレンバーグと外らは、今回の戦闘は國籍不明の海賊との戦闘であったと発表すべきと結論付けた。

それに対し、王太子は「私を守って命を落とした兵士たちに申し訳が立たない」と言って反対する。

王太子の意志が固いと見たパレンバーグはキャメロット星系に急使を送り、政府の判斷に任せるべきと言って説得した。

シャーリア法國ではスヴァローグ帝國軍の生存者の扱いが問題となった。

帝國軍の指揮代行ニカ・ドゥルノヴォ大佐は、ラスール第二軍港の保安隊本部に拘束された。

彼の上であり、帝國の特使であったセルゲイ・アルダーノフ將は軽巡航艦シポーラが降伏する際、自室で自殺しており、彼が責任者として尋問をけていたのだ。

當初、彼はシャーリア法國政府の取調べに対し、黙を貫いた。しかし、このままでは自分だけでなく部下たちも海賊として処刑されると聞かされ、事実を語った。

シャーリア法國政府は戦闘記録やドゥルノヴォの証言などを持ち、帝都スヴァローグに向かった。そして、皇帝アレクサンドル二十二世に対し、アルダーノフの暴挙を訴え、それに対する謝罪を要求する。

しかし、皇帝はシャーリアの外使節に対し、冷笑を浮かべたまま、謝罪の意思がないと言い放った。

「アルダーノフらは我が軍の管轄下になかった逃亡兵なのだ。貴國に迷を掛けたことは憾だが、海賊として取り締まればよいだけだ。あの者に騙された貴國にも責任がある」

皇帝はアルダーノフが自分の許可を得ることなく、勝手に行した逃亡兵に過ぎず、帝國としては責任を取るつもりはないと言い切った。

「その証拠にアルダーノフは國籍を明らかにしていないではないか。後ろ暗いことがあった証拠だ」

「では、逃亡兵を放置した責任を果たしていただきたい」

「海賊船の取り締まりは當該星系を支配する國家が行うものではないのか? 貴國がそれを行使することをためらっただけだ。海賊の責任まで我が國に求められても応じられるわけがない」

皇帝の言葉に外は怒りを覚えるが、これ以上渉しても無駄であると考えた。

「では、ドゥルノヴォ大佐らは海賊として當方で処理してよいのですな。貴國のために命を懸けた兵士を見捨てられると」

皇帝は興味を失ったかのように投げやりな態度でそれを許可する。

「好きにするがいい。もちろん、我が方に引き渡してくれれば法に従って厳正に処分するがな」

はその言葉をけ、席を立った。

彼は皇帝への嫌がらせのため、この件に関する報を至るところで洩リークしていく。特にストリボーグ星系では皇帝とのやり取りを藩王ニコライに直接報告した。

藩王は興味深くその話を聞き、自らの軍の兵士たちにこう話していた。

「皇帝は自らの失敗を兵士たちに押し付けた。余であれば、このような理不盡なことはせぬ」

彼は皇帝の求心力を下げるため、この事実を使った。更に自分の印象をよくするため、シャーリアの外に対し謝罪までしている。

「皇帝・・の暴走とはいえ、貴國に迷を掛けたことは事実。皇帝に代わり・・・謝罪しよう。もし、補償が必要であれば、渉に応じる。我が軍の兵士たちの柄も當方で引き取りたい」

藩王ニコライはシャーリア法國軍の死傷者に対し賠償金を支払い、シャーリア政府はドゥルノヴォ大佐らをストリボーグに送還した。藩王はドゥルノヴォ大佐らを厚遇し、皇帝への牽制に用いることにした。

この話を聞いた皇帝は余裕の笑みを浮かべていたが、心では大きなミスを犯したと悔やんでいる。

(ニコライに利用されるとはな……しかし、アルダーノフがこれほど愚かだとは思わなかった。アルビオンの使節など無視するか、シャーリアが我が國に寢返ったと教えてやればよかったのだ。そうすれば、アルビオンではロンバルディアまで守るか、それとも切り捨てるかで論爭が起きたはずだ。キャメロットとアルビオンは離れている。論爭が起きれば優に數ヶ月は時を浪費するだろう。その間にロンバルディアを降伏させれば、労せずして二國を手にれられた。アルビオンの王太子を捕らえたとしても、何の役にも立たない。あの者は先を見る目がなかったのだ……)

そう考えるものの、アルダーノフに許可を與えたのは自分であると自嘲する。

(愚か者を重用したのは余だ。見抜けなかった余の責任だ……)

皇帝は國の引き締めを強化すると共に、求心力低下を食い止める策を考え始めた。

宇宙歴SE四五二十年一月八日。

S級駆逐艦シャーク123號の応急補修が完了し、キャメロット星系までの帰還が可能になった。

シャーリア法國から大型の客船が貸與され、自沈した高機揚陸艦ロセスベイ1の乗員や宙兵隊員たちが収容された。

その客船は豪華なもので、宙兵隊員たちから「士室ワードルームより、いい部屋なんじゃないか?」という聲が上がるほどだった。実際、シャーリアの外使節が表敬訪問などに使う特別なものだった。

出発の前日、客船の大ホールに宙兵隊が集められる。

クリフォードは彼らに対し、訓辭を行った。

「シャーリア政府の好意により貸與された船に乗るが、諸君らは王太子殿下の護衛なのだ! 航宙中は戦時と同じ規律を求める。規律が弛むようなら、帰還後の休暇を取り消し、超過勤務を命じることもある!」

その厳しい言葉に宙兵隊員たちはがっくりと肩を落とす。クリフォードの後ろにブランデーが詰められた木箱が並び始める。

「しかし、航宙は明日からだ。今日は約束のブランデーを持ってきた。殿下から頂いた名酒を存分に味わってほしい!」

「「オウ!」」という歓聲が會場をこだまする。

更に王太子が場し、その後ろには宙軍の將兵が続いてってきた。王太子はクリフォードに目で合図をすると、全員に向けて追悼の言葉を発した。

「諸君らの闘により、シャーリア法國は帝國に降ることをやめた。異國の地で命を落とした戦友ともたちに、謝とともに追悼の意を捧げたい」

そう言って黙禱する。クリフォードらも同じように靜かに頭を下げる。

三十秒ほど沈黙が支配した後、王太子はそれまでとは全く異なる明るい聲で宣言する。

「今日は無禮講だ! 全員で飲んで騒ぐぞ!」

その言葉に宙兵隊員だけでなく、宙軍の將兵からも「「オウ!」」という大きな歓聲が上がる。

「ロセスベイから降ろしておいた酒もある。存分に飲んでくれたまえ!」

「王太子殿下、萬歳!」という歓聲が大ホールにこだまする。

そして、大宴會が始まった。

クリフォードは従卒のモーリスからグラスを二つけ取り、一つをサミュエルに渡す。

「明日は大変そうだな、副長ナンバーワン」とからかった後、

「いろいろとあったが、今は忘れて飲もう。乾杯!」

二人はグラスを合わせると、一気に酒を飲み干した。

第四部完

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