《【お試し版】ウルフマンの刀使い〜オレ流サムライ道〜》一章09
リネアと名乗るはしなを作ったかと思うと飛び付くように詰め寄って、懇願するようにフレンドにならないかと名乗り出た。
明らかに下心のある雰囲気だが、オレは迷うことなくその申し出に乗る。
「ああ、別に構わない。こちらこそよろしく頼む」
照れ臭そうに笑い、リネアから申し込まれたフレンド申請を許諾した。
このゲームは難易度がおかしいから一人で攻略するのはいずれ限界が來るだろう。なにせ最序盤の草原ですらこの難易度だ。今日明日がなんとかなっても協力者を増やしていくほうが役得である。
闇影曰く協力プレイが必須らしいからな。
生憎とオレの戦闘スタイルがソロ向きなので、共闘する未來はついぞ見えないが、それでも自分の苦手分野をカバーしてくれる人材というものは得難いものだ。それは闇影然り、リネア然り。
それに、ここにきてからずっと一人で戦ってきたから、誰かとこうして會話をするのは楽しい。
せっかくのMMOなのだから、これからは苦手だが流も増やしていかなくてはな。いつもなら闇影がうまいこと回してくれていたが、今はもういないのだから。
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「こっちこっち」
「前を見ていないと転ぶぞ?」
「マサムネさん知らないんですか?  バーディアンは見た目よりもバランス覚が安定しているんですよ?」
そう言ってリネアはくるくるとその場で回った。オレはその姿を見て吹き出し、ちょっと怒ったようにして彼は反論した。
彼の三歩後ろを歩き、街の中にる。
足から伝わるが、大地のしっかりとしつつもらかな土から、押し固められた土、石のに変わる。
序盤の頃はそこまで気にしなかったが、素足越しにじるは、ひんやりと冷たくじた。
それと同時に人の気配が押し寄せて來る。
どこから來たのか、街の中はフィールドとは打って変わり、幾多の種族生活が形されていた。
その中には忙しく働くものや、これからどこに向けて出かけようかと話し合うもの、オレの初心者丸出し、武持ちの獣人という出で立ちを見て笑うものと忙しない。
心で戸いをみせるオレに、彼はどうしたのだろうと踵を返してこちらに走ってきた。
「もー、急に立ち止まってどうしたのよ?」
「し……人の多さに驚いていただけだ」
「ああ……フィールドとこの街は隔離されてるからね。外に出た瞬間人が居なくてびっくりしたでしょ?」
「そうなんだ。久しく人に會っていなかったから、覚がズレてたのかもしれない」
「変なの。リスポーン地點は教會だし、街の中でしか安全にログアウトできないのに?」
「ああ……」
単純に死なないで連戦していたからな。その言葉は口に出さずに黙っていた。
どうにもプレイヤーの彼と、オレでは々と認識がおかしいみたいだ。
ここは彼に習ってこの世界の常識を再確認したほうがよさそうだ。そう考えて、彼の後ろ姿を見失わないように著いていった。
彼の向かう先はオレの知らない場所だった。この街は中央にシンボルである噴水を添えて、十字に道が分かれている。つまり4つの區畫によって分かれていることになる。
オレたちのってきた門……街へのり口が南だとするならば、彼の進んだ場所は噴水を越えてから右方向、つまりは東に位置する區畫だった。
こちらは南と趣から違っていて、家も地面も総煉瓦作りになっていた。
重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように、あちらこちらから喧騒が飛びう。
モヤモヤとした熱気があり、皮持ちの今のオレには々暑苦しくじた。
正直あまり長居したくはない。
ここは俗に言う職人通りなのだろう。
熱した鉄を叩く音と、野太い野次があちらこちらから聞こえていた。
大通りを突き進むこと五分。
「ここよ」と得意げに笑う彼に連れてこられたのは一つの工房だった。
彼曰く、ここは彼がゲームマネーを支払って借りてるのだとか。
すでに制作で溢れかえっている工房にお邪魔すると、彼は足元に散らばってるものの一部を引きずり出すと「はい、これ」と言って渡してきた。
どうやら彼のお手製の品であることは確かだが、意味がわからない。
出來合を評価してしいのだろうか?
「これは?」
見たところ防のように見える。
上半をすっぽり覆うタイプの厚手の長袖。
要所要所に金屬板がはめ込まれており、戦闘の際には大変有り難い防力も付與されている。
これだけでもオレの防力に匹敵する能を誇る一品だ。いい出來……かどうかは素人目には判斷できないが。
「あげる!」
満面の笑みでそう答える彼に、オレ困り果てた。
これを……オレに?
悪いがこれは貰えない。
だってこれ……
「いや、これは貰えないよ」
「どうして?  サムライを目指すマサムネさんはどうしても近接戦闘をするでしょ?  だからこれが役に立つと思ったんだけどなー」
リネアは俯き、いじらしげに人差し指……に當たる羽同士を差させると、口を尖らせて言葉を細めた。
どこから見てもしょんぼりとした様子である。
そういう事か。
殘念だけど、今のオレはサムライとは程遠い、口だけの自稱サムライである。
もしその裝備をに纏ったとしても、防力=重量のこの裝備では、オレの唯一の利點の機力を失ってしまう恐れがあった。
きっと謙遜で斷っているのだろうと判斷したリネアは、事もあろうに「じゃあこの工房にある奴から好きなの持っていっていいよ!」と言い出した。
一度あげると言った手前、突き返されて引っ込みがつかなくなってしまったのだろう。「今回だけだからね?」そう言ってを張って「もってけ!ドロボー」と聲を張り上げた。見た目に似合わず彼も立派な職人であるのだ。
が、
見渡せばそれなりに作りかけのものもあるが、完品も所々に置かれていた。
だがどれもこれも誰かをモチーフにした近接戦闘主の武や防ばかり。
せっかくの申し出だけど、スタイルの違いから遠慮させてもらうことにした。
「ごめん、せっかくの申し出だけど、この中にオレのスタイルに合うものはなさそうだ」
「じゃあ作るよ!  オリジナルだよ!?」
リネアは意地でもオレに何かを渡そうと躍起になっていた。
そこまで言われたら仕方がない。いつかは補修に出そうと思っていた鞘を、涙目で睨みつけてきている彼にお願いした。
「それじゃあ、これをお願い出來るか?」
「これ……刀?  珍しいね。切れ味は……落ちてきてるけどちょっと研げばすぐ元どおりだよ」
「いや、そっちじゃなくてこっちをだな」
オレはそこまで損傷していない刀をまじまじと見つめるリネアに対し、刀じゃなくて鞘の方を頼みたいと申し出た。
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