５

正岡絵は走る。

學帽の男は、結構な健腳の持ち主だった。

もう400～500mはノンストップかつ一定速度を保ちながら參道付近をジグザグと疾走している。

だが、正岡絵はあらゆる面に於いて一般ではない。

飛び級に飛び級を重ねて14歳から警察組織にを置き、かつ、で五代表候補に名を連ねた経験もある彼には、充実した力と持久力、そして強靭な神力がある。

相手が異であろうとどれだけ粘ろうと、彼が遅れを取る事はない。

『……にしても保つわね』

もう何本目になるか分からない路地へ差し掛かった所で、絵は聲を張り上げた。

「あの、失禮ですがしだけ話を……」

「いえ、その、ワタクシは、決して盜む聞かむとあの場におった訳ではなく……萬古不易に満ちたる西院伽藍の見に參じただけで……」

『別に目的は訊いていないのだけれど……今“盜み聞く”って自白聞いちゃったし……って』

「うわ……やられた……手が出せない」

男の曲がった角に立った時、思わず閉口した。

爪先の方向に、遊山の為だろう群衆がいる。その數、およそ25～30人。

學帽の男は、その中にすっかり溶け込んでしまった。

嫌でも顔は渋くなる。

『……そう言えば、江戸時代からお伊勢參りみたいな集団旅行の文化はあったのよね、この國には。完全に忘れていたわ……それにしても……こう大人數がいるとし厄介ね』

でも、と絵は何とか左後方まで追い遣ったマーカーを顧みた。

『これであの男は集団に固定出來た。後はこの集団のきを確認していれば、確保の瞬間を目撃される事はなさそうね。まあ彼等がいい子にしていてくれる保証もないのだけど……だから』

三百年前の空気を肺に注ぎつつ、絵は天を仰ぐ。

茜だった広い空は、徐々にそのを藍に変え、宵時への加速を悟った蟲達が喝采を送っている。

逢魔ヶ刻。

悪魔と人が出會う時間。業に塗れた違法時間跳躍者クロック・スミスを迎え撃つのには、うってつけのタイミングだと言える。

「面倒事が増える前に片付けてよ、源」

相棒の腕は知っている。

與えられた僅かな時間だろうと、彼は任を全うするだろう。

だからまあ、その點に関しては何の心配もないのだが、腑に落ちない事が一つ。

『どうしてこうタイミングよく集団に出くわすかな？』