３

 　胃の中味が競り上がって來る様な絶に、天聲が告げる。

「安心しろよ正岡絵」

                      その時、WPが骨伝導のノイズを拾う。

 男は艶っぽい聲で嘯く。

               〈あーテステス〉

「お前はイイ終わり方アクメをするぞ」

                      〈準備は出來た〉

顔は見えずとも、表は分かった。

                    〈だから〉

「だから気持ち良く昇天イけよ」

                    〈ちょっと伏せてろ〉

そして次の瞬間！

                      〈分ぁったな？ドＭちゃん〉

バチッバチチチチチチチチチチチッバチチチチチッ!!!!

閃と音が天より降り注ぎ、辺りをのた打ち回る。

反的に蹲った絵の後ろで、テロリストの絶が上がった。

「ォあああああああああぁぁぁぁ……………!!!!!!!」

全てが、瞬き一回分にも満たない出來事。

閉じ掛けた目と塞ぎ掛けた耳を躙した閃と音が、絵の危機を刺激する。

無意識のに震えていた彼の橫に、誰かが降り立った。

『今度は何？』

焼けた視界でその姿を探す。

だが。

「まだ立つな！」

骨伝導だった聲が今度は鼓を震わせた。

直ぐに、その言葉の意味を思い出す。

『ああ、最悪だ……』

それは、絵にとって映像資料の世界の話。

電磁銃による躙の景。

間もなくここに、熱と運エネルギーの嵐が訪れ、全て薙ぎ払って行く。

そうして、この時計塔は瞬く間に吹き飛ぶのだ。

ネガティブなイメージに支配された絵は再び目を固く閉じ、出來るだけを球形にこませた。

『終わった』

かつてない絶に、心が諦観をけれる。

走馬燈が五を埋め盡くして行く。

自分が今何をんでいるかも分からない絵は、それでも必死に何かを訴えた。

それだけが、自分に殘せる最後のものだから。

なのに。

衝撃と轟音を掻き分けて、彼の耳朶を聲が打った。

実に場違いな、間の抜けた聲だった。

「おぃおぃ、ドＭを自稱すんなら著弾しに行く位の癖の強さは見せろよ」

だが、それに不平をらす暇すら、絵にはない。

塔全が大きく揺れ、軋み、四方の壁と思われる瓦礫がを打ち付ける。

そして、金屬が激しくぶつかり合う音が大きく一つ。

ガンッ!!!!と響き渡りって。

「…………あれ？」

辺りは無音に包まれた。

まるでさっきまでの混沌が噓の様に。

ゆっくりと、瞼を上げる。

轟音の殘響に震えていた鼓も、ようやく落ち著いて來た。

風が吹き荒ぶ音がした。

視線を上げると、四角いビック・ベンの角だけが柱の様に殘っているのが見えた。

焦げた空気の匂いがする。

「生きているの……」

真実味のない現実が、絵にそんな言葉を言わせた。

何とか立ち上がろうとして、ばした腳に何かがぶつかる。

瓦礫でもあるかと目を向けると、それは白目を向いて倒れたテロリストの男だった。

「本當に、生きている……」

改めてそう実する。

それ位、絵の験と現実には誤差があった。

「よっ！」

「ふぇ！」

不意に脇に何かがれ、彼の視線が起立時の高さまで上がった。

吃驚して顧みるが、そこに人影はなく、ただ、硝煙の匂いと共に溫をじさせる優しい聲が聞こえた。

「へぇ、中々可ぃ聲出すじゃねぇか。でもヘタレたまんまじゃ殘存電荷で発生したオゾン吸っちまうかんな……立てっか？」

言われるが儘に足をばす。

ガクガク震えてはいたものの、何とか立ち上がる事は出來た。

『あ……學迷彩カメレオンか』

そう考えが至った所で、不意にを下から鷲摑みにされた。

「んーＣ……もねぇな、Ｂ位か？」

『……おい』

取り敢えず、肘鉄する。

「ごぁ!!……ちょ……お前……命の恩人に肘はねぇだろ」

「うっさい！視認不能でセクハラする奴が言うな！ってか誰がＢだ！ギリＣあるわ！」

「うわぁ、自分からカミングアウトしたよコイツ……必死過ぎてちょい引く……」

「やかましい！力ずくで黙らせるわよ！ってかいい加減學迷彩それ解きなさいよ！どこにいるか分かんないでしょ！」

「はははは！誰が毆られると分かって解くものか！暫くそこで一人コントみたくやってろ貧！うははははははははは……はは……は…………あれ？」

嫌味な悪役バランみたいな臺詞の途中から、絵には見えていた。

掛かってこいや！と挑発ポーズをする作業著姿の黒髪蒼眼の男が。

必然的に男と目が合い、形勢が覆った。

眩しい笑顔をり付けて、絵は問う。

「墓前の花はどうなさいますか？」

「え？……あれ？……あの……もしかして見えてます？」

「曼珠沙華が宜しいですか？それともマリーゴールドですか？」

「紫姫音ちゃん!?何で!?何で學迷彩カメレオン解いてんの!?紫姫音ちゃん!?」

それに対し、いの聲がこう答えた。

「シキミでお願いします」

「おぉ、日蓮式とは渋いとこ突くねぇ。でも違うんだ紫姫音ちゃん。今そんなお話してねぇの、分かる？どぉしちゃったの君？何言ってんの？」

「シキミですね～かしこ參りました」

「オメェもオメェで恙なく答えるじゃねぇか。でもちょっと待て、何で俺に味方がいねぇの？俺さっき人命救助したんだよ？張ったんだよ？なのに何だコレ？この流れ何だ？」

果敢にも會話の流れを切斷しに掛かった男に、

まずが。

「その抗議❤」

次いで絵が。

「來世で承ります❤」

それぞれ答えて。

「……先行付はないじですか？」

「「ございません❤」」

結構なお手前のボディーブローが男の鳩尾に沈み込んだ。