《T.T.S.》FileNo.1 Welcome to T.T.S. Chapter2-5
5
「えっと……これって……」
落日を背にけて、絵は思わず絶句した。
紫姫音が挙げた四つの発砲予測地點。
その一つ、議事堂裏の古いアパートメントでの事だ。
屋上庭園の跡だろう乾いた土と枯れた雑草が目立つ寂しい景の中、絵は言葉を失っていた。
何故なら。
「蓋を開けてみりゃ、実働一人のテロだったっつぅ訳だ」
家庭用天遠鏡の様なを手で叩き、大をこさえたビッグ・ベンを見ながら、源は言った。
無論、彼が叩くは遠鏡ではない。
21世紀末の第一次核大戦時に製造された電磁狙撃銃だ。
強力粘著テープで要所要所に固定された配線が、電磁銃を支える筺に繋がっている。
実に簡素で安っぽい、如何にも手作り然としただったが、必要な備品を兼ね備えた無駄のない設計だった。
「カラクリはこぉだ」
視線をビッグ・ベンから絵に戻し、源は口を開く。
「まず、この銃の発砲プロセスをそれぞれプログラム化する。対象の捕捉、照準、発砲の三段階だな。次にこのプログラムをアクティブにする為の條件。今回は……ホセっつったか?あいつの心拍異常バイタルエラーがそれだな、そいつを定める。これでこの狙撃銃の仕込みは終わりだ。後は本人。特攻役のホセ本人への仕込みだ」
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一旦言葉を切って、源は銃の配線を一気に引っこ抜いた。
「ホセ自が言ってたよぉに、奴のにはナノマシンがあった。そいつぁ勿論、C4の起信管の役割を持ってもいた、が、それだけじゃねぇ」
「それだけじゃない?」
首を捻る紫姫音の言葉に、源は配線を放り投げ、煙草を取り出しながら答えた。
「ナノマシンには更に二つ機能があったんだよ。一つはさっきの通信者に音聲を送信する機能。で、もう一つが」
キンッ!と甲高い金屬音を響かせて、オイルライターに火が燈る。
風除けに広げた源の左手と続く言葉が気になって、絵はジッと彼を見る。
「こいつの銃口さきを常に本ナノマシンにロックし続ける機能だ」
敵組織の計畫は、正に紫煙の様なものだった。
現れては消えて行く剎那の厄災で、世界を変えようとした。
「向日葵のDNAデータ解析結果を使ったんだろぉな。定點からの微速移追尾システムはアレで度が上がったかんな」
チラリとビッグ・ベンを顧みた源の表は、心とも呆れとも取れるものだった。
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「ホセはマジで自しよぉとしてた訳だ。そのに電磁銃の銃口を四機背負って、本気で世界に喧嘩を売る気だった。……は、言葉にすりゃご立派に聞こえるもんだな」
「ちょっ、ちょっと待って」
哀愁タップリの雰囲気をぶち壊す様で申し訳ないが、堪らず絵は口を挾む。
一人ごちられたところで、ぶっちゃけ絵には意味が分からない。
フラストレーションの赴くままに、絵は畳み掛けた。
「貴方はいつこの仕組みカラクリに気付いたの?狙撃が無人だと思ったのはどうして?あの通信の意味は?」
「分ぁったよ、そそっかしぃな。一個ずつ教えっから、取り敢えず落ち著け」
矢継ぎ早の質問に苦笑しつつ、源は主流煙を一気に吐き出す。
「最後の質問から行くぞ。さっきも言った通ぉり、あの通信は主犯者からのもんだ。勿論、ホセを“同志”って言ったからには二人以上の組織なんだろぉよ。ホセの野郎、主張を前面に出していてやがったから、まぁ間違いなく思想共有型の組織だろぉな」
で、次は最初と二番目な、と再び源は煙草を口にした。
「まず俺が仮定したのは、なくとも主犯は銃の所にはいねぇって事だ。奴さん、俺の鎌掛けにいぃじに引掛かったかんな」
気付いたか?と悪戯っぽく源は笑う。
「俺ぁはヤツに“見たろ?俺が電磁狙撃銃を防いだのをよぉ”と訊いた。だが、それに対してヤツは一度も明確な肯定をしなかった。それがつまり、γ視覚機での監視なんか初めからなかったっつぅ想起に繋がる」
で、確信に変わったのが、と源は自らの手首に視線を落とした。
「紫姫音の逆探知と」
今度は視線を上げ、絵を見る。
「ドMちゃんのデレ発言だった」
『ドMちゃん言うなし!デレ発言言うなし!……それは置いといて……』「どういう事?」
「あの逆探知、役に立ったの?」
絵と紫姫音は首を傾げた。
あぁ、と笑顔で紫姫音に頷く源は、そこで小さな紫姫音の頭を優しくでた。
「正直驚いたけどな、お前が指示する前に発砲予測地點押さえてたのには」
『“指示する前に”?AIが?』
それは、一般に暴走とされる行為。
普通、そんなAIは欠陥品扱いだ。
しかも理由が。
「よかった。アレ役に立ったんだね」
善意からだと言うのか。
「正直、あのデータは余計だったかな?って思ってたの。そこの…えと、どえむちゃん?が納得出來る様な資料にしようとしただけだったから」
『まずいまずいまずい!データとは言え、が変な単語口にしちゃったよ!』
まあその抗議は一旦腋に置き、絵は疑問の消化に掛かった。
「私の発言ってのは、どういう事?」
『あ、でも言えそうな事は言っておこう』
「ちなみに私、ドMちゃんじゃなくてジョアンナ・キュリーだってさっき言ったよね?あと、デレ発言とか余計な修飾付けないで」
またも笑った源に『この野郎、ワザと言ってやがったな』と心腹を立てながらも、次いで飛び出た言葉に絵は閉口した。
「そいつぁ悪かった。で、それに関してなんだが、さっきお前はデレ……んな睨むなよ……弱音で俺が弾を“ぶっ叩ける”って言った。まぁ“どうやったか知らないけど”って前置き付きではあったがな。それでもお前は俺が弾を“叩いた”と思った。そぉだな?」
「それは……そうかも……」
「なら逆に訊くが、そぉ思った理由は何だった?そいつぁは多分、お前が聞いた音が打撃音に近いもんだったからだ。さぁて、そこでさっきの計畫犯の発言と照らし合わせてみ、奴ぁ俺のやった事をなんつった?」
「ああ……そうか……“どんな魔法を使ったか知らないが”……」
「その通ぉり。奴は“打撃”と仮定出來なかった。何故なら……」
「ホセに打ち込まれたナノマシンの収集音域を指定音域で固定していた……」
「正解ヤー。中々頭の回転の良いじゃねぇの」
『……どの口で言ってんのよ……』
正直、褒められた嬉しさより先に答えに辿り著かれた悔しさの方が勝っていた。
同時に、やはり先の通信から、絵はある言葉を思い出す。
「ねえ、あの計畫犯はC4をどうこうとも言ってたけど、あれもアンタの仕業?」
「あぁ、あったなそんなのも……まぁそぉだよ。俺が解除した」
「どうやって見つけた訳?」
言いながら、絵は腰を屈める。
今更だが、源が敵方であれば、尾を出す質問になると踏んだからだ。
だが聞こえて來たのは、予想を裏切る答えだった。
「まぁなんつぅか、前回試験で偽造議員証パス盜り忘れてな」
「…………………………は?」
「そんで仕方ねぇからリネン換に來たリース業者裝って地下からったんだよ。そしたら業者連中隠す途中でたまたま見付けたんだよ、C4」
「……えっと……」『それありなの?』「……マジで?」
「マ・ジ・で☆」
「どえむちゃん!紫姫音それRECしといたけど、見る?」
「な!オイオイ待てよ紫姫音ちゃん!お前それはいらねぇよ!消して!そのデータすぐ消して!」
「だから私はドMちゃんじゃないって……」
何だかドッと疲れた気がして、絵はその場にヘタレ込んだ。
目の前では、相変わらず元気一杯の遣り取りが続いている。
「消せ紫姫音!あれはマズイ、ホントにマズイ!俺捕まっから!」
「サムネは絞め技の所がいいかな?」
「おぉ!イィ顔してんじゃん俺!馬鹿!!!!畫投稿まで視野にれんじゃねぇ!消せ!」
「じゃあ新しいドレスデータれてくれる?」
「あぁえぇはいれます。れて差し上げます。れさせて頂きます。だから消せ!即刻消せ!いいから消せ!」
はぁ……と安堵の溜息が出た。
呑気な遣り取りを聞き流しつつ視線を上げると、そこにはマジックアワーの空が広がる。
『どこを向いてもマジックね……』
一日、と言うか、ここ數時間の濃度が異常に濃かった。
こんな事が日常茶飯事になるのだろうか?と考え、絵はし不安になる。
『でも……』
しかし一方で、不思議な楽観が心を支えている事に、絵は気付いた。
『コイツが相棒なら、安心して背中を預けられるって……何でそんな事思ってるんだろ、私』
変に影響力があるなぁ等と思いながら、何の気なしに視線を戻して、絵は異変に気付いた。
源の姿が、どこにもない。
『まさか!また學迷彩カメレオンか!』とを抱くも、予想したセクハラは來ない。
「ちょっ、ふざけてんの?」
そんな言葉も、り出した夜風に吹き飛ばされてしまった。
「え?ちょっと……どこ行ったの?」
またしても、絵の意識の外で事態が進んで行く。
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