《T.T.S.》FileNo.1 Welcome to T.T.S. Chapter4-2

「純の黃人種と消失した日本人ロストジャパニーズねえ」

半信半疑のマリヤの聲に、絵は素気なく頷く。

「そんな何十年も前の都市伝説に信憑背があるとは思えないんだけど。あんたまさか、ホントに信じてるの?」

「勿論信じてなかったわ」

「“なかった”……ね」

「見たのよ」

「何を?」

「新人類組計畫、Neuemenschheitherstellungplanの資料」

「え」

そう、絵は見た。

Neuemenschheitherstellungplanの資料、帷子ギルバートの製作過程を。

そこには、タブロイド誌に載っている様な事が記されていた。

読者諸賢もお気付きの事と思うが、源と絵は純粋なモンゴルロイドの日本人ではない。

日本人の伝子が持つ表現形では蒼眼も赤髪碧眼も実現しない。

特徴的な瞳と髪のは全て地で、それだけで彼等が異なる人種間の混であると分かる。

では何故、和名の源と絵が異邦人の外見を有しているのか?

その原因は、既に我々の周りに社會問題として提示されている。

子高齢化問題。

見事な壺型の人口統計図を維持していた日本國は、遂に二十二世紀初頭に新生児數が三桁を切る人口減衰に陥った。

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目に見える國家破綻の危機に戦いた日本國政府は、そこで信じられない策を採る。

それは、國外の難民や低所得者を積極的に致し、経済衰退を犠牲に後進の世代を確保すると言う、正に「貧乏人の子沢山」を現化した策だった。

この政策は、その後の行く末だけを見れば、功したと言える。

世界各地から相次いだ移民は5年で20萬人を越し、それに比例する様に新生児の數は急上昇。

危懼された経済衰退も予想された範囲に収まり、むしろ順調に右肩を上げた出生率によって後々見事な立ち直りを見せたからだ。

しかしその結果、日本國民のや髪や瞳のは激変し、日本は人種のサラダボールに変わる。

最早モンゴロイドジャパニーズが稀有となり果てた頃、ある噂がネットで話題になった。

スレッドに冠されたその名は、“先住日本人保存計畫”。

【激しく人種がり混じった今日の日本では、原住していたモンゴル系日本人の価値は崇高であり、日本國政府はこれを保護しなければならない。】と言う主張の下、一部の右翼系政治団主導で行われているとされる計畫だ。

的には、モンゴル系日本人の隔離ともその個卵の冷凍保存とも言われ、そうして保存された人々を、ネットの住人は消失した日本人ロストジャパニーズと呼んだ。

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およそ5000人余りとされる消失した日本人ロストジャパニーズは全國三か所の隔離施設に収監され、そこでは日夜、モンゴル系日本人の増が行われている。

それが、ネットに上げられた報だった。

だが、匿名の高いネット上の、しかも何ら証拠を挙げない書き込みという事もあって、あっと言う間にこの噂は立ち消えた。

以上が、世の通説だった。

ところが、帷子ギルバートのサンプルスペックデータに、それはキッチリと明記されていたのだ。

2151/08/28

前年に日本國政府より一粒當たり8000€で購した2111年保存のモンゴル系日本人の冷凍卵を、サンプルとして百粒使用

「ちょっと……それ、ホントに不味いんじゃないの?」

「何が?」

絶句するマリヤに、しかし絵は平然と返してのけた。

だが、これはマリヤの反応が正しい。

何せ絵は、二國の機事項を一遍に知ってしまったのだ。

いつ口封じに殺されてもおかしくない。

にも関わらず、冷めた印象を與える目は、揺らぎもしない。

「………何でそんな余裕なのよ?ホント殺されるわよアンタ」

「それがさ、そうはならないらしいのよ」

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「はぁ?」

眉間に皺を寄せるマリヤには理解不能なレスポンスだった。

もまた、呆れた様に笑う。

「源にね、“それだけは絶対にさせねぇ”って一方的に誓われたの」

ギルバートが吠える。

まるで赤子が全全霊泣き喚く様に。

目の前の男に想いを刻みつける様に。

己の中に燻り滾るでも吐く様に。

聲の限りび続ける。

「お前はいぃよなぁ。外見は大して変わんねぇんだからな…………でも俺は違う!!!!俺がどんな割を喰ったかお前もよぉく知ってんだろ!?!?研究所の連中も!!!!修練所の連中も!!!!誰もかも!!!!俺の顔をまともに見る奴ぁいねぇ!!!!俺を避けてやがったんだ!!!!憐れんでやがったんだ!!!!ざけやがって!!!!俺をこんなんにしやがったのは奴等だぞ!!!!なぁ!?!?源!!!!」

帷子ギルバートのけたNeuemenschheitherstellungplanを語るには、もう一つ特筆すべき點があった。

それは、他種のRNAを組み込む際に要する塩基変換機とも呼べる接著用RNAの存在だ。

“神を摑む手”も“神を追う足”も、その本質的な能力はスカイフィッシュのRNAによって発現している。

しかし、この接著用RNAだけはそれぞれ異なるを用いており、“神を追う足”を産んだ接著用RNAは、業病の元たるらい菌のそれだった。

元來、らい菌にそれ程強い毒素はない。

むしろ弱いと言えるそれに、大半の人間は無反応だ。

しかし一部、この毒素に対して特異的な免疫反応を示す者がいる。

この反応が暴走して、深刻な炎癥を引き起こすのだ。

そして不幸な事に、帷子ギルバートはその特異免疫質の持ち主だった。

細菌染癥である業病は、末梢神経と皮に深刻な炎癥を起こす。

その癥狀は外見的にも深刻で、彼に現れた癥狀はL型と言われるもので、その影響は皮や神経のみならず、眼や臓にまで及んでいた。

源の言う“シシメンヨウ”もL型特有の癥狀で、顔面が腫れて獅子舞の様な顔となる“獅子面様”の事だ。

顔が塗れになって行くその癥狀は、直視に耐えない程痛々しかった。

當然の様に、周囲の人間はギルバートを避ける。

研究所に出りする軍族研究者は、特に酷かった。

論に酔うネオナチ獨特の神も手伝ったのだろうが、自分の眼で見た者しか信じない研究者は、しかし見たものに対しては実に素直な反応を返す。

食事も浴も就寢も隔離され、會話も直視も避けられた。

だが、たった一人だけ、彼と向き合う者がいた。

ソイツはいつだって挑む様な視線で彼を見て、存在を認める様に彼に引っ付き、喜ぶ様に彼と會話する。

いかなはじめ源。

彼だけが、ギルバートを人間として扱ってくれた。

だから、ギルバートは恐れた。

たった一人の友人、いかなはじめ源を失う事を。

「俺はお前を失う訳にいかねぇ!!!!一人になりたくねぇ!!!!」

痛々しい程必死に、顔中からを噴き上げながらそうび、ギルバートは手をばす。

「人間兵ねぇ……無人ロボット同士の量合戦No one deadに変わった戦場にわざわざまた人を立たせるなんて……ホント、人間って戦爭好きね」

「“逆だ。戦爭が人間をしてんだ。どうしょもなくな”」

「……何それ?あんたのキャラでもないし、源が言ったの?」

「アンタが私のキャラ語るとはね……でも、そうよ、私も同じ事言って、源にそう修整された」

「ふーん」

「妙な話よね、何か腑に落ちたの。それ聞いたら」

確かに、言い得て妙だ。

歴史を語る上で外せない項目、その筆頭が、戦爭だろう。

武力に限らず、時には経済や電脳世界でも、戦爭は人類に寄り添い続けた。

『戦爭にされた生か……』

源の言葉を反芻して、マリヤは気付く。

『ああ……なら、あいつ等は“戦爭と人類の子供”な訳だ』

どうにも、神を辱しめると碌な肩書が貰えないらしい。

「でさ、あいつホントに勝てるの?」

「勝てる」

の即答が、反的に懐疑を呼ぶ。

「どっから來るのよその自信……あんた達ボロ負けもいいとこだったんでしょー?」

遠慮のない言葉に、思わず絵は苦笑した。

意外なタイミングで浮かんだ笑みに、マリヤは虛を突かれ、続く言葉に絶句した。

「そうよね、普通そうよ。私ですらそうだった。でも、そうね……無理矢理納得させられたとして言える尤もらしい理由は……惚れた弱味かな」

「うわぁ」

マリヤは技者だが、それ以前にである。

が懐く好意には、僅かな遣り取りで気付いていた。

無論、彼が意図的にその事実から目を背けている事にも、だ。

それが裝いなのかは判然としなかったが、源との仲が進展するのは當分先に思えた。

それが何だ?この吹っ切れた態度は?

まるで長期際の仲を語る様な呆れと喜びと恥じらいの口調だ。

だが、不用意な発言は出來ない。

『逆パターンもあるな』

例えば、相手への未練が斷ちきれず、どうしても諦めきれない時にも、似通った臺詞は出る。

それこそ、自と怨嗟のどちらも込もったドロドロの言葉として。

人の不幸はの味。

捗る想像に、しだけ頬が緩んだマリヤに、冷や水を掛かった。

「何一人で盛り上がっているの?」

「っ!うるさいわねー……勝てる理由って何よ?」

「一つはギルバートが獲にウォーターカッターを選んだ事よ。源曰く、奴が速でかせるのは腳だけなのですって。無茶苦茶な話だけど、ギルバートは飛び道に追い付ける。でも、だからこそギルバートは、それを打つ瞬間だけは速度を緩めなきゃならない。腳に比べて遅い手をかして狙いを付ける必要があるからね」

「だったら何でウォーターカッターなんか持って來たのよ?」

「それは有島の記憶で分かっているわ。救済の溜息サァイ・ウィズ・レリーフ対策ですって」

「救済の溜息サァイ・ウィズ・レリーフ対策って、あんたそこまで早く反応出來るの?」

「私単品では無理だけど、源がエスコートしてくれれば出來るわ」

「ああ、程」

「ギルバートは救済の溜息サァイ・ウィズ・レリーフを恐れた。理由はNeuemenschheitherstellungplanにしっかり書かれていたわ。あの二人のにはスカイフィッシュ固有のホルモンと、それと酵素が備わっているのよ。重量を司る素粒子ヒッグスを超速の素粒子タキオンに置換するTLJと同等の機能。それこそが、神資質Heiligeの正って訳よ」

それはつまり、速の世界に踏みった二人には理學の常識とは全く逆の現象が起きているという事だ。

一般に、速度に比例して重量は増して行くとされている。

だが、重量そのものであるヒッグス粒子をぎ去った彼等は、呪縛にも似たその制約を解き、人外の速度で移出來る様になった。

ただ一つ、どんな微風にも影響されてしまうと言う弊害と引き換えに。

「まあ、あと一點こじつけるとしたら室戦闘だっていう點ね。空間に限りのある場所での速移はむしろギルバートの枷になるでしょうからね。そう見積もった上で、源は私に頼んだのよ」

「何を?」

「“お前の力を貸してくれ”って」

「でもあんた、さっきからここにいるじゃない」

首を傾げたマリヤを橫目に、絵は笑う。

「そうね、目に見える結果が出るには、まだ暫くかかるでしょうね」

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